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本編
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帰りの馬車の中、ヘンリーが改まった態度で口を開いた。
「さて、もう気づいていると思うが、私はアレクサンドリアの王太子ヘンリー・アークライトだ。こちらは妹のアリーチェ」
「初めまして、アリーチェ・アークライトです。兄がお世話になりました」
「あ、えっとテイト・アーデンです…」
高位貴族ではと思っていたがまさか王太子とは…他国の王族と同じ馬車に乗っていると思うと急に緊張してしまう。
「ふっ、そう固くなるな。今まで通り接してくれ」
「あ、ああ…いや、でも…」
俺がどんな言葉遣いで返せばいいか悩んでいるとヘンリーは少し寂しそうな顔をした。
「ここにいる間は、王太子ではなくヘンリー・ブレアムとしていさせてくれ」
「私からもお願いしますわ。お兄様はアーデン家での生活をとても楽しんでいらしたから」
2人の後押しに俺は渋々頷いた。
「…それなら今まで通り接しさせてもらうよ」
そして「お前がそうしろって言ったんだから後で不敬だとか言うなよ?」と念押しをする。そうすればヘンリーは「俺はお前の国の王太子とは違う」と言ってニカっと笑った。
そして改めて彼の口から事情を聞いた。
幼い頃から国同士で決まっていたジョフリー殿下と妹の婚約のこと、その彼女が昨年病で失明してしまったこと、そのことでこの国の信仰から彼女が大切にされないのではと懸念したこと。
「テイトの話はとても参考になったよ」
「そうか…?王族なら流石に大事にされたはずだと思いたいが…」
「ジョフリー殿の態度を見ただろう?期待できそうにないな」
「彼はまあ…特に嫌悪してるからな。アリーチェ王女殿下が嫌な思いをしていなければ良いんだが…」
俺がそう言って彼女をチラッと見ると、彼女は小さく微笑んだ。
「お気遣いいただきありがとうございます。私は大丈夫ですわ。もともと関係もさほどありませんでしたし、彼との婚約がなくなってホッとしてさえいます」
「そうですか。まあその方が良かったんでしょうね」
「そういうことだ。それより、お前を散々付き合わせて悪かったな」
ヘンリーが申し訳なさそうに言う。なんでも、事前にジョフリー殿下たちとの話し合いの場を設けられたくなくて、俺を隠れ蓑に王太子だとバレずにパーティーに参加したかったらしい。
「俺とパーティーに行きたがったのはそういう理由か」
「ああ、結果嫌な思いをさせてすまない。埋め合わせは必ずする」
「ま、あれくらい大したことじゃないさ。もちろん埋め合わせをしてくれるってなら受け取るが」
「ああ、期待していろ」
ヘンリーは尊大にふっと笑った。
「それで、一緒に出てきたはいいが、今日はどこに滞在する気なんだ?」
「ああ、私たちはテイトを送ったらホテルに泊まるよ。まだしばらくは婚約解消の件でこの国にいるだろうが」
「そうか…それなら俺たちが会うのは今日が最後かもな」
なんだかんだと言っていつの間にか親しくなっていたヘンリーと別れることに寂しさを感じる。
だが、しみじみと別れを口にした俺に対しヘンリーは気まず気に頬を掻いた。
「あー、それはどうだろうな。また近々会えると思うぞ?」
「それはどういう…?」
「まあ、詳しくはあいつに聞いてくれ。俺が言いたいのはこれが今生の別れじゃないってことだけだ」
「それなら嬉しいけど…」
はっきりとしないヘンリーに釈然としないが、また会えるという事実は純粋に嬉しかった。
どうやらこのことにもザックが噛んでいるようで、あいつはいくつ俺に秘密を持ってるのだと少し腹が立ったが…
「ほら、伯爵家についたぞ」
「ああ、ありがとう」
「明日は見送りに行けなくて悪いが、必ずまた顔を見に行くから」
「見送りなんて誰にも来てもらう気はないさ。それよりヘンリー達も元気で」
「ああ、お前も。それじゃあまたな」
そうして俺たちは短く別れを済ませた。
「さて、もう気づいていると思うが、私はアレクサンドリアの王太子ヘンリー・アークライトだ。こちらは妹のアリーチェ」
「初めまして、アリーチェ・アークライトです。兄がお世話になりました」
「あ、えっとテイト・アーデンです…」
高位貴族ではと思っていたがまさか王太子とは…他国の王族と同じ馬車に乗っていると思うと急に緊張してしまう。
「ふっ、そう固くなるな。今まで通り接してくれ」
「あ、ああ…いや、でも…」
俺がどんな言葉遣いで返せばいいか悩んでいるとヘンリーは少し寂しそうな顔をした。
「ここにいる間は、王太子ではなくヘンリー・ブレアムとしていさせてくれ」
「私からもお願いしますわ。お兄様はアーデン家での生活をとても楽しんでいらしたから」
2人の後押しに俺は渋々頷いた。
「…それなら今まで通り接しさせてもらうよ」
そして「お前がそうしろって言ったんだから後で不敬だとか言うなよ?」と念押しをする。そうすればヘンリーは「俺はお前の国の王太子とは違う」と言ってニカっと笑った。
そして改めて彼の口から事情を聞いた。
幼い頃から国同士で決まっていたジョフリー殿下と妹の婚約のこと、その彼女が昨年病で失明してしまったこと、そのことでこの国の信仰から彼女が大切にされないのではと懸念したこと。
「テイトの話はとても参考になったよ」
「そうか…?王族なら流石に大事にされたはずだと思いたいが…」
「ジョフリー殿の態度を見ただろう?期待できそうにないな」
「彼はまあ…特に嫌悪してるからな。アリーチェ王女殿下が嫌な思いをしていなければ良いんだが…」
俺がそう言って彼女をチラッと見ると、彼女は小さく微笑んだ。
「お気遣いいただきありがとうございます。私は大丈夫ですわ。もともと関係もさほどありませんでしたし、彼との婚約がなくなってホッとしてさえいます」
「そうですか。まあその方が良かったんでしょうね」
「そういうことだ。それより、お前を散々付き合わせて悪かったな」
ヘンリーが申し訳なさそうに言う。なんでも、事前にジョフリー殿下たちとの話し合いの場を設けられたくなくて、俺を隠れ蓑に王太子だとバレずにパーティーに参加したかったらしい。
「俺とパーティーに行きたがったのはそういう理由か」
「ああ、結果嫌な思いをさせてすまない。埋め合わせは必ずする」
「ま、あれくらい大したことじゃないさ。もちろん埋め合わせをしてくれるってなら受け取るが」
「ああ、期待していろ」
ヘンリーは尊大にふっと笑った。
「それで、一緒に出てきたはいいが、今日はどこに滞在する気なんだ?」
「ああ、私たちはテイトを送ったらホテルに泊まるよ。まだしばらくは婚約解消の件でこの国にいるだろうが」
「そうか…それなら俺たちが会うのは今日が最後かもな」
なんだかんだと言っていつの間にか親しくなっていたヘンリーと別れることに寂しさを感じる。
だが、しみじみと別れを口にした俺に対しヘンリーは気まず気に頬を掻いた。
「あー、それはどうだろうな。また近々会えると思うぞ?」
「それはどういう…?」
「まあ、詳しくはあいつに聞いてくれ。俺が言いたいのはこれが今生の別れじゃないってことだけだ」
「それなら嬉しいけど…」
はっきりとしないヘンリーに釈然としないが、また会えるという事実は純粋に嬉しかった。
どうやらこのことにもザックが噛んでいるようで、あいつはいくつ俺に秘密を持ってるのだと少し腹が立ったが…
「ほら、伯爵家についたぞ」
「ああ、ありがとう」
「明日は見送りに行けなくて悪いが、必ずまた顔を見に行くから」
「見送りなんて誰にも来てもらう気はないさ。それよりヘンリー達も元気で」
「ああ、お前も。それじゃあまたな」
そうして俺たちは短く別れを済ませた。
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