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本編
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「マダムローリーの仕立て屋なのですが…」
「どうした?」
この国で一番人人気の仕立て屋に、ということでマダムローリーの仕立て屋へと向かっている訳だが、俺はおずおずと話を切り出した。
こんな話を自分が言わなければならないなんてと苦々しく思いつつ、隠し立てすることは彼にも彼の妹にも失礼だと思い気力を振り絞る。
「おそらく妹さんは利用できないかと」
「なぜだ?」
「ここは障害者お断りなんです。以前俺も断られまして」
「……」
するとヘンリーは考え込むように顔に手を当てた。
「それでも…一度入ってみたい」
「それはもちろん構いませんが…それなら俺はここで待ってます」
「いや、一緒に来てくれないか?テイトには申し訳ないが、店の者たちがどんな態度を取るのか見てみたいんだ」
そして埋め合わせは必ずする、と頭を下げた彼に俺は渋々承諾した。彼の目的を考えれば理解できる願いだ。
まあ…以前断られた店に再び入るなど、店の者たちたらは図々しく受け取られそうだが…
そうして2人連れ立って店へと入った。
ヘンリーが俺を気遣うように目配せして「彼の服を
仕立てたいのだが」と店員に話しかける。
「それではローブをお預かりします」
そう言った店員に俺はどうにでもなれと半ばやけくそにローブを脱いで見せる。
「あっ!あなたはアーデン家の…」
すると、店員は腕のこと以前に俺が誰かに気付いたらしい。「少々お待ちください」と慌てたように言って奥へと引っ込んだ。
つい先日まで社交界を騒がせていたのだから彼女が俺のことを知っているのも当然だ。俺は仕方なく手にローブを持ったまま彼女が戻るのを待つ。
すると、周りの客や他の店員も俺に気づいたようでこちらを見てはヒソヒソと話し出した。それが悪口であることはなんとなくわかる。
ヘンリーは周りの反応に動揺したように周囲を見渡していた。
すると先ほどの店員が店主の女性を連れて戻ってきた。
「まあテイト様、以前にもお会いしましたね?お断りしたというのにまた来ていただけるなど、なんて光栄なのかしら」
その言葉には明らかに侮蔑が含まれていた。
「諸事情があって来ただけです。やはり俺の服は仕立てられないということでお変わりないですね?」
俺は俺で淡々と返すと、彼女はこめかみをピクっとさせながら微笑みを浮かべた。
「ええ、申し訳ありませんが私には守るべきブランドがございますので。もっとも、テイト様には街のはずれに専属の仕立て屋がございますでしょう?そちらの方が注目を浴びずに済んでお買い物しやすいのではなくて?」
なんとも遠回しだが、要は冴えない専属店があるのだからそちらで仕立てろと。寂れている店の方が好奇の目に晒されず落ち着くだろうと言っているのだろう。
チラリとヘンリーを見ると、彼は俺が可哀想に思うくらい青い顔をして、呆然と成り行きを見ていた。
「あなたの仰る通りですね。ここはどうも落ち着かない」
彼が知りたかったことは十分知れただろうと思い俺はローブを被り直す。
「そうでしょうとも。まあ、どうしてもこの店の服が着たいのなら公爵様を連れて来てくださいませ。あの方がデザインして下さればあなたに着られてもこの店の評判を落とさずに済みますもの」
彼女の言葉に周りにいた客たちがくすくすと笑う。俺とザックの婚約が認められなかったことですっかり関係が終わったのだと思って傷を抉りにきたのだろう。
それに彼女は俺があの店で服を仕立てたことを知っているらしい。ジョニーが話していた問い合わせとやらのせいで噂にでもなっているのかもしれない。
「ご心配なく。もう来ることはありませんから」
「でしょうね。お出口はあちらですわ」
彼女は俺の言葉をザックを連れてくることはできないと捉えたようだ。俺はどうでも良く思ってヘンリーを引っ張り出口へと向かう。
彼女は見送る気もなくその場から動かなかった。
ヘンリーの頼みとはいえ、俺だってこんなところ二度と来たくはなかった。そして今度こそ来ることはないだろう。そう思って足取りも早く店を後にした。
「どうした?」
この国で一番人人気の仕立て屋に、ということでマダムローリーの仕立て屋へと向かっている訳だが、俺はおずおずと話を切り出した。
こんな話を自分が言わなければならないなんてと苦々しく思いつつ、隠し立てすることは彼にも彼の妹にも失礼だと思い気力を振り絞る。
「おそらく妹さんは利用できないかと」
「なぜだ?」
「ここは障害者お断りなんです。以前俺も断られまして」
「……」
するとヘンリーは考え込むように顔に手を当てた。
「それでも…一度入ってみたい」
「それはもちろん構いませんが…それなら俺はここで待ってます」
「いや、一緒に来てくれないか?テイトには申し訳ないが、店の者たちがどんな態度を取るのか見てみたいんだ」
そして埋め合わせは必ずする、と頭を下げた彼に俺は渋々承諾した。彼の目的を考えれば理解できる願いだ。
まあ…以前断られた店に再び入るなど、店の者たちたらは図々しく受け取られそうだが…
そうして2人連れ立って店へと入った。
ヘンリーが俺を気遣うように目配せして「彼の服を
仕立てたいのだが」と店員に話しかける。
「それではローブをお預かりします」
そう言った店員に俺はどうにでもなれと半ばやけくそにローブを脱いで見せる。
「あっ!あなたはアーデン家の…」
すると、店員は腕のこと以前に俺が誰かに気付いたらしい。「少々お待ちください」と慌てたように言って奥へと引っ込んだ。
つい先日まで社交界を騒がせていたのだから彼女が俺のことを知っているのも当然だ。俺は仕方なく手にローブを持ったまま彼女が戻るのを待つ。
すると、周りの客や他の店員も俺に気づいたようでこちらを見てはヒソヒソと話し出した。それが悪口であることはなんとなくわかる。
ヘンリーは周りの反応に動揺したように周囲を見渡していた。
すると先ほどの店員が店主の女性を連れて戻ってきた。
「まあテイト様、以前にもお会いしましたね?お断りしたというのにまた来ていただけるなど、なんて光栄なのかしら」
その言葉には明らかに侮蔑が含まれていた。
「諸事情があって来ただけです。やはり俺の服は仕立てられないということでお変わりないですね?」
俺は俺で淡々と返すと、彼女はこめかみをピクっとさせながら微笑みを浮かべた。
「ええ、申し訳ありませんが私には守るべきブランドがございますので。もっとも、テイト様には街のはずれに専属の仕立て屋がございますでしょう?そちらの方が注目を浴びずに済んでお買い物しやすいのではなくて?」
なんとも遠回しだが、要は冴えない専属店があるのだからそちらで仕立てろと。寂れている店の方が好奇の目に晒されず落ち着くだろうと言っているのだろう。
チラリとヘンリーを見ると、彼は俺が可哀想に思うくらい青い顔をして、呆然と成り行きを見ていた。
「あなたの仰る通りですね。ここはどうも落ち着かない」
彼が知りたかったことは十分知れただろうと思い俺はローブを被り直す。
「そうでしょうとも。まあ、どうしてもこの店の服が着たいのなら公爵様を連れて来てくださいませ。あの方がデザインして下さればあなたに着られてもこの店の評判を落とさずに済みますもの」
彼女の言葉に周りにいた客たちがくすくすと笑う。俺とザックの婚約が認められなかったことですっかり関係が終わったのだと思って傷を抉りにきたのだろう。
それに彼女は俺があの店で服を仕立てたことを知っているらしい。ジョニーが話していた問い合わせとやらのせいで噂にでもなっているのかもしれない。
「ご心配なく。もう来ることはありませんから」
「でしょうね。お出口はあちらですわ」
彼女は俺の言葉をザックを連れてくることはできないと捉えたようだ。俺はどうでも良く思ってヘンリーを引っ張り出口へと向かう。
彼女は見送る気もなくその場から動かなかった。
ヘンリーの頼みとはいえ、俺だってこんなところ二度と来たくはなかった。そして今度こそ来ることはないだろう。そう思って足取りも早く店を後にした。
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