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本編

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「起きたか」

ヘンリーの声に目を開けるとそこはアーデン家だった。

「あ、あれ?俺たちはカフェにいたはずじゃ…」
「全く何時間寝ていたと思っている。あの後アイザックに送ってもらって伯爵邸に帰ってきたんだ」
「そんな…」

もっとザックと話していたかったのに、と思ったがヘンリーの前でそんなことは口に出せなかった。

「まあ、お前を疲れさせたのは私だから文句は言えないが…今日は本当に済まなかったな」

ヘンリーは真面目な顔で俺に向き直ると、改めて謝罪をした。

「いえ、あなたの目的を考えれば知りたいと思うのは当然ですから」
「だが、心無い言葉ばかりで傷ついただろう?」
「いえ…あの程度、もう慣れました」

そう言うとヘンリーはかえって辛そうな表情をした。

「そうか…」

俺は暗くなった雰囲気を変えようと話題を変える。

「あの後ザックは何か言っていましたか?」
「ああ、他にも報告したいことがあったが急ぐような話でもないからまたの機会で良いかと言っていたぞ」
「報告したいこと?」
「まあ、少し聞いたが…楽しい話ではないので気にすることはない。あと、離れたがらなくて大変だった」
「ふふっ、そうですか」

その様子が目に浮かぶようだ。彼の報告したいことは気になるが、ヘンリーもこう言っていることだし重要性は低いのだろう。

「ほら、もうすっかり冷めているがメイドが部屋に食事を持ってきてくれたんだ。私はもう食べたからテイトも食べろ」

するとヘンリーが机のトレイを指差した。

「ついさっき昼を食べたと思ったに…まだお腹が空いてないので一緒に少し食べませんか?」
「はぁ、そのように少食だといつまでのザックより小さいままだぞ」
「なっ、あれはザックがデカくなりすぎなだけです」

ムキになれば「ふっ」とヘンリーから笑った声がした。鼻で笑われたようなのは腹が立つが、昼は随分と落ち込んでいたので元気が出たことはよかったと思う。

「仕方ない、少し手伝ってやる」

随分上からの物言いだが彼はそう言って俺と一緒に食事をしてくれた。ついでに俺が1人で食べにくいものは切り分けてくれたりと手伝ってくれる。

当たり前のようにそうしてくれる彼に、なんだかんだ傲慢な態度でも優しいのだなと思う。

こんな彼に心配してもらえて、妹さんも幸せだろう。まあ、その幸せを守るためにも、この国に嫁ぐのはやめさせた方がいいというのは複雑だが。

「ヘンリーは…妹さんの婚約をやめさせるんですか?」
「そうだな…まだ迷いはあるが、その方がいいとは思っている」
「まあそうですよね。いくら相手がいいやつだったとしてもこんな国じゃ…」
「…ああ、最後はその相手を見て判断するよ」
「ええ、それが良いですね」

もし相手がどうしても妹さんと離れたくないなら相手の方にヘンリーの国に来てもらうという手もあるだろう。もちろん爵位継承者なら難しいだろうが。

それにしても相手の話題を出すとヘンリーは微妙な顔をする。ザックも知っているような素振りだったが反応は芳しく無かった。

婚約の破棄は簡単なことではないが、この感度だと継続も難しいだろうなと見ず知らずの相手のことを少し可哀想に思った。
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