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本編
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そして誕生日の当日、俺は宿に先に行ってザックを待った。
いるのは俺1人だ。ヘンリーやカインにも一緒に祝うかと尋ねたが「そんな無粋な真似はしない」と言ってヘンリーがカインを引っ張っていってしまった。
ザックと会えることにワクワクしつつ、1人になってしまったことに寂しさを感じる。
貸し切った宿は飾り付けも済んでいて、料理の用意もバッチリだ。あとはザックが来るだけだが…
そう思っていると扉をノックする音がした。
「テイト?私です」
「ザック!」
俺は急いで扉を開ける。
外には変装のためか、普段の俺と同じようにローブを被っているザックがいた。
「あっ…えっと、誕生日おめでとう」
もっとちゃんと祝ってやろうと思っていたのにいざザックと対面すると緊張して言葉が出ない。
「テイト。私の誕生日を覚えていてくれたんですね」
そんな俺をよそにあいつは嬉しそうに笑った。
「そんなの当然だろ。お前が誕生日の前にいなくなるもんだから、ずっと約束を果たせなくて引っ掛かってたんだ」
「ふふっ、それはすいません。でもおかげで忘れずにいてもらえたなら楽しみを取っておいて良かったかもしれません」
「…約束なんかなくても忘れたりしないさ」
ザックが居なくなって死んだと思っていた日々のことを思い出すと今でも胸が締め付けられる。実際にあり得た未来だからこそ尚更に。
「ああ、すいません。それはもう分かっています。それでもこうして覚えて祝ってもらえることが嬉しくてつい」
そう言ってザックは俺の額にキスをした。
「そんなに喜んでもらえるか分からないけど…まあ入ってくれ」
真っ直ぐに向けられるザックの気持ちにくすぐったさを感じつつザックを招き入れる。
「すごい!これテイトが用意してくれたんですか?」
「ああ…飾り付けはヘンリーとカインにも手伝ってもらったけど」
「へぇ、あの2人が」
「ああ、気を遣って今日は来なかったが…」
「彼らもそのくらいの気遣いはできるんですね。この場にいなくて良かったです。いたらテイトとこうしてキスしたりできないですし」
そう言ってザックは俺の手を取って再びキス落としてくる。
「ザックっ!これじゃあどっちが祝われてるか分からないだろ」
「つまりテイトは私にキスをされて嬉しいってことですか?」
「なっ!そ、それは…そんなこより晩餐を用意したんだ!冷める前に食べよう」
俺は揚げ足を取られたようで恥ずかしくなり、慌てて話を逸らした。
「テイトの手作りですか!楽しみです」
少し含み笑いをしながら席に着いたザックに、全て見透かされているような気がする。
俺は顔の熱が収まらないままザックの前に食事を並べた。
「どれも美味しいです。用意するのは大変だったでしょう?本当にありがとうございます」
「大したことじゃない。全部を俺が作ったわけじゃないし…」
「それでも嬉しいです」
「まぁ、喜んでくれてよかった…そうだプレゼントも渡させてくれ」
真剣な表情で礼を何度も述べるザックに照れ臭くなりながら用意したブローチの箱を取り出した。
「開けても?」
「ああ…」
ザックが包みを開ける様子をドキドキしながら見守る。喜んでくれるだろうか…もし内心ではガッカリしていたら…そう気になって注意深くザックの顔色を伺う。
「これは…ブローチ?」
「ああ、ヘンリーに聞いたんだ。自分の魔力を込めた魔石をプレゼントするのがその…恋人たちの間で人気だって…」
「恋人…テイト、ありがとうございます。これ、空の色みたいでとても綺麗だ。なんだかテイトの瞳の色みたいですね」
「そうかな…俺の魔力が影響してるのかも」
「これを持ってるとなんだかテイトが近くにいるみたいです。大事にしますね」
ザックは柔らかく笑ってブローチを胸の前で握りしめた。どうやらガッカリはしていないようだ。その様子にホッとする。
「さっそく着けて頂けませんか?」
「ああ、でも良いのか?」
既に付けている高価そうなブローチに目をやれば、「テイトからのプレゼントの方が良いに決まっています」と笑われた。
「分かった。付けるからじっとしててくれ」
俺はザックの前に屈んでブローチを付け替える。
「これでよし」
「どうです?似合っていますか?」
「俺がデザインしたんだ。当たり前だろう」
胸を張るザックに俺も大口で返す。
「ふふっ。今日は人生最高の誕生日です。本当にありがとう」
「この程度で最高だなんて、今まではよほど酷い誕生日だったんだな」
その言葉がすごく嬉しいのに、いつもの癖で憎まれ口を叩いてしまった。やってしまったと思って慌ててザックを見るが、彼の表情は変わらない。
「それはテイトも良く知ってるでしょう?」
「ああ…悪い。でも公爵になってからは盛大に祝われていたんじゃないのか?」
「いえ、パーティーを計画してくれる親族もいませんし、自分で開くのもね…」
「そうだったのか。ごめん…俺、お前のことを知ってるようで知らないことばかりだ」
「そんなことありませんよ。私にとってはテイトが全てですから、殆ど知っているようなものです」
「何だそれ」
ザックが俺の頬を手の平で包む。その温かさが心地よくて、自分の手を重ねた。
「悪かった…昔、目一杯祝ってやるなんて言った手前こんな誕生日パーティーでガッカリしたんじゃないかと不安でさ…」
「私はテイトが祝ってくれたというだけでものすごく嬉しいですよ?」
「ふっ、安上がりなやつだな」
ザックはこう言ってくれる奴だと分かっている。それでも直にその言葉を聞けると嬉しかった。
「何とでも言ってください。それで、この後はどうするんですか?」
「ケーキを用意してある」
「その後は…?」
「…お前の好きなように」
「そんなこと言っていいんですか?」
そう言ってザックがニヤッと意地悪く笑う。俺は少し怖気付きながらも口を開いた。
「今日はお前が喜ぶなら何だってするさ」
そういう展開になるかもしれない、いやむしろならなかったら少し落ち込んでしまうと思うくらいには想定していたことだ。だからそう言ったのだが…
「…まったく、そんなこと言ったらダメじゃないですか。その言葉、後悔しないでくださいね」
目を細めてそう言い放ったザックに腰が引ける。
「うっ、その…お手柔らかに頼む」
「約束は出来ませんね」
いつもより獰猛な雰囲気を纏って笑ったザックに、自分はとんでもない失言をしたのではないかと不安になったが、すでに後の祭りだった。
いるのは俺1人だ。ヘンリーやカインにも一緒に祝うかと尋ねたが「そんな無粋な真似はしない」と言ってヘンリーがカインを引っ張っていってしまった。
ザックと会えることにワクワクしつつ、1人になってしまったことに寂しさを感じる。
貸し切った宿は飾り付けも済んでいて、料理の用意もバッチリだ。あとはザックが来るだけだが…
そう思っていると扉をノックする音がした。
「テイト?私です」
「ザック!」
俺は急いで扉を開ける。
外には変装のためか、普段の俺と同じようにローブを被っているザックがいた。
「あっ…えっと、誕生日おめでとう」
もっとちゃんと祝ってやろうと思っていたのにいざザックと対面すると緊張して言葉が出ない。
「テイト。私の誕生日を覚えていてくれたんですね」
そんな俺をよそにあいつは嬉しそうに笑った。
「そんなの当然だろ。お前が誕生日の前にいなくなるもんだから、ずっと約束を果たせなくて引っ掛かってたんだ」
「ふふっ、それはすいません。でもおかげで忘れずにいてもらえたなら楽しみを取っておいて良かったかもしれません」
「…約束なんかなくても忘れたりしないさ」
ザックが居なくなって死んだと思っていた日々のことを思い出すと今でも胸が締め付けられる。実際にあり得た未来だからこそ尚更に。
「ああ、すいません。それはもう分かっています。それでもこうして覚えて祝ってもらえることが嬉しくてつい」
そう言ってザックは俺の額にキスをした。
「そんなに喜んでもらえるか分からないけど…まあ入ってくれ」
真っ直ぐに向けられるザックの気持ちにくすぐったさを感じつつザックを招き入れる。
「すごい!これテイトが用意してくれたんですか?」
「ああ…飾り付けはヘンリーとカインにも手伝ってもらったけど」
「へぇ、あの2人が」
「ああ、気を遣って今日は来なかったが…」
「彼らもそのくらいの気遣いはできるんですね。この場にいなくて良かったです。いたらテイトとこうしてキスしたりできないですし」
そう言ってザックは俺の手を取って再びキス落としてくる。
「ザックっ!これじゃあどっちが祝われてるか分からないだろ」
「つまりテイトは私にキスをされて嬉しいってことですか?」
「なっ!そ、それは…そんなこより晩餐を用意したんだ!冷める前に食べよう」
俺は揚げ足を取られたようで恥ずかしくなり、慌てて話を逸らした。
「テイトの手作りですか!楽しみです」
少し含み笑いをしながら席に着いたザックに、全て見透かされているような気がする。
俺は顔の熱が収まらないままザックの前に食事を並べた。
「どれも美味しいです。用意するのは大変だったでしょう?本当にありがとうございます」
「大したことじゃない。全部を俺が作ったわけじゃないし…」
「それでも嬉しいです」
「まぁ、喜んでくれてよかった…そうだプレゼントも渡させてくれ」
真剣な表情で礼を何度も述べるザックに照れ臭くなりながら用意したブローチの箱を取り出した。
「開けても?」
「ああ…」
ザックが包みを開ける様子をドキドキしながら見守る。喜んでくれるだろうか…もし内心ではガッカリしていたら…そう気になって注意深くザックの顔色を伺う。
「これは…ブローチ?」
「ああ、ヘンリーに聞いたんだ。自分の魔力を込めた魔石をプレゼントするのがその…恋人たちの間で人気だって…」
「恋人…テイト、ありがとうございます。これ、空の色みたいでとても綺麗だ。なんだかテイトの瞳の色みたいですね」
「そうかな…俺の魔力が影響してるのかも」
「これを持ってるとなんだかテイトが近くにいるみたいです。大事にしますね」
ザックは柔らかく笑ってブローチを胸の前で握りしめた。どうやらガッカリはしていないようだ。その様子にホッとする。
「さっそく着けて頂けませんか?」
「ああ、でも良いのか?」
既に付けている高価そうなブローチに目をやれば、「テイトからのプレゼントの方が良いに決まっています」と笑われた。
「分かった。付けるからじっとしててくれ」
俺はザックの前に屈んでブローチを付け替える。
「これでよし」
「どうです?似合っていますか?」
「俺がデザインしたんだ。当たり前だろう」
胸を張るザックに俺も大口で返す。
「ふふっ。今日は人生最高の誕生日です。本当にありがとう」
「この程度で最高だなんて、今まではよほど酷い誕生日だったんだな」
その言葉がすごく嬉しいのに、いつもの癖で憎まれ口を叩いてしまった。やってしまったと思って慌ててザックを見るが、彼の表情は変わらない。
「それはテイトも良く知ってるでしょう?」
「ああ…悪い。でも公爵になってからは盛大に祝われていたんじゃないのか?」
「いえ、パーティーを計画してくれる親族もいませんし、自分で開くのもね…」
「そうだったのか。ごめん…俺、お前のことを知ってるようで知らないことばかりだ」
「そんなことありませんよ。私にとってはテイトが全てですから、殆ど知っているようなものです」
「何だそれ」
ザックが俺の頬を手の平で包む。その温かさが心地よくて、自分の手を重ねた。
「悪かった…昔、目一杯祝ってやるなんて言った手前こんな誕生日パーティーでガッカリしたんじゃないかと不安でさ…」
「私はテイトが祝ってくれたというだけでものすごく嬉しいですよ?」
「ふっ、安上がりなやつだな」
ザックはこう言ってくれる奴だと分かっている。それでも直にその言葉を聞けると嬉しかった。
「何とでも言ってください。それで、この後はどうするんですか?」
「ケーキを用意してある」
「その後は…?」
「…お前の好きなように」
「そんなこと言っていいんですか?」
そう言ってザックがニヤッと意地悪く笑う。俺は少し怖気付きながらも口を開いた。
「今日はお前が喜ぶなら何だってするさ」
そういう展開になるかもしれない、いやむしろならなかったら少し落ち込んでしまうと思うくらいには想定していたことだ。だからそう言ったのだが…
「…まったく、そんなこと言ったらダメじゃないですか。その言葉、後悔しないでくださいね」
目を細めてそう言い放ったザックに腰が引ける。
「うっ、その…お手柔らかに頼む」
「約束は出来ませんね」
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