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第二十三話
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大きな川のほとり。
何だかおかしい。アネモネの花と水仙の花が一緒に咲いている。バラもある。芝生は露に朝の陽光を受けて、木々は赤く染まっている。
私の視界にある、季節を無視した風景に戸惑っていると、声がかけられた。
「ごめーん、ちょっと強引に呼んじゃったー」
振り返ると、白銀の長い髪の女性がいた。古の人々のようなゆったりとしたローブ姿で、不思議な雰囲気を持っている。
その女性は、にぱっと笑った。
「エレーニ、まずはご結婚おめでとう。まあ私がやれって言ったんだけど」
「あなたが?」
「そう、私、ステュクス。あなたがたが崇める神の一柱です」
えへん、とステュクスは胸を張った。ちょっと子供っぽいものの、外見は成人女性だ。そして何より、自己紹介が本当であれば、オケアニデス教の主神となる。
これほど不可思議な風景の中で、突然現れた人物となれば——信じたほうがいいと思う。信仰心のない私でも、さすがに受け入れざるをえない。私は、目の前の女性が主神ステュクスであることを受け入れた。
ステュクスはそれを察したのか、話を続ける。
「こほん。呼んだのは他でもない、大事な用事があるからです。エレーニ、あなたうちの子になるじゃない? レテから宗旨替えして」
「はい、そうなります」
「それで頼みがあるんだけど、私の巫女になってほしいの」
ステュクスは片目を閉じて、私へウインクした。お茶目な女神だ。私が呆然としていると、ステュクスは慌てて説明を付け足す。
「ああ、大丈夫。ちゃんと神殿に神託は降ろしておくから。何で自分が、って思うだろうけど、ちょっと事情があって」
「はあ、どのようなご事情か、伺ってもよろしいでしょうか?」
「私、アサナシオスに一番加護を与えてるのよ。だってあの子イケメンだし、人格者だし、何より善良。王子として文句の付け所はなく、信仰心も厚い。私は人間の国には興味ないけど、あの子がいるなら全力で応援しちゃう」
主神としての威厳よりも自由奔放さが目立つステュクスだけど、女神というのはこういうものだ。一人の人間に入れ込み、まるで英雄譚の主人公のような人間を生み出す。その気まぐれさこそが神であり、ときに戦乱が起ころうとも、それは人間を導く役目を果たす。まあ、私の仕えていたレテはそういうことはしない女神だけど、それは置いておこう。
「そこで、あなたよ。清廉、敬虔なる巫女がアサナシオスの妻となれば、彼の地盤は盤石! いい考えでしょう?」
何だかおかしい。アネモネの花と水仙の花が一緒に咲いている。バラもある。芝生は露に朝の陽光を受けて、木々は赤く染まっている。
私の視界にある、季節を無視した風景に戸惑っていると、声がかけられた。
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振り返ると、白銀の長い髪の女性がいた。古の人々のようなゆったりとしたローブ姿で、不思議な雰囲気を持っている。
その女性は、にぱっと笑った。
「エレーニ、まずはご結婚おめでとう。まあ私がやれって言ったんだけど」
「あなたが?」
「そう、私、ステュクス。あなたがたが崇める神の一柱です」
えへん、とステュクスは胸を張った。ちょっと子供っぽいものの、外見は成人女性だ。そして何より、自己紹介が本当であれば、オケアニデス教の主神となる。
これほど不可思議な風景の中で、突然現れた人物となれば——信じたほうがいいと思う。信仰心のない私でも、さすがに受け入れざるをえない。私は、目の前の女性が主神ステュクスであることを受け入れた。
ステュクスはそれを察したのか、話を続ける。
「こほん。呼んだのは他でもない、大事な用事があるからです。エレーニ、あなたうちの子になるじゃない? レテから宗旨替えして」
「はい、そうなります」
「それで頼みがあるんだけど、私の巫女になってほしいの」
ステュクスは片目を閉じて、私へウインクした。お茶目な女神だ。私が呆然としていると、ステュクスは慌てて説明を付け足す。
「ああ、大丈夫。ちゃんと神殿に神託は降ろしておくから。何で自分が、って思うだろうけど、ちょっと事情があって」
「はあ、どのようなご事情か、伺ってもよろしいでしょうか?」
「私、アサナシオスに一番加護を与えてるのよ。だってあの子イケメンだし、人格者だし、何より善良。王子として文句の付け所はなく、信仰心も厚い。私は人間の国には興味ないけど、あの子がいるなら全力で応援しちゃう」
主神としての威厳よりも自由奔放さが目立つステュクスだけど、女神というのはこういうものだ。一人の人間に入れ込み、まるで英雄譚の主人公のような人間を生み出す。その気まぐれさこそが神であり、ときに戦乱が起ころうとも、それは人間を導く役目を果たす。まあ、私の仕えていたレテはそういうことはしない女神だけど、それは置いておこう。
「そこで、あなたよ。清廉、敬虔なる巫女がアサナシオスの妻となれば、彼の地盤は盤石! いい考えでしょう?」
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