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本編

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「テイト!」

馬車から颯爽と降りてきたザックが俺を抱き上げる。

「ザック!寝坊はしなかったみたいだな」
「それはこちらのセリフですよ」

そしてそっと俺を下ろしカインに視線を送る。

「もう別れの挨拶は済みましたか?」
「ああ…大丈夫だ」

そう言ってカインを振り返る。彼は寂し気に笑って手を振った。

「では、行きましょうか」

そして、手を差し出したザックに捕まり馬車へと乗り込んだ。
走り出した馬車の窓から外を除けば、小さくなるカインが手を振り続けていた。


「テイト」

カインが見えなくなった頃、ザックが優しく俺を呼んだ。

「寂しいですか?」
「そんなことは…いや、やっぱり少し寂しいのかも。嫌な国とはいえ一応生まれ育った場所だからかな」

昨日まではこんなところになんの思い入れもないと思っていたが、ザックと出会ったのも、同じ境遇の人たちと励まし協力しあったのも、分かりにくくも愛してくれた家族がいるのもこの国だ。

自分で考えていた以上に俺はこの場所に思い入れがあったらしい。

「これからは、寂しなど感じる暇もないくらい幸せにしますから」

ザックが俺の手を取りながら慰めるようにそう言った。

「違うだろ?一緒に幸せになるんだ」
「ああ、そうでしたね」

すでに幸せだと言わんばかりに笑ったザックに、俺もこいつとならどんな場所だろうと幸せになれると思った。


「ところで、昨日はぐっすり眠れましたか?」
「なっ!お前、せっかく人が感動してたのに…!」

数秒前のやり取りはなんだったのかと思うほど、ザックが突然悪戯っぽく耳打ちしてきた。

「…眠れたに決まってるだろ」
「へえ、そうですか。自分で慰めたんですか?それともカインに手伝ってもらって?」
「お、お前、やっぱりカインが俺と一緒にいたがることを分かっててあんな事を…!」

するとザックはおかしそうに声を上げて笑った。

「当たり前でしょう?明日迎えに行くといえばカインが最後の機会を逃すはずありませんから」

そしてそっぽを向いて悪態をつく俺を軽々しく抱き上げて自分の膝へと座らせた。

「おい!下せよ!」
「嫌です。それに答えを聞いていませんし?」
「……ない」
「えっ?」
「だから、何もしてないっ!カインの前でできるわけないだろ!」

俺がやけくそになってそう叫ぶとザックは俺の肩に顔を埋めて笑った。

「ああ~腹立つ!さっさと離れろよ!」
「ふふっ、すいません。想像通りでしたが嬉しくて…私のことを想いながら眠りについてくれました?」
「…恨めしく思いながらって意味ではそうだな」

俺が苦々しくそう言えば、ザックは「それでも嬉しいです」と言って俺を強く抱きしめた。

「ほら、これからはいつでもキスしていいんでしょう?もう止める人もいませんし」
「い、いつでもじゃない!時と場所は選べ!」

顔を近づけてくるザックを慌てて手で押し返す。

「今は大丈夫な時と場所では?」

そう言ったザックは俺の左手を掴みキスをしてきた。抵抗できない状態にされたことにムカつきつつも、その甘いキスに次第に思考が溶かされていく。

「感じてるんですか?可愛い」
「ち、ちがっ」
「国境を超えたら、たくさん楽しみましょうね?今までできなかった分もたっぷりと」

そうしてザックは再び口付けをしてきて、俺は国境を越えるまでの間甘すぎる時間を過ごした。

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