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本編

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それから数日。引き続きヘンリーを案内する日々が続いた。

とは言っても、彼は前のように俺で周囲の反応を試すようなことはしなくなり、ただの観光案内と化している。

だが、それだと彼の参考にならないだろうと思い、スラムの家に連れて行ってルイスと交流を持たせたりもした。

ヘンリーはそこで皆の話を聞いて、妹をこの国に嫁がせるわけにはいかないと固く決意をしたようだ。…一体どんな悲惨な話を聞いたのか、同類の俺ですら怖くて尋ねられなかった。

そうこうしているうちにザックの誕生日が間近に迫ってきた。俺はどうやって祝ってやろうかと考えを巡らす。

以前はささやかながら思い出に残るようなお祝いをと思っていたが、彼が公爵になってしまった今ではイメージを修正せざるを得ない。

そもそもプレゼントすら良いものが思い浮かばないのだ。
そうして帰り際に悩んでいるとヘンリーに話しかけられた。

「何をさっきからうんうん唸っているんだ?」
「いや、実はもうすぐザックの誕生日で…」
「ああ、そういえばそうだったな」
「昔、祝ってやると約束したんですが、彼が留学してしまいずっと果たせないままだったんです。だから、その約束を果たす意味でも、あいつを喜ばせたくて」

そう言うと彼は「何だそんなことか」と呆れたように言った。

「そんなの、自分にリボンでも巻いて俺がプレゼントだとでも言えばあいつは跳んで喜ぶぞ」
「なっ!それは…絶対に嫌です…」

思わず想像してしまい顔を顰めた俺をヘンリーが笑う。

「まあそう言うと思った」
「他にあいつが好きそうなものとか…」
「お前が贈ったものならなんでも喜ぶさ」

だからこそ困っているのだ。そう思って大きなため息をつく。

ザックは俺が何をやっても喜んではくれるだろう。だがやはり心から喜んでもらいたい。それに大切な約束を果たすのにそんな適当なプレゼントで済ませたくはなかった。

再び悩み始めた俺を見てヘンリーは呆れたように肩をすくめる。

「私の国では魔石に魔力を込めて恋人に贈るのが流行っていたぞ。それを身につけていると相手の存在をいつでも感じられるとかで」
「相手の存在を感じられる…」

その言葉に心惹かれる。魔石なら店で購入することができるし、大したことはないが俺でも魔力を込めることくらいはできる。

魔石を装飾品に加工すればプレゼントとしても良いかもしれない。

「ヘンリー、ありがとうございます!検討してみます」

その後、俺はさっそく魔石ショップを見てくると言って、ヘンリーを馬車で先に帰らせた。


魔石ショップなどあまり訪れる機会がなかったが、客は貴族だけではないようで、ローブを被っていても不審がられることはなかった。そのことに安心して入口へと向かう。

ショーウィンドウには大小様々な魔石が置いてあった。色は込める魔力によって変わるので、その中から加工しやすそうな魔石を探す。

どうせなら身につけやすいもの…ブローチなんかがいいかもしれない。小ぶりのものにすれば他とも組み合わせることができるだろう。
そう考え、小さくて透明度の高い魔石を選んだ。

まずはそれを宝石商へ持って行って加工を頼む。周りに金の装飾を付けてもらうのだ。

とりあえず依頼したデザインだと完成まで2日かかると言われ、店を後にした。その間に他の準備も進めなければ。

そして俺は会場として町外れの宿を貸し切り、ザックへ招待状を贈った。装飾づくりはヘンリーも手伝ってくれて、途中からは俺たちが何をしているのか気になったらしいカインも加わった。

まあザックの誕生日パーティーだと聞いた時は「僕だってテイトにこんな風に祝ってもらったことないのに」とぶつくさ言っていたが…


そして2日後、形が出来上がったブローチを受け取ってきた。いよいよ魔力を込める段階だ。

他の準備を優先したせいですっかり夜になってしまったが、俺は少しずつその魔石に魔力を流し込んでいく。そういえば、どの程度流し込めばいいのかはよく知らなかったし、聞こうにもヘンリーは寝てしまっている。

今更ながらこれをザックが喜んでくれるか不安に思いつつ、とりあえず俺はありったけの魔力を流した。





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