16 / 22
第十六話 走って行くところ
しおりを挟む
昼過ぎ、タビは医薬品をカバンに入れて、屋敷の玄関に向かった。
すでにイフィクラテスとイフィゲネイア、シノンが待っている。イフィゲネイアは肩からかけた皮袋一つ、シノンは大剣とリュックサック一つという——シノン以外ダンジョンに行くとは思えない軽装だ。それでいいのだろうか、とタビは心配になったが、イフィクラテスならともかくイフィゲネイアが忘れ物をしたということはないだろうし、と納得することにした。
イフィクラテスは、出立前のタビへずいとあるものを押し付けた。
「タビ、お前の武器と防具を用意した。使ってみろ」
そう言われてタビが渡されたのは、タビの身長ほどのただまっすぐな、赤みを帯びた細い棒と、新品の茶色いダッフルコートだ。
「杖と……コート?」
「ああ。杖は何かと役に立つぞ。疲れたときは支えに、正体不明のものを見つけたら先端でつついて確かめて、テコの原理で邪魔な岩や倒木を動かすことだってできる。そいつは鍛鉄鋼をアウリカルクムでコーティングしたから軽くて丈夫だぞ」
「コートはそうね、多分溶岩の上でも燃えないし溶けないと思うわ。一通り耐毒性も検証したから、安心して着なさい」
タビはもそもそとダッフルコートを着て、杖を手に持つ。なるほど、しっくり来る。タビの力でも杖は軽く感じるし、ダッフルコートも暑すぎず寒すぎず、おそらく錬金術で作った素材を使っているのだろう。タビに対する師匠たちの愛、と言えるのかもしれない。
シノンはその様子を見て呆れていた。
「相変わらず過保護だな、あんたたちは」
「いいだろう?」
「いいのかどうかは分からんが、まあ、悪くはないんじゃないか」
「なら大丈夫ね」
シノンの言わんとするところは、タビも分かる。弟子を溺愛しすぎに思えるがそれで大丈夫か、と言いたいのだろう。正直、タビもちょっと気にしていた。しかし、言ったところでどうにもならない。きっと何かちゃんと考えているイフィクラテスとイフィゲネイアの気が済むようにするしかないのだ。
そんなことを考えていると、タビは突然、杖ごとひょいとシノンの右肩に担がれた。あまりにもスムーズに荷物のように肩へ担がれて、しかもその大きな肩はとても頼り甲斐がある。
「さて、行くか」
「えっ、何で僕を担いで」
「このほうが早い。イフィゲネイア、あんたの荷物も」
「大丈夫よ。このくらい何ともないわ」
「そりゃすまなかった」
「厚意は受け取っておくわ」
そのやりとりが終わった瞬間——シノンとイフィゲネイアは疾走しはじめた。
屋敷から『アングルボザの磐座』へは半日の道のりだが、この二人はその所要時間を短縮する気満々だ。
まるで馬が駆けるかのように、タビを担いだシノンはイフィゲネイアと並走していく。人間とは思えないほど速すぎて、乗っているタビはもはや恐怖だ。
タビは杖とシノンの服を必死で掴み、縮こまって叫ぶ。
「速い~~~~!?」
タビの叫びはむなしく、森にかき消えていった。
すでにイフィクラテスとイフィゲネイア、シノンが待っている。イフィゲネイアは肩からかけた皮袋一つ、シノンは大剣とリュックサック一つという——シノン以外ダンジョンに行くとは思えない軽装だ。それでいいのだろうか、とタビは心配になったが、イフィクラテスならともかくイフィゲネイアが忘れ物をしたということはないだろうし、と納得することにした。
イフィクラテスは、出立前のタビへずいとあるものを押し付けた。
「タビ、お前の武器と防具を用意した。使ってみろ」
そう言われてタビが渡されたのは、タビの身長ほどのただまっすぐな、赤みを帯びた細い棒と、新品の茶色いダッフルコートだ。
「杖と……コート?」
「ああ。杖は何かと役に立つぞ。疲れたときは支えに、正体不明のものを見つけたら先端でつついて確かめて、テコの原理で邪魔な岩や倒木を動かすことだってできる。そいつは鍛鉄鋼をアウリカルクムでコーティングしたから軽くて丈夫だぞ」
「コートはそうね、多分溶岩の上でも燃えないし溶けないと思うわ。一通り耐毒性も検証したから、安心して着なさい」
タビはもそもそとダッフルコートを着て、杖を手に持つ。なるほど、しっくり来る。タビの力でも杖は軽く感じるし、ダッフルコートも暑すぎず寒すぎず、おそらく錬金術で作った素材を使っているのだろう。タビに対する師匠たちの愛、と言えるのかもしれない。
シノンはその様子を見て呆れていた。
「相変わらず過保護だな、あんたたちは」
「いいだろう?」
「いいのかどうかは分からんが、まあ、悪くはないんじゃないか」
「なら大丈夫ね」
シノンの言わんとするところは、タビも分かる。弟子を溺愛しすぎに思えるがそれで大丈夫か、と言いたいのだろう。正直、タビもちょっと気にしていた。しかし、言ったところでどうにもならない。きっと何かちゃんと考えているイフィクラテスとイフィゲネイアの気が済むようにするしかないのだ。
そんなことを考えていると、タビは突然、杖ごとひょいとシノンの右肩に担がれた。あまりにもスムーズに荷物のように肩へ担がれて、しかもその大きな肩はとても頼り甲斐がある。
「さて、行くか」
「えっ、何で僕を担いで」
「このほうが早い。イフィゲネイア、あんたの荷物も」
「大丈夫よ。このくらい何ともないわ」
「そりゃすまなかった」
「厚意は受け取っておくわ」
そのやりとりが終わった瞬間——シノンとイフィゲネイアは疾走しはじめた。
屋敷から『アングルボザの磐座』へは半日の道のりだが、この二人はその所要時間を短縮する気満々だ。
まるで馬が駆けるかのように、タビを担いだシノンはイフィゲネイアと並走していく。人間とは思えないほど速すぎて、乗っているタビはもはや恐怖だ。
タビは杖とシノンの服を必死で掴み、縮こまって叫ぶ。
「速い~~~~!?」
タビの叫びはむなしく、森にかき消えていった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放された武闘派令嬢の異世界生活
新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。
名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。
気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。
追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。
ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。
一流の錬金術師になるべく頑張るのだった
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。
そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。
冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。
・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。
・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる