君が届かなくなる前に。

谷山佳与

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第2章 憧れた夢の途中

運命の歯車。

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ルイ兄様に結界を貼ってもらった翌日から、私の机に起きていた嫌がらせがピタリと終わった。
やはり、ルイ兄様の助言通り精霊の悪戯だったようだ。
私の勘も外れていなかった事に安堵する。

今は明日の建国祭のせいで生徒会の仕事を少し前倒しで行なっている。
予定では仕事を終え次第、ライとアークとリオ、そしてマリーの五人で王城へ向かうことになっている。
最後の用事を終え、生徒会室に戻る途中中庭を横断したほうが近道だからと急ぎ足で向かっていた。
あの日以来原因が精霊だったと分かった後もライが常に傍に居てくれたのだが、あまりにも効率が悪いのと、今日は時間が無いのと、時間帯はどうしても都合が付けれずライの代わりにアークが傍に居てくれるらしい。
先ほど今から向かうと連絡が来たので、そろそろ合流できるだろう。

手元の書類に視線を落としながら、生徒会室に戻ってする仕事の順番を考えていると、僅かな殺気と前方に人の気配を感じ足を止める。
顔をあげれば、視界ギリギリの位置に刃先がかすめる。

「っ!」

条件反射で後方へと飛び距離を取ると同時にブレスレットに軽く触れる。
アークが一番早いであろうがそれまでなんとか凌ぐしかない。
目の前にいるのはがっちりと鍛え上げられた体躯の男。顔は布で覆われ目元もあまり見えない。
男はもう一つダガーを取り出す。特に装飾もなく、シンプルでどこでも手に入りそうな代物だ。
相手の武器を奪うというのも考えられたが、相手は明らかに私より場数を踏んでいるし裏の人間だと瞬時に悟る。
そんな相手に攻撃を仕掛けるなんてことは自殺行為だ。
どこから侵入したかなんてこの職業に付く人間に聞いてはダメだ。
じりっと間合いを取りながら相手がどう動くかを観察する。神経を張り詰めないと一瞬にしてヤラれる。
相手が踏み込んで間合いを詰めようとした瞬間、横から火球が現れた。

「姉さん!!」

アークが一気に距離を詰め攻撃をしかけた。
踊るようにして繰り出されるダガーの攻撃を交わしながら、アークが間合いを詰めていく。

「レティ!!!」

打ち合いをしていた相手がライの姿を捉えた瞬間男はダガーを鞘に直しそのまま壁を登り校舎外へ姿を消した。
と同時に頭上に現れたのは水の塊。
風船のように浮くそれは、私の元へ向かいそして弾かれたところで、風船が割るようにして消滅した。
そして、魔力を失った水はそのまま落下し、バシャ!!といい音を出しながら私とライは二人してずぶ濡れにした。

「レティ姉さん、ライ兄さん大丈夫ですか?!」
「そうね、ずぶ濡れになった以外は平気かしら。」
「それよりも、相手分かりそうか?」
「父に聞けばわかるかと。西の帝国でよく見られる剣技です。」
「となると、レティに対しての嫌がらせのレベルを超えてるな。」

ジャケットを脱ぎ火の魔法で乾かしたモノを私の掛け前のボタンをしめる。
ついでに風の魔法と火の魔法の組み合わせで温風を作ると私とライの周りに風が発生し、ずぶ濡れの制服を乾かしてくれた。

「ひとまず生徒会室に帰るか。一応乾かしたがこの大事な時期に風邪を引いてもいけないしな。」
「アークは悪いが、兄上に先に報告を上げてくれ。」
「わかりました。それでは、また後で。」
「よろしく。」

馬屋へ向かうアークを見送ったあとライは問答無用で私を抱き上げた。

「ちょっと、抱き上げる理由がわかりませんわ。」
「立っているのがやっとのくせによく言う。」

図星を刺され返答に困っているとおデコに頭をコツンと合わせてくると、盛大にライはため息をついた。

「ケガがなくて良かった。」
「相手の力量くらいわかります。必死で逃げてましたわ。」
「当たり前だ。いくら武術を叩き込まれているとしても自分の身を守るのが最優先だ。」

軽々と抱きかかえ生徒会室までの道を歩いていく。周りの視線が気になるところだが、ライのジャケットを来ていているのもあって、何かあったのだろうと思われるし、爵位だけで見ても私とライは上位貴族と王族。
深く聞いてこないのは、ある意味マナーである。
生徒会室についた私は、問答無用で生徒会室の隣に設置されたシャワー室に放り込まれ温まって来いと厳命された。
いくら夏場とはいえ先程の水球で冷えた身体を温め、予備の制服に着替えた。

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主人公は隣国のお姫様ですがライラックのお話です。ご興味のあるかたはよろしくお願いいたします君がずっと好きでした。

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