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番外編
ロックな男 6
しおりを挟む「動くな!」
ヘザーたちは、ティムの楽屋で怪しげな男と対峙していた。
悲鳴や物音が聞こえたので、通路に出ようとした瞬間、この男が部屋に飛び込んできたのである。
口元をスカーフで覆った男は、小型のクロスボウをヘザーとファーガス、そしてティムの三人に順番に向けた。
「この部屋にはお前ら三人だけか? 第四倉庫の、ステージのある場所まで来い!」
男にそう命令され、ヘザーはカチンときた。動くなと言ったり、来いと言ったり、めちゃくちゃである。それにこの男はどうみてもフェスの関係者ではない。客を誘導するのに、武器で脅すスタッフなどいないからだ。
では、この男はいったい何者なのだろう。
腹が立ってはいるが何者かわからないし、小型ではあるが武器を持っているし、でも男の言うとおりにするのも癪だとヘザーは考える。
「おい、早くしろ!」
追い打ちをかけるように言われて、一番最初に我慢できなくなったのはファーガスだった。
「おい、てめえ。いきなり何なんだ? あ?」
ファーガスが、肩をいからせてのしのしと男に向かって行く。そして男の正面からクロスボウを奪おうとした。
「う、動くな!」
その時、男の手にしたクロスボウがパシュッと音を立てた。
「あ痛っ」
「ファーガス、大丈夫!?」
発射された矢が、ファーガスの手のひらに刺さったのである。ファーガスは矢が刺さったところを見つめ、そしてそれを引き抜いて床に捨てた。
「てめえ、何すんだよ! いてえじゃねえか!!」
「ぅお……」
男は慌てて次の矢を装填しようとしたが、ファーガスのほうが早かった。ファーガスは男に素早くラリアットを見舞って床に倒すと、その腹の上に乗った。そして男の首を片手で締め上げる。
「おい、てめえ誰なんだ? 何が目的なんだよ?」
「ファーガス、手ェ大丈夫なのか?」
そう問いながら、ティムはファーガスが放り投げた矢を床から拾い上げた。
「ああ、平気だ。貫通もしてねえ。ショボい武器だな……ティム、なんか縛るものねえか? こいつ締めあげて色々吐かせようぜ」
「え? あ、ああ」
ティムはきょろきょろと部屋の中を見渡し、紐状のものが見当たらなかったので、自分のベルトに視線を落とした。彼は拾った矢をヘザーに寄越すと、ベルトを外し始める。
ヘザーは受け取った矢を改めて見つめた。先っちょに血が付いているが、貫通はしていないらしい。男の持っていたクロスボウは超小型のもので、頭や心臓に刺さらない限りは、殺傷能力も無さそうに見える。ファーガスもそう考えて向かって行ったのだろう。実際に彼は自分の手で矢を受け止めたのだから。
「おい、ヘザー」
名前を呼ばれて、ヘザーはファーガスを見た。彼は膝をついて怪しい男に跨っていたが、自分の両手も床についた。
「その矢に触るな……」
そう言って、彼はがくりと頭を落とし、床に力なく蹲る。
「ファーガス!?」
「やべえ、それ、毒か何かが塗ってあるぞ……」
「えええっ!?」
一対三の状況でショボい武器を持って偉そうに振る舞うから、おかしいとは思った。矢に毒が塗ってあるから男は自信があったのだ。
男がファーガスの下から這い出してきて、床に落ちていたクロスボウを拾った。
ベルトを外しかけていたティムは、慌ててそれを留め直しながら部屋の隅に後退りしていく。男はヘザーとティム、交互に武器を向け、どちらに発射しようか迷っているように見えた。
しかしファーガスは蹲りながらも、男の足首を掴む。
「クソッ。まだ動けるのか? 寝てろよ!」
男はもう一度クロスボウをファーガスに向けた。ファーガスは動けないから、今度こそは狙った場所にそのまま当たってしまう。
「だめ! そんなことさせない!」
ヘザーは持っていた矢を男に向かって投じた。
それは男の肩のあたりにぶつかり、ぽろりと床に落ちる。
人の手で投じて刺さるとは思っていない。ヘザーは三歩ほど離れたところにあるスツールを手にする時間が欲しかったのだ。
「ティム! あなた、ジャケットの前閉じたほうがいいわよ!」
「あっ、はい!」
彼は素肌に革のジャケットを着ていたから、そう注意した。ジャケット自体はすごく丈夫そうなので、前を閉じておけば胴体に深く刺さることは防げるかもしれない。
そして男に向かって座面を向けるようにスツールを構えつつ、ティムのほうへ横歩きして彼を後ろに庇うかたちで立つ。
男がファーガスに武器を向けたら、ヘザーはこのスツールを男に向かって投げる。でも自分に向けたら、矢をスツールの座面で受け止める。男の腕の角度をよく観察すれば、軌道も読めるはずだ。
男はファーガスに握られた足首をなんとかしたいようだったが、ヘザーのことも気になるようで、狙いを定めかねている。
どんな毒が塗られているのかわからないが、ファーガスがまだ動けるのは、おそらく彼の身体が大きいせいだ。でも、もう一発撃ちこまれたら、さすがに無理だろう。
「さあ、来い!」
自分を狙ってくれたほうが、まだどうにかなるような気がする。ヘザーはそう言って男を挑発した。
発射された矢を座面で受け止め、男が次の矢を装填しているうちに距離を詰める……ヘザーが次の展開と行動をイメージしていると、楽屋の扉が開いた。
鮮やかな青が翻ったかと思うと、バチンと音がして、男の手からクロスボウが吹き飛んだ。
ヘザーは目を見張った。「沈黙の墓守」が現れて、男の腕を剣の鞘で叩いたように見えたからだ。「沈黙の墓守」は落ちたクロスボウを蹴飛ばし、それはくるくると回転しながら床を滑っていく。
クロスボウがカツンと音を立てて壁際にぶつかったとき、ヘザーは「沈黙の墓守」が放つ違和感に気がついた。
彼の動きは、訓練された騎士のようだったのだ。それに、骨の模様が描かれた黒い革のツナギは、微妙にサイズが合っていない。あれは「沈黙の墓守」の身体にジャストフィットしていたはずなのに、パツンパツンになっている。彼が太ったというよりも、骨格や体格の違う誰かが「沈黙の墓守」の衣装を拝借しているように見えた。
さらに、下半分が黒いマスクで覆われた顔……。
「ん? ……ん?」
ヘザーは彼の顔を食い入るように見つめた。
「沈黙の墓守」は、男の腕を捩じりあげて床に膝をつかせたところだった。彼の動きはまるで「騎士の教科書」とも言えそうな無駄のない美しいもので、ヘザーはここで確信した。
「え? ヒュ、ヒュー……?」
「沈黙の墓守」は、ヘザーを見つめ、僅かに目を細めた。
それだけで全部わかる。あれはヒューイだ。
そして、何故か「喋らない設定」を踏襲しているようだ。
でもヒューイだ。ヒューイが来てくれた。イカしたコスプレして助けに来てくれた!! ああ、まるで王子様みた~い!!
胸がいっぱいになりそうだったとき、ヒューイに腕を捩じられていた男が言った。
「えっ? ち、『沈黙の墓守』……!? さ、サインください!!」
ファンなのかよ。ちょっと脱力しそうになったが、ヘザーはヒューイのところまで歩いて行き、腰に手を当てて男を見下ろした。
「この人のサインが欲しいなら、あなたの目的を喋りなさい!」
ネヴィルと名乗った男をベルトで縛り──ティムのもので手を、ファーガスのもので両足を──問いつめているうちに、だんだんと見えてきた。
逃亡を続けていた窃盗団が、すでに捕まっている頭目の解放を訴えるために、フェスの会場を利用したこと。
賊の人数は二十四人。第三、第四、第五倉庫の裏と表、側面に十六人。残りの八人が各倉庫内を歩き、例のクロスボウで脅しまわって、第四倉庫に人質を集めているらしい。
ちなみにこの第三倉庫では、ヘザーたちのいる部屋が最後にネヴィルの回った場所のようで、楽屋やステージにいた人たちはすでに第四倉庫へ移動しているという。
「それで!? 矢に塗った毒は何なの!? 解毒剤はあるんでしょうね!」
「……人質は、無事でなくては意味がない。あれは単なる痺れ薬だ。二、三時間で効果は消える……」
「ふーん……」
ファーガスのほうを見ると、彼は座り込んでいるが意識はあるようだし、先ほどよりも具合が悪くなっているようには見えなかった。
「『沈黙の墓守』さん、ケンカも強いんっすね! パねえっす!」
ティムはファーガスを介抱しつつも、「パねえっす」を繰り返しながら瞳をきらきらさせて、変装したヒューイを見上げている。
ファーガスもヒューイを見上げていたが、彼はちょっと眉を顰めている。痺れ薬のせいで体調がおかしいのだとも考えられたが、「沈黙の墓守」の中身について疑っているようにも見えた。
ティムはきっと「沈黙の墓守」がメイクしていない状態を見たことがないから、本人だと信じて疑わないのだろう。ヘザーももちろん「沈黙の墓守」の素顔は見たことがないけれど、扮装の下に見知った顔があったから気づいたのだ。きっと、ファーガスも。
でも、ヒューイは「沈黙の墓守」として振る舞っているように見える。中身がヒューイだとは知られたくないのだろう。とくに、サインを餌にしていろいろと白状させた手前、ネヴィルの前で正体が暴かれるのはまずい。
「あっ、ほら、えっと!」
ヘザーはファーガスの目をごまかすために、彼とヒューイの間に立って、パタパタと手を動かした。
「じゃあ、えーっと、ティムはファーガスとネヴィルをお願い。私たちはいろいろ、ほら、あるから!」
「おい、ヘザー。オメー……なに一人で仕切ってんだよ」
即座にファーガスからのツッコミが入った。ヒューイを観察したりヘザーに突っ込んだりする余裕があるならば、彼のダメージは深刻なものではないのだろう。
ヘザーはヒューイの身体を部屋の外へ向かってぐいぐい押しながら、ごまかした。
「ほら、えーと、元騎士として、私に出来ることもあるかもだし! ね!?」
「『ね!?』っておまえ……じゃあ、その男連れてく必要ねえだろ……」
やっぱりファーガスにはバレている気もするが、
「ねっ? ……ね!!」
「あっ、おい!」
こうなったらもう力技である。「ね」と繰り返しながら通路に出て、扉を閉めたヘザーだった。
今日のイベントのためのものなのか、普段から置いてあるものなのかはわからないが、大きな木箱が通路の半分を占拠している場所がある。
ヘザーもヒューイも自然にそちらへ足が向いて、二人同時に木箱の隙間に収まった。それからヒューイを見上げる。
顔の下半分は隠れたままだが、ヒューイだ。やっぱりヒューイだ。
「来てくれて、嬉しい」
「……当然だ」
ヒューイはヘザーの前では沈黙を破り、マスクの下からぼそりと答えてくれた。
「この衣装、どうしたの?」
「騎士服のままでは侵入が困難だと判断した。本来の持ち主に……借りた」
「そうだったんだ」
それにしても、ヒューイはなんて素敵なんだろう。ヘザーは彼をうっとりとみつめた。黒い革と鮮やかな青いマントはヒューイに良く似合っている。
「ヒューイに青と黒、似合うね」
「む……そ、そうか?」
「うん。ビシッとしたヒューイに似合う~。普段もこういうカッコすればいいのに~」
「え? いや、普段はちょっと……」
「そう? ヒューイ、カッコいいから何でも似合うと思うよ」
「う、うむ……?」
こんなに褒めているのに、彼の声音はちょっと複雑そうだ。
彼はヘザーの肩に手を添えると周囲を見渡し、低い声で言った。
「君の無事が確認できたことは幸いだが、人質にされている人間がまだいるのだろう? 事件の解決のために急いで動かなくてはならん」
「あっ、うん。そうだよね」
コスプレしながら来てくれたヒューイが素敵すぎて、嬉しすぎて、忘れるところだった。事件はまだ解決していないのだ。
「第四倉庫に人質を集めてるって話だったわよね」
「ああ。あのネヴィルという男を除けば、倉庫の中にはあと七人、賊が潜んでいることになるな……外の人間と入れ替わったりしていたら、その限りではないが。ヘザー、周囲に気をつけたまえよ」
「うん」
まずは第四倉庫へ向かって、中の様子を確かめられるようだったらそうしよう、という話になった。
すると、曲がり角の先から人の足音がして、ヒューイはヘザーに壁に張りついて気配を消すように手で示す。もちろんヘザーは指示された通りに行動した。
足音がだんだん大きくなってくる。
陽が落ちて廊下はかなり暗くなっていたが、窓が無くて昼間でも暗い場所には、もともと小さなランプが備え付けられている。ヘザーとヒューイはその明かりを頼りに進んでいた。そしてこちらへ向かってくる者は、自分の足元を照らすためのランプを手にしているらしい。足音に合わせてぼんやりした明かりが揺れている。
「おい、ネヴィル! まだか……うおっ!? えっ? 沈黙の……うっ」
賊の男は角を曲がったところに立っていたヒューイを見て、驚いた声をあげた。まずは仲間ではない誰かが立っていたことに驚き、それが「沈黙の墓守」だったことにさらに驚いたようだった。
しかし、ヒューイが男の腹に一発入れて、最後まで言わせなかった。男が腹を押さえて床に膝をつくと、ヒューイはその首に腕を回して締めあげる。十秒もしないうちに男はぐったりとなった。
ヘザーは男が落としたランプが火事を起こさないよう、急いで明かりを消したところだった。
「え? し、死んじゃった……?」
「いや、首の動脈を圧迫して気絶させた。死んではいないはずだ……たぶん」
「へえー」
ああ~、ヒューイってば、強くてスマートでカッコいいーん。
こんな時なのに、身体をくねくねさせて身悶えしたくなってくる。
ヒューイは倒れている男の両脇に手を入れた。
「ヘザー、そこの荷物にかかっているシートを持ってこられるか?」
「うん、これ?」
「ああ」
周辺には木箱や麻袋が乱雑に積まれており、その上に丈夫そうな布がかけられていた。ヘザーがその布を手にしてヒューイの近くまで戻ると、彼は男を木箱の隙間に押し込んだところだった。ヘザーから受け取った布をその上に被せる。
手足を縛めてどこかの小部屋に突っ込んでおくべきなのだが、今は時間がない。仲間が倒れている男を見つけてしまわないよう工作するのが精いっぱいだった。
そのまましばらく歩いていくと、第四倉庫との連絡通路らしきところに出た。
そして通路の向こうには大勢の人間の気配がする。ランプや篝火を置いているようで、誰かの影が大きく動いたりするのが見えた。
向こう側が明るくて、こちら側が暗いのは都合が良い。ヘザーはヒューイの後についてそっと歩みを進め、第四倉庫の中を覗き見る。
本来ならば今頃ここでは演奏がおこなわれているはずだった。ステージには誰もおらず、人質として集められた客たちは、会場の中央に身を寄せ合っていた。不安そうな顔をしている者もいれば、この状況に苛ついているらしい人もいた。
そして顔の下半分をスカーフで隠した男たちが人質を囲むようにしている。ここから見える限りでは、クロスボウを持っている者が二人、長剣が三人。持ち場の交代が行われていなければ、賊はもう一人いるはずだが、第五倉庫へ行っているのかもしれないし、客たちの陰になって見えないだけかもしれない。
ヘザーがそう当たりをつけていると、ヒューイが振り返り、手で「戻ろう」という仕草をした。
「犯人たちの武器はクロスボウがメインのようだな」
人が集められている場所と、じゅうぶんに距離が取れたあたりで、ヒューイがそういった。会場である三つの倉庫の外側にも武器を持った人たちがいて、彼らもクロスボウを抱えているという。
「私たちの部屋に入ってきたネヴィルって男も、武器は超小型のクロスボウだったわね」
離れたところにいる人を攻撃できるのは強みだが、距離を詰められると反撃の術はない。
「うむ。剣や他の武器の扱いに長けた者は、すでに捕まっているメンバーに多いのかもしれんな……」
いま通ってきた通路を戻る途中、ヒューイは「デッドマンズ・カオス様」と書いた紙の張ってあるドアを開けると、そこから何かを持ち出してきた。それは、バンドをやっている人たちが持ち歩いている楽器のケースに見えた。
「あ。それ……」
ヒューイが頷いた。
「ああ。僕はこの楽器を持ち主に届ける約束をしている……もちろん、衣装も。ヘザー、悪いが、ファーガス殿たちのいる部屋へ行って、彼らを第二倉庫側の通用口へ案内してやってくれないだろうか」
「うん、わかった。通用口って、部屋を出て左に行けばいいのね?」
「そうだ。僕はそこから入ってきた。」
第四倉庫へ向かうのに右へ進んだから、反対側だろうという見当はついたが、ヒューイが手も使って、わかりやすく道順を教えてくれた。
廊下はかなり薄暗くなっていたから、ヒューイの被ったかつらの白い部分と、革のツナギに描かれた骨がやたらと目立って見える。
ファーガスたちのいる部屋の前まで来ると、
「では、後ほど落ち合おう」
薄暗い中でも、ヒューイが手をあげてマントが鮮やかに翻ったのがわかった。一足先に、彼は通用口へ向かう。
「ああ~。カッコいい……」
ヘザーは遠ざかる影を見送りながらほうっとため息をつき、それから気を取り直してファーガスのいる部屋のドアを開けた。
*
「沈黙の墓守」には、第二倉庫の通用口を入ってすぐのところで待ってもらっていた。着ているものを交換したは良いが、彼を騎士服のままうろつかせるわけにはいかないからだ。誤解や混乱のもとになる。
「君の楽器はこれだな?」
そう言って「沈黙の墓守」にケースを渡すと、彼は何度も頷いた。
「これっす! あざっす!!」
「いや、僕も助かった。礼を言うぞ『沈黙の墓守』殿。しかしさっそくで悪いが、服を取り返させてもらっていいだろうか。僕は急いで戻らなくてはならない」
服を取り替えたあとは「沈黙の墓守」と握手を交わし、ヒューイは急いでヘザーのいる第三倉庫の通用口まで向かう。
ヘザーたちと合流したあとは、現場の指揮権を持っている海軍の港湾警備隊のところまで行って倉庫内の状況報告をし、ネヴィルを引き渡した。
「これで僕にできることは終わったか……」
ヒューイ個人にできることはもうないが、人質の解放はまだだし、犯人グループと軍の膠着状態は続いている。
ここまできたら解決するまで見守りたいところだが、教官長に「状況を把握するために現場へ行きたい」と言ってしまったからには、一度報告に戻るべきだろう。
「ヘザー。僕は一度城へ戻るつもりだ。その前に、君をウィルクス夫人のところまで送り届けよう」
それからファーガスとティムのいるほうを見た。
ファーガスは薬の塗られた矢が当たったらしいが、今はもう自分の足で歩いている。しかし万が一ということもある。港から大通りに出たら辻馬車を捕まえ、ファーガスを医者に連れて行き、その次にヘザーの住まいへ寄って、それから城に向かおうと頭の中で計画を立てた。
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ファーガスは自分の顔の前で手を振って見せる。
「俺はそこまでヤワじゃねえっすよ」
「…………。」
あなたみたいな上品なお坊ちゃんと違ってね。そんな皮肉が続くのだろうと思った。
しかしファーガスは一歩、二歩とヒューイへ近づいてきて、肩をポンと叩いた。そしてヒューイの耳元で言った。
「あんた、最高にロックだったぜ」
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