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第4章 終わりと始まり編
止まることを知らない激情で。
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軽い浮遊感を感じる。
儀式の時と違うのは、蒼月が受け止めてくれたから。
再び、降り立った場所は自宅の母屋。
あの日からどのくらい経過したのか分からないけれども、カーテンから差し込む光は茜色。
夕方だと認識する。
一先ず自室に戻って着替えようと、涙を拭うと蒼月の腕から降りる。
この時間帯で、この静けさ。みんなまだ帰ってきていないのんだろうか?
そんなことも考えてみたが、まずは着替えと自室へ戻ることにした。
部屋は私が儀式を受けた日と変わらず綺麗に整頓されており、掃除がされているようだった。
クローゼットから、ホットパンツと七分袖のパーカ、ブラウスに着替える。
着替えている間、鏡に写った自分の顔はひどく泣き腫らした顔をしていた。
「雪ねぇ。目元少し冷やしてくれる?」
雪ねぇは何も言わずに目元を冷やしてくれる。
そして、琥珀が熱めのタオルを持ってきてくれた。
交互に繰り返し、泣き腫らした目は多少見えるようになった。
目指すは、父様の所。
きっと仕事部屋にいらっしゃるはず。
階段を降りたところで、兄様方と再開をした。
私の姿にひどく驚いた表情を見せ、”妃捺!!”と名を呼ばれ抱きしめられた。
兄様方の声を聞いて、リビンクから出てきた母様は痩せたようにみえた。
「兄様、ちぃ兄様。ただいま戻りました。」
「妃捺っ。」
「母様!」
母様の姿を見つけると一目散に抱きついた。
「良く、無事に。お父様にはお会いした?」
「いえ、今から向かうところです。」
「そう。行ってらっしゃいな。」
「はい。」
軽い抱擁を交わし、私は当初の目的である父様の仕事部屋へと向かった。
部屋の前に立つと、数回深呼吸をする。
扉をノックし、返事があるとそのまま室内に入り、書類とにらめっこしている父の机の前に立つ。
「父様。ただいま戻りました。」
兄様達と間違えたのだろう。
私の声を聞くなり、勢い良く顔をあげた。
その表情は複雑そうに、だけど再び会えた喜びからか、目尻は下がっていた。
「おかえり。妃捺。」
椅子から立ち上がり、私を抱きしめた父様は”おかえり”とそして”辛い決断をさせた”と、囁いた。
その言葉を聞き、泣き止んだはずの涙腺は緩み、涙が溢れてきた。
「っ、辛いとか、苦しいとかそんなんじゃ、いい現せない!どうして私だったの?!なんで私は玉依姫なの?!」
力が有ることは単純に嬉しかった。
みんなを守れるから。
だけど、私にこんなにも重い決断を強いられるなんて思いもよらなかった。
辛い決断をさせてすまない。
と父様は何回もこぼした。
幼い子供のように、感情のままに、塞き止めていた心を吐き出す。
誰も悪くない。
だけど、仕方がないで終わらすにはとても重くて苦しい。
当主の儀式を受けた人間にしかわらかない辛さ。
だから、父様の前では素直に泣けたのだと思う。
しばらく泣き続けた私は、疲れもあってかそのまま意識を失うように熱を出した。
空っぽにしたはずの力を、体が、魂が回復しようとしているのだろう。
そう、頭の片隅で思いながら。
儀式の時と違うのは、蒼月が受け止めてくれたから。
再び、降り立った場所は自宅の母屋。
あの日からどのくらい経過したのか分からないけれども、カーテンから差し込む光は茜色。
夕方だと認識する。
一先ず自室に戻って着替えようと、涙を拭うと蒼月の腕から降りる。
この時間帯で、この静けさ。みんなまだ帰ってきていないのんだろうか?
そんなことも考えてみたが、まずは着替えと自室へ戻ることにした。
部屋は私が儀式を受けた日と変わらず綺麗に整頓されており、掃除がされているようだった。
クローゼットから、ホットパンツと七分袖のパーカ、ブラウスに着替える。
着替えている間、鏡に写った自分の顔はひどく泣き腫らした顔をしていた。
「雪ねぇ。目元少し冷やしてくれる?」
雪ねぇは何も言わずに目元を冷やしてくれる。
そして、琥珀が熱めのタオルを持ってきてくれた。
交互に繰り返し、泣き腫らした目は多少見えるようになった。
目指すは、父様の所。
きっと仕事部屋にいらっしゃるはず。
階段を降りたところで、兄様方と再開をした。
私の姿にひどく驚いた表情を見せ、”妃捺!!”と名を呼ばれ抱きしめられた。
兄様方の声を聞いて、リビンクから出てきた母様は痩せたようにみえた。
「兄様、ちぃ兄様。ただいま戻りました。」
「妃捺っ。」
「母様!」
母様の姿を見つけると一目散に抱きついた。
「良く、無事に。お父様にはお会いした?」
「いえ、今から向かうところです。」
「そう。行ってらっしゃいな。」
「はい。」
軽い抱擁を交わし、私は当初の目的である父様の仕事部屋へと向かった。
部屋の前に立つと、数回深呼吸をする。
扉をノックし、返事があるとそのまま室内に入り、書類とにらめっこしている父の机の前に立つ。
「父様。ただいま戻りました。」
兄様達と間違えたのだろう。
私の声を聞くなり、勢い良く顔をあげた。
その表情は複雑そうに、だけど再び会えた喜びからか、目尻は下がっていた。
「おかえり。妃捺。」
椅子から立ち上がり、私を抱きしめた父様は”おかえり”とそして”辛い決断をさせた”と、囁いた。
その言葉を聞き、泣き止んだはずの涙腺は緩み、涙が溢れてきた。
「っ、辛いとか、苦しいとかそんなんじゃ、いい現せない!どうして私だったの?!なんで私は玉依姫なの?!」
力が有ることは単純に嬉しかった。
みんなを守れるから。
だけど、私にこんなにも重い決断を強いられるなんて思いもよらなかった。
辛い決断をさせてすまない。
と父様は何回もこぼした。
幼い子供のように、感情のままに、塞き止めていた心を吐き出す。
誰も悪くない。
だけど、仕方がないで終わらすにはとても重くて苦しい。
当主の儀式を受けた人間にしかわらかない辛さ。
だから、父様の前では素直に泣けたのだと思う。
しばらく泣き続けた私は、疲れもあってかそのまま意識を失うように熱を出した。
空っぽにしたはずの力を、体が、魂が回復しようとしているのだろう。
そう、頭の片隅で思いながら。
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