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本編
96(カインサイド)
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一方その頃。
「なんだこの手紙は!?テイトはどこに行った?」
「あの子がどこにもいないわ!ああ、一体どこに行ったと言うの?」
アーデン伯爵家ではお父様とお母様が騒いでいた。
2人はつい先程僕たちの部屋で手紙を見つけ、それを読むや否や騒ぎ出したのだ。
気付くのこそ遅かったが、2人のこんな取り乱した姿は初めて見るかもしれない。そう思って彼らが机に放り出した手紙を拾う。
そして、それを見て再びため息をついた。
これはテイトも悪い。
彼が両親に残した手紙には『今までありがとう。俺はこの国を出ていきます。どうかお元気で』としか書かれていなかった。
そんなものを残されれば心配するのは当然だ。
なんなら自殺行為に走ってしまったとでも思っているかもしれない。
これで2人の慌てようの訳を理解した。
そして、今の彼らを見ていると本当はテイトのことをこんなにも愛していたのだなとしみじみと思う。今になってこんな形でわかるというのも寂しい物だが…
最初こそ冷めた目で見ていた僕だが、これは詳細を教えてあげないと可哀想だと思った。そして2人が私兵を導入して捜索させようなんて話をし始めた頃、慌てて事情を説明しに入った。
「公爵と一緒に国を出ただと…?」
「はい…」
事情を聞いたお父様が目を丸くする。
「カイン、あなた知っていて止めなかったの?」
お母様も信じられないと言った表情を浮かべた。
「それは…その方がテイトにとっても幸せだと思ったので」
僕がそう言うと2人は辛そうな顔をして俯いた。
「そう、か…公爵と一緒か…それならひとまずは安心だな」
「ええ、もしかしたら自棄になって…と心配していたけれど、そうではなくて安心したわ…」
半ば放心したようにお父様が息を吐き、お母様もよろよろと椅子に座り込んだ。
「こんな形で別れることになるとは」
「そうね、でもあの子にとってここは居心地が悪かったでしょうから」
悲しそうにする2人を嘲笑うことは出来ない。なぜならテイトを傷つけ続けていたのは自分も同じだからだ。
「テイトはお二人の愛情には気づいていました。少なくともここ数年では」
気付けば僕は両親を慰める言葉を口にしていた。
「それでもきっと、気まずさのようなものがあって、出ていくことを直接話せなかったんだと思います」
そしておずおずと両親の反応を見る。
「カイン、ありがとう。そうだな…私たちはあの子への接し方を間違えそのままどう接すれば良いのか分からなくなってしまった。あの子もきっとそうだったんだろう」
「あの子は幸せになるためにここを出て行ったのね…」
「はい…」
家族の中になんとも言えない寂しさが募る。
「それでテイトはどこへ行ったの?」
「それは、わかりません…」
「そう…もう私たちにしてあげられることはないのね」
「ああ、せめて幸せになってくれたらいいが…」
僕は2人の悲しそうな横顔を見て、今はどこにいるかもわからない双子の弟に心の中でつぶやいた。
(テイト、お父様とお母様はこんなにも君のことを愛しているよ)
そして不本意ながら両親を安心させるために彼のことを持ち出した。
「ヘンダーソン公爵が一緒ですから、大丈夫ですよ。絶対にテイトを幸せにしてくれるはずです」
(本当は僕がテイトを幸せにしてあげたかったんだけどな…)
今でも僕とテイトがずっと一緒にいられると思っていた幼い日々を度々夢に見る。そして、仲睦まじく暮らしている未来も。
いっそ公爵が現れなければと考えたこともあるけれど、きっとそれはテイトにとって不幸なことなんだろう。
僕は自分の幸せのためにテイトにそばにいて欲しかった。でもそれがテイトの幸せにならないと気づいてからは潔く、いや、かなり悩んでやっとのことで諦めた。
ここで僕たちに守られながら生活するより、彼と飛び立っていく方がテイトには幸せだ。僕はあの子に小さい頃みたいに笑っていて欲しかった。
そして僕は、テイトは今頃国境を越え、由を謳歌しているのだろうかと考え自然と笑みを浮かべた。
その僕の様子を見ていた両親がお互いを見て頷き合う。
「テイトは独り立ちして行ったんだな…それに、あの男ならきっとテイトを幸せにしてくれる…」
「そうね…私たちはあの子が公爵と幸せになることを祈りましょう。そして、もし助けが必要になった時は、精一杯支えてあげればいいのだわ…」
2人はそう言って、公爵と一緒ならきっと大丈夫だ、と自分たちに言い聞かせるように頷いた。
そうして僕は、少しだけ前向きになったらしい両親を支えて部屋で休ませた。
「なんだこの手紙は!?テイトはどこに行った?」
「あの子がどこにもいないわ!ああ、一体どこに行ったと言うの?」
アーデン伯爵家ではお父様とお母様が騒いでいた。
2人はつい先程僕たちの部屋で手紙を見つけ、それを読むや否や騒ぎ出したのだ。
気付くのこそ遅かったが、2人のこんな取り乱した姿は初めて見るかもしれない。そう思って彼らが机に放り出した手紙を拾う。
そして、それを見て再びため息をついた。
これはテイトも悪い。
彼が両親に残した手紙には『今までありがとう。俺はこの国を出ていきます。どうかお元気で』としか書かれていなかった。
そんなものを残されれば心配するのは当然だ。
なんなら自殺行為に走ってしまったとでも思っているかもしれない。
これで2人の慌てようの訳を理解した。
そして、今の彼らを見ていると本当はテイトのことをこんなにも愛していたのだなとしみじみと思う。今になってこんな形でわかるというのも寂しい物だが…
最初こそ冷めた目で見ていた僕だが、これは詳細を教えてあげないと可哀想だと思った。そして2人が私兵を導入して捜索させようなんて話をし始めた頃、慌てて事情を説明しに入った。
「公爵と一緒に国を出ただと…?」
「はい…」
事情を聞いたお父様が目を丸くする。
「カイン、あなた知っていて止めなかったの?」
お母様も信じられないと言った表情を浮かべた。
「それは…その方がテイトにとっても幸せだと思ったので」
僕がそう言うと2人は辛そうな顔をして俯いた。
「そう、か…公爵と一緒か…それならひとまずは安心だな」
「ええ、もしかしたら自棄になって…と心配していたけれど、そうではなくて安心したわ…」
半ば放心したようにお父様が息を吐き、お母様もよろよろと椅子に座り込んだ。
「こんな形で別れることになるとは」
「そうね、でもあの子にとってここは居心地が悪かったでしょうから」
悲しそうにする2人を嘲笑うことは出来ない。なぜならテイトを傷つけ続けていたのは自分も同じだからだ。
「テイトはお二人の愛情には気づいていました。少なくともここ数年では」
気付けば僕は両親を慰める言葉を口にしていた。
「それでもきっと、気まずさのようなものがあって、出ていくことを直接話せなかったんだと思います」
そしておずおずと両親の反応を見る。
「カイン、ありがとう。そうだな…私たちはあの子への接し方を間違えそのままどう接すれば良いのか分からなくなってしまった。あの子もきっとそうだったんだろう」
「あの子は幸せになるためにここを出て行ったのね…」
「はい…」
家族の中になんとも言えない寂しさが募る。
「それでテイトはどこへ行ったの?」
「それは、わかりません…」
「そう…もう私たちにしてあげられることはないのね」
「ああ、せめて幸せになってくれたらいいが…」
僕は2人の悲しそうな横顔を見て、今はどこにいるかもわからない双子の弟に心の中でつぶやいた。
(テイト、お父様とお母様はこんなにも君のことを愛しているよ)
そして不本意ながら両親を安心させるために彼のことを持ち出した。
「ヘンダーソン公爵が一緒ですから、大丈夫ですよ。絶対にテイトを幸せにしてくれるはずです」
(本当は僕がテイトを幸せにしてあげたかったんだけどな…)
今でも僕とテイトがずっと一緒にいられると思っていた幼い日々を度々夢に見る。そして、仲睦まじく暮らしている未来も。
いっそ公爵が現れなければと考えたこともあるけれど、きっとそれはテイトにとって不幸なことなんだろう。
僕は自分の幸せのためにテイトにそばにいて欲しかった。でもそれがテイトの幸せにならないと気づいてからは潔く、いや、かなり悩んでやっとのことで諦めた。
ここで僕たちに守られながら生活するより、彼と飛び立っていく方がテイトには幸せだ。僕はあの子に小さい頃みたいに笑っていて欲しかった。
そして僕は、テイトは今頃国境を越え、由を謳歌しているのだろうかと考え自然と笑みを浮かべた。
その僕の様子を見ていた両親がお互いを見て頷き合う。
「テイトは独り立ちして行ったんだな…それに、あの男ならきっとテイトを幸せにしてくれる…」
「そうね…私たちはあの子が公爵と幸せになることを祈りましょう。そして、もし助けが必要になった時は、精一杯支えてあげればいいのだわ…」
2人はそう言って、公爵と一緒ならきっと大丈夫だ、と自分たちに言い聞かせるように頷いた。
そうして僕は、少しだけ前向きになったらしい両親を支えて部屋で休ませた。
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