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第二話
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父親似の黄金色のはちみつのような巻き毛に、アメジストのような明るい紫の瞳をしたブライス伯爵家令嬢アルマナは、四歳のとき、世話係の使用人の女性レティへこう告げた。
「レティ、あなたは明後日のお祭りに出て。そこで篝火を灯す役目の男性を探して。その人があなたの運命の相手よ」
レティは、幼な子があまりにも大人びた予言を語るため、神妙に「は、はい」とすぐに承諾した。これはもしや、アルマナはエスティナ王国に伝わる魔女なのではないか、と考えたためだ。
ブライス伯爵にことの次第を伝え、レティはその明後日の祭りに出た。地元の小さな夏祭りで、確かに篝火が各所に焚かれている。そして飲めや歌えの騒ぎに踊りが始まったあとでも、一人の青年が篝火の点検に見回りをしていた。
レティはその青年に声をかけ、手伝いを申し出た。初対面のはずが会話は弾み、後日のデートの約束まで取り付けて帰ってきたレティは、興奮気味にブライス伯爵へ報告し、アルマナの予言が正しかったと喜んだ。四ヶ月後、レティは無事その青年と結婚まで漕ぎ着けるのである。
レティは休憩時間中の使用人たちの世間話でアルマナを褒め称えて語る。
「アルマナお嬢様のおっしゃったことは正しかったわ。ああ、どうしましょう! 嬉しいわ!」
「よかったわね、レティ! アルマナお嬢様はきっと予言を託す異能をお持ちなのよ」
「そうそう、これでブライス伯爵家もエスティナ王国も安泰よ。それにね、実はミリエットお嬢様もすごい異能をお持ちなのよ」
「ええ!?」
「本当?」
「これは昨日、伯爵様からお聞きしたんだけど」
使用人たちが注目したのは、今度は妹のミリエットである。
母親似の薄い紅茶色の柔らかい髪に、アクアマリンのような水色の瞳を持つ、姉アルマナそっくりの顔立ちのミリエットは、年老いた乳母ゾフィがなくした瑪瑙のヘアピンを探しているところに現れて、こう言ったのだ。
「ゾフィ、ヘアピンはね、朝お母様の部屋で落としたんじゃないかしら。ほら、猫足付きの棚があるでしょう? あの下にあるはずよ」
果たしてゾフィは、伯爵夫人の寝室にある棚の下へ転がり込んでいた瑪瑙のヘアピンを見つけ、ミリエットへ大いに感謝した。
「ありがとうございます、ミリエットお嬢様。これは亡き夫からのたった一つ残った贈り物で、何十年も大切に身につけてきたものですから」
「うん、知っているわ」
「ご存じなのですか? あら、私、いつのまにお教えしたかしら」
「ううん」
ミリエットは至極当然、とばかりに種明かしをする。
「大体三十年前に黒髪の夫が病に倒れてしまって、ゾフィが子ども三人を連れてブライス伯爵家の乳母として雇われたこと、それから瑪瑙のヘアピンをずっと大事に髪に差していること、あとお母様の寝起きが悪いからベッドから追い出して布団を片付けていること、見たの。でもゾフィは最近髪が薄くなって、ヘアピンが布団の片付けのときに外れて飛んでいってしまった……その光景も見えたから、知っていただけよ」
ミリエットどころか、ゾフィとごく少数の古株の使用人くらいしか知り得ない情報をすらすらと喋る幼児に、ゾフィは慌てふためいてすぐさまブライス伯爵へ報告した。
「ミリエットお嬢様はきっと素晴らしい異能をお持ちです! アルマナお嬢様とともに、大変名誉あることですよ!」
そうして娘たちの異能を確信したブライス伯爵は、鑑定のために王都へ魔女の派遣を急遽要請した。同じ魔女に、双子の娘たちが魔女であるかどうかを確かめてもらうためだ。家から魔女が二人も出たとなると、ブライス伯爵家の家名は箔付けどころかまさしく輝かんばかりの栄誉を得る。
まもなく王都からやってきた、豊かな黒髪と派手な赤と黒のドレスを着た『鑑定視』の魔女レンテヴァ女男爵コンスタンツェは、ブライス伯爵家の応接間で伯爵と二人の幼い娘に会うなり非常に驚いた様子で、興奮気味に手を叩いた。
「あら、あら、あら、まあ! あなたたち、二人揃って魔女なのね! 金髪の子は『未来視』、茶髪の子は『過去視』ができるみたい! それに……ふむふむ、双子特有の魂のつながりがあるからか、互いが得た情報の共有も可能なのね。これは大きなアドバンテージだわ、目に映るものの過去から未来まで見通すことができる、まるで神の視点を得たかのよう。将来有望な魔女が生まれて、この国もブライス伯爵家もさらなる発展が約束されたことでしょう。新たな魔女たちに祝福を!」
コンスタンツェの最大級の賛辞とともに、エスティナ王国に新たな魔女が二人も誕生した。この知らせは瞬く間に全土に駆け巡り、国王はアルマナとミリエットを正式に諮問機関『魔女集会』へ招待することが決定された。
ただし、まだ二人は幼いため、魔女としての貢献の義務と与えられる褒賞については十五歳を迎えてからの話となる。現時点では二人はブライス伯爵家保護のもと、成長を楽しみに期待されているということだ。
とはいえ、一足先に、コンスタンツェからアルマナとミリエットへ極秘事項が伝えられていた。
「レティ、あなたは明後日のお祭りに出て。そこで篝火を灯す役目の男性を探して。その人があなたの運命の相手よ」
レティは、幼な子があまりにも大人びた予言を語るため、神妙に「は、はい」とすぐに承諾した。これはもしや、アルマナはエスティナ王国に伝わる魔女なのではないか、と考えたためだ。
ブライス伯爵にことの次第を伝え、レティはその明後日の祭りに出た。地元の小さな夏祭りで、確かに篝火が各所に焚かれている。そして飲めや歌えの騒ぎに踊りが始まったあとでも、一人の青年が篝火の点検に見回りをしていた。
レティはその青年に声をかけ、手伝いを申し出た。初対面のはずが会話は弾み、後日のデートの約束まで取り付けて帰ってきたレティは、興奮気味にブライス伯爵へ報告し、アルマナの予言が正しかったと喜んだ。四ヶ月後、レティは無事その青年と結婚まで漕ぎ着けるのである。
レティは休憩時間中の使用人たちの世間話でアルマナを褒め称えて語る。
「アルマナお嬢様のおっしゃったことは正しかったわ。ああ、どうしましょう! 嬉しいわ!」
「よかったわね、レティ! アルマナお嬢様はきっと予言を託す異能をお持ちなのよ」
「そうそう、これでブライス伯爵家もエスティナ王国も安泰よ。それにね、実はミリエットお嬢様もすごい異能をお持ちなのよ」
「ええ!?」
「本当?」
「これは昨日、伯爵様からお聞きしたんだけど」
使用人たちが注目したのは、今度は妹のミリエットである。
母親似の薄い紅茶色の柔らかい髪に、アクアマリンのような水色の瞳を持つ、姉アルマナそっくりの顔立ちのミリエットは、年老いた乳母ゾフィがなくした瑪瑙のヘアピンを探しているところに現れて、こう言ったのだ。
「ゾフィ、ヘアピンはね、朝お母様の部屋で落としたんじゃないかしら。ほら、猫足付きの棚があるでしょう? あの下にあるはずよ」
果たしてゾフィは、伯爵夫人の寝室にある棚の下へ転がり込んでいた瑪瑙のヘアピンを見つけ、ミリエットへ大いに感謝した。
「ありがとうございます、ミリエットお嬢様。これは亡き夫からのたった一つ残った贈り物で、何十年も大切に身につけてきたものですから」
「うん、知っているわ」
「ご存じなのですか? あら、私、いつのまにお教えしたかしら」
「ううん」
ミリエットは至極当然、とばかりに種明かしをする。
「大体三十年前に黒髪の夫が病に倒れてしまって、ゾフィが子ども三人を連れてブライス伯爵家の乳母として雇われたこと、それから瑪瑙のヘアピンをずっと大事に髪に差していること、あとお母様の寝起きが悪いからベッドから追い出して布団を片付けていること、見たの。でもゾフィは最近髪が薄くなって、ヘアピンが布団の片付けのときに外れて飛んでいってしまった……その光景も見えたから、知っていただけよ」
ミリエットどころか、ゾフィとごく少数の古株の使用人くらいしか知り得ない情報をすらすらと喋る幼児に、ゾフィは慌てふためいてすぐさまブライス伯爵へ報告した。
「ミリエットお嬢様はきっと素晴らしい異能をお持ちです! アルマナお嬢様とともに、大変名誉あることですよ!」
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ただし、まだ二人は幼いため、魔女としての貢献の義務と与えられる褒賞については十五歳を迎えてからの話となる。現時点では二人はブライス伯爵家保護のもと、成長を楽しみに期待されているということだ。
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