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第七話
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一週間後、アルマスは王城の門の前にやってきました。
門番の兵士たちが不可思議そうに見ています。やがて一人の兵士がやってきて、しょうがない子どもだとばかりにこう言いました。
「君、ここは王城だよ。親御さんはどこだい?」
アルマスはその兵士の鼻先に金縁の封筒を勢いよく出してみせ、はっきり答えます。
「アルマス・リュフタです。ちゃんと王女様のお茶会に招待されています」
これに面食らった門番の兵士たちは、慌てて中にいる取次の事務官へ伝えに行きます。
そう、無事王城へ送った書類は審査を通過し、アルマスは王女様のお茶会にお呼ばれしたのです。事前に王城の使いへ工芸茶を渡し、お茶会に供してもらうよう頼んでおきました。
アルマスはため息を吐きたくなりましたが、堪えます。今日ばかりは継ぎ接ぎのないジャケットと一番白いシャツ、古着屋で買ってきたズボンに、真新しいスエード靴を履いています。古ぼけた郵便鞄は家に置いてきました、ジャケットのポケットだけが荷物をしまう場所です。
アルマスはポケットに入れた紙の包みがあることを何度も確認しながら、金縁の封筒を握り締め、門が開くのを待ちました。
アルマスが取次の事務官に案内され、初めての王城の廊下を歩いていると、物珍しげにちらりと見てくる紳士淑女、それにメイドや使用人、中には口さがなくお喋りする人々もいました。
「あんな子どもまで来るのか。見境がないというか、額面どおりに受け取りすぎているというか」
「書類審査が通ったとはいえ、殿下は何を考えておられるのか」
「俺たちには分かりそうにないな。世間知らずの子どもを泣かせる趣味でもおありなのかどうか」
彼らの存在は、先に王城勤めのミルッカの母から聞いていたとおりです。相手が子どもだから、平民だからと平然と見下してくる人々。そんな人々にはいくら怒ってもしょうがないのです。ふんと鼻息荒く吹き飛ばし、胸を張っていくしかないのです。
しかし緊張は隠せません。いつの間にかやってきた王城の奥、王族の住まう居住区である王宮の庭園に出る廊下が近づくと、アルマスはここまでの道順をすっかり忘れてしまっていました。自分でも分からないほど緊張している、アルマスはごくりと唾を呑み込み、何とか緊張を抑えようとします。
そんなとき、聞き慣れた声が聞こえてきました。
「アルマス、こっちよ」
声のしたほうへ振り返ると、宮廷薬師をしているミルッカの母、エイダが小走りでやってきていました。地獄に仏、窮地に知人と安心したアルマスは、エイダの名を呼びます。
「エイダおばさん」
「お茶は預かっているわ。ちゃんと出すから、しっかりやりなさいね」
「うん! ありがとう、おばさん」
手短に励まされ、アルマスはやる気が湧いてきました。
——しっかりしないと。この機会を逃すわけにはいかないんだから。
アルマスは覚悟を決めて、エリヴィラ王女の待つお茶会会場の庭園へと向かいます。
門番の兵士たちが不可思議そうに見ています。やがて一人の兵士がやってきて、しょうがない子どもだとばかりにこう言いました。
「君、ここは王城だよ。親御さんはどこだい?」
アルマスはその兵士の鼻先に金縁の封筒を勢いよく出してみせ、はっきり答えます。
「アルマス・リュフタです。ちゃんと王女様のお茶会に招待されています」
これに面食らった門番の兵士たちは、慌てて中にいる取次の事務官へ伝えに行きます。
そう、無事王城へ送った書類は審査を通過し、アルマスは王女様のお茶会にお呼ばれしたのです。事前に王城の使いへ工芸茶を渡し、お茶会に供してもらうよう頼んでおきました。
アルマスはため息を吐きたくなりましたが、堪えます。今日ばかりは継ぎ接ぎのないジャケットと一番白いシャツ、古着屋で買ってきたズボンに、真新しいスエード靴を履いています。古ぼけた郵便鞄は家に置いてきました、ジャケットのポケットだけが荷物をしまう場所です。
アルマスはポケットに入れた紙の包みがあることを何度も確認しながら、金縁の封筒を握り締め、門が開くのを待ちました。
アルマスが取次の事務官に案内され、初めての王城の廊下を歩いていると、物珍しげにちらりと見てくる紳士淑女、それにメイドや使用人、中には口さがなくお喋りする人々もいました。
「あんな子どもまで来るのか。見境がないというか、額面どおりに受け取りすぎているというか」
「書類審査が通ったとはいえ、殿下は何を考えておられるのか」
「俺たちには分かりそうにないな。世間知らずの子どもを泣かせる趣味でもおありなのかどうか」
彼らの存在は、先に王城勤めのミルッカの母から聞いていたとおりです。相手が子どもだから、平民だからと平然と見下してくる人々。そんな人々にはいくら怒ってもしょうがないのです。ふんと鼻息荒く吹き飛ばし、胸を張っていくしかないのです。
しかし緊張は隠せません。いつの間にかやってきた王城の奥、王族の住まう居住区である王宮の庭園に出る廊下が近づくと、アルマスはここまでの道順をすっかり忘れてしまっていました。自分でも分からないほど緊張している、アルマスはごくりと唾を呑み込み、何とか緊張を抑えようとします。
そんなとき、聞き慣れた声が聞こえてきました。
「アルマス、こっちよ」
声のしたほうへ振り返ると、宮廷薬師をしているミルッカの母、エイダが小走りでやってきていました。地獄に仏、窮地に知人と安心したアルマスは、エイダの名を呼びます。
「エイダおばさん」
「お茶は預かっているわ。ちゃんと出すから、しっかりやりなさいね」
「うん! ありがとう、おばさん」
手短に励まされ、アルマスはやる気が湧いてきました。
——しっかりしないと。この機会を逃すわけにはいかないんだから。
アルマスは覚悟を決めて、エリヴィラ王女の待つお茶会会場の庭園へと向かいます。
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