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第一話

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 ここイルネーゼ王国からはるか東、砂漠を越え海を越えた先に、黄金の国があるという。

 そこは見たこともない財宝を持つ大君が統治する国で、不思議な文化が花開いているとか。

 まあ、そんなおとぎ話はさておき、私、ベルグランド侯爵家令嬢ルクレツィアはピンチ(?)なの。



「ルクレツィア、君との婚約は破棄する。僕はジャカール子爵家令嬢クラウディアと結婚する」

 ——はーん? 私の婚約者の言葉の意味が分からない。周り見なさいよ、舞踏会に集った紳士淑女がポカンとしているわ。

 私の婚約者、マイネへルン伯爵家嫡男アルフレッドは、ハニーブロンドの勝ち誇った顔をした少女と腕を組み、なんかめっちゃ怒っていた。

「クラウディアへことあるごとに嫌がらせをして、挙げ句の果てにはジャカール子爵家へ圧力をかけて僕に近寄らせないようにしていたそうだな。大臣の娘ともあろう君が、馬鹿げたことをしたものだ」

 顔だけはいいアルフレッドは大袈裟にため息を吐き、私へ憐れみと侮蔑の視線を送ってきた。何言ってるんだこの男、と私があんぐり口を開けているのをいいことに、アルフレッドは用意されていた演劇のセリフのごとく次々と言葉を浴びせかけてくる。

「君はいつも舞踏会で私を放っておくくせに、女性が近づくことを許さず束縛ばかりする。はっきり言って、君との結婚生活は考えられない。僕はペットじゃないんだ、それに好きでもない、魅力も乏しい女性と結婚なんて嫌だ。男ならクラウディアのように可憐で、美しく、貞節をわきまえた女性とこそ結ばれたいものだ。そうだろう?」

 アルフレッドは周囲へと同意を求める。生憎と、この場には堂々と他人を罵倒する意見に同意する無分別な人間はおらず、しかしアルフレッドはかまうものかと話を進めた。

「とにかく、人として女性として魅力のないちんちくりんな君との結婚はごめんだ! 帰って真っ当な礼儀作法を習ってくることだ!」

 鼻息荒く、アルフレッドはクラウディアという少女を連れて、どこかへ去っていった。

 一人、舞踏会のど真ん中で婚約破棄されて取り残された私は——首を傾げた。

「何この茶番。真面目な話なのか、お父様に確認しなきゃ」

 それがいいと思うよ、と背後の小太りの紳士と背の高い淑女がうんうん頷き同意してくれた。

 とりあえず、私は憐憫の視線を受けながら舞踏会のホールから出て、とっとと帰宅した。せっかく舞踏会のために選んだ黄色のアイリスをモチーフにしたドレスは、無駄になってしまったようだった。
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