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本編

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「お三方とも大丈夫でしたか?」

なんとも言えない空気に取り残された状況で、ザックが外向きの言葉をかけてくる。

「ええ、間に入っていただきありがとうございました。お陰でやっと解放されました」

それにカインがにこやかに応えた。

「それは良かった。では私はこれで…」

ザックがそう言って去ったところで盛大なファンファーレが鳴った。王太子の入場だ。

主役の登場に皆が一斉に向き直り礼の姿勢を取る。
彼を祝う気持ちは全くないが、俺も形だけは周りに合わせた。
だが入場してきた当の本人はこの場に似つかわしくない浮かない顔だった。

自分の誕生パーティーだというのにあんな不機嫌そうに現れるなどどうしたことだろうか。
周囲もどう反応して良いか分からないといった雰囲気だ。


「ジョフリー殿下のお相手って…」
「ああ…」

周りの気まずそうな反応に、微妙な雰囲気の原因は彼のエスコート相手にあるとわかる。
王太子がいかにも嫌そうな顔で手を取ってやってきた相手の女性は目が見えないようだった。

俺が登場した時とは違って、陰口を叩くことのできない相手に皆沈黙を貫いている。だが感じていることは同じようで、会場の空気は凍りついたままだ。

さっさと挨拶を済ませて帰ろうと思っていたが、こんな状況で1番に名乗りを上げることができるのはよほど勇敢か馬鹿な奴だけだろう。

そう思っていたのだが、突然ヘンリーが王太子に向かって歩き出した。

「へ、ヘンリー?」
「すまない。あそこに用があるんだ」

そう言えばヘンリーの妹も失明したのだと言っていたか…そこまで考えてまさかと思い直す。
そうしている間にもヘンリーはさっさと王太子の元へと向かってしまい、その後を慌てて付いていった。

「久しぶりですね。ジョフリー殿下」
「ああ、そなたも来ていたのかヘンリー」

王太子は俺を一瞥したが今は構ってる余裕などないとばかりにヘンリーに向き直る。俺は王太子が当然のようにヘンリーに話しかけたことに驚きつつ彼の後ろに控えた。

「酷いではないか。を今日まで伝えてくれないなんて」

彼はそう言って隣にいる女性の顔を嫌そうに見る。
あまりに酷い態度に彼女の目が見えなくてかえって良かったかもしれないとさえ思うほどだ。

「そのことについては申し訳ない。繊細な問題だったのでな。それに、考える時間を与えず反応を見たかったんだ」
「反応?」
「ああ、これで決心がついたよ。アリーチェとの婚約は無かったことにしよう」
「本当か!?」

嬉しそうなジョフリー殿下だが、他の貴族たちは不安そうにざわつき始めた。そして隣の女性はそっと彼から手を離し、ヘンリーと腕を組み直す。

俺はどういうことか頭が追いつかないまま成り行きを見守っていると、後ろから誰かが小突いてきた。
振り返ればそこにいたのはカインだった。

「カイン?相手の令嬢のとこに戻らなくていいのか?」
「うん、今は友人と歓談してるよ。それより凄い事になったね」
「これ、何がどうなってるんだ?」
「僕も自信がなかったんだけど、やっと確信が持てたよ。他国のヘンリーで妹がジョフリー殿下の婚約者とくれば、アレクサンドリアの王太子だ」
「はっ!?」

つい大きな声を出してしまい慌てて声を抑える。

「王太子って…しかもアレクサンドリアといえば大国じゃないか」
「そうだね。ジョフリー殿下のあの態度…問題になるだろうな」

そう言って遠い目をしたカインは、今後この国の立場が悪くなることを懸念しているようだった。
他の貴族もそのことに気づいている者はいるようだが、ジョフリー殿下に物申せる者はいない。


「ええ、ジョフリー殿下も納得しているようですし、婚約は白紙にしましょう。いいですね?」

そうこうしている間にもヘンリーがジョフリー殿下に決断を促す。

「ああ、そうしてくれ。いくら王女とはいえ、我が国でこのような者と王族が結婚するのは外聞が悪い」

ジョフリー殿下はたいして考える間も設けずそう答えた。外聞以上に他国との関係性を考えた方が良さそうだが…

「わかりました。この話は後日正式に国王夫妻にもお話しさせていただきますが、ここにいる皆さんが承認となってくれることでしょう」

ヘンリーは勝ったとでも言うように小さく笑みを浮かべた。

「ああ、そうだな。では重たい話はここまでにして、皆パーティーを楽しんでくれ!ヘンリー、そなたたちもこのようなことになったのは申し訳ないが、せめて滞在中は楽しんでいってくれ」

自分の決断がどれほど影響を与えるかについて全く思い当たっていないらしい王太子は朗らかにそう言った。
だが、今の流れで引き続きパーティーを楽しめる人間はそう多くないだろう。

「せっかくの気遣いだが、アリーチェを休ませたいからお先に失礼するよ。テイトも行こう」
「あ、ああ」

急に話しかけられてビクッとしたが、ここで帰ることができるならそれに越したことはない。

「そうか、それは残念だ。気をつけて帰ってくれ」

ジョフリー殿下はさして残念そうでもなく言葉を返す。最後までアリーチェ王女個人への言葉がないのは徹底しているというかなんと言うか…彼女が気にしていない様子なのが救いか。

そう思いつつ下がらせてもらうため一礼をする。
顔を上げて会場を後にしようとすると、遠くにいたザックと目が合った。 
彼はイタズラっぽくウィンクをしてきて、なんだか今日の出来事は全て彼に仕組まれたことのように感じてしまう。

俺は後でザックを問いただすことを心に決め、ヘンリー達と会場を後にした。
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