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本編
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それから意識が飛んでしまった。
目が覚めるとベッドの上、体は綺麗にされた状態で横たわっていた。
「おはようございます、テイト」
横にはザックが寝転んでいて愛おしそうに俺の頬を撫でていた。
「おはよう…」
デジャブだが、無視するわけにはいかずボソボソと挨拶を返す。前回同様、俺は意識を失いザックが全て片付けてくれたらしい。
「昨日は最高の誕生日をありがとうございました。テイトも楽しんでくれましたか?」
耳元で囁いてくるザックに顔が熱くなる。
「お、俺はお前が楽しかったならそれで良いんだよ!」
俺はザックを押しやって距離を離しながらそう返すのがやっとで、一方引き離されたザックは楽しそうにクスクスと笑っていた。
「テイトの誕生日も盛大に祝いますから。期待しててください」
「ふーん、今度はザックが俺の喜ぶことを何でもしてくれるってわけか?」
俺の誕生日には馬鹿にしてきた仕返しをしてやろう。そう思ってザックが何でもしてくれると言ったら何をしてもらおうかと考えを巡らす。
「ええ、テイトのイイところは昨日たっぷり知ることができましたから。喜ばせられるかと」
「そ、そういうことじゃなくて…」
だが、そんな手には乗らないとばかりに逆に言いくるめられてしまった。
「ふふっ、テイトは今のままの純粋なままでいてくださいね」
「くっ、駆け引きに慣れてないのを馬鹿にしやがって…」
「馬鹿になんてしません。愛おしく思っているだけです」
「ものは言いようだな」
「機嫌を損ねないでくださいよ。また少しの間お別れなんですから」
「機嫌を損ねてなんていない。でもまあ、そうだな…」
ザックの隣は落ち着く分、またしばらく公に会うことができないと思うと寂しさが募る。
「テイトがこんな顔をしてくれるなら少しは離れ離れになってもいいかと思えますね」
少し嬉しそうなザックが額にキスをしてくる。子供をあやすようなその態度に、どちらが歳上かわからなくなってしまいそうだ。
「なんだか俺ばっかり寂しがってるみたいで腹が立つ」
「そんなわけないでしょう?私だってすごく寂しいです。それに、そう長くは待たせませんから」
そうして再び優しいキスを落とされた。
この時間は幸せで、まだまだこうしていたいがそろそろ帰らなければならない。
俺は気怠い体を持ち上げた。
心配そうなザックがせめて家まで送ろうと提案してきたが、まだこの関係がバレるべきではないので断る。
「昨日から少し顔色が悪かったので気を遣ったつもりだったんですが…」
「ああ、魔力を込めるのにだいぶ力を入れたからかな…というかあれで気を遣ったつもりだったのか?」
全く感じられなかったが、あれでも気を遣われていたと知って余計に顔が青ざめる。その気遣いがなければ俺はどうなっていたのだろう。
そんな不安は残ったが、俺たちは軽めの朝食を取った後それぞれ帰路についた。
ーーー
家に帰ると部屋ではヘンリーとカインが待ち構えていた。
「テイト!おかえり。大丈夫だった!?」
「あいつと一緒にいて大丈夫なわけないだろ」
心配そうなカインとは対照的にヘンリーはニヤニヤと笑っている。
自分の朝帰りを迎えられるなんて居た堪れない気分だ。
「…放っておいてくれ」
「ふっ、やっと俺にもその態度になったか。お前の敬語は気持ち悪いからこれからもそのままでいろ」
「はぁ…それならお言葉に甘えて…」
いつもは客人である彼に多少は丁寧な言葉遣いで接していたのだが、つい疲れて素で返してしまった。でも彼の性格も分かってきたし、本人が良いというなら良いかと投げやりに返事をする。
そして、俺は2人の間を通り抜けベッドに倒れ込んだ。正直立っているのも辛いほど腰が痛い。
「随分疲れてるな?やっぱ夜は大変だったか」
「ぐっ、あいつやっばりテイトに良からぬことを…」
2人がなおも話しかけてくるが、それにいちいち反応するのも馬鹿らしい。
「まあ、冗談はこのくらいで、伯爵が俺たち3人をお呼びだぞ。お前が帰ってくるのを待ってたんだ」
「え、伯爵ってお父様が…?」
「ああ、そうなんだよ。3人に話があるみたい。珍しいよね」
「分かった。それなら今すぐ…うっ」
立ち上がろうとしたら腰に鈍い痛みが走る。
「俺たちもそこまで酷じゃない。もう少し休んでからでいいさ」
皮肉っぽい笑みを浮かべたヘンリーの気遣いに羞恥心を感じる。だが、今からお父様の話を聞く気にもなれず、その気遣いに甘えることとなった。
目が覚めるとベッドの上、体は綺麗にされた状態で横たわっていた。
「おはようございます、テイト」
横にはザックが寝転んでいて愛おしそうに俺の頬を撫でていた。
「おはよう…」
デジャブだが、無視するわけにはいかずボソボソと挨拶を返す。前回同様、俺は意識を失いザックが全て片付けてくれたらしい。
「昨日は最高の誕生日をありがとうございました。テイトも楽しんでくれましたか?」
耳元で囁いてくるザックに顔が熱くなる。
「お、俺はお前が楽しかったならそれで良いんだよ!」
俺はザックを押しやって距離を離しながらそう返すのがやっとで、一方引き離されたザックは楽しそうにクスクスと笑っていた。
「テイトの誕生日も盛大に祝いますから。期待しててください」
「ふーん、今度はザックが俺の喜ぶことを何でもしてくれるってわけか?」
俺の誕生日には馬鹿にしてきた仕返しをしてやろう。そう思ってザックが何でもしてくれると言ったら何をしてもらおうかと考えを巡らす。
「ええ、テイトのイイところは昨日たっぷり知ることができましたから。喜ばせられるかと」
「そ、そういうことじゃなくて…」
だが、そんな手には乗らないとばかりに逆に言いくるめられてしまった。
「ふふっ、テイトは今のままの純粋なままでいてくださいね」
「くっ、駆け引きに慣れてないのを馬鹿にしやがって…」
「馬鹿になんてしません。愛おしく思っているだけです」
「ものは言いようだな」
「機嫌を損ねないでくださいよ。また少しの間お別れなんですから」
「機嫌を損ねてなんていない。でもまあ、そうだな…」
ザックの隣は落ち着く分、またしばらく公に会うことができないと思うと寂しさが募る。
「テイトがこんな顔をしてくれるなら少しは離れ離れになってもいいかと思えますね」
少し嬉しそうなザックが額にキスをしてくる。子供をあやすようなその態度に、どちらが歳上かわからなくなってしまいそうだ。
「なんだか俺ばっかり寂しがってるみたいで腹が立つ」
「そんなわけないでしょう?私だってすごく寂しいです。それに、そう長くは待たせませんから」
そうして再び優しいキスを落とされた。
この時間は幸せで、まだまだこうしていたいがそろそろ帰らなければならない。
俺は気怠い体を持ち上げた。
心配そうなザックがせめて家まで送ろうと提案してきたが、まだこの関係がバレるべきではないので断る。
「昨日から少し顔色が悪かったので気を遣ったつもりだったんですが…」
「ああ、魔力を込めるのにだいぶ力を入れたからかな…というかあれで気を遣ったつもりだったのか?」
全く感じられなかったが、あれでも気を遣われていたと知って余計に顔が青ざめる。その気遣いがなければ俺はどうなっていたのだろう。
そんな不安は残ったが、俺たちは軽めの朝食を取った後それぞれ帰路についた。
ーーー
家に帰ると部屋ではヘンリーとカインが待ち構えていた。
「テイト!おかえり。大丈夫だった!?」
「あいつと一緒にいて大丈夫なわけないだろ」
心配そうなカインとは対照的にヘンリーはニヤニヤと笑っている。
自分の朝帰りを迎えられるなんて居た堪れない気分だ。
「…放っておいてくれ」
「ふっ、やっと俺にもその態度になったか。お前の敬語は気持ち悪いからこれからもそのままでいろ」
「はぁ…それならお言葉に甘えて…」
いつもは客人である彼に多少は丁寧な言葉遣いで接していたのだが、つい疲れて素で返してしまった。でも彼の性格も分かってきたし、本人が良いというなら良いかと投げやりに返事をする。
そして、俺は2人の間を通り抜けベッドに倒れ込んだ。正直立っているのも辛いほど腰が痛い。
「随分疲れてるな?やっぱ夜は大変だったか」
「ぐっ、あいつやっばりテイトに良からぬことを…」
2人がなおも話しかけてくるが、それにいちいち反応するのも馬鹿らしい。
「まあ、冗談はこのくらいで、伯爵が俺たち3人をお呼びだぞ。お前が帰ってくるのを待ってたんだ」
「え、伯爵ってお父様が…?」
「ああ、そうなんだよ。3人に話があるみたい。珍しいよね」
「分かった。それなら今すぐ…うっ」
立ち上がろうとしたら腰に鈍い痛みが走る。
「俺たちもそこまで酷じゃない。もう少し休んでからでいいさ」
皮肉っぽい笑みを浮かべたヘンリーの気遣いに羞恥心を感じる。だが、今からお父様の話を聞く気にもなれず、その気遣いに甘えることとなった。
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