31 / 31
【番外編】媚薬騒動
グレンを起こす方法
しおりを挟む
ある冬の日。
窓の外では雪が積もっているが、天気は回復して午後の陽光が差し込んでいる。ソファで座っているグレンが、読みかけの本を開いたままうつらうつらしていた。洗い物をしていたシリルはそんな光景を見て幸せだな、と思う。
「なにか羽織らないと風邪引くよ、グレン」
そう言って、近くにあったセーターを掛けてやろうとして、完全に寝落ちたことに気付いた。気持ち良さそうな寝息を立て、目の前にいるシリルにも気付かない。
「仕方ないなぁ……」
そのとき、日光を燦々と浴びている白い毛が、銀色に光っているように見えた。
グレンは雪豹だから、日にあたると綺麗なんだよね。光を弾いて、輝いている……。猫は日光浴でビタミンの吸収率を上げて骨や筋肉を強くするっていうから、猫科の獣人も必要なのかな。
それにしても、フワフワの獣毛は誘惑だ。キラキラと光を放ち、ときどき動くたびに靡くさまは誘っているようだ。特に首のあたり、服からはみ出した獣毛を見ているとさわりたくなってしまう。
「ちょっとだけ、グレンが気付かないあいだにやめるから……」
隣に座りそうっと手を伸ばし、顎のモフモフしたところをさわってみた。
「柔らかい……。気持ちいい」
布地でいうと絹だろうか、滑らかでほどよくあったかい。手の感触にうっとりしていると、グレンの喉音がグルル……と鳴り出した。
撫でられている側も心地良いんだ。よし、じゃあ猫みたいだけど顎を撫でていこう……!
シリルが撫でると、グレンがゴロゴロといいながら顎を擦りつけてくる。そうやってグルーミングを続けているうちに腕がだるくなってきた。
「疲れてきちゃった。ごめんねグレン、もう終わり。お茶でも入れようっと」
席を立つと同時に、ゴロゴロ音が消えた。まさか……、とソファを見ると、雪豹の夫があくびをしている。
「なんだ、もう終わりか。気持ちよかったのにな」
悪びれる風でもなく、手で顔を毛繕いしている。
「え……。グレン、もしかして起きてた?」
いやな汗が出てくる。麗しい獣毛目当てで撫でていたと分かったら、獣人のプライドが許さないのではないだろうか。
「ご、ごめんね、寝てるあいだにさわっちゃって。……怒った?」
おそるおそる振り向くと、グレンがふっと微笑んだ。
「夢を見ていた。日だまりで寝ていたら、お前が来てブラシを掛けてくれる夢だった。顎を中心に擦ってくれるから、ブラシに負けないように押しつけたんだが、途中から目が覚めた。ブラシだと思っていたのはお前の手で、温かくて気持ちよかったからやめられなかった」
寝惚けてたのか、と思うと同時に、顎をグイグイ押しつけてきたのは気持ちよかったんだ、と安堵した。たしかに、鳴っていたのはご機嫌な喉音だった。
「お、怒ってない?」
「こんなふうに起こされるのは嬉しい。……今度またやってくれ」
そう言った後、髭まで整えはじめたのを見て、グレンが照れているのだと理解した。陽の光に照らされた夫が銀色に光っている。幸せを描くとしたら今の状況だ。
「うん、また寝てたらやってあげる。グレン、大好きだよ」
窓の外では雪が積もっているが、天気は回復して午後の陽光が差し込んでいる。ソファで座っているグレンが、読みかけの本を開いたままうつらうつらしていた。洗い物をしていたシリルはそんな光景を見て幸せだな、と思う。
「なにか羽織らないと風邪引くよ、グレン」
そう言って、近くにあったセーターを掛けてやろうとして、完全に寝落ちたことに気付いた。気持ち良さそうな寝息を立て、目の前にいるシリルにも気付かない。
「仕方ないなぁ……」
そのとき、日光を燦々と浴びている白い毛が、銀色に光っているように見えた。
グレンは雪豹だから、日にあたると綺麗なんだよね。光を弾いて、輝いている……。猫は日光浴でビタミンの吸収率を上げて骨や筋肉を強くするっていうから、猫科の獣人も必要なのかな。
それにしても、フワフワの獣毛は誘惑だ。キラキラと光を放ち、ときどき動くたびに靡くさまは誘っているようだ。特に首のあたり、服からはみ出した獣毛を見ているとさわりたくなってしまう。
「ちょっとだけ、グレンが気付かないあいだにやめるから……」
隣に座りそうっと手を伸ばし、顎のモフモフしたところをさわってみた。
「柔らかい……。気持ちいい」
布地でいうと絹だろうか、滑らかでほどよくあったかい。手の感触にうっとりしていると、グレンの喉音がグルル……と鳴り出した。
撫でられている側も心地良いんだ。よし、じゃあ猫みたいだけど顎を撫でていこう……!
シリルが撫でると、グレンがゴロゴロといいながら顎を擦りつけてくる。そうやってグルーミングを続けているうちに腕がだるくなってきた。
「疲れてきちゃった。ごめんねグレン、もう終わり。お茶でも入れようっと」
席を立つと同時に、ゴロゴロ音が消えた。まさか……、とソファを見ると、雪豹の夫があくびをしている。
「なんだ、もう終わりか。気持ちよかったのにな」
悪びれる風でもなく、手で顔を毛繕いしている。
「え……。グレン、もしかして起きてた?」
いやな汗が出てくる。麗しい獣毛目当てで撫でていたと分かったら、獣人のプライドが許さないのではないだろうか。
「ご、ごめんね、寝てるあいだにさわっちゃって。……怒った?」
おそるおそる振り向くと、グレンがふっと微笑んだ。
「夢を見ていた。日だまりで寝ていたら、お前が来てブラシを掛けてくれる夢だった。顎を中心に擦ってくれるから、ブラシに負けないように押しつけたんだが、途中から目が覚めた。ブラシだと思っていたのはお前の手で、温かくて気持ちよかったからやめられなかった」
寝惚けてたのか、と思うと同時に、顎をグイグイ押しつけてきたのは気持ちよかったんだ、と安堵した。たしかに、鳴っていたのはご機嫌な喉音だった。
「お、怒ってない?」
「こんなふうに起こされるのは嬉しい。……今度またやってくれ」
そう言った後、髭まで整えはじめたのを見て、グレンが照れているのだと理解した。陽の光に照らされた夫が銀色に光っている。幸せを描くとしたら今の状況だ。
「うん、また寝てたらやってあげる。グレン、大好きだよ」
0
お気に入りに追加
85
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚
伽野せり
BL
凪野陽斗(21Ω)には心配事がある。
いつまでたっても発情期がこないことと、双子の弟にまとわりつくストーカーの存在だ。
あるとき、陽斗は運命の相手であるホテル王、高梨唯一輝(27α)と出会い、抱えている心配事を解決してもらう代わりに彼の願いをかなえるという取引をする。
高梨の望みは、陽斗の『発情』。
それを自分の手で引き出したいと言う。
陽斗はそれを受け入れ、毎晩彼の手で、甘く意地悪に、『治療』されることになる――。
優しくて包容力があるけれど、相手のことが好きすぎて、ときどき心の狭い独占欲をみせるアルファと、コンプレックス持ちでなかなか素直になれないオメガの、紆余曲折しながらの幸せ探しです。
※オメガバース独自設定が含まれています。
※R18部分には*印がついています。
※複数(攻め以外の本番なし)・道具あります。苦手な方はご注意下さい。
この話はfujossyさん、エブリスタさんでも公開しています。
Ωであることを隠してる先輩を無理やり番にしてしまう、いじめられっ子の話。
あかさたな!
BL
【優秀すぎる年下のαをいじめてしまういじめっ子の隠れΩが、下剋上溺愛されるお話】
▶︎オメガバース世界です。αとΩは番(相性がいいパートナー)になれて、Ωにヒート(発情期のようなもの)があるくらいの知識があれば楽しめます!
フェロモンの匂いで、運命の番がわかるらしい!
Ωなら男でも出産出来る体質ですが、作者の好みにより、そこはあまり触れてません。
Ωであることを隠してしまう・柊湊(ひいらぎ みなと)。
一つ上の上位αの兄に劣等感を感じながら、αと偽って生きている。
優秀なαしか入れない生徒会にも一期生から選抜されるほど、努力でそのハンデを乗り越えていた。
二期生になるころ、自分よりさらに優秀な後輩・山神海斗(やまがみ かいと)が生徒会に入ってきた。
優秀すぎて、一期生ながら、生徒会長に選ばれるほどだった。
嫉妬、劣等感、屈辱感、困惑。
そんなものでいっぱいになってしまって、海斗をカツアゲしていじめてをしまう。
たが、海斗には秘密がバレてしまって、2人っきりになると…。
_________
▶︎毎日更新頑張ります!
気ままに筆を走らせるので、いつもより少し長くなりそうですが、最後まで応援していただけると励みになります(作品時間で一年を書きたい)。
▶︎更新不定期になりました。近況については近況ボード「2022年8月の更新について」にて、確認していただけると幸いです。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
めちゃハッピーエンドな年下攻めになる予定です!
▶︎海斗が優秀すぎて作者も上手くいじめれてません。もっといじめられっ子感が欲しかったのに、なんかスパダリ気味です。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※◀︎◀︎
お好きなところから◎
白狼アルファは純真オメガの初恋に堕ちる
四宮薬子
BL
大貴族エミルフォーク家の三男で純粋な人間のオメガであるレナエルは子供の頃、誘拐されたが、シュヴァネリア王国の第二王子で狼獣人アルファのキリアンに救われ、それから彼に恋をしている。
レナエルが成人し、二人の結婚が決まる。喜ぶレナエルだが初夜の日、彼から拒まれてしまい・・・。
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
わぁ、シリルですね。楽しみます☆
東院さん、ありがとうございます。
文字数多めなので上げました、最後までアップしたいと思いますー!