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第4章 終わりと始まり編
涙の訳を 2。
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衝撃的事実を聞いてから、梨壷に戻ってきた私は、一先ず汚れた着物を脱ぎ袿に着替えた。
雪ねぇも事情は知っているらしく、困った様な表情をしていた。
そうだよね、私が安倍一族の存続を握っている状態なのだから。
重くのしかかった現実に、深くため息が漏れる。
「・・・・やっと、素直に自覚したばかりなのにな・・・・。」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも届かず静かに溢れた。
元々惹かれていたのは知っていた。
それを自覚したのはつい最近で、やっと気持ちに向き合えると思った矢先にこの事実。
恋心を貫くなら、残る道。
だけど、私は、父様も母様も、兄様やちぃ兄様、七海だって大好きで大切な存在だ。
それは、神将達や春仁様も同様に当てはまる。
梨壺の簀子に座り、高欄に肘を付き頭をのせる。
春仁様と離れるのは嫌だ。
元々春仁様と生きる時代が違うのだと思えば納得してしまう。
そんな理由で、自分の気持ちを納得させるほど、大人じゃない。
好きな人の傍にいたいと思うのは、本音。
だけど同じように、家族とサヨナラする覚悟も一族を終わらせる勇気も私にも無い。
そのまま俯けば、涙が溢れた。
だから、当主就任の儀式は苦痛を伴うのだろう。
心の強さを、想いの強さを試されるから。
残る事を選んだとしても、それは逃げでは無い。
分ってる。
自分の気持ちに素直に従っただけだ。
解ってる。
言葉が溢れる。知らないようで知っていた祝詞を。
ーーー伏して願い奉る。
ーーー穢れを祓い給え、地の嘆きを聞き給え
ーーー祈りを聞き給え、神の慈悲とその息吹にて地を清め給え
ふわりふわりと風が巻き起こる。
私の霊力に気づいた神将達が傍までやってきた。
顔をあげれば、春仁様の姿もあった。
笑え。
ーーー平けし平けし、静まり過し給え
ーーー伏して請願奉る
ーーー神より拝しこの地を、血を、力を
ーーー愛し給え、許し給え
ぱぁぁぁあんと、柏手を鳴らすと風が更に強く吹き荒れる。
大好き。愛している。
春宮様に思いっきり抱きつくと、涙は更に溢れる。
「菊華?」
どこか焦ったような声音の春仁様を見上げる。
「春仁様。」
きっと先延ばしにすれば、決心が鈍る。
心のどこかでは、知っていた。
決めていた、自分の時代に戻ると。
好きなっちゃダメな人、愛しちゃダメな人。
だけど、好きになったの。
「・・・お慕い申し上げております。」
笑え。
頬に両手を添え、少し背伸びをして唇を重ねる。
首に腕をまわし、きつく抱きしめる。
別れを惜しむように。
温もりを忘れないように。
「嫌だ!菊華!!」
察したように、春仁様が私を抱き寄せる。
「青龍・・・」
差し出した手に渡されたのは、安倍一族に伝わる小太刀。
私がこの時代にやってきた原因となるモノ。
指先が触れれば、光が緩やかに溢れる。
「菊華!!」
「春仁様、私の本当の名前は”妃捺”言います。きっと見つけます。私の生きている時代で。あなたを。だから、忘れないでください。そしたら、きっと・・・・。」
考えたのだ、私はこの時代より遥先の未来から来た。
なら、春仁様の生まれ変わりが居てもおかしくない。
わずかな望みに私は、願いをかける。
きっと、幸せになれると。
「この時代で、幸せになってください。」
閃光が梨壺に、内裏に、いきわたる。
来た時と同じ。
忘れまいと、見えなくなるその瞬間まで春仁様を見つめていた。
雪ねぇも事情は知っているらしく、困った様な表情をしていた。
そうだよね、私が安倍一族の存続を握っている状態なのだから。
重くのしかかった現実に、深くため息が漏れる。
「・・・・やっと、素直に自覚したばかりなのにな・・・・。」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも届かず静かに溢れた。
元々惹かれていたのは知っていた。
それを自覚したのはつい最近で、やっと気持ちに向き合えると思った矢先にこの事実。
恋心を貫くなら、残る道。
だけど、私は、父様も母様も、兄様やちぃ兄様、七海だって大好きで大切な存在だ。
それは、神将達や春仁様も同様に当てはまる。
梨壺の簀子に座り、高欄に肘を付き頭をのせる。
春仁様と離れるのは嫌だ。
元々春仁様と生きる時代が違うのだと思えば納得してしまう。
そんな理由で、自分の気持ちを納得させるほど、大人じゃない。
好きな人の傍にいたいと思うのは、本音。
だけど同じように、家族とサヨナラする覚悟も一族を終わらせる勇気も私にも無い。
そのまま俯けば、涙が溢れた。
だから、当主就任の儀式は苦痛を伴うのだろう。
心の強さを、想いの強さを試されるから。
残る事を選んだとしても、それは逃げでは無い。
分ってる。
自分の気持ちに素直に従っただけだ。
解ってる。
言葉が溢れる。知らないようで知っていた祝詞を。
ーーー伏して願い奉る。
ーーー穢れを祓い給え、地の嘆きを聞き給え
ーーー祈りを聞き給え、神の慈悲とその息吹にて地を清め給え
ふわりふわりと風が巻き起こる。
私の霊力に気づいた神将達が傍までやってきた。
顔をあげれば、春仁様の姿もあった。
笑え。
ーーー平けし平けし、静まり過し給え
ーーー伏して請願奉る
ーーー神より拝しこの地を、血を、力を
ーーー愛し給え、許し給え
ぱぁぁぁあんと、柏手を鳴らすと風が更に強く吹き荒れる。
大好き。愛している。
春宮様に思いっきり抱きつくと、涙は更に溢れる。
「菊華?」
どこか焦ったような声音の春仁様を見上げる。
「春仁様。」
きっと先延ばしにすれば、決心が鈍る。
心のどこかでは、知っていた。
決めていた、自分の時代に戻ると。
好きなっちゃダメな人、愛しちゃダメな人。
だけど、好きになったの。
「・・・お慕い申し上げております。」
笑え。
頬に両手を添え、少し背伸びをして唇を重ねる。
首に腕をまわし、きつく抱きしめる。
別れを惜しむように。
温もりを忘れないように。
「嫌だ!菊華!!」
察したように、春仁様が私を抱き寄せる。
「青龍・・・」
差し出した手に渡されたのは、安倍一族に伝わる小太刀。
私がこの時代にやってきた原因となるモノ。
指先が触れれば、光が緩やかに溢れる。
「菊華!!」
「春仁様、私の本当の名前は”妃捺”言います。きっと見つけます。私の生きている時代で。あなたを。だから、忘れないでください。そしたら、きっと・・・・。」
考えたのだ、私はこの時代より遥先の未来から来た。
なら、春仁様の生まれ変わりが居てもおかしくない。
わずかな望みに私は、願いをかける。
きっと、幸せになれると。
「この時代で、幸せになってください。」
閃光が梨壺に、内裏に、いきわたる。
来た時と同じ。
忘れまいと、見えなくなるその瞬間まで春仁様を見つめていた。
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