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1巻
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***
「ヒューイ、おかえり!」
ヒューイが王都の西地区にある自宅に戻ると、少年が階段から駆けおりてくる。従弟のロイドだ。
「おかえりなさい」
さらにロイドとそっくりな男の子が、階段途中の手すりからひょいと顔を覗かせた。ロイドの双子の弟、グレンだった。ヒューイと彼らは父親同士が兄弟関係にある。だが双子たちの両親は亡くなってしまったので、ヒューイの家で面倒を見ていた。いまはこの屋敷から学校に通っているが、来年、二人が十三歳になったら寄宿学校へ入る予定だ。
「ヒューイ、ほら、これ!」
ロイドは誇らしげにヒューイに紙を差し出した。テストの答案用紙だった。点数は七十八点だ。
「すげえだろ? 平均点は七十点だったんだぜ。伯父さんも褒めてくれた!」
ヒューイ的には全然すごくないのだが、ロイドにしては頑張ったほうかもしれない。
「なるほど、頑張ったな。次は是非とも八十点台が見てみたいものだが……できそうか?」
「お、おうよ!」
ロイドは勉強が好きではない。それに悪い点を取ったときに叱責しても効果は薄いタイプだ。適度に励ましつつ、やる気を削がないようにするのがいいだろう。
「ロイドがテストだったということは、グレンも答案用紙を持っているな? 見せてみなさい」
グレンは重い足取りで、俯きながら階段をおりてくる。この時点で、今回はだめだったのだなとわかる。だがグレンの「だめ」は点数的には決して悪いものではなかった。
「……九十五点か。頑張ったではないか」
「でも、百点の子がいたんだ。ぼく、一番になれなかった……」
学校でテストがあると、グレンは大抵一番を取っている。しかし彼と競う相手がいるようで、一番を取れなかったときの落ち込みぶりが激しい。グレンの一番への拘りは大変結構だが、彼はそこに拘りすぎて視野が狭くなっている気がする。
「グレン。自分と同レベルで競う相手がいるのは、恵まれていることだ。それに、僕は一番に拘る必要はないと思っている」
「うん……」
寄宿学校へ進んだらいまよりも色々な生徒がいる。すべての教科で満点を取ってしまう者、数学のみに特化している者、一度読んだだけで本を丸暗記してしまう者……とにかく様々だ。そのときグレンが挫けることにならなければいいのだが。ヒューイはそれが心配だった。
「ヒューイ。帰っていたのかね」
「父上」
双子を二階の勉強部屋へ帰したところで、父親のレジナルドがやって来た。彼は階段を上っていく少年たちを見つめ、ふーっとため息を吐く。
「双子たちも、来年からは寄宿学校へ入ってしまうね……」
またこの話だ……。ヒューイは心が重くなるのを感じた。父は六年前に妻を、四年前に母親を亡くしている。つまりヒューイも母と祖母を立て続けに喪っているのだが、それまで厳しかった父は度重なる喪失に落ち込んですっかり気持ちが弱くなってしまった。
そんなときに現れたのがロイドとグレンの兄弟と、二人の姉のジェーンだった。親を失った姉弟たちは伯父のレジナルドを頼り、それまで住んでいた街から遥々王都までやって来た。その後ジェーンは地方貴族の男に嫁いだが、双子たちは立派な大人になるべく王都に残って勉強中である。
「ヒューイ。二人が寄宿学校へ入ってしまったら、この家も寂しくなると思わないかい?」
「父上、寄宿学校は家族ならばいつでも面会できますよ。僕たちは充分に彼らの家族でしょう」
父はそこでちらっとヒューイを見て、呟くように言った。
「それはそうだが……おまえが妻を迎えてくれれば……」
「わかっております、父上」
父は家族の存在に飢えていた。ヒューイに結婚してほしくて仕方がないらしい。
「もちろん、バークレイ家に相応しい血筋と家柄の妻を娶りますとも。どうかご心配なさらず」
このバークレイ家は代々続く騎士の家系だ。爵位ある家の娘を迎えるのが望ましいが、それだけではだめだ。社交界に顔を出す機会があるのだから、美しい女でなくてはいけない。騎士の仕事に美醜は関係ない。しかしバークレイ家の妻には必要な条件だ。別に絶世の美女でなくてもいい。品位と知性を備えた雰囲気を持っていれば。しかし知性──これも難しいところだ。家同士の付き合いや政治についてあれこれ口を出してくる女は好ましくない。かといって、己の意見をまったく持たず曖昧に微笑んで頷いているだけの女もヒューイの意に沿わない。
時折ヒューイの理想を満たす女が現れるが、そういった人は競争率も高かった。バークレイ家はそれなりに裕福だが大富豪と呼べるわけではなく、爵位もない。そのせいかヒューイの条件を満たす女はこちらがアプローチを始める前に、貴族や富豪の息子に掻っ攫われてしまうのが常であった。
せめてうちに爵位があれば……と何度思ったことだろう。この際、配置換えの希望を出して、きな臭い土地に出向こうかと考えたこともある。戦闘で大きな手柄を立てれば、爵位を受け取ることも夢ではないからだ。野心に満ち溢れていた頃の父であれば「是非行ってきなさい」とヒューイを送り出していただろう。だが、いまの状態の父を置いて王都を離れるのは気が引けた。それなりに妥協しつつ、理想に近い女を見つけるのは色々と大変なのである。
「そのことだが……ヒューイ。別に、そこまで相手の家柄に拘る必要はないのではないかね? 私は、おまえが好きになった女性を妻にすべきだと思うよ」
「父上。家柄のしっかりした女性でなくては、僕は興味すら持てませんよ。同じことです」
「しかし……ジェーンたち夫婦を見ただろう? 彼らはとても楽しそうだったよ」
つい先月、年に一度の剣術大会が王都で開かれ、ジェーンは夫と一緒にやって来ていた。その際に彼らとは何度か顔を合わせている。父は「楽しそう」と表現したが、ヒューイに言わせれば二人は常に騒がしかった。
「楽しそうなのは、愛し合う者同士で結ばれたからではないのかね? この家を守るのも大事だが……私は、おまえに愛のある家庭を築いてほしいと思っているんだよ」
愛……? そんな在りもしないものを持ち出すとは。父の心はそれほどまでに弱くなってしまっているのだろうか。ヒューイは思わず肩を落としかけた。
「ですから父上。バークレイ家に相応しい女性を見つけてみせますとも」
父は困惑した表情で口を開きかけたが、ヒューイは首を振る。淋しさを訴える父に追い打ちをかけるようで気が引けたが、決まったことを告げた。
「僕の業務内容が少し変わりました。帰宅が遅い日や、宿舎のほうに泊まる日が増えるかもしれません。夕食は、僕を待たずに皆で食べていてください」
「そうか……わかった」
自室に入り着替えを済ませてソファに腰をおろしても、ヒューイの気分は晴れないままだった。まだ時間はある、と後回しにしていた花嫁探しだが、思っていたほどの余裕はなさそうだ。
しかし、アルドとニコラスの再教育がいまのヒューイの最優先事項である。それにあの痴女……ではなく、ヘザーにも色々と指導しなくてはならない。物覚えのいい女であれば助かるのだが。
それにしても、あの女は……ほんとうに大丈夫なのだろうか?
ヒューイはため息を吐きながら宙を睨んだ。あの夜、安っぽい酒場に足を踏み入れ、品のない騒ぎ声をあげている者たちのほうへ向かうと、まずはオレンジ色の髪をした背の高い女が目に入った。ヒューイにはすぐにわかった。あれがヘザー・キャシディ、自分の助手になる女だと。同時に失望した。ガラの悪い男どもと酒場で騒ぐような女だったのか……と。
ヘザーが泥酔して動けないのだと判断したヒューイは、彼女を担ぎあげ、宿舎まで連れ帰った。部屋の場所を聞いても、答えられないほど酔っているようだった。仕方がないので普段寝泊りすることは殆どない宿舎内の自分の部屋へ連れ帰り、水と洗面器を提供してやろうとした。ところが。
ところが、なんなのだ? あの女は……?
まるで野獣のようにボタンを吹き飛ばしながらシャツの胸元を引き裂いたかと思ったら、なんとその次はズボンのベルトに手をかけた。ヒューイは唖然とした。
ひょっとして、この僕を誘っているのか? 一瞬怯んだヒューイだったが、こんな野蛮でガサツな誘い方があるか、と考え直す。考え直しているうちに、ヘザーは一人でおっぱじめ、そして一人で終えた。彼女はいったい何がしたかったのだろう。自慰が目的なのか、それとも見せつけるほうに目的があったのか。だがどちらにしろ、この女は変態だ。ヒューイはそう思った。
翌日、司令部に呼び出されヒューイの前に立ったヘザーは死にそうな顔をしていた。彼女は行きずりの行為のつもりだったのかもしれない。あるいは、前後不覚なレベルで泥酔した上での暴挙で、酔いがさめて我に返ったからかもしれない。そのどちらかであろう。
栄えある司令部新人教育課の所属となるからには、色々と改めてもらわなくてはいけない。だから彼女を小会議室に呼びつけ、注意をした。
しかしヘザーは「薬を盛られた、酒に何か入っていた」と主張した。往生際の悪い女である。
ヒューイはそこでふと気づいた。他人の前で自慰をしたくなる薬などあるわけがないと決めつけていたが、ひょっとして催淫剤や媚薬の類だろうか、と。怪しげな薬屋が「惚れ薬」だと謳って売っているものは、殆どがその手のものだと聞く。従妹のジェーンは薬草や薬の効果に詳しかったはずだ。媚薬について、ジェーンに手紙で訊ねてみようかと考えた。
「いや、しかし……」
ジェーンの嫁ぎ先はこの国の北西の果てである。手紙のやり取りには時間がかかるし、そういった催淫剤があるとわかったところで、同じものをヘザーが盛られたとは限らない。この件について調べるのは時間の無駄だと判断したヒューイは、明日からの研修に備え、行うべきことを書き留めるために机に向かった。
***
結局、ヘザーの身体に合う制服は倉庫にはなかった。新しい制服が仕上がるまで時間がかかるので、ヘザーは未だに稽古着を身に着けている。昨日も稽古着でここへ来たが、今日は働くためにやって来たわけで。稽古着で司令部の厳かな扉を開けるのは少しばかり勇気が要った。
「おはようございます」
部屋の中へ入って新人教育課のエリアへ向かい、ヒューイの机の前に立って挨拶すると、彼は懐中時計とヘザーを見比べた。現在、九時二十八分である。九時三十分に来いと言われていたので遅刻ではない。だがヒューイは何か言いたそうにヘザーを見ている。自分はちゃんと九時三十分から仕事を始められる時間に来たつもりだが、五分前行動しろとか言われるのだろうか。
それにしても彼の複雑極まりない表情といったら……。ヒューイは、ヘザーの姿を目に入れるたびにあの醜態を思い浮かべているに違いない。だが、そうはさせぬ!
「おはようございます‼」
ヒューイに何かを言われる前に、ヘザーはもう一度、怒鳴るように挨拶をした。
「う、うむ。おはよう」
彼は虚を衝かれたらしく、やや狼狽したように答える。少しだけヘザーの溜飲が下がった。
「アルドとニコラスには、第三稽古場に十時集合と伝えてある。我々も向かおう」
ヒューイは立ちあがり、ヘザーについてくるよう促した。
「初めの一、二週間で彼らの基礎体力、剣術や乗馬のレベルをチェックする。それから教養のテストも行うつもりだ。試験監督や採点作業を君に頼むことになるだろう」
稽古場まで歩きながら、ヒューイから仕事についての説明をざっと受ける。再教育課程の担当は、どうやらヒューイも初めてのようだった。まずは研修生の現在の状態を把握して、今後のメニューを考えていくつもりらしい。
稽古場にはすでにニコラスがいた。アルドは周囲の柵に凭れるようにして立っている。
「わあっ、キャシディ隊長っ」
ニコラスはヘザーの姿を目に入れるなり、ぴょんぴょん飛び跳ねながら両手を振ってみせるという、子供っぽい仕草をした。ヘザーにとってはいつもの光景であったが、この教官の前ではやめたほうがいいのでは……と思いつつ曖昧に笑顔を作って手を振り返す。
「ニコラス・クインシー!」
案の定、ヒューイの怒鳴り声が響いた。彼はヘザーの名も続けて口にした。
「ヘザー・キャシディ! 君たちは同じ騎士隊に所属していたそうだが、馴れ合いはやめたまえ。それに、いまのヘザー・キャシディは隊長ではない! 呼び方も改めたまえ」
何故かヘザーまで怒られる羽目になった。呼び方についてはあれほど言ったのに……と、ニコラスをじろりと見やる。
「えっ。で、でも……俺、隊長を呼び捨てなんて……」
「何も呼び捨てにする必要はない。さんでも様でも好きにつければいい」
「え、えーと……じゃあ……ヘザー、さん……?」
ニコラスはヘザーに向き直る。そして指をもじもじさせた後、ぽっと頬を染めた。
「なんでそこで赤くなるのよ」
「じゃあ、えーと。ヘザー、様……? えへへ……」
「だから、なんで照れる必要があるのよ」
「君たち、いい加減にしたまえ。何をだらだら話している!」
だいぶ聞き慣れてきた怒鳴り声に顔をあげると、ヒューイがこめかみをぴくぴくさせながら立っていた。そして懐中時計を取り出して、ヘザーとニコラスとを見比べる。
「時は金なり、だ。時間を無駄にするのではない!」
やり取りを聞いていたアルドが、柵に寄りかかったままヒャハハと笑って肩を揺らした。
「アルド・グレイヴス! メンバーが揃った。君もこちらへ来たまえ……整列!」
ヒューイに指を突きつけられたアルドは肩を竦めつつ歩いてきて、ニコラスの隣に並んだ。
「番号!」
「……いち」
「に!」
ヒューイのかけ声にアルドはしぶしぶ、ニコラスは元気に答えた。整列も何も、二人しかいないのだから見ればわかる。何事もきっちりしたい人なのかもしれないが、細かすぎるのではないだろうか。ヒューイの脇に控えていたヘザーはそう思った。
ヒューイの薄茶色の髪には今日も綺麗に櫛目が入っている。いつも手にしている懐中時計は、まめに時間を合わせているようだ。彼のほうから、なんだかいい匂いまで漂ってくる。さっぱりした清潔感のある匂い。たぶん、香水ではなくて石鹸の香りだ。きっとヘザーが使ったこともないような高級石鹸なのだろう。
午後になってもヒューイからは清潔な香りが漂っていた。高級石鹸だから香りが長持ちするのだろうか。あるいは休憩時間に入浴したのだろうか。それとも、やっぱり香水……? 夕刻、司令部の机で鼻をクンクンとさせながらそんなことを考えていると、ヒューイが顔をあげた。
「終わったかね」
「え? はい。これでいいかしら」
ヘザーは業務日報を記していたところだった。近衛隊でもつけていたし、新人教育課も書き方は変わらないはずだ。だがヒューイは受け取った紙を一瞥して眉を顰め、ヘザーに突き返す。
「午後休憩の後の集合は、十五時十分だったはずだが? それに本日の研修終了の合図は、十七時二十五分だ」
ヘザーはその時間を十五時ちょうどと、十七時三十分と記していた。
「だいたい、合ってると思いますけど?」
「だいたいではだめだ。五分単位で記したまえ」
「え? ご、五分⁉」
一分単位で記せと言わないだけ、この男なりに譲歩しているのかもしれない。でも。
「でも、近衛隊では三十分刻みでつけていたわ」
「ここは司令部新人教育課だ。近衛隊ではない!」
ヘザーはハッと息を呑んだ。そしてやってしまった……と思う。近衛隊時代のヘザーは、新しく入った騎士が「前のところと違う」「前はこうだった」などと言い出すたびに内心腹を立てていた。ここはあんたの前の職場ではない、第三王女の近衛隊である! ここの規則に従えないのならば帰れ帰れ! ……と、心の中で思いながらも、諭す役目であった。それをまさか自分がやってしまうとは。しかもヒューイ相手に。くやしい。
「できました!」
業務日報をやけくそ気味に書き直して再度ヒューイに差し出す。さっきよりも些か乱暴気味に。彼はそれを受け取ったが、なんだか嫌そうな顔でヘザーが書いたものを見おろす。
「……君は、字が汚いな」
そしてボソッと呟いてから、自分の印章を押した。ヒューイの口からは文句か嫌味しか出てこないようだ。彼が素直に他人を称賛することはあるのだろうか? ヘザーは疑問に思う。
「じゃ、お先に失礼しますっ」
今日はそれほど身体を動かす機会はなかったが、精神的にひどく疲れた。早く帰って休もう。立ちあがってヒューイの脇を通り抜けたとき、彼の手元を見てぎょっとした。
彼は何かの書類を書いていたが、活字を組んだのではないかと思うほどに文字が整っていたのだ。こんなに綺麗な文字は初めて見たし、ヘザーの書いたものにケチをつけるだけのことはあった。衝撃にふらふらとしながら部屋の扉に手をかけた。最後に一度、ヒューイを振り返る。
櫛目の通った髪。きっちり着こなした制服。清潔な香り。異様に片付いた部屋。驚くほど美しい文字。時間に厳しい……というか、何事にも厳しい。それにあのとき、彼はヘザーの醜態を目撃しても非難の言葉を口にしただけだった。単にヘザーを女扱いしていないだけかもしれないが、あれはどう考えても据え膳状態だったのだ。もしヒューイが自分に覆い被さってきていたら、ヘザーは疼きをどうにかしたい一心で身を任せていただろう。
ヒューイについて知っていることを、挙げ連ねてみる。それから、なんとなーく、思った。
……この人、ゲイだったりして。
ニコラスはてきぱきと、アルドはだらだらと準備体操をしている。ヘザーは二人を横目に、稽古場の脇にある物置小屋へ向かう。そして練習用の剣が入っている木箱を抱えて戻ってきた。
一方でヒューイは稽古中に足を取られることがないよう、落ちている石を拾ったり地面の凹凸を均したりしていた。ヘザーが木箱を地面に置いた音で、彼はふと顔をあげる。
「ヘザー・キャシディ。君の剣の腕はどれほどのものなのだ?」
「え? どれほど、って……?」
「君の経歴はチェックしてあるが、城へあがる前のことまでは記されていなかった。君はコンスタンス王女の目に留まったという話だが、どこかの貴族の私兵団にでも所属していたのか?」
「ああ……私、闘技場で剣士をやっていたのよ」
彼は「闘技場?」と、ヘザーの言葉を繰り返した。意外そうな表情をしている。
「ええ。カナルヴィルの街で。それで、闘技場に視察に来ていた王女様に勧誘されたの」
「君は剣士だったのか……何年やっていたんだ?」
「十六歳のときにデビューしたの。それから十九歳になるまで、三年ほど」
そう答えると彼は軽く唸り、少し考え込んだ。ヒューイは闘技場賭博とはまるで縁がなさそうに見えるが、一応確認してみる。
「闘技場、行ったことある?」
「僕は賭け事は好かないし、騒がしい場所も好かない」
それは質問に対する答えではなかったが「行ったことはない」という言い方よりも尖った表現だった。賭け事を好かないということは、競馬もやらないのだろうか。カードで遊ぶときも賭けないのだろうか。そもそも彼は遊んだりするのだろうか? ヒューイにとっての娯楽がどんなものかを想像していると、彼は屈んで練習用の剣を手に取った。
「僕に打ち込んでみたまえ」
「はあっ?」
この流れでそうなるとは思っていなかったので、声が裏返った。ヘザーの素っ頓狂な声に、彼はおおいに気を悪くしたらしい。
「……嫌だと言うのかね」
「あ、いえ……」
この気難しそうな相手に打ち込むのは嫌だったが、正直に答えるとどんな小言が返ってくるかわかったものではない。ヘザーも剣を取って、ヒューイと向かい合った。互いの剣を軽くぶつけ合ってカンと鳴らし、その音を合図に打ち合いを始める。
言い出したのはヒューイなのだから、ヘザーは遠慮なく打ち込んだ。彼はしばらく防御に徹していた。そうやってヘザーの速さや力強さ、正確さなどを計っていたらしい。
「ふむ……」
そして聞こえるか聞こえないかの声で呟いた後、ようやく攻撃に転じる。彼の剣を受けながら「この人、結構強い」とヘザーは感じた。ヒューイよりも力が強い者は闘技場には大勢いる。速さのある者も、正確に打ち込んでくる者もだ。だが彼は全てを兼ね備えている。総合力が高いのだ。
ヒューイが僅かに身体を引いて溜めを作ったのを、ヘザーは見逃さなかった。次はかなり力強い攻撃がくる──そうわかったので、剣を両手持ちに変えて衝撃に備えた。
受け止めた瞬間は、ギィイン! とすごい音がした。ヘザーはなんとか剣を手放さずに済んだが、衝撃で腕が痺れている。この状態での反撃に転じるのは厳しい。でも追撃が来たらもっと厳しい……と考えていると、ニコラスの呑気な声と、拍手が響いた。
「すごーい! 二人とも、すごいですねっ。俺、すっかり見入っちゃいました!」
「ニコラス・クインシー! 準備運動が終わったのなら、稽古場を周回してきたまえ」
「えっ……? は、はあい」
「返事は歯切れよく!」
「はいっ」
ニコラスの相手が終わったところで、ヒューイはヘザーに向き直った。
「最後の僕の攻撃、何故避けなかった? 君は攻撃がくると予測していたはずだ。コースも読んでいたのではないかね。何故、避けずに受け止めた?」
そこまでわかっているのならば、ヒューイの実力はヘザーよりも相当上のはずだ。確かに、ヒューイの最後の攻撃は避けるか受け流すかにしたほうがよかっただろう。だが、別に対抗心から熱くなっていて真正面から受け止めたわけではない。
「つい、癖で。闘技場では、相手の攻撃をできる限り受け止めなくちゃいけないから」
「それは、何故だね」
「避けたりしたら、お客さんが冷めちゃうでしょ。盛りあがらないのよ」
彼はほんとうに闘技場を知らないようだ。「ふむ」と呟いて一瞬考え込み、また顔をあげる。
「なんとなく君の動きには無駄が多い気がしていたのだが、それも理由があってのことか?」
「ええ。派手な動きでお客さんを喜ばせるの」
遠くの席の観客にもよく見えるように、ヘザーはわかりやすくて大げさな動きを心がけていた。王城へあがるにあたって、剣の構えや基本の型はほかの騎士たちと揃うように練習したが、打ち合い稽古ともなると一度染みついた癖はなかなか抜けない。
「君は剣士を三年やっていたと言ったな。騎士のほうがキャリアは長いが、直らなかったのかね」
ここは王宮であって闘技場ではないと言われるような気がした。
「父が闘技場の剣士だったの。小さな頃から父や闘技場の人たちに稽古の相手をしてもらっていたから、闘技場でのやり方が染みついてしまったのよね。直したほうがいいならやってみるけど……」
「……いや、命に関わることだ。それほど幼い頃から馴染んでいた動きなら、無理に修正するのはかえって危険だと僕は判断する。このまま精進したまえ」
「はあ」
偉そうな物言いではあるが、ヒューイは意外と融通の利く男だった。
「ところで、闘技場の剣士は女も多いのか?」
「いえ。女剣士は二人か三人よ。在籍している剣士の一割にも満たないわ」
闘技場はこの国にいくつかあるが、だいたいどこも似たような割合のはずだ。飛び入り参加者が出た場合は別だが、通常は闘技場に在籍する剣士同士で試合を行う。
「女の剣士たちは、女同士で試合をするのか?」
「いいえ。男女の区別は殆どしてないわよ」
「では、その女剣士たちは全員、男と互角に戦えるというのか?」
「まさか。女が男とまともにぶつかったら、怪我じゃ済まないわよ。勝ち星の調整があるの」
闘技場の経営陣は客の入りや剣士たちの人気を考慮して、どの試合で誰が勝つかを予め決めてしまうのだ。客はそれを承知で「そろそろこの剣士が勝つのでは?」とか「勝ち星がつかなくても自分はあの剣士を推し続ける!」とか、駆け引きだったりファン活動だったりを楽しんでいる。
「なっ……それは、八百長ではないかね!」
説明を聞いたヒューイの表情が途端に険しくなる。確かに八百長かもしれないが……
「だから星の調整だってば。闘技場がやっているのは、娯楽なの。ショーなの。興行なのよ」
女剣士がいれば、それだけで客が集まる。女が男に打ち勝つと、もちろん盛りあがる。だがやりすぎると客は冷める。その辺を調整しながら、試合予定を組むのだ。
「う、うむ……?」
ヒューイは腑に落ちない様子だが、飽くまでも興行なのだとわかってもらえれば、それでいいとヘザーは思う。
そのとき走り込みを終えたアルドが戻ってきた。ちなみにニコラスはもう一周半残っているようだ。ヒューイは指導を始めるべく稽古場の中央に向かおうとしたが、その前にヘザーを振り返った。
「なかなか有意義な時間を過ごさせてもらった。礼を言う」
「え? はあ……」
「それから、男の僕から見ても君は結構強いぞ」
どの部分が有意義だったのだろう。学校も出ていない自分と、エリート騎士のヒューイがそんな時間を共有できたとはとても思えなかったので、彼の言葉に少し驚いた。
「ヒューイ、おかえり!」
ヒューイが王都の西地区にある自宅に戻ると、少年が階段から駆けおりてくる。従弟のロイドだ。
「おかえりなさい」
さらにロイドとそっくりな男の子が、階段途中の手すりからひょいと顔を覗かせた。ロイドの双子の弟、グレンだった。ヒューイと彼らは父親同士が兄弟関係にある。だが双子たちの両親は亡くなってしまったので、ヒューイの家で面倒を見ていた。いまはこの屋敷から学校に通っているが、来年、二人が十三歳になったら寄宿学校へ入る予定だ。
「ヒューイ、ほら、これ!」
ロイドは誇らしげにヒューイに紙を差し出した。テストの答案用紙だった。点数は七十八点だ。
「すげえだろ? 平均点は七十点だったんだぜ。伯父さんも褒めてくれた!」
ヒューイ的には全然すごくないのだが、ロイドにしては頑張ったほうかもしれない。
「なるほど、頑張ったな。次は是非とも八十点台が見てみたいものだが……できそうか?」
「お、おうよ!」
ロイドは勉強が好きではない。それに悪い点を取ったときに叱責しても効果は薄いタイプだ。適度に励ましつつ、やる気を削がないようにするのがいいだろう。
「ロイドがテストだったということは、グレンも答案用紙を持っているな? 見せてみなさい」
グレンは重い足取りで、俯きながら階段をおりてくる。この時点で、今回はだめだったのだなとわかる。だがグレンの「だめ」は点数的には決して悪いものではなかった。
「……九十五点か。頑張ったではないか」
「でも、百点の子がいたんだ。ぼく、一番になれなかった……」
学校でテストがあると、グレンは大抵一番を取っている。しかし彼と競う相手がいるようで、一番を取れなかったときの落ち込みぶりが激しい。グレンの一番への拘りは大変結構だが、彼はそこに拘りすぎて視野が狭くなっている気がする。
「グレン。自分と同レベルで競う相手がいるのは、恵まれていることだ。それに、僕は一番に拘る必要はないと思っている」
「うん……」
寄宿学校へ進んだらいまよりも色々な生徒がいる。すべての教科で満点を取ってしまう者、数学のみに特化している者、一度読んだだけで本を丸暗記してしまう者……とにかく様々だ。そのときグレンが挫けることにならなければいいのだが。ヒューイはそれが心配だった。
「ヒューイ。帰っていたのかね」
「父上」
双子を二階の勉強部屋へ帰したところで、父親のレジナルドがやって来た。彼は階段を上っていく少年たちを見つめ、ふーっとため息を吐く。
「双子たちも、来年からは寄宿学校へ入ってしまうね……」
またこの話だ……。ヒューイは心が重くなるのを感じた。父は六年前に妻を、四年前に母親を亡くしている。つまりヒューイも母と祖母を立て続けに喪っているのだが、それまで厳しかった父は度重なる喪失に落ち込んですっかり気持ちが弱くなってしまった。
そんなときに現れたのがロイドとグレンの兄弟と、二人の姉のジェーンだった。親を失った姉弟たちは伯父のレジナルドを頼り、それまで住んでいた街から遥々王都までやって来た。その後ジェーンは地方貴族の男に嫁いだが、双子たちは立派な大人になるべく王都に残って勉強中である。
「ヒューイ。二人が寄宿学校へ入ってしまったら、この家も寂しくなると思わないかい?」
「父上、寄宿学校は家族ならばいつでも面会できますよ。僕たちは充分に彼らの家族でしょう」
父はそこでちらっとヒューイを見て、呟くように言った。
「それはそうだが……おまえが妻を迎えてくれれば……」
「わかっております、父上」
父は家族の存在に飢えていた。ヒューイに結婚してほしくて仕方がないらしい。
「もちろん、バークレイ家に相応しい血筋と家柄の妻を娶りますとも。どうかご心配なさらず」
このバークレイ家は代々続く騎士の家系だ。爵位ある家の娘を迎えるのが望ましいが、それだけではだめだ。社交界に顔を出す機会があるのだから、美しい女でなくてはいけない。騎士の仕事に美醜は関係ない。しかしバークレイ家の妻には必要な条件だ。別に絶世の美女でなくてもいい。品位と知性を備えた雰囲気を持っていれば。しかし知性──これも難しいところだ。家同士の付き合いや政治についてあれこれ口を出してくる女は好ましくない。かといって、己の意見をまったく持たず曖昧に微笑んで頷いているだけの女もヒューイの意に沿わない。
時折ヒューイの理想を満たす女が現れるが、そういった人は競争率も高かった。バークレイ家はそれなりに裕福だが大富豪と呼べるわけではなく、爵位もない。そのせいかヒューイの条件を満たす女はこちらがアプローチを始める前に、貴族や富豪の息子に掻っ攫われてしまうのが常であった。
せめてうちに爵位があれば……と何度思ったことだろう。この際、配置換えの希望を出して、きな臭い土地に出向こうかと考えたこともある。戦闘で大きな手柄を立てれば、爵位を受け取ることも夢ではないからだ。野心に満ち溢れていた頃の父であれば「是非行ってきなさい」とヒューイを送り出していただろう。だが、いまの状態の父を置いて王都を離れるのは気が引けた。それなりに妥協しつつ、理想に近い女を見つけるのは色々と大変なのである。
「そのことだが……ヒューイ。別に、そこまで相手の家柄に拘る必要はないのではないかね? 私は、おまえが好きになった女性を妻にすべきだと思うよ」
「父上。家柄のしっかりした女性でなくては、僕は興味すら持てませんよ。同じことです」
「しかし……ジェーンたち夫婦を見ただろう? 彼らはとても楽しそうだったよ」
つい先月、年に一度の剣術大会が王都で開かれ、ジェーンは夫と一緒にやって来ていた。その際に彼らとは何度か顔を合わせている。父は「楽しそう」と表現したが、ヒューイに言わせれば二人は常に騒がしかった。
「楽しそうなのは、愛し合う者同士で結ばれたからではないのかね? この家を守るのも大事だが……私は、おまえに愛のある家庭を築いてほしいと思っているんだよ」
愛……? そんな在りもしないものを持ち出すとは。父の心はそれほどまでに弱くなってしまっているのだろうか。ヒューイは思わず肩を落としかけた。
「ですから父上。バークレイ家に相応しい女性を見つけてみせますとも」
父は困惑した表情で口を開きかけたが、ヒューイは首を振る。淋しさを訴える父に追い打ちをかけるようで気が引けたが、決まったことを告げた。
「僕の業務内容が少し変わりました。帰宅が遅い日や、宿舎のほうに泊まる日が増えるかもしれません。夕食は、僕を待たずに皆で食べていてください」
「そうか……わかった」
自室に入り着替えを済ませてソファに腰をおろしても、ヒューイの気分は晴れないままだった。まだ時間はある、と後回しにしていた花嫁探しだが、思っていたほどの余裕はなさそうだ。
しかし、アルドとニコラスの再教育がいまのヒューイの最優先事項である。それにあの痴女……ではなく、ヘザーにも色々と指導しなくてはならない。物覚えのいい女であれば助かるのだが。
それにしても、あの女は……ほんとうに大丈夫なのだろうか?
ヒューイはため息を吐きながら宙を睨んだ。あの夜、安っぽい酒場に足を踏み入れ、品のない騒ぎ声をあげている者たちのほうへ向かうと、まずはオレンジ色の髪をした背の高い女が目に入った。ヒューイにはすぐにわかった。あれがヘザー・キャシディ、自分の助手になる女だと。同時に失望した。ガラの悪い男どもと酒場で騒ぐような女だったのか……と。
ヘザーが泥酔して動けないのだと判断したヒューイは、彼女を担ぎあげ、宿舎まで連れ帰った。部屋の場所を聞いても、答えられないほど酔っているようだった。仕方がないので普段寝泊りすることは殆どない宿舎内の自分の部屋へ連れ帰り、水と洗面器を提供してやろうとした。ところが。
ところが、なんなのだ? あの女は……?
まるで野獣のようにボタンを吹き飛ばしながらシャツの胸元を引き裂いたかと思ったら、なんとその次はズボンのベルトに手をかけた。ヒューイは唖然とした。
ひょっとして、この僕を誘っているのか? 一瞬怯んだヒューイだったが、こんな野蛮でガサツな誘い方があるか、と考え直す。考え直しているうちに、ヘザーは一人でおっぱじめ、そして一人で終えた。彼女はいったい何がしたかったのだろう。自慰が目的なのか、それとも見せつけるほうに目的があったのか。だがどちらにしろ、この女は変態だ。ヒューイはそう思った。
翌日、司令部に呼び出されヒューイの前に立ったヘザーは死にそうな顔をしていた。彼女は行きずりの行為のつもりだったのかもしれない。あるいは、前後不覚なレベルで泥酔した上での暴挙で、酔いがさめて我に返ったからかもしれない。そのどちらかであろう。
栄えある司令部新人教育課の所属となるからには、色々と改めてもらわなくてはいけない。だから彼女を小会議室に呼びつけ、注意をした。
しかしヘザーは「薬を盛られた、酒に何か入っていた」と主張した。往生際の悪い女である。
ヒューイはそこでふと気づいた。他人の前で自慰をしたくなる薬などあるわけがないと決めつけていたが、ひょっとして催淫剤や媚薬の類だろうか、と。怪しげな薬屋が「惚れ薬」だと謳って売っているものは、殆どがその手のものだと聞く。従妹のジェーンは薬草や薬の効果に詳しかったはずだ。媚薬について、ジェーンに手紙で訊ねてみようかと考えた。
「いや、しかし……」
ジェーンの嫁ぎ先はこの国の北西の果てである。手紙のやり取りには時間がかかるし、そういった催淫剤があるとわかったところで、同じものをヘザーが盛られたとは限らない。この件について調べるのは時間の無駄だと判断したヒューイは、明日からの研修に備え、行うべきことを書き留めるために机に向かった。
***
結局、ヘザーの身体に合う制服は倉庫にはなかった。新しい制服が仕上がるまで時間がかかるので、ヘザーは未だに稽古着を身に着けている。昨日も稽古着でここへ来たが、今日は働くためにやって来たわけで。稽古着で司令部の厳かな扉を開けるのは少しばかり勇気が要った。
「おはようございます」
部屋の中へ入って新人教育課のエリアへ向かい、ヒューイの机の前に立って挨拶すると、彼は懐中時計とヘザーを見比べた。現在、九時二十八分である。九時三十分に来いと言われていたので遅刻ではない。だがヒューイは何か言いたそうにヘザーを見ている。自分はちゃんと九時三十分から仕事を始められる時間に来たつもりだが、五分前行動しろとか言われるのだろうか。
それにしても彼の複雑極まりない表情といったら……。ヒューイは、ヘザーの姿を目に入れるたびにあの醜態を思い浮かべているに違いない。だが、そうはさせぬ!
「おはようございます‼」
ヒューイに何かを言われる前に、ヘザーはもう一度、怒鳴るように挨拶をした。
「う、うむ。おはよう」
彼は虚を衝かれたらしく、やや狼狽したように答える。少しだけヘザーの溜飲が下がった。
「アルドとニコラスには、第三稽古場に十時集合と伝えてある。我々も向かおう」
ヒューイは立ちあがり、ヘザーについてくるよう促した。
「初めの一、二週間で彼らの基礎体力、剣術や乗馬のレベルをチェックする。それから教養のテストも行うつもりだ。試験監督や採点作業を君に頼むことになるだろう」
稽古場まで歩きながら、ヒューイから仕事についての説明をざっと受ける。再教育課程の担当は、どうやらヒューイも初めてのようだった。まずは研修生の現在の状態を把握して、今後のメニューを考えていくつもりらしい。
稽古場にはすでにニコラスがいた。アルドは周囲の柵に凭れるようにして立っている。
「わあっ、キャシディ隊長っ」
ニコラスはヘザーの姿を目に入れるなり、ぴょんぴょん飛び跳ねながら両手を振ってみせるという、子供っぽい仕草をした。ヘザーにとってはいつもの光景であったが、この教官の前ではやめたほうがいいのでは……と思いつつ曖昧に笑顔を作って手を振り返す。
「ニコラス・クインシー!」
案の定、ヒューイの怒鳴り声が響いた。彼はヘザーの名も続けて口にした。
「ヘザー・キャシディ! 君たちは同じ騎士隊に所属していたそうだが、馴れ合いはやめたまえ。それに、いまのヘザー・キャシディは隊長ではない! 呼び方も改めたまえ」
何故かヘザーまで怒られる羽目になった。呼び方についてはあれほど言ったのに……と、ニコラスをじろりと見やる。
「えっ。で、でも……俺、隊長を呼び捨てなんて……」
「何も呼び捨てにする必要はない。さんでも様でも好きにつければいい」
「え、えーと……じゃあ……ヘザー、さん……?」
ニコラスはヘザーに向き直る。そして指をもじもじさせた後、ぽっと頬を染めた。
「なんでそこで赤くなるのよ」
「じゃあ、えーと。ヘザー、様……? えへへ……」
「だから、なんで照れる必要があるのよ」
「君たち、いい加減にしたまえ。何をだらだら話している!」
だいぶ聞き慣れてきた怒鳴り声に顔をあげると、ヒューイがこめかみをぴくぴくさせながら立っていた。そして懐中時計を取り出して、ヘザーとニコラスとを見比べる。
「時は金なり、だ。時間を無駄にするのではない!」
やり取りを聞いていたアルドが、柵に寄りかかったままヒャハハと笑って肩を揺らした。
「アルド・グレイヴス! メンバーが揃った。君もこちらへ来たまえ……整列!」
ヒューイに指を突きつけられたアルドは肩を竦めつつ歩いてきて、ニコラスの隣に並んだ。
「番号!」
「……いち」
「に!」
ヒューイのかけ声にアルドはしぶしぶ、ニコラスは元気に答えた。整列も何も、二人しかいないのだから見ればわかる。何事もきっちりしたい人なのかもしれないが、細かすぎるのではないだろうか。ヒューイの脇に控えていたヘザーはそう思った。
ヒューイの薄茶色の髪には今日も綺麗に櫛目が入っている。いつも手にしている懐中時計は、まめに時間を合わせているようだ。彼のほうから、なんだかいい匂いまで漂ってくる。さっぱりした清潔感のある匂い。たぶん、香水ではなくて石鹸の香りだ。きっとヘザーが使ったこともないような高級石鹸なのだろう。
午後になってもヒューイからは清潔な香りが漂っていた。高級石鹸だから香りが長持ちするのだろうか。あるいは休憩時間に入浴したのだろうか。それとも、やっぱり香水……? 夕刻、司令部の机で鼻をクンクンとさせながらそんなことを考えていると、ヒューイが顔をあげた。
「終わったかね」
「え? はい。これでいいかしら」
ヘザーは業務日報を記していたところだった。近衛隊でもつけていたし、新人教育課も書き方は変わらないはずだ。だがヒューイは受け取った紙を一瞥して眉を顰め、ヘザーに突き返す。
「午後休憩の後の集合は、十五時十分だったはずだが? それに本日の研修終了の合図は、十七時二十五分だ」
ヘザーはその時間を十五時ちょうどと、十七時三十分と記していた。
「だいたい、合ってると思いますけど?」
「だいたいではだめだ。五分単位で記したまえ」
「え? ご、五分⁉」
一分単位で記せと言わないだけ、この男なりに譲歩しているのかもしれない。でも。
「でも、近衛隊では三十分刻みでつけていたわ」
「ここは司令部新人教育課だ。近衛隊ではない!」
ヘザーはハッと息を呑んだ。そしてやってしまった……と思う。近衛隊時代のヘザーは、新しく入った騎士が「前のところと違う」「前はこうだった」などと言い出すたびに内心腹を立てていた。ここはあんたの前の職場ではない、第三王女の近衛隊である! ここの規則に従えないのならば帰れ帰れ! ……と、心の中で思いながらも、諭す役目であった。それをまさか自分がやってしまうとは。しかもヒューイ相手に。くやしい。
「できました!」
業務日報をやけくそ気味に書き直して再度ヒューイに差し出す。さっきよりも些か乱暴気味に。彼はそれを受け取ったが、なんだか嫌そうな顔でヘザーが書いたものを見おろす。
「……君は、字が汚いな」
そしてボソッと呟いてから、自分の印章を押した。ヒューイの口からは文句か嫌味しか出てこないようだ。彼が素直に他人を称賛することはあるのだろうか? ヘザーは疑問に思う。
「じゃ、お先に失礼しますっ」
今日はそれほど身体を動かす機会はなかったが、精神的にひどく疲れた。早く帰って休もう。立ちあがってヒューイの脇を通り抜けたとき、彼の手元を見てぎょっとした。
彼は何かの書類を書いていたが、活字を組んだのではないかと思うほどに文字が整っていたのだ。こんなに綺麗な文字は初めて見たし、ヘザーの書いたものにケチをつけるだけのことはあった。衝撃にふらふらとしながら部屋の扉に手をかけた。最後に一度、ヒューイを振り返る。
櫛目の通った髪。きっちり着こなした制服。清潔な香り。異様に片付いた部屋。驚くほど美しい文字。時間に厳しい……というか、何事にも厳しい。それにあのとき、彼はヘザーの醜態を目撃しても非難の言葉を口にしただけだった。単にヘザーを女扱いしていないだけかもしれないが、あれはどう考えても据え膳状態だったのだ。もしヒューイが自分に覆い被さってきていたら、ヘザーは疼きをどうにかしたい一心で身を任せていただろう。
ヒューイについて知っていることを、挙げ連ねてみる。それから、なんとなーく、思った。
……この人、ゲイだったりして。
ニコラスはてきぱきと、アルドはだらだらと準備体操をしている。ヘザーは二人を横目に、稽古場の脇にある物置小屋へ向かう。そして練習用の剣が入っている木箱を抱えて戻ってきた。
一方でヒューイは稽古中に足を取られることがないよう、落ちている石を拾ったり地面の凹凸を均したりしていた。ヘザーが木箱を地面に置いた音で、彼はふと顔をあげる。
「ヘザー・キャシディ。君の剣の腕はどれほどのものなのだ?」
「え? どれほど、って……?」
「君の経歴はチェックしてあるが、城へあがる前のことまでは記されていなかった。君はコンスタンス王女の目に留まったという話だが、どこかの貴族の私兵団にでも所属していたのか?」
「ああ……私、闘技場で剣士をやっていたのよ」
彼は「闘技場?」と、ヘザーの言葉を繰り返した。意外そうな表情をしている。
「ええ。カナルヴィルの街で。それで、闘技場に視察に来ていた王女様に勧誘されたの」
「君は剣士だったのか……何年やっていたんだ?」
「十六歳のときにデビューしたの。それから十九歳になるまで、三年ほど」
そう答えると彼は軽く唸り、少し考え込んだ。ヒューイは闘技場賭博とはまるで縁がなさそうに見えるが、一応確認してみる。
「闘技場、行ったことある?」
「僕は賭け事は好かないし、騒がしい場所も好かない」
それは質問に対する答えではなかったが「行ったことはない」という言い方よりも尖った表現だった。賭け事を好かないということは、競馬もやらないのだろうか。カードで遊ぶときも賭けないのだろうか。そもそも彼は遊んだりするのだろうか? ヒューイにとっての娯楽がどんなものかを想像していると、彼は屈んで練習用の剣を手に取った。
「僕に打ち込んでみたまえ」
「はあっ?」
この流れでそうなるとは思っていなかったので、声が裏返った。ヘザーの素っ頓狂な声に、彼はおおいに気を悪くしたらしい。
「……嫌だと言うのかね」
「あ、いえ……」
この気難しそうな相手に打ち込むのは嫌だったが、正直に答えるとどんな小言が返ってくるかわかったものではない。ヘザーも剣を取って、ヒューイと向かい合った。互いの剣を軽くぶつけ合ってカンと鳴らし、その音を合図に打ち合いを始める。
言い出したのはヒューイなのだから、ヘザーは遠慮なく打ち込んだ。彼はしばらく防御に徹していた。そうやってヘザーの速さや力強さ、正確さなどを計っていたらしい。
「ふむ……」
そして聞こえるか聞こえないかの声で呟いた後、ようやく攻撃に転じる。彼の剣を受けながら「この人、結構強い」とヘザーは感じた。ヒューイよりも力が強い者は闘技場には大勢いる。速さのある者も、正確に打ち込んでくる者もだ。だが彼は全てを兼ね備えている。総合力が高いのだ。
ヒューイが僅かに身体を引いて溜めを作ったのを、ヘザーは見逃さなかった。次はかなり力強い攻撃がくる──そうわかったので、剣を両手持ちに変えて衝撃に備えた。
受け止めた瞬間は、ギィイン! とすごい音がした。ヘザーはなんとか剣を手放さずに済んだが、衝撃で腕が痺れている。この状態での反撃に転じるのは厳しい。でも追撃が来たらもっと厳しい……と考えていると、ニコラスの呑気な声と、拍手が響いた。
「すごーい! 二人とも、すごいですねっ。俺、すっかり見入っちゃいました!」
「ニコラス・クインシー! 準備運動が終わったのなら、稽古場を周回してきたまえ」
「えっ……? は、はあい」
「返事は歯切れよく!」
「はいっ」
ニコラスの相手が終わったところで、ヒューイはヘザーに向き直った。
「最後の僕の攻撃、何故避けなかった? 君は攻撃がくると予測していたはずだ。コースも読んでいたのではないかね。何故、避けずに受け止めた?」
そこまでわかっているのならば、ヒューイの実力はヘザーよりも相当上のはずだ。確かに、ヒューイの最後の攻撃は避けるか受け流すかにしたほうがよかっただろう。だが、別に対抗心から熱くなっていて真正面から受け止めたわけではない。
「つい、癖で。闘技場では、相手の攻撃をできる限り受け止めなくちゃいけないから」
「それは、何故だね」
「避けたりしたら、お客さんが冷めちゃうでしょ。盛りあがらないのよ」
彼はほんとうに闘技場を知らないようだ。「ふむ」と呟いて一瞬考え込み、また顔をあげる。
「なんとなく君の動きには無駄が多い気がしていたのだが、それも理由があってのことか?」
「ええ。派手な動きでお客さんを喜ばせるの」
遠くの席の観客にもよく見えるように、ヘザーはわかりやすくて大げさな動きを心がけていた。王城へあがるにあたって、剣の構えや基本の型はほかの騎士たちと揃うように練習したが、打ち合い稽古ともなると一度染みついた癖はなかなか抜けない。
「君は剣士を三年やっていたと言ったな。騎士のほうがキャリアは長いが、直らなかったのかね」
ここは王宮であって闘技場ではないと言われるような気がした。
「父が闘技場の剣士だったの。小さな頃から父や闘技場の人たちに稽古の相手をしてもらっていたから、闘技場でのやり方が染みついてしまったのよね。直したほうがいいならやってみるけど……」
「……いや、命に関わることだ。それほど幼い頃から馴染んでいた動きなら、無理に修正するのはかえって危険だと僕は判断する。このまま精進したまえ」
「はあ」
偉そうな物言いではあるが、ヒューイは意外と融通の利く男だった。
「ところで、闘技場の剣士は女も多いのか?」
「いえ。女剣士は二人か三人よ。在籍している剣士の一割にも満たないわ」
闘技場はこの国にいくつかあるが、だいたいどこも似たような割合のはずだ。飛び入り参加者が出た場合は別だが、通常は闘技場に在籍する剣士同士で試合を行う。
「女の剣士たちは、女同士で試合をするのか?」
「いいえ。男女の区別は殆どしてないわよ」
「では、その女剣士たちは全員、男と互角に戦えるというのか?」
「まさか。女が男とまともにぶつかったら、怪我じゃ済まないわよ。勝ち星の調整があるの」
闘技場の経営陣は客の入りや剣士たちの人気を考慮して、どの試合で誰が勝つかを予め決めてしまうのだ。客はそれを承知で「そろそろこの剣士が勝つのでは?」とか「勝ち星がつかなくても自分はあの剣士を推し続ける!」とか、駆け引きだったりファン活動だったりを楽しんでいる。
「なっ……それは、八百長ではないかね!」
説明を聞いたヒューイの表情が途端に険しくなる。確かに八百長かもしれないが……
「だから星の調整だってば。闘技場がやっているのは、娯楽なの。ショーなの。興行なのよ」
女剣士がいれば、それだけで客が集まる。女が男に打ち勝つと、もちろん盛りあがる。だがやりすぎると客は冷める。その辺を調整しながら、試合予定を組むのだ。
「う、うむ……?」
ヒューイは腑に落ちない様子だが、飽くまでも興行なのだとわかってもらえれば、それでいいとヘザーは思う。
そのとき走り込みを終えたアルドが戻ってきた。ちなみにニコラスはもう一周半残っているようだ。ヒューイは指導を始めるべく稽古場の中央に向かおうとしたが、その前にヘザーを振り返った。
「なかなか有意義な時間を過ごさせてもらった。礼を言う」
「え? はあ……」
「それから、男の僕から見ても君は結構強いぞ」
どの部分が有意義だったのだろう。学校も出ていない自分と、エリート騎士のヒューイがそんな時間を共有できたとはとても思えなかったので、彼の言葉に少し驚いた。
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