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本編 東の妖精姫

今、貴方に伝える 3。

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ジャケットを掛けられ、お姫様抱っこの状態でしばらく移動した所で木製の扉が開かれる音がした。
少し、空気の篭った匂いがしたかと思ったら、柔らかいクッションの上に下ろされると、視界を遮っていたジャケットが取られた。
急に明るくなったせいで少し、目を細めると頭上からあからさまなため息とパチンと魔法が使われる音が聞こえた。
思わずうつむくと、ライラック様が目の前に座られ、脇には先ほど渡したプレゼントが置かれていた。

「メリッサ王女。泣いていた理由をお伺いしても?私は気付かないうちに、何か貴方を泣かせるような事をしましたか?」

急に、その場から離れたのも関わらず、批難や叱咤では無く、かけられた言葉はどこまでも優しかった。

「メリッサ王女?」
「・・・・いいえ。ライラック様はお優しいですわ。いいと思ったものでも、ライラック様にはご迷惑だったかもしれないと思ったら、申し訳なくて・・・。」
「メリッサ王女はライラックの花言葉、ご存知ですか?と、先ほどお聞きしたかったのですが。」
「花言葉ですか?」
「はい。あぁ、やはり目が真っ赤ですね。」

顔をあげた私の目元に残っていた涙を親指で拭いながら、少し困った様な嬉しそうな表情を浮かべていた。

「・・・花言葉は、「思い出」「謙虚」「友情」でしょうか?」
「そうです。レティはその中の、”友情”で、この花をモチーフとしたモノをくれます。白や青、装飾品であれば金や銀でアメジストの石をこんな風に付けているものも有りますが、実は、”紫のライラック”だけは貰った事がないんです。」

左耳に付けているイヤーカフを指で触りながら、ライラック様は言う。
そして、私が刺繍をしたハンカチを手に取ると刺繍をした部分をなぞる。

「紫のライラックの花言葉は「恋の芽生え」「初恋」と云う意味があります。私はプレゼントに隠された意味まできちんと理解しなさい。と母上から言われて育っていますから、メリッサ王女の髪色に似た生地のハンカチに紫の糸で刺繍された、ライラックの花。レティと一緒に、デザインを決めて刺繍をされたと言われていたので、てっきり意味をご存知かと思ってお尋ねしたかったのです。が、その様子ですと知らなかったみたいですね?」

色別の意味までは知らなかった。
いくら”ライラック色”でも私の髪色に確かに似ている感じはある生地に、紫色の糸で刺繍されたハンカチを渡されたら”貴方が初恋です”とか”貴方に恋をしました”と取られても仕方がない気がする。
言葉は出ず、しっかり頷くとライラック様はおかしそうに笑われた。

「レティに聞いても、知っていると思っていたで返事がきそうですね。」
「でも、私の初恋はライラック様なので、意味合い的には間違ってないです。」
「え?」

笑われるライラック様に対して、ポロリと本音が漏れるとライラック様は驚いた表情をされた。

「あの、幼少期一度だけオステンの舞踏会でお会いしてずっと好きで、そのこの気持ちが憧れなのか、特別な好きなのかをはっきりさせる為、今回レティの招待を受けました。ごめんなさい突然。ライラック様がレティを好きなのは学生時代から知っていますし、二人のやりとりをのは好きなので良かったのですが、自分の気持ちは誤魔化せないな。と、最近強く思いました。たとえレティを好きだったとしてもライラック様が、好きです。」

上手く笑えているだろうかと思うものの、ドキドキと早鐘を打つ心臓が嫌に耳に入る。

「・・・・・気持ちは凄く嬉しい、です。ただ、自身学生時代のメリッサ王女も、幼少期に会った記憶があまりない。それに、レティを好きな状態で俺を好きになってくれる人なんて居なかったから、正直驚いている。だから、返事は少しまって貰えないだろうか?メリッサ王女が帰国するまでには返事をする。それと、俺の事は”様”なしで呼んでくれないか?レティみたく”ライ”でも構わない。リリー姉上もヴィー姉上もそう呼ぶ。」
「分かりました。では、私のことも”王女”とは呼ばないでください。親しい人は”メリー”と呼びます。お気遣い有難うございます。」
「ありがとう、メリー。」

そう言われた、ライ様は照れくさそうに頬が若干赤く染まっていた。



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