81 / 101
本編
81
しおりを挟む
それから数日。引き続きヘンリーを案内する日々が続いた。
とは言っても、彼は前のように俺で周囲の反応を試すようなことはしなくなり、ただの観光案内と化している。
だが、それだと彼の参考にならないだろうと思い、スラムの家に連れて行ってルイスと交流を持たせたりもした。
ヘンリーはそこで皆の話を聞いて、妹をこの国に嫁がせるわけにはいかないと固く決意をしたようだ。…一体どんな悲惨な話を聞いたのか、同類の俺ですら怖くて尋ねられなかった。
そうこうしているうちにザックの誕生日が間近に迫ってきた。俺はどうやって祝ってやろうかと考えを巡らす。
以前はささやかながら思い出に残るようなお祝いをと思っていたが、彼が公爵になってしまった今ではイメージを修正せざるを得ない。
そもそもプレゼントすら良いものが思い浮かばないのだ。
そうして帰り際に悩んでいるとヘンリーに話しかけられた。
「何をさっきからうんうん唸っているんだ?」
「いや、実はもうすぐザックの誕生日で…」
「ああ、そういえばそうだったな」
「昔、祝ってやると約束したんですが、彼が留学してしまいずっと果たせないままだったんです。だから、その約束を果たす意味でも、あいつを喜ばせたくて」
そう言うと彼は「何だそんなことか」と呆れたように言った。
「そんなの、自分にリボンでも巻いて俺がプレゼントだとでも言えばあいつは跳んで喜ぶぞ」
「なっ!それは…絶対に嫌です…」
思わず想像してしまい顔を顰めた俺をヘンリーが笑う。
「まあそう言うと思った」
「他にあいつが好きそうなものとか…」
「お前が贈ったものならなんでも喜ぶさ」
だからこそ困っているのだ。そう思って大きなため息をつく。
ザックは俺が何をやっても喜んではくれるだろう。だがやはり心から喜んでもらいたい。それに大切な約束を果たすのにそんな適当なプレゼントで済ませたくはなかった。
再び悩み始めた俺を見てヘンリーは呆れたように肩をすくめる。
「私の国では魔石に魔力を込めて恋人に贈るのが流行っていたぞ。それを身につけていると相手の存在をいつでも感じられるとかで」
「相手の存在を感じられる…」
その言葉に心惹かれる。魔石なら店で購入することができるし、大したことはないが俺でも魔力を込めることくらいはできる。
魔石を装飾品に加工すればプレゼントとしても良いかもしれない。
「ヘンリー、ありがとうございます!検討してみます」
その後、俺はさっそく魔石ショップを見てくると言って、ヘンリーを馬車で先に帰らせた。
魔石ショップなどあまり訪れる機会がなかったが、客は貴族だけではないようで、ローブを被っていても不審がられることはなかった。そのことに安心して入口へと向かう。
ショーウィンドウには大小様々な魔石が置いてあった。色は込める魔力によって変わるので、その中から加工しやすそうな魔石を探す。
どうせなら身につけやすいもの…ブローチなんかがいいかもしれない。小ぶりのものにすれば他とも組み合わせることができるだろう。
そう考え、小さくて透明度の高い魔石を選んだ。
まずはそれを宝石商へ持って行って加工を頼む。周りに金の装飾を付けてもらうのだ。
とりあえず依頼したデザインだと完成まで2日かかると言われ、店を後にした。その間に他の準備も進めなければ。
そして俺は会場として町外れの宿を貸し切り、ザックへ招待状を贈った。装飾づくりはヘンリーも手伝ってくれて、途中からは俺たちが何をしているのか気になったらしいカインも加わった。
まあザックの誕生日パーティーだと聞いた時は「僕だってテイトにこんな風に祝ってもらったことないのに」とぶつくさ言っていたが…
そして2日後、形が出来上がったブローチを受け取ってきた。いよいよ魔力を込める段階だ。
他の準備を優先したせいですっかり夜になってしまったが、俺は少しずつその魔石に魔力を流し込んでいく。そういえば、どの程度流し込めばいいのかはよく知らなかったし、聞こうにもヘンリーは寝てしまっている。
今更ながらこれをザックが喜んでくれるか不安に思いつつ、とりあえず俺はありったけの魔力を流した。
とは言っても、彼は前のように俺で周囲の反応を試すようなことはしなくなり、ただの観光案内と化している。
だが、それだと彼の参考にならないだろうと思い、スラムの家に連れて行ってルイスと交流を持たせたりもした。
ヘンリーはそこで皆の話を聞いて、妹をこの国に嫁がせるわけにはいかないと固く決意をしたようだ。…一体どんな悲惨な話を聞いたのか、同類の俺ですら怖くて尋ねられなかった。
そうこうしているうちにザックの誕生日が間近に迫ってきた。俺はどうやって祝ってやろうかと考えを巡らす。
以前はささやかながら思い出に残るようなお祝いをと思っていたが、彼が公爵になってしまった今ではイメージを修正せざるを得ない。
そもそもプレゼントすら良いものが思い浮かばないのだ。
そうして帰り際に悩んでいるとヘンリーに話しかけられた。
「何をさっきからうんうん唸っているんだ?」
「いや、実はもうすぐザックの誕生日で…」
「ああ、そういえばそうだったな」
「昔、祝ってやると約束したんですが、彼が留学してしまいずっと果たせないままだったんです。だから、その約束を果たす意味でも、あいつを喜ばせたくて」
そう言うと彼は「何だそんなことか」と呆れたように言った。
「そんなの、自分にリボンでも巻いて俺がプレゼントだとでも言えばあいつは跳んで喜ぶぞ」
「なっ!それは…絶対に嫌です…」
思わず想像してしまい顔を顰めた俺をヘンリーが笑う。
「まあそう言うと思った」
「他にあいつが好きそうなものとか…」
「お前が贈ったものならなんでも喜ぶさ」
だからこそ困っているのだ。そう思って大きなため息をつく。
ザックは俺が何をやっても喜んではくれるだろう。だがやはり心から喜んでもらいたい。それに大切な約束を果たすのにそんな適当なプレゼントで済ませたくはなかった。
再び悩み始めた俺を見てヘンリーは呆れたように肩をすくめる。
「私の国では魔石に魔力を込めて恋人に贈るのが流行っていたぞ。それを身につけていると相手の存在をいつでも感じられるとかで」
「相手の存在を感じられる…」
その言葉に心惹かれる。魔石なら店で購入することができるし、大したことはないが俺でも魔力を込めることくらいはできる。
魔石を装飾品に加工すればプレゼントとしても良いかもしれない。
「ヘンリー、ありがとうございます!検討してみます」
その後、俺はさっそく魔石ショップを見てくると言って、ヘンリーを馬車で先に帰らせた。
魔石ショップなどあまり訪れる機会がなかったが、客は貴族だけではないようで、ローブを被っていても不審がられることはなかった。そのことに安心して入口へと向かう。
ショーウィンドウには大小様々な魔石が置いてあった。色は込める魔力によって変わるので、その中から加工しやすそうな魔石を探す。
どうせなら身につけやすいもの…ブローチなんかがいいかもしれない。小ぶりのものにすれば他とも組み合わせることができるだろう。
そう考え、小さくて透明度の高い魔石を選んだ。
まずはそれを宝石商へ持って行って加工を頼む。周りに金の装飾を付けてもらうのだ。
とりあえず依頼したデザインだと完成まで2日かかると言われ、店を後にした。その間に他の準備も進めなければ。
そして俺は会場として町外れの宿を貸し切り、ザックへ招待状を贈った。装飾づくりはヘンリーも手伝ってくれて、途中からは俺たちが何をしているのか気になったらしいカインも加わった。
まあザックの誕生日パーティーだと聞いた時は「僕だってテイトにこんな風に祝ってもらったことないのに」とぶつくさ言っていたが…
そして2日後、形が出来上がったブローチを受け取ってきた。いよいよ魔力を込める段階だ。
他の準備を優先したせいですっかり夜になってしまったが、俺は少しずつその魔石に魔力を流し込んでいく。そういえば、どの程度流し込めばいいのかはよく知らなかったし、聞こうにもヘンリーは寝てしまっている。
今更ながらこれをザックが喜んでくれるか不安に思いつつ、とりあえず俺はありったけの魔力を流した。
153
お気に入りに追加
3,224
あなたにおすすめの小説
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。
蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。
見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。
暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!?
山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕!
18禁要素がある話は※で表します。
前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます
当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は……
「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」
天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。
* * * * * * * * *
母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。
○注意◯
・基本コメディ時折シリアス。
・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。
・最初は恋愛要素が少なめ。
・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。
・本来の役割を見失ったルビ。
・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。
エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。
2020/09/05
内容紹介及びタグを一部修正しました。
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる