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第3章 Long Way To The Hero
06.領主夫妻の守り神(最終話)
しおりを挟む王都からの使者がやって来るまでの間、マキシムはアッサズ領主館の部屋に閉じ込められ、モルディスの兵士とアッサズの領民たちが交代で見張りを行うことになった。
ロイドとベティが監禁された地下牢獄に放り込んでおいても良かったのだが、あまりに非人道的な環境に追いやるのも気が引けた。
なによりマキシムは呆然と「あの女」「信じらんねえ」と繰り返すばかりで、この状態の彼を地下牢獄に入れたら本格的に精神崩壊してしまいそうだったのだ。
そうなってしまったら、マキシムを圧政やロイドの殺害を企てた罪で裁くことが出来なくなってしまう。
事後処理がある程度片付き、ロイドはようやくデボラと二人きりの時間を設けることが出来た。
そして彼女がマキシムに何をされそうになったのかを耳にして、マキシムの元へ行こうとした。生きたままあの男の皮をはいでやらないと気が済まない、そう思ったからだ。
それをデボラが慌てて止める。
彼女はどうやって危機を脱したのか、説明してくれた。
チェリー様が救ってくれたと聞いてはいたが、ロイドはもっと曖昧なものを想像していた。結果的に助かったから、それをチェリー様のご加護と受け止めるような感じのものを。
だが、デボラはチェリー様の色、艶、形状すべてを利用したのだ。
「これを、足の間に?」
「はい」
マキシムが錯乱しているのは、野望が潰えたからではなく──それも少しはあるのだろうが──デボラに強烈な仕返しを受けたからなのだ。
それを理解したロイドは、安堵で泣きそうになったし、デボラの頼もしさに笑いそうにもなった。
「君は、本当に勇敢な女性だな」
デボラを助け出して失態の埋め合わせをしたつもりではあったが、自分がいなくてもデボラはしっかりとマキシムを退治しているではないか。
「いいえ。ロイド様がお守りを授けてくださったおかげです」
あれが無くてはデボラは今頃、ロイドに顔向けできない事態に陥っていたかもしれない。だから、ロイドが一緒にマキシムを倒してくれたのだとデボラは言う。
「ロイド様がチェリー様を私に差し出して、騎士の誓いを立ててくださった時から……あの時から、私とロイド様と、シラカの結びつきが強くなったような気がしています」
「うん。俺も、そのつもりで誓ったよ」
本当の初夜を迎えた時、デボラに誓ったのは心からの言葉だった。
「はい。私も妻としてあなたに尽くす……心からの誓いでした」
「デボラ……」
「ロイド様」
どちらからともなく寄り添って、抱きしめ合い、口づけを交わす。
デボラの胸に顔を近づけて、服の上からやんわりと食んだ。
「あ……」
ふかふかした弾力と、デボラの反応を一緒に楽しむ。ロイドはすっかりその気であったが、もちろん彼女が嫌がる素振りを見せたらすぐにやめるつもりでいる。
しかしデボラは艶めかしい吐息を吐くだけで、ドレスの前紐を解いて下着越しに胸にキスしても、ロイドを制止する様子はなかった。
気を良くしたロイドはデボラを抱えて寝台へ向かう。
デボラを横たえた時、ふと、お姫様を助け出したおとぎ話の中のヒーロー達は、どんな風にお姫様を抱いたのだろうと思った。
お行儀よく結婚式を待つ者もいただろう。助け出したその足でベッドに向かった者もいたかもしれない。
そしてヒーロー達の経験値は如何ほどだったのであろうか?
百戦錬磨の世慣れた男ならばお姫様を上手に導いてやるに違いない。中には童貞のヒーローもいるのかもしれない。だがやっぱりおとぎ話のヒーロー補正というものがあって、入れる場所が分からなかったり挙動不審になったり先走ったりはしないのだろう。もちろんインポになったりもしない。
「ん……ロイド様……」
「デボラ」
彼女の肌に唇を這わせながら、手のひらでも肩や腕、腰を撫でていく。デボラの手もまた、同じようにロイドを探った。
デボラの手がロイドの尻を撫で、そのまま身体の前方に回ったと思ったら、驚いたことにロイドの昂ぶりに触れた。
こんな風に触れてもらったのは初めてだった。
「うあ……」
最初のうちは遠慮がちに指で辿るだけだったが、ロイドが目を閉じて小さく喘ぐと、彼女はそれをそっと握った。ロイドが自分で触れる時よりもずっと柔らかな触れ方だったが、やけに心地よく。
「あっ……」
デボラが。自分の。こんなところに。
異常な興奮を覚えたロイドは、彼女の手の中であっけなく達してしまった。
「うわ、ご、ごめん……!」
慌ててシーツを手繰り寄せ、デボラの手のひらを拭う。
結婚式の夜にこうなった時は、焦りと気まずさのあまり彼女の顔を見ることが出来なかった。
でも今は違う。
「ごめん。あんまり気持ち良かったから」
出ちゃった。そう言うと、黙って手を拭われていたデボラは微笑んだ。
「私にも、ロイド様を気持ちよくすることが出来るのですね」
「うん、それはもちろん」
「……嬉しいです」
今の二人はちょっとした失敗で気まずくなることも、言葉が足りなくてすれ違うこともない。
何よりデボラは意外と積極的で探求心も持っている。そう知ったロイドは再び漲ってきた。
デボラが足を開いて、ロイドを中へ誘おうと昂ぶりに手を添えた。
いったん彼女の入り口にあてがったものをそのまま進める前に、濡れた襞に滑らせる。
「あっ、ロイド様……! あ、ああっ」
繋がる前に多少焦らした方がデボラの快感は高まる、そんな気がする。
デボラのねだるような喘ぎを聞きながら自分のもので彼女の外側を充分に刺激し、それから腰を埋めていく。
一番奥まで深く繋がると、デボラは潤んだ目でロイドを見つめていた。
「ロイド様……お慕いしております」
「俺も。俺も、君のことが大好き」
気持ちを伝えて口づけを交わし、手を握り合う。
そして、互いがより好くなるための探求の続きに入った。
*
デボラがキドニスからの援軍だと思っていた騎士は、ロイドの義兄のランサム・ソレンソンであった。
王都からの使者が到着したのは、マキシムを捕らえて十日ほど経ってからだった。
デボラとロイド、そして二つの領地の住民たちからの聞き取りが行われる。
そしてこれまで留まっていてくれたランサムの存在も大きかった。次期ソレンソン伯爵の証言は、王都の使者たちに非常に重く受け止められたのだ。
ランサムの父親の領地モルディスは、かなりの僻地ではあるが隣国との国境地帯でもあり、これまで恙無くそこを守ってきたソレンソン伯爵家は一目置かれているのである。
マキシムは裁きを受けるために王都に連れられて行った。
マキシムの領地アッサズであるが、いったん国王預かりの土地となり、マキシムの裁判が終わった後にデボラのものとなるのではないか、その可能性が高いと使者たちは言っていた。
「ランサム! 本当に、本当にありがとな!」
「私は大したことはしていないよ。ロイド、君が頑張ったんだ」
ランサム・ソレンソン一行がモルディスへ帰る日がやってきて、ロイドは泣きそうになりながら何度も何度もお礼を言っている。
ロイドの話から、彼は義兄をものすごく慕っているのが分かっていたが、本当に大好きで、大尊敬しているのが窺える。
さらにロイドから、ランサムはかなりの美男子で、誰よりも広い心を持っていると聞いてた。
デボラもその通りだと思った。
彼の顔にはついつい見入ってしまうし──惚れてしまうわけではなく、美しいものに敬服して目が離せなくなる感覚に近い──声や口調はのんびりしていて、独特の雰囲気を持つ男性だった。
「シラカなら、王都よりもモルディスにずっと近いね。もっと頻繁に会えるようになるんじゃないかな」
「うん! 俺も遊びに行くし、ランサムも絶対また来てくれよな!」
「もちろんだよ」
義兄弟は今、別れの抱擁を交わしている。
ロイドの身体はランサムよりも大きいのに、二人が一緒にいると、ロイドはまるで幼い少年のように……或いは子犬のように見えるから不思議だ。
抱擁を終えたランサムがふと顔を上げ、ロイドとデボラを見比べた。
「君たちは本当にお似合いの夫婦だね。デボラ殿、どうかロイドをよろしく」
「はい!」
「ロイドも、奥さんと仲良くね」
「うん、もちろん!」
それからランサムは、玄関ホールにある棚の上に置かれた代物に目をやり、戸惑うような笑みを浮かべた。
「ええとね。聞きたいことがあるんだけど……」
モルディスの兵士たちも不思議そうにそれを見つめ、ひそひそと言葉を交わしている。
「うん、何?」
ロイドが待ってましたとばかりに胸を張った。
彼は、あれが何なのか聞いてほしくて仕方がなかったらしいのだ。
器用な領民が作ってくれた木の台座に、ベティの縫った専用のクッション。その上に鎮座している物体が何なのかを。
「あれは……いったい、何なのかな?」
ランサムの質問に、ロイドとデボラは顔を見合わせて笑う。
そして一緒に答えた。
「シラカの守り神!」
「シラカの守り神です」
(愚者の勲章 了)
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