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1巻
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成りあがりの女騎士
〝くそ生意気な平民あがりの女騎士、ヘザー・キャシディに告ぐ〟
自主訓練を終えたヘザーが宿舎に戻ると、部屋の扉にこんな書き出しの手紙が挟まっていた。
〝おまえの大事な後輩ニコラス・クインシーを預かっている。無事に返してほしかったら、今晩九時に「七色のしずく」まで来い。そこで俺たちと勝負しろ。おまえが負けたら、土下座してこれまでの態度について謝罪してもらう。もしばっくれたら、ニコラスの貞操は保証しない。その手の男どもに売り飛ばすからな。〟
男騎士たちからこういった呼び出しを受けるのは、ここ二週間で四度目である。だが後輩騎士を連れていかれたのは今回が初めてだった。
「こんなせこい真似しなくたって、勝負は受けて立ってやるのに」
ヘザーは手紙をぐしゃっと丸めると、城下町へ向かうべく踵を返した。
大衆酒場「七色のしずく」は、大勢の客で賑わっている。
ヘザーは手元のグラスをひと息に呷ると、テーブルの向かい側を見据えた。勝負の相手は男騎士三人。一人はすでにテーブルに突っ伏して眠りこけている。残る二人は忌まわしげにヘザーを睨みながら、気の進まない様子で自分のグラスを口に運んだ。
一人が「うっ」と呻いてグラスをテーブルに置くと、手で口元を押さえつつ、吐き戻すために店の出口へ向かって走り出す。もう一人は若干ゆっくりとしたペースでグラスの中身を飲み干した。
自分と飲み比べした相手がどうなるか──予想はついていたが、あっけなさすぎてつまらない。同じことの繰り返しにも飽きてきた。ヘザーはカウンターの中から恐々とこちらの様子を窺っている店の主人に向かって声を張りあげた。
「マスター、ビールじゃ埒が明かないわ。ウイスキーを持ってきて!」
するとヘザーたちの勝負を見守っていた野次馬たちがどよめいた。同時に一人だけ残ったヘザーの対戦相手は、動揺を押し隠すように空のグラスを握りしめる。
「どうする? 私はまだまだいけるけど……もうやめる?」
助け舟のようでいてその実、煽るような質問を投げかけてみる。相手は挑発に乗った。
「じょっ、冗談じゃねえ。女なんかに負けてたまるかよ!」
吐き捨てるように言い、店主からウイスキーを受け取る。強気な言葉を吐いていた最後の一人だったが、なみなみと注がれたグラスの中身を確認した途端に表情は消えた。一方でヘザーはさっそく自分のグラスを傾ける。口の中が刺激でぴりぴりした。燃えるような、でも心地よい熱が喉から胃におりていく。やっぱりお酒はこうでなくては。ビールでは得られなかった満足感に心と身体が満たされていった。
「マスター、同じのもう一杯!」
ヘザーは空いたグラスを掲げつつ勝負相手のグラスを覗き込む。彼はグラスに唇をくっつけては躊躇い、口から離すことを何度も繰り返している。もちろん酒はちっとも減っていない。
ヘザーは運ばれてきた二杯目のウイスキーを半分ほど飲んでから相手に告げた。
「三杯以上の差がついたら、私の勝ちってことでいいわよね?」
相手のグダグダな飲み方を許していたら、朝になっても勝負は決まらない。そんな時間まで彼らに付き合うつもりのないヘザーは、二杯目のグラスもあっさりと空にする。
ここで差をつけられたら終わりだと思ったのだろう。相手は意を決したようにグラスを傾け、中身を口の中へ流し込んだ。そしてごくりと喉が鳴ったその瞬間。彼の瞳が白目になったかと思うと、そのまま後ろへ倒れていった。野次馬たちが駆け寄って彼を介抱する。
「その人。一応、医者に診せたほうがいいわよ」
昏倒するまで飲んだのだから、命に関わる場合もある。勝負はついたと判断したヘザーはそう助言して立ちあがり、野次馬たちの後方で小さく震えている後輩騎士に目をやった。
「それから、私が勝ったんだから、その子を返してちょうだい」
すると舌打ちが聞こえ、突き飛ばされた小柄な騎士がヘザーの前に転がってくる。
「ニコラス! 大丈夫だった?」
「キャシディ隊長~」
解放されたニコラスは子犬のように瞳をうるうるさせながら、ヘザーの足元にしがみついてきた。ヘザーはニコラスの身体をあちこち触って、彼に怪我がないかを確かめる。
「怪我は? 何もされてない?」
「はい。怪我はないです。でも……お財布を、盗られました……」
騎士になったばかりの青年を誘拐してヘザーを脅迫した挙げ句、財布まで奪うなんて。とことん汚い奴らである。ヘザーは男騎士たちに向かってすごんだ。
「ちょっと。この子の財布、返しなさいよ」
再び舌打ちとともに小さなものが床に放り投げられた。やわらかな革の巾着袋だ。中身はあまり入っていないようだが、巾着自体は上等なものに見えた。
「ニコラス。あなたのお財布ってこれ? 中身は無事なの?」
「はい。もともと中身はそんなに入ってなくて……でも、このお財布、俺が騎士になるときに、おばあちゃんがくれたものなんです」
「そう。じゃあ、大事に持っておきなさい。もう失くさないようにね」
「は、はい!」
ニコラスが巾着を懐にしまうところを確認した後、ヘザーは彼の手を引っ張って酒場の出口へ向かう。その途中でニコラスをさらった不良騎士どもを振り返った。
「私が飲んだお酒の代金って、あなたたちが払ってくれるのよね?」
騎士たちは無言でじりじりと後退した。ヘザーはこれを肯定と受け止め、笑顔を作る。
「ごちそうさま! タダ酒、とっても美味しかったわ!」
そう言い放ち、今度こそ酒場を後にする。
「くっそお! あの女ぁああ!」
扉を閉めた途端、店の中から騎士たちの叫び声が聞こえた。それは怒りと悔しさが複雑に入り交じった咆哮だった。
「キャシディ隊長。ごめんなさい、俺が捕まったせいで。あんなに飲んで……大丈夫ですか?」
二人で宿舎に戻る途中、ニコラスがぽつりと言った。
「飲んだのは殆どビールよ。ビールなんて飲んだうちには入らないわ」
「ええ……? 俺なんかちょっと飲んだだけで酔っ払っちゃうのに」
それは安あがりで羨ましい。いや、いまはこのような話をしている場合ではない。
「ニコラス。私こそ、ごめんなさいね。怖い思いをしたでしょう?」
彼がさらわれて脅迫に使われたのは、ヘザーに原因がある。このフェルビア王国の王都にいる男騎士たちは、成りあがりの女騎士であるヘザーが憎たらしくて仕方がないらしいのだ。逆恨みも甚だしいが、確かに自分は貴族でも金持ちでもない。しかも学校すら出ていない。
ヘザーはカナルヴィルという街で生まれ育った。王都からは馬車で数日かかる場所にある、それなりに大きな街だ。ヘザーは十四歳になると、闘技場に働きに出るようになった。
闘技場は、この国では人気の娯楽だ。闘技場に籍を置く剣士たちが戦い、観客たちは戦果を予想してお金を賭ける。時折、旅の騎士や力自慢が飛び入り参加して盛りあがることもあった。
初めは下働きとしてチケットを捌いたり、剣士たちの武器の手入れをしたりしていたが、自分も腕を磨き、十六歳のときに剣士として舞台にあがった。給料は客の入りに大きく左右されるため、安定した収入とは言えなかったが、歓声を浴びながら舞台で剣を振るうのは楽しかったし誇らしかった。剣士以外の生き方なんて考えもしなかった。
しかし十九歳のときに大きな転機が訪れた。ヘザーの剣技が、この国の第三王女コンスタンスの目に留まったのである。王女は視察でカナルヴィルに滞在しており、その一環で闘技場にやって来ていたらしい。そして「是非わたくしの近衛に」と、お誘いがあった。
がらりと変わるであろう環境に、迷いがなかったといえば嘘になる。だが周囲の勧めもあったし、王族の頼みを断れるわけがなかった。そしてヘザーは王女付きの近衛騎士となり、そのまま近衛騎士隊長まで上りつめた。
つまり、ほんとうにヘザーは成りあがりの騎士なのである。血筋もなければ学もない、あるのはコンスタンス王女の後ろ盾のみ。そのせいで面白くない思いをしている人はたくさんいるのだろう。
そしてヘザーが二十六歳になったいま、再び転機が訪れていた。コンスタンス王女の、他国への輿入れである。第一王女はフェルビア王国と良好な関係の隣国へ、二国間のさらなる堅強な礎となるべく嫁いだ。第二王女は国内の貴族のもとへ降嫁した。なかなか縁談が纏まらなかったコンスタンス王女だったが、フェルビアとは決して良い関係とは言えない異国へ輿入れが決まった。とても急な話であった。
嫁ぎ先にフェルビア国内から持ち込むことが許されたのは、王女の身一つだけ。侍女はもちろん、私物すら許可されなかった。近衛騎士など論外である。よってコンスタンス王女を国境まで送り届ける仕事を最後に、第三王女付きの近衛騎士隊は解散となった。
それから二週間が経過し、王女の近衛騎士隊にいた者たちは、殆どが他の王族の近衛騎士隊に組み込まれていった。次の所属が未だに決まらないのは、ヘザーとニコラスだけである。
ニコラスは学校を出たばかりの新人で、近衛騎士を務めたのは僅か二か月だけだった。騎士としての実績がないから、即戦力を求められる他の王族の近衛には回せないのだろう。
そしてヘザーが近衛騎士になれた理由は、王女のお気に入りだったというだけだ。本来は騎士という身分どころか、王族に仕えるなど以ての外の存在なのである。人事異動についてはすべての騎士団や騎士隊を統括するフェルビア王国軍の司令部が担当するはずだが、司令部の人間もヘザーの身の振り先に困っているのではないだろうか。
「キャシディ隊長。俺、次も隊長と同じところがいいなあ」
「ニコラス。私はもう隊長じゃないのよ? いい加減、呼び方を改めなくっちゃ」
もともとヘザーの存在を煙たがる騎士は多かったが、王女の庇護を失ったいま、ヘザーに対しての風当たりはますます強くなってきたところだ。「平民は泥水啜って塵を食いながら隅で小さく生きていろ」なんて暴言を面と向かって吐かれたこともある。王女のお気に入りであることを鼻にかけたり、尊大に振る舞ったりした覚えはないが、だからといって遜ったり卑屈になったりしたこともなかった。ヘザーのそんな態度が、ますます他の騎士たちを苛立たせたようだった。ニコラスをさらってヘザーを酒場に呼び出した輩もそうだ。彼らはヘザーに惨めな思いをさせたくて仕方がないらしい。騎士同士の私闘は処罰対象だから、飲み比べという手段をとったのだろうけれど。
「キャアアアッ! ヘザー様ぁ! お待ちしておりましたぁ!」
宿舎の入り口のところまでくると、黄色い悲鳴をあげながらこちらへ走ってくる者がいた。王城に仕えるメイドの若い娘だ。彼女は身体をくねくねさせながらヘザーに何かを差し出してくる。
「あの、ヘザー様! これっ……受け取ってください!」
それは手紙が添えられた、焼き菓子の包みであった。実は一週間ほど前にも同じことがあった。そのときは彼女の勢いに押されて受け取ってしまったのだが、手紙には「ファンレター」と呼ぶにはあまりに赤裸々な想いが綴られていた。ヘザーは怯んだし受け取ったことを後悔した。今回も似たようなものなのだろう。
「あの、レナ……だったわよね? ごめんなさい。こういうのは受け取れない」
気持ちのこもったものならなおさら受け取れない──と、ヘザーが言葉を続ける前に、レナは瞳を見開く。その細い身体はカタカタと震え出した。泣かれるのだろうか。気まずさからヘザーは思わず一歩下がる。しかしレナは再び叫んだ。
「キャアアアッ! ヘザー様に、名前を覚えてもらったわ!」
彼女は踊るようにスキップしながら去っていってしまった。レナの姿が見えなくなると、ニコラスが「なんか、すごいっすね……」とぼそりと呟いた。
レナからの視線を感じることは度々あった。自分が悪い意味で有名だからだろうと考えていたが、コンスタンス王女がいなくなった途端、露骨な接触が始まったように思える。
「ああ。でも俺、彼女の気持ちちょっとわかるなあ。だって俺、自分が女だったらキャシディ隊長に惚れてたと思うんですよねぇ」
「ちょっと。それ、どういう意味よ。私も女なんですけど?」
「ええー? だって隊長って背が高くて凛々しくてかっこいいし、なんていうか……憧れます!」
篝火のもと、きらきらとした目で自分を見あげるニコラスこそ、小さくて可愛らしい女の子みたいだった。自分とは対極の存在である。そこで脅迫状の文面を思い出した。
「ニコラス。あなた、その手の人に売られなくてよかったわね……」
「えっ? えっ? なんですか、それ?」
ニコラスの問いを黙殺し、ヘザーは今後の状況を考えた。もう二週間も自主訓練を続けている。そろそろ次の配属が決まってもいい頃ではないだろうか? しかし自分に第三王女付きの近衛以上の任務が与えられるとは思えない。城下警備隊あたりに配属になるか、寂れた地方の砦の警備に飛ばされるのかもしれない。ヘザーを取り巻く環境はいま、大きく変わろうとしていた。
「遅い‼ 四分の遅刻だ! 一分の遅刻につき、稽古場一周!」
翌朝、ヘザーとニコラスが自主訓練のために稽古場へ向かうと、神経質そうな怒鳴り声が響いていた。司令部新人教育課の制服を着た男が新人騎士たちを相手に指導を行っているところだった。
指導教官と思しき男は背が高く──ヘザーは大抵の男と同じくらいの身長があるが、彼はそれよりもやや高い──司令部の威厳ある制服をきっちり着こなしている。遅刻した新人が走り出したのを確認し、他の新人騎士たちに向き直ると、その中の一人にビシッと指を突きつけた。
「それから君のだらしない服装はなんだ⁉ シャツのボタンは一番上まで留めたまえ!」
彼の様子にドン引きしたヘザーは思わず「うわぁ」と呟いたが、ニコラスは笑い声をあげた。
「あはは。バークレイ教官は相変わらずだなあ」
「え? 知ってる人なの?」
ニコラスの知り合いだとは思わなかったので、ヘザーは驚いた。
「新人教育課のヒューイ・バークレイ教官ですよ。俺もお世話になったんです」
学校を出て王国軍に入ったばかりの新人騎士たちには、数か月の研修期間があると聞いている。その研修を終えた後に、各騎士団や騎士隊に振り分けられるのだ。学生時代や研修期間の成績はもちろん、身分や血筋も考慮された上で。ニコラスはコンスタンス王女の近衛騎士隊に振り分けられる前に、あの感じの悪そうな教官から指導を受けていたらしい。
「ええー……あの人の研修、厳しそう。大変だったんじゃない?」
「うーん。怖そうだし、細かくて厳しい人ですけど……でも、けっこう面倒見がいいんですよ?」
教官たちの中には、形だけの研修しかしない者もいるという。そういった教官に指導を受けた新人騎士は、研修中は気楽でも配属先で苦労したりするようだ。
「そういう意味では、バークレイ教官はとても面倒見がいいんです!」
ヘザーの目には神経質で厳しいだけの男に見えるが、ニコラスにとっては違うらしい。
「それに二十六歳で司令部所属ですから、すごい人なんですよ」
二十六歳といえば、ヘザーと同じ年齢だ。しかしヘザーは例外的なルートで騎士になったので、一般的な新人研修を受けてはいなかった。読み書きや計算は闘技場で働いていた頃に覚えたが、ヘザーの持つ知識はあまりに庶民的だった。そこで王族に仕えるための教養や振る舞い方を、コンスタンス王女の侍女たちから教え込まれた期間がある。それがヘザーにとっての新人研修だった。
ヘザーはもう一度ヒューイ・バークレイのほうを見る。
薄茶色の髪に、綺麗に櫛目が入っているのが遠目にもわかる。育ちのよさそうな人だ。それに二十六歳で花形と呼ばれる司令部所属ならば、将来を約束されたエリートというやつだ。血筋も家柄もいいのだろう。貴族の息子なのかもしれない。
それから、ニコラスを見た。彼も貴族の血を引いている。ただ、ニコラスは父親に会ったことがないらしい。父親である貴族が使用人に手を出して生ませた子供──それがニコラスなのだ。ニコラスの父親はニコラスの母親を解雇したが、自分の屋敷から遠く離れた場所に住まいを与え、ニコラスには教育を受けさせた。この先、決して直接関わらないことを条件に。クインシーというのは母方の姓で、寄宿学校に入る前のニコラスは母と、母方の祖母と三人で暮らしていたようだった。
初めてこの話を聞いたとき、ニコラスの父親はひどい男だとヘザーは思った。しかし戯れに手を出した相手が妊娠したら、屋敷から追い出してそれっきりにする貴族も多いのだという。「だから俺なんて恵まれてるほうですよ」と、ニコラスは笑いながら教えてくれた。父親を恨んだこともないけれど、会いたいと思ったこともないそうだ。それはきっと、母と祖母との暮らしが幸せだったからなのだろう。
庶子とはいえ貴族の血を引いていて、教育も受けている。いまのニコラスは頼りないけれど、いずれはヘザーの手の届かない地位まで出世するのではないだろうか。
「キャシディ隊長、そういえば、辞令っておりました?」
「まだよ。そろそろだと思ってるんだけどねえ。あと、隊長って呼ぶの早く直しなさいよ」
ニコラスは王都に留まることができるだろう。あるいはどこかの地方都市に派遣されて、騎士として経験を積むことになるのかもしれない。対して自分は、寂れた地方の砦に飛ばされる未来しか思い描けない。いや、地下牢獄の警備とかかもしれない。あれは誰もやりたがらない仕事だから。どうやってもきな臭く、煤けた展望しか見えてこない。ヘザーはこっそりため息を吐いた。
とにかく、ここはバークレイ教官の研修で使用中らしいので、こうしていても仕方がない。ヘザーたちは別の稽古場へ向かうことにした。誰も使ってなさそうな遠くにある別の稽古場へ向かうために、厩舎をぐるりと回り込む。そのとき、背後から声をかけられた。
「おい、ヘザー・キャシディさんよお。ちょっとあんたに話があるんだよなあ」
口調からして楽しい話ではなさそうだったが、立ち止まって振り返る。するとそこにはヘザーが見あげなくてはならないほど背の高い男が立っていた。肩幅も広く、王宮にいる騎士たちの中でもかなり体格がいい。遠目に見たことがあるような気がするが、名前も所属もわからなかった。その体格のいい男は、ふてくされたようにヘザーを睨んでいる。
「コンスタンス王女がいなくなったからって、今度はレナに手ェ出しやがっただろ」
「……は?」
「とぼけんなよ。『もう話しかけるな』って言われてそれきりだ。あんたがレナを誑かしたんだろ!」
この男が言うレナとは、ヘザーに手紙と菓子を持ってきたメイドのことだろうか。そうだとしたら、自分だって困惑している。それに何故こちらが誑かしたことになっているのだろう。
「ひ、人聞きの悪いこと言わないでよ。どうして女同士でそんなことしなくちゃいけないわけ?」
二つ年下の王女は、ヘザーを姉のように慕ってくれていた。周囲の騎士からは「平民のくせに」と、陰口を叩かれることも多かったし、二人のことを「秘密の花園」だと揶揄する声もあった。あれはヘザーに嫌な思いをさせるためだけの言葉だと考えていたのだが、本気にしている人もいるのだろうか。
目の前の男はヘザーからニコラスのほうへ視線を移し、それからニヤニヤと笑った。
「ははあ……で、そのガキのことも可愛がってやってるわけだ」
「な、なんですってえ……?」
確かにニコラスは可愛い後輩だが、この男が口にした言葉の意味はきっと違うものだ。
「ま、あんたの好みに口を出すつもりはねえが……だが、レナは返せよ」
「だから、返すも何も……」
レナに手を出した覚えはないし、そもそも自分には女性と友情以上のものを育むつもりはない。ついでに言えば、可愛らしい男の子を侍らせて愛でるつもりもない。
「今晩十時に『七色のしずく』まで来い。俺に負けたら、レナとは手を切ってもらうからな!」
「ちょ、ちょっと……」
だからあなたの恋人に手を出した覚えも、そんなつもりもないってば。そう訴えようとしたが、ヘザーの反論を聞く気はないようだ。男はすぐに踵を返していってしまった。
ヘザーはため息を吐く。コンスタンス王女の近衛隊が解散して二週間。以来、何かと言いがかりをつけられては酒場に呼び出されている。確かこれで五度目だ。
「隊長、大丈夫ですか? 俺も、ついていきましょうか?」
「いえ、一人で平気よ。タダ酒いただいて帰ってくるだけだから」
心配してくれるのは有難いが、ニコラスがいたところで助けになるとは思えない。
「レナって、昨日のメイドの娘ですよね? やっぱり俺、彼女の気持ちわかるなあ。あんな短気そうな男の人より、キャシディ隊長のほうがずっとかっこよくて素敵ですもん!」
「そんな気持ちわからなくていいってば……」
やっぱり、一人で行ってさっさと帰ってこよう。そう決めたヘザーだった。
***
「おお、お疲れ!」
ヒューイが司令部新人教育課のフロアに戻ると、同期のベネディクト・ラスキンが何かの書類をひらひらさせながらこちらへ歩いてくる。
「どうよ、今期の新人たちは」
「まったく……遅刻はするし、身だしなみもなってない! ちょっときつい稽古で音をあげる……」
「ははは。おまえ、毎回それ言ってるよな」
言われてみれば、そんな気もする。今期の奴らはだめだだめだと思いながらなんとか一人前に仕上げ、各騎士団や騎士隊に送り出している。他の教官に比べると自分は厳しいかもしれないが、配属先によっては命に関わる危険な任務を負うこともあるのだ。新人騎士たちがこの先どんな環境でもやっていけるように教育するのが、この自分の役目である。
「ああ、それでさ。これ、おまえの新しい仕事だって」
そこでようやくベネディクトは持っていた書類を差し出した。書類の上部には「再教育」という文字が赤いインクで記入されている。
「再教育……僕が受け持つのか?」
「ああ、上層部からのお達しだ。いま研修中のおまえの生徒は俺が引き受けることになった。おまえはこっちの再教育をやってくれってさ」
ヒューイは書類を受け取って、ざっと目を通した。再教育。これは一人前の騎士として現場に出た者が、もう一度研修を受けに戻ってきてしまうことだ。体力や教養が騎士としての基準に満たないことが後になって発覚したり、あるいは素行不良と判断されたり、理由は様々だ。そういった者たちに再教育を施す話を聞いたことはあったが、教官として受け持つのは初めてである。厄介なことになったかもしれない。そう考えながらヒューイは書類に記された名前を確認する。
「アルド・グレイヴス。二十四歳……知らないな」
「そいつは城下警備担当だ。悪質な客引きや売春の斡旋人から賄賂を受け取って、不法行為を見逃してるって話だ」
「なんだと⁉ 懲戒処分ものではないか!」
「証拠はないが、そういう噂らしい。あとは勤怠状況がよくない。遅刻や早退が多いんだってさ」
「なるほど……」
収賄の噂がある時点でかなりの問題児ではないか。アルド・グレイヴスが新人教育を受けたとき、その担当教官は誰だったのだろう? 後々こういうことが起こるかもしれないから、新人教育は大事だというのに……そんな小言が口から出そうになったが、もう一枚の書類を目にしたヒューイはぎくりとした。しかし同じくらい納得もした。
「二人目は……ニコラス・クインシー。二十歳」
彼のことは知っている。まさに自分が担当した新人だ。ニコラスが再教育課程に戻ってきてしまった理由はよくわかっている。彼はいわゆる劣等生だった。小柄で、体力もない。稽古場を走らせれば常に周回遅れ。教養テストの点数はそのときによって区々。頭が悪いわけではなさそうだが、集中力にムラがありすぎるのだ。とても及第点は与えられず、ヒューイはもう一期、彼を教育するつもりであった。しかし、ニコラスを騎士として送り出さなくてはいけない強い理由もあったのだ。
「それから、これ。おまえが欲しがってたやつ!」
ニコラスについて思いを馳せていると、目の前にもう一枚の紙が差し出された。
「……なんだ、これは?」
「助手。欲しがってただろ?」
自分だけでは手が回らないときも多いので、助手が欲しいと申請したのはひと月以上も前だ。やっと申請が通ったらしい。しかし業務内容が新人教育から再教育に変わった。再教育はヒューイにとっても初めてのことだし、しばらくは落ち着かないだろう。そのうえ助手にも色々指導しなくてはならない。タイミングがよくないことを苦々しく思いながら紙を受け取り、そして目を剥いた。
「ヘザー・キャシディ……? 女の名前ではないか⁉」
「え? おまえ、男の助手がよかったのか?」
「当たり前だ!」
「じゃあ、なんで申請するときに指定しなかったんだよ」
ヒューイは助手が欲しいと申請したとき、仕事の下準備や書類の整理をさせるのがメインだから、経歴は問わないと付け加えた。だが男女の指定はしなかった。騎士は男のほうが圧倒的に多いから、女騎士を充てられるとは考えもしなかったのだ。
「迂闊だった……確かに僕のミスなのだろうな」
「え? 迂闊か? 女の子がくるんだからラッキーじゃん!」
「ベネディクト、君は気楽でいいな……」
受け取ったヘザー・キャシディについての資料に目を通す。だいたいヒューイは、女騎士の教育も好きではなかった。女どもときたら、体力はないしすぐ感情的になるし、泣けば許されると思っている。その態度について注意をすれば、何故かこちらが悪者になることが多い。女と一緒に仕事をしたいと思ったことは一度もない。
〝くそ生意気な平民あがりの女騎士、ヘザー・キャシディに告ぐ〟
自主訓練を終えたヘザーが宿舎に戻ると、部屋の扉にこんな書き出しの手紙が挟まっていた。
〝おまえの大事な後輩ニコラス・クインシーを預かっている。無事に返してほしかったら、今晩九時に「七色のしずく」まで来い。そこで俺たちと勝負しろ。おまえが負けたら、土下座してこれまでの態度について謝罪してもらう。もしばっくれたら、ニコラスの貞操は保証しない。その手の男どもに売り飛ばすからな。〟
男騎士たちからこういった呼び出しを受けるのは、ここ二週間で四度目である。だが後輩騎士を連れていかれたのは今回が初めてだった。
「こんなせこい真似しなくたって、勝負は受けて立ってやるのに」
ヘザーは手紙をぐしゃっと丸めると、城下町へ向かうべく踵を返した。
大衆酒場「七色のしずく」は、大勢の客で賑わっている。
ヘザーは手元のグラスをひと息に呷ると、テーブルの向かい側を見据えた。勝負の相手は男騎士三人。一人はすでにテーブルに突っ伏して眠りこけている。残る二人は忌まわしげにヘザーを睨みながら、気の進まない様子で自分のグラスを口に運んだ。
一人が「うっ」と呻いてグラスをテーブルに置くと、手で口元を押さえつつ、吐き戻すために店の出口へ向かって走り出す。もう一人は若干ゆっくりとしたペースでグラスの中身を飲み干した。
自分と飲み比べした相手がどうなるか──予想はついていたが、あっけなさすぎてつまらない。同じことの繰り返しにも飽きてきた。ヘザーはカウンターの中から恐々とこちらの様子を窺っている店の主人に向かって声を張りあげた。
「マスター、ビールじゃ埒が明かないわ。ウイスキーを持ってきて!」
するとヘザーたちの勝負を見守っていた野次馬たちがどよめいた。同時に一人だけ残ったヘザーの対戦相手は、動揺を押し隠すように空のグラスを握りしめる。
「どうする? 私はまだまだいけるけど……もうやめる?」
助け舟のようでいてその実、煽るような質問を投げかけてみる。相手は挑発に乗った。
「じょっ、冗談じゃねえ。女なんかに負けてたまるかよ!」
吐き捨てるように言い、店主からウイスキーを受け取る。強気な言葉を吐いていた最後の一人だったが、なみなみと注がれたグラスの中身を確認した途端に表情は消えた。一方でヘザーはさっそく自分のグラスを傾ける。口の中が刺激でぴりぴりした。燃えるような、でも心地よい熱が喉から胃におりていく。やっぱりお酒はこうでなくては。ビールでは得られなかった満足感に心と身体が満たされていった。
「マスター、同じのもう一杯!」
ヘザーは空いたグラスを掲げつつ勝負相手のグラスを覗き込む。彼はグラスに唇をくっつけては躊躇い、口から離すことを何度も繰り返している。もちろん酒はちっとも減っていない。
ヘザーは運ばれてきた二杯目のウイスキーを半分ほど飲んでから相手に告げた。
「三杯以上の差がついたら、私の勝ちってことでいいわよね?」
相手のグダグダな飲み方を許していたら、朝になっても勝負は決まらない。そんな時間まで彼らに付き合うつもりのないヘザーは、二杯目のグラスもあっさりと空にする。
ここで差をつけられたら終わりだと思ったのだろう。相手は意を決したようにグラスを傾け、中身を口の中へ流し込んだ。そしてごくりと喉が鳴ったその瞬間。彼の瞳が白目になったかと思うと、そのまま後ろへ倒れていった。野次馬たちが駆け寄って彼を介抱する。
「その人。一応、医者に診せたほうがいいわよ」
昏倒するまで飲んだのだから、命に関わる場合もある。勝負はついたと判断したヘザーはそう助言して立ちあがり、野次馬たちの後方で小さく震えている後輩騎士に目をやった。
「それから、私が勝ったんだから、その子を返してちょうだい」
すると舌打ちが聞こえ、突き飛ばされた小柄な騎士がヘザーの前に転がってくる。
「ニコラス! 大丈夫だった?」
「キャシディ隊長~」
解放されたニコラスは子犬のように瞳をうるうるさせながら、ヘザーの足元にしがみついてきた。ヘザーはニコラスの身体をあちこち触って、彼に怪我がないかを確かめる。
「怪我は? 何もされてない?」
「はい。怪我はないです。でも……お財布を、盗られました……」
騎士になったばかりの青年を誘拐してヘザーを脅迫した挙げ句、財布まで奪うなんて。とことん汚い奴らである。ヘザーは男騎士たちに向かってすごんだ。
「ちょっと。この子の財布、返しなさいよ」
再び舌打ちとともに小さなものが床に放り投げられた。やわらかな革の巾着袋だ。中身はあまり入っていないようだが、巾着自体は上等なものに見えた。
「ニコラス。あなたのお財布ってこれ? 中身は無事なの?」
「はい。もともと中身はそんなに入ってなくて……でも、このお財布、俺が騎士になるときに、おばあちゃんがくれたものなんです」
「そう。じゃあ、大事に持っておきなさい。もう失くさないようにね」
「は、はい!」
ニコラスが巾着を懐にしまうところを確認した後、ヘザーは彼の手を引っ張って酒場の出口へ向かう。その途中でニコラスをさらった不良騎士どもを振り返った。
「私が飲んだお酒の代金って、あなたたちが払ってくれるのよね?」
騎士たちは無言でじりじりと後退した。ヘザーはこれを肯定と受け止め、笑顔を作る。
「ごちそうさま! タダ酒、とっても美味しかったわ!」
そう言い放ち、今度こそ酒場を後にする。
「くっそお! あの女ぁああ!」
扉を閉めた途端、店の中から騎士たちの叫び声が聞こえた。それは怒りと悔しさが複雑に入り交じった咆哮だった。
「キャシディ隊長。ごめんなさい、俺が捕まったせいで。あんなに飲んで……大丈夫ですか?」
二人で宿舎に戻る途中、ニコラスがぽつりと言った。
「飲んだのは殆どビールよ。ビールなんて飲んだうちには入らないわ」
「ええ……? 俺なんかちょっと飲んだだけで酔っ払っちゃうのに」
それは安あがりで羨ましい。いや、いまはこのような話をしている場合ではない。
「ニコラス。私こそ、ごめんなさいね。怖い思いをしたでしょう?」
彼がさらわれて脅迫に使われたのは、ヘザーに原因がある。このフェルビア王国の王都にいる男騎士たちは、成りあがりの女騎士であるヘザーが憎たらしくて仕方がないらしいのだ。逆恨みも甚だしいが、確かに自分は貴族でも金持ちでもない。しかも学校すら出ていない。
ヘザーはカナルヴィルという街で生まれ育った。王都からは馬車で数日かかる場所にある、それなりに大きな街だ。ヘザーは十四歳になると、闘技場に働きに出るようになった。
闘技場は、この国では人気の娯楽だ。闘技場に籍を置く剣士たちが戦い、観客たちは戦果を予想してお金を賭ける。時折、旅の騎士や力自慢が飛び入り参加して盛りあがることもあった。
初めは下働きとしてチケットを捌いたり、剣士たちの武器の手入れをしたりしていたが、自分も腕を磨き、十六歳のときに剣士として舞台にあがった。給料は客の入りに大きく左右されるため、安定した収入とは言えなかったが、歓声を浴びながら舞台で剣を振るうのは楽しかったし誇らしかった。剣士以外の生き方なんて考えもしなかった。
しかし十九歳のときに大きな転機が訪れた。ヘザーの剣技が、この国の第三王女コンスタンスの目に留まったのである。王女は視察でカナルヴィルに滞在しており、その一環で闘技場にやって来ていたらしい。そして「是非わたくしの近衛に」と、お誘いがあった。
がらりと変わるであろう環境に、迷いがなかったといえば嘘になる。だが周囲の勧めもあったし、王族の頼みを断れるわけがなかった。そしてヘザーは王女付きの近衛騎士となり、そのまま近衛騎士隊長まで上りつめた。
つまり、ほんとうにヘザーは成りあがりの騎士なのである。血筋もなければ学もない、あるのはコンスタンス王女の後ろ盾のみ。そのせいで面白くない思いをしている人はたくさんいるのだろう。
そしてヘザーが二十六歳になったいま、再び転機が訪れていた。コンスタンス王女の、他国への輿入れである。第一王女はフェルビア王国と良好な関係の隣国へ、二国間のさらなる堅強な礎となるべく嫁いだ。第二王女は国内の貴族のもとへ降嫁した。なかなか縁談が纏まらなかったコンスタンス王女だったが、フェルビアとは決して良い関係とは言えない異国へ輿入れが決まった。とても急な話であった。
嫁ぎ先にフェルビア国内から持ち込むことが許されたのは、王女の身一つだけ。侍女はもちろん、私物すら許可されなかった。近衛騎士など論外である。よってコンスタンス王女を国境まで送り届ける仕事を最後に、第三王女付きの近衛騎士隊は解散となった。
それから二週間が経過し、王女の近衛騎士隊にいた者たちは、殆どが他の王族の近衛騎士隊に組み込まれていった。次の所属が未だに決まらないのは、ヘザーとニコラスだけである。
ニコラスは学校を出たばかりの新人で、近衛騎士を務めたのは僅か二か月だけだった。騎士としての実績がないから、即戦力を求められる他の王族の近衛には回せないのだろう。
そしてヘザーが近衛騎士になれた理由は、王女のお気に入りだったというだけだ。本来は騎士という身分どころか、王族に仕えるなど以ての外の存在なのである。人事異動についてはすべての騎士団や騎士隊を統括するフェルビア王国軍の司令部が担当するはずだが、司令部の人間もヘザーの身の振り先に困っているのではないだろうか。
「キャシディ隊長。俺、次も隊長と同じところがいいなあ」
「ニコラス。私はもう隊長じゃないのよ? いい加減、呼び方を改めなくっちゃ」
もともとヘザーの存在を煙たがる騎士は多かったが、王女の庇護を失ったいま、ヘザーに対しての風当たりはますます強くなってきたところだ。「平民は泥水啜って塵を食いながら隅で小さく生きていろ」なんて暴言を面と向かって吐かれたこともある。王女のお気に入りであることを鼻にかけたり、尊大に振る舞ったりした覚えはないが、だからといって遜ったり卑屈になったりしたこともなかった。ヘザーのそんな態度が、ますます他の騎士たちを苛立たせたようだった。ニコラスをさらってヘザーを酒場に呼び出した輩もそうだ。彼らはヘザーに惨めな思いをさせたくて仕方がないらしい。騎士同士の私闘は処罰対象だから、飲み比べという手段をとったのだろうけれど。
「キャアアアッ! ヘザー様ぁ! お待ちしておりましたぁ!」
宿舎の入り口のところまでくると、黄色い悲鳴をあげながらこちらへ走ってくる者がいた。王城に仕えるメイドの若い娘だ。彼女は身体をくねくねさせながらヘザーに何かを差し出してくる。
「あの、ヘザー様! これっ……受け取ってください!」
それは手紙が添えられた、焼き菓子の包みであった。実は一週間ほど前にも同じことがあった。そのときは彼女の勢いに押されて受け取ってしまったのだが、手紙には「ファンレター」と呼ぶにはあまりに赤裸々な想いが綴られていた。ヘザーは怯んだし受け取ったことを後悔した。今回も似たようなものなのだろう。
「あの、レナ……だったわよね? ごめんなさい。こういうのは受け取れない」
気持ちのこもったものならなおさら受け取れない──と、ヘザーが言葉を続ける前に、レナは瞳を見開く。その細い身体はカタカタと震え出した。泣かれるのだろうか。気まずさからヘザーは思わず一歩下がる。しかしレナは再び叫んだ。
「キャアアアッ! ヘザー様に、名前を覚えてもらったわ!」
彼女は踊るようにスキップしながら去っていってしまった。レナの姿が見えなくなると、ニコラスが「なんか、すごいっすね……」とぼそりと呟いた。
レナからの視線を感じることは度々あった。自分が悪い意味で有名だからだろうと考えていたが、コンスタンス王女がいなくなった途端、露骨な接触が始まったように思える。
「ああ。でも俺、彼女の気持ちちょっとわかるなあ。だって俺、自分が女だったらキャシディ隊長に惚れてたと思うんですよねぇ」
「ちょっと。それ、どういう意味よ。私も女なんですけど?」
「ええー? だって隊長って背が高くて凛々しくてかっこいいし、なんていうか……憧れます!」
篝火のもと、きらきらとした目で自分を見あげるニコラスこそ、小さくて可愛らしい女の子みたいだった。自分とは対極の存在である。そこで脅迫状の文面を思い出した。
「ニコラス。あなた、その手の人に売られなくてよかったわね……」
「えっ? えっ? なんですか、それ?」
ニコラスの問いを黙殺し、ヘザーは今後の状況を考えた。もう二週間も自主訓練を続けている。そろそろ次の配属が決まってもいい頃ではないだろうか? しかし自分に第三王女付きの近衛以上の任務が与えられるとは思えない。城下警備隊あたりに配属になるか、寂れた地方の砦の警備に飛ばされるのかもしれない。ヘザーを取り巻く環境はいま、大きく変わろうとしていた。
「遅い‼ 四分の遅刻だ! 一分の遅刻につき、稽古場一周!」
翌朝、ヘザーとニコラスが自主訓練のために稽古場へ向かうと、神経質そうな怒鳴り声が響いていた。司令部新人教育課の制服を着た男が新人騎士たちを相手に指導を行っているところだった。
指導教官と思しき男は背が高く──ヘザーは大抵の男と同じくらいの身長があるが、彼はそれよりもやや高い──司令部の威厳ある制服をきっちり着こなしている。遅刻した新人が走り出したのを確認し、他の新人騎士たちに向き直ると、その中の一人にビシッと指を突きつけた。
「それから君のだらしない服装はなんだ⁉ シャツのボタンは一番上まで留めたまえ!」
彼の様子にドン引きしたヘザーは思わず「うわぁ」と呟いたが、ニコラスは笑い声をあげた。
「あはは。バークレイ教官は相変わらずだなあ」
「え? 知ってる人なの?」
ニコラスの知り合いだとは思わなかったので、ヘザーは驚いた。
「新人教育課のヒューイ・バークレイ教官ですよ。俺もお世話になったんです」
学校を出て王国軍に入ったばかりの新人騎士たちには、数か月の研修期間があると聞いている。その研修を終えた後に、各騎士団や騎士隊に振り分けられるのだ。学生時代や研修期間の成績はもちろん、身分や血筋も考慮された上で。ニコラスはコンスタンス王女の近衛騎士隊に振り分けられる前に、あの感じの悪そうな教官から指導を受けていたらしい。
「ええー……あの人の研修、厳しそう。大変だったんじゃない?」
「うーん。怖そうだし、細かくて厳しい人ですけど……でも、けっこう面倒見がいいんですよ?」
教官たちの中には、形だけの研修しかしない者もいるという。そういった教官に指導を受けた新人騎士は、研修中は気楽でも配属先で苦労したりするようだ。
「そういう意味では、バークレイ教官はとても面倒見がいいんです!」
ヘザーの目には神経質で厳しいだけの男に見えるが、ニコラスにとっては違うらしい。
「それに二十六歳で司令部所属ですから、すごい人なんですよ」
二十六歳といえば、ヘザーと同じ年齢だ。しかしヘザーは例外的なルートで騎士になったので、一般的な新人研修を受けてはいなかった。読み書きや計算は闘技場で働いていた頃に覚えたが、ヘザーの持つ知識はあまりに庶民的だった。そこで王族に仕えるための教養や振る舞い方を、コンスタンス王女の侍女たちから教え込まれた期間がある。それがヘザーにとっての新人研修だった。
ヘザーはもう一度ヒューイ・バークレイのほうを見る。
薄茶色の髪に、綺麗に櫛目が入っているのが遠目にもわかる。育ちのよさそうな人だ。それに二十六歳で花形と呼ばれる司令部所属ならば、将来を約束されたエリートというやつだ。血筋も家柄もいいのだろう。貴族の息子なのかもしれない。
それから、ニコラスを見た。彼も貴族の血を引いている。ただ、ニコラスは父親に会ったことがないらしい。父親である貴族が使用人に手を出して生ませた子供──それがニコラスなのだ。ニコラスの父親はニコラスの母親を解雇したが、自分の屋敷から遠く離れた場所に住まいを与え、ニコラスには教育を受けさせた。この先、決して直接関わらないことを条件に。クインシーというのは母方の姓で、寄宿学校に入る前のニコラスは母と、母方の祖母と三人で暮らしていたようだった。
初めてこの話を聞いたとき、ニコラスの父親はひどい男だとヘザーは思った。しかし戯れに手を出した相手が妊娠したら、屋敷から追い出してそれっきりにする貴族も多いのだという。「だから俺なんて恵まれてるほうですよ」と、ニコラスは笑いながら教えてくれた。父親を恨んだこともないけれど、会いたいと思ったこともないそうだ。それはきっと、母と祖母との暮らしが幸せだったからなのだろう。
庶子とはいえ貴族の血を引いていて、教育も受けている。いまのニコラスは頼りないけれど、いずれはヘザーの手の届かない地位まで出世するのではないだろうか。
「キャシディ隊長、そういえば、辞令っておりました?」
「まだよ。そろそろだと思ってるんだけどねえ。あと、隊長って呼ぶの早く直しなさいよ」
ニコラスは王都に留まることができるだろう。あるいはどこかの地方都市に派遣されて、騎士として経験を積むことになるのかもしれない。対して自分は、寂れた地方の砦に飛ばされる未来しか思い描けない。いや、地下牢獄の警備とかかもしれない。あれは誰もやりたがらない仕事だから。どうやってもきな臭く、煤けた展望しか見えてこない。ヘザーはこっそりため息を吐いた。
とにかく、ここはバークレイ教官の研修で使用中らしいので、こうしていても仕方がない。ヘザーたちは別の稽古場へ向かうことにした。誰も使ってなさそうな遠くにある別の稽古場へ向かうために、厩舎をぐるりと回り込む。そのとき、背後から声をかけられた。
「おい、ヘザー・キャシディさんよお。ちょっとあんたに話があるんだよなあ」
口調からして楽しい話ではなさそうだったが、立ち止まって振り返る。するとそこにはヘザーが見あげなくてはならないほど背の高い男が立っていた。肩幅も広く、王宮にいる騎士たちの中でもかなり体格がいい。遠目に見たことがあるような気がするが、名前も所属もわからなかった。その体格のいい男は、ふてくされたようにヘザーを睨んでいる。
「コンスタンス王女がいなくなったからって、今度はレナに手ェ出しやがっただろ」
「……は?」
「とぼけんなよ。『もう話しかけるな』って言われてそれきりだ。あんたがレナを誑かしたんだろ!」
この男が言うレナとは、ヘザーに手紙と菓子を持ってきたメイドのことだろうか。そうだとしたら、自分だって困惑している。それに何故こちらが誑かしたことになっているのだろう。
「ひ、人聞きの悪いこと言わないでよ。どうして女同士でそんなことしなくちゃいけないわけ?」
二つ年下の王女は、ヘザーを姉のように慕ってくれていた。周囲の騎士からは「平民のくせに」と、陰口を叩かれることも多かったし、二人のことを「秘密の花園」だと揶揄する声もあった。あれはヘザーに嫌な思いをさせるためだけの言葉だと考えていたのだが、本気にしている人もいるのだろうか。
目の前の男はヘザーからニコラスのほうへ視線を移し、それからニヤニヤと笑った。
「ははあ……で、そのガキのことも可愛がってやってるわけだ」
「な、なんですってえ……?」
確かにニコラスは可愛い後輩だが、この男が口にした言葉の意味はきっと違うものだ。
「ま、あんたの好みに口を出すつもりはねえが……だが、レナは返せよ」
「だから、返すも何も……」
レナに手を出した覚えはないし、そもそも自分には女性と友情以上のものを育むつもりはない。ついでに言えば、可愛らしい男の子を侍らせて愛でるつもりもない。
「今晩十時に『七色のしずく』まで来い。俺に負けたら、レナとは手を切ってもらうからな!」
「ちょ、ちょっと……」
だからあなたの恋人に手を出した覚えも、そんなつもりもないってば。そう訴えようとしたが、ヘザーの反論を聞く気はないようだ。男はすぐに踵を返していってしまった。
ヘザーはため息を吐く。コンスタンス王女の近衛隊が解散して二週間。以来、何かと言いがかりをつけられては酒場に呼び出されている。確かこれで五度目だ。
「隊長、大丈夫ですか? 俺も、ついていきましょうか?」
「いえ、一人で平気よ。タダ酒いただいて帰ってくるだけだから」
心配してくれるのは有難いが、ニコラスがいたところで助けになるとは思えない。
「レナって、昨日のメイドの娘ですよね? やっぱり俺、彼女の気持ちわかるなあ。あんな短気そうな男の人より、キャシディ隊長のほうがずっとかっこよくて素敵ですもん!」
「そんな気持ちわからなくていいってば……」
やっぱり、一人で行ってさっさと帰ってこよう。そう決めたヘザーだった。
***
「おお、お疲れ!」
ヒューイが司令部新人教育課のフロアに戻ると、同期のベネディクト・ラスキンが何かの書類をひらひらさせながらこちらへ歩いてくる。
「どうよ、今期の新人たちは」
「まったく……遅刻はするし、身だしなみもなってない! ちょっときつい稽古で音をあげる……」
「ははは。おまえ、毎回それ言ってるよな」
言われてみれば、そんな気もする。今期の奴らはだめだだめだと思いながらなんとか一人前に仕上げ、各騎士団や騎士隊に送り出している。他の教官に比べると自分は厳しいかもしれないが、配属先によっては命に関わる危険な任務を負うこともあるのだ。新人騎士たちがこの先どんな環境でもやっていけるように教育するのが、この自分の役目である。
「ああ、それでさ。これ、おまえの新しい仕事だって」
そこでようやくベネディクトは持っていた書類を差し出した。書類の上部には「再教育」という文字が赤いインクで記入されている。
「再教育……僕が受け持つのか?」
「ああ、上層部からのお達しだ。いま研修中のおまえの生徒は俺が引き受けることになった。おまえはこっちの再教育をやってくれってさ」
ヒューイは書類を受け取って、ざっと目を通した。再教育。これは一人前の騎士として現場に出た者が、もう一度研修を受けに戻ってきてしまうことだ。体力や教養が騎士としての基準に満たないことが後になって発覚したり、あるいは素行不良と判断されたり、理由は様々だ。そういった者たちに再教育を施す話を聞いたことはあったが、教官として受け持つのは初めてである。厄介なことになったかもしれない。そう考えながらヒューイは書類に記された名前を確認する。
「アルド・グレイヴス。二十四歳……知らないな」
「そいつは城下警備担当だ。悪質な客引きや売春の斡旋人から賄賂を受け取って、不法行為を見逃してるって話だ」
「なんだと⁉ 懲戒処分ものではないか!」
「証拠はないが、そういう噂らしい。あとは勤怠状況がよくない。遅刻や早退が多いんだってさ」
「なるほど……」
収賄の噂がある時点でかなりの問題児ではないか。アルド・グレイヴスが新人教育を受けたとき、その担当教官は誰だったのだろう? 後々こういうことが起こるかもしれないから、新人教育は大事だというのに……そんな小言が口から出そうになったが、もう一枚の書類を目にしたヒューイはぎくりとした。しかし同じくらい納得もした。
「二人目は……ニコラス・クインシー。二十歳」
彼のことは知っている。まさに自分が担当した新人だ。ニコラスが再教育課程に戻ってきてしまった理由はよくわかっている。彼はいわゆる劣等生だった。小柄で、体力もない。稽古場を走らせれば常に周回遅れ。教養テストの点数はそのときによって区々。頭が悪いわけではなさそうだが、集中力にムラがありすぎるのだ。とても及第点は与えられず、ヒューイはもう一期、彼を教育するつもりであった。しかし、ニコラスを騎士として送り出さなくてはいけない強い理由もあったのだ。
「それから、これ。おまえが欲しがってたやつ!」
ニコラスについて思いを馳せていると、目の前にもう一枚の紙が差し出された。
「……なんだ、これは?」
「助手。欲しがってただろ?」
自分だけでは手が回らないときも多いので、助手が欲しいと申請したのはひと月以上も前だ。やっと申請が通ったらしい。しかし業務内容が新人教育から再教育に変わった。再教育はヒューイにとっても初めてのことだし、しばらくは落ち着かないだろう。そのうえ助手にも色々指導しなくてはならない。タイミングがよくないことを苦々しく思いながら紙を受け取り、そして目を剥いた。
「ヘザー・キャシディ……? 女の名前ではないか⁉」
「え? おまえ、男の助手がよかったのか?」
「当たり前だ!」
「じゃあ、なんで申請するときに指定しなかったんだよ」
ヒューイは助手が欲しいと申請したとき、仕事の下準備や書類の整理をさせるのがメインだから、経歴は問わないと付け加えた。だが男女の指定はしなかった。騎士は男のほうが圧倒的に多いから、女騎士を充てられるとは考えもしなかったのだ。
「迂闊だった……確かに僕のミスなのだろうな」
「え? 迂闊か? 女の子がくるんだからラッキーじゃん!」
「ベネディクト、君は気楽でいいな……」
受け取ったヘザー・キャシディについての資料に目を通す。だいたいヒューイは、女騎士の教育も好きではなかった。女どもときたら、体力はないしすぐ感情的になるし、泣けば許されると思っている。その態度について注意をすれば、何故かこちらが悪者になることが多い。女と一緒に仕事をしたいと思ったことは一度もない。
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