25 / 26
最終話 私は魔導匠エルミーヌ(中2)
しおりを挟むそれは私の正直な、今の気持ちです。
私はイオニス様にはきっと釣り合わない、それに怪我をさせてしまう。何なら、住居まで壊してしまう。そんな妻は、必要とされるはずなんてない。
ところがです、イオニス様はその意見に同調しませんでした。それどころか、怒りもせず、神妙な口調になられてしまいました。
「どうやらこれは、きちんと話し合いをする必要がありそうだな。言うべきことが山ほどあるし、お前にも言いたいことがあるだろう」
両肘をそれぞれ膝に突き、手を組んで甲に顎を乗せるポーズがとても決まっているイオニス様は、本当に格好がおよろしいのですが……私、離縁されるとしても、言っておかなくてはならないことを思い出してしまいました。
では、言ってみます。勇気を出して——今後のためにも——言うのです。
「そう、ですけれども、その、イオニス様」
「何だ?」
「な、舐めるのは、おやめください! びっくりします!」
今思えば、初日の大穴を開けた事件の発端は、間違いなくイオニス様ではないでしょうか。
しかしです、よくよく思い返してみれば冷たい感触がしただけで、舐められたわけではないのでは? ラッセルが余計な入れ知恵をしたから、私は舐められたと勘違いしてイオニス様を吹き飛ばしてしまったのでは?
いえ、どうやら正解だったようです。イオニス様が心なしか、しゅんとしています。
「……そうだったのか」
何でしょう、これは。あらら?
今、私の胸に去来したのはそう、これは……凛々しい殿方が見せる、叱られた子犬のような雰囲気に、えも言われぬ新境地が開拓された気分です。
(見間違いかしら。でも今の表情は、すごくお可愛らしいわ……もう一度見たいと思うくらい。でも舐められるのは嫌だわ、やっぱり)
はい、とてもしょうもないことを思っていますね、私。さっきまで離縁やむなしと覚悟を決めていたくせして、イオニス様に惹かれているではありませんか。
そうなのですが、何かが引っ掛かりました。
そして、私はこう推測したのです。
(……私は恋をしたことがなかったけれど、こういうことはきっと、いわゆる一目惚れに近いものなのかもしれないわ。私だけかしら。イオニス様は、私のことをどう思ってらっしゃるか、知りたいわ)
だから、私は——イオニス様と、もっと話をしたいと願いました。それは、顔を上げたイオニス様も同じだったようです。
「なら、こうしよう。エルミーヌ、結婚を続ける意思はあるか? 私はもう一度、お前と向き合いたいのだ」
「……よろしいのですか? だって私は、イオニス様を吹き飛ばしたり、お屋敷を倒壊させたりするようなことばかり」
「それはかまわない。竜生人の住む家は大抵そういうものだ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。お前が私を吹き飛ばすことはあっても、逆はないから安心しろ。それだけはしない」
うんうん、とイオニス様は頷いてらっしゃいますが、竜生人の家庭事情は人間とはやはり異なるようです。文化の違いでしょうか。
「それに、竜生人の角にヒビを入れ、翌日にはあれほど貴重な薬を持ってくるような人間の娘は、大陸広しと言えどお前以外いないぞ」
25
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる