竜爵閣下、あなたのためにこっそり魔導匠見習いになって働きます!

ルーシャオ

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最終話 私は魔導匠エルミーヌ(中2)

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 それは私の正直な、今の気持ちです。

 私はイオニス様にはきっと釣り合わない、それに怪我をさせてしまう。何なら、住居まで壊してしまう。そんな妻は、必要とされるはずなんてない。

 ところがです、イオニス様はその意見に同調しませんでした。それどころか、怒りもせず、神妙な口調になられてしまいました。

「どうやらこれは、きちんと話し合いをする必要がありそうだな。言うべきことが山ほどあるし、お前にも言いたいことがあるだろう」

 両肘をそれぞれ膝に突き、手を組んで甲に顎を乗せるポーズがとても決まっているイオニス様は、本当に格好がおよろしいのですが……私、離縁されるとしても、言っておかなくてはならないことを思い出してしまいました。

 では、言ってみます。勇気を出して——今後のためにも——言うのです。

「そう、ですけれども、その、イオニス様」
「何だ?」
「な、舐めるのは、おやめください! びっくりします!」

 今思えば、初日の大穴を開けた事件の発端は、間違いなくイオニス様ではないでしょうか。

 しかしです、よくよく思い返してみれば冷たい感触がしただけで、舐められたわけではないのでは? ラッセルが余計な入れ知恵をしたから、私は舐められたと勘違いしてイオニス様を吹き飛ばしてしまったのでは?

 いえ、どうやら正解だったようです。イオニス様が心なしか、しゅんとしています。

「……そうだったのか」

 何でしょう、これは。あらら?

 今、私の胸に去来したのはそう、これは……凛々しい殿方が見せる、叱られた子犬のような雰囲気に、えも言われぬ新境地が開拓された気分です。

(見間違いかしら。でも今の表情は、すごくお可愛らしいわ……もう一度見たいと思うくらい。でも舐められるのは嫌だわ、やっぱり)

 はい、とてもしょうもないことを思っていますね、私。さっきまで離縁やむなしと覚悟を決めていたくせして、イオニス様に惹かれているではありませんか。

 そうなのですが、何かが引っ掛かりました。

 そして、私はこう推測したのです。

(……私は恋をしたことがなかったけれど、こういうことはきっと、いわゆる一目惚れに近いものなのかもしれないわ。私だけかしら。イオニス様は、私のことをどう思ってらっしゃるか、知りたいわ)

 だから、私は——イオニス様と、もっと話をしたいと願いました。それは、顔を上げたイオニス様も同じだったようです。

「なら、こうしよう。エルミーヌ、結婚を続ける意思はあるか? 私はもう一度、お前と向き合いたいのだ」
「……よろしいのですか? だって私は、イオニス様を吹き飛ばしたり、お屋敷を倒壊させたりするようなことばかり」
「それはかまわない。竜生人ドラゴニュートの住む家は大抵そういうものだ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。お前が私を吹き飛ばすことはあっても、逆はないから安心しろ。それだけはしない」

 うんうん、とイオニス様は頷いてらっしゃいますが、竜生人ドラゴニュートの家庭事情は人間とはやはり異なるようです。文化の違いでしょうか。

「それに、竜生人ドラゴニュートの角にヒビを入れ、翌日にはあれほど貴重な薬を持ってくるような人間の娘は、大陸広しと言えどお前以外いないぞ」
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