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本編
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翌日、俺はヘンリーを食堂へと案内する。
客人と同じ部屋というのはいくらか落ち着かないもので、俺は少し寝不足だった。
すると同じように寝不足気味の顔で現れたカインと出くわす。
「おはようテイト」
「ああ、おはよう…なんだか眠そうだな?」
「うん…あの部屋、ベッドは固いし埃だらけだし、正直寝づらかったな」
「なら今日からは来賓室で寝ろよ」
「いや、大丈夫…テイトがどんな暮らしをしてたか知りたいから」
「そんなこと理解しなくても…」
やけに俺の部屋にこだわると思えばそんな理由か、と呆れてカインを見る。今更俺の生活を知ってもらう必要などないのだが。
そうして今日は客人がいることもあり家族揃っての食事となった。
相変わらず俺への気遣いなどなく出てくる食事に、苦戦しながらナイフとフォークを使い分ける。カインがソワソワしているが、客の前で食事を手伝ってくれと頼むような真似はしたくない。
「おい、食べにくそうだな。大丈夫か?」
するとヘンリーに小声で話しかけられる。
「大丈夫です。お気になさらず」
流石に苦戦している様子を隠し通すことまではできなかったが、それでも片手でもなるべく上品に見えるよう少しずつ食事を進める。
だが、他の人よりどうしても遅くなってしまうので、ヘンリーが手を止めたタイミングで俺も食事をやめた。
「そろそろ出かけますか?」
「だがお前はまだ…」
「私もお腹いっぱいですのでもう大丈夫です」
「そうか…それなら頼む」
そうして、俺は食べかけの食事をそのままにヘンリーと席を立った。
今日は街中を案内する約束をしている。途中でザックとも合流する予定だ。
「なあ、さっきの朝食、いつもあんななのか?」
外に出てすぐヘンリーが俺に問いかける。
「あんなとは?」
「お前への配慮はないのか?」
「あー普段はカインが手伝ってくれることもありますが、出されるものはあんな感じですよ」
「そうか…私の国では周りの者が支えるのが当たり前だから、少し驚いた」
「…いい国ですね。」
「ああ、良いところだぞ。お前もいつか来ると良い」
俺は曖昧に笑って頷いた。彼の国なら俺のような者でも住みやすそうだ。
「それで、どこか行きたいところはありますか?」
「そうだな、妹が立ち寄りそうなところを見てみたい」
「そうなると仕立て屋や宝石店ですかね?宝石店は詳しくないのでザックと合流してから聞いてみましょう」
そして俺たちはとりあえず仕立て屋へ向かうことになった。
俺は少し迷ってお馴染みのジョニーの仕立て屋へ案内することにした。彼の妹でも確実に利用できる店だ。
「ここです。俺も服はここで買っています」
「へえ、なかなか洒落ているじゃないか。なんだかテイトのイメージに合っているな」
「それは…ありがとうございます」
この時ばかりはザックが店を改装してくれたことに感謝した。流石に以前の様相じゃ他国の貴族にお薦めなどできなかっただろう。
「いらっしゃい。ああ、テイトさんか」
「久しぶりだな」
パーティーの服を仕立ててもらった後めっきり顔を出していなかったが、店主が以前と変わらず出迎えてくれたことにホッとする。
「おや、そちらは?」
「ああ、今我が家に来ている客人なんだ」
「ヘンリー・ブレアムだ。少し見て回らせてもらうぞ」
「これはこれはどうも。ええ、ぜひゆっくり見ていってください」
店主は朗らかにそう言って俺たちを店の中へと通してくれた。
「へえ、なかなかセンスがいいな。ここがこの国で1番の仕立て屋なのか?」
「いえ、一番人気はマダムローリーの仕立て屋かと」
「なんだ、一番ではないのか。ならそちらも見てみたい。案内してくれるか?」
「ええ、構いませんが…」
ヘンリーのの妹はおそらくここ以外で服を仕立てることはできないだろう。そのことをどう伝えるべきか迷ったがつい承諾してしまった。
まあ、ヘンリーを案内すること自体は問題ない。そう思い直してのちほど事情を説明することにした。
ヘンリーはせっかく来たのでと妹への土産を数着見繕うことにしたらしい。彼が服を選んでいる間、俺は店主に話しかけた。
「その後、変わりはなかったか…?」
パーティーでは悪い意味で注目を集めてしまった。この店の名を出すことはなかったが、俺がここで仕立てたとバレたら風評被害を被るかもしれない。
「それが少しあったんですよ」
心配して尋ねればやはり何かあったらしい。俺は申し訳なくなって頭を下げた。
「それは済まないことをした。この店の名前は出していないんだが、調べた奴がいたみたいだ。もし補償が必要なら…」
「えっ!?ちょっと待ってください。謝られるようなことは何もありませんよ!」
慌てた様子の店主に俺は首を傾げながら顔を上げる。
「でも、何かトラブルがあったんだろう?」
「トラブルではありません。少数の貴族の方からあなたの服を仕立てたのはこの店かと問い合わせがあったのです」
「問い合わせ…?」
「ええ、その方達は他の仕立て屋にも問い合わせていたようでして、そうですと答えたら似た服を作って欲しいと頼まれました」
その言葉が信じられず唖然とした。
「俺が着ていた服に似た服を…?」
「ええ、皆さん色々言い訳は口にしていましたけど。テイトさんを見て少なからず良いと思ったから問い合わせてきたのでしょう。あなたが着ていたから評判が落ちるなんてことはありませんよ」
俺が問いかけてきた訳に気づいた店主がそんなことを言う。
「信じられない…」
少なくともパーティー会場では悪口こそ言われても褒められることなどなかったのに。
「そいつらはなんて?」
「ええっと…踊ってる時にケープの部分がヒラヒラして美しく見えたとか、公爵がデザインしたなら流行ると思って、とか」
「はあ、なるほど」
ザックがデザインしたから、というのは納得の理由だ。まだ信じられない気持ちが大きいが、何はともあれ店主に迷惑をかけていないのなら良かった。
「まあ、被害が出てないならよかったよ。引き続き何かあったら相談してくれ」
ちょうど服を選び終わったらしいヘンリーがやってきたきたので、そこで話を切り上げる。彼が購入した服は一度アーデン家へ送ってもらうことにした。
そして、俺たちは店主に見送られながら店を後にした。
客人と同じ部屋というのはいくらか落ち着かないもので、俺は少し寝不足だった。
すると同じように寝不足気味の顔で現れたカインと出くわす。
「おはようテイト」
「ああ、おはよう…なんだか眠そうだな?」
「うん…あの部屋、ベッドは固いし埃だらけだし、正直寝づらかったな」
「なら今日からは来賓室で寝ろよ」
「いや、大丈夫…テイトがどんな暮らしをしてたか知りたいから」
「そんなこと理解しなくても…」
やけに俺の部屋にこだわると思えばそんな理由か、と呆れてカインを見る。今更俺の生活を知ってもらう必要などないのだが。
そうして今日は客人がいることもあり家族揃っての食事となった。
相変わらず俺への気遣いなどなく出てくる食事に、苦戦しながらナイフとフォークを使い分ける。カインがソワソワしているが、客の前で食事を手伝ってくれと頼むような真似はしたくない。
「おい、食べにくそうだな。大丈夫か?」
するとヘンリーに小声で話しかけられる。
「大丈夫です。お気になさらず」
流石に苦戦している様子を隠し通すことまではできなかったが、それでも片手でもなるべく上品に見えるよう少しずつ食事を進める。
だが、他の人よりどうしても遅くなってしまうので、ヘンリーが手を止めたタイミングで俺も食事をやめた。
「そろそろ出かけますか?」
「だがお前はまだ…」
「私もお腹いっぱいですのでもう大丈夫です」
「そうか…それなら頼む」
そうして、俺は食べかけの食事をそのままにヘンリーと席を立った。
今日は街中を案内する約束をしている。途中でザックとも合流する予定だ。
「なあ、さっきの朝食、いつもあんななのか?」
外に出てすぐヘンリーが俺に問いかける。
「あんなとは?」
「お前への配慮はないのか?」
「あー普段はカインが手伝ってくれることもありますが、出されるものはあんな感じですよ」
「そうか…私の国では周りの者が支えるのが当たり前だから、少し驚いた」
「…いい国ですね。」
「ああ、良いところだぞ。お前もいつか来ると良い」
俺は曖昧に笑って頷いた。彼の国なら俺のような者でも住みやすそうだ。
「それで、どこか行きたいところはありますか?」
「そうだな、妹が立ち寄りそうなところを見てみたい」
「そうなると仕立て屋や宝石店ですかね?宝石店は詳しくないのでザックと合流してから聞いてみましょう」
そして俺たちはとりあえず仕立て屋へ向かうことになった。
俺は少し迷ってお馴染みのジョニーの仕立て屋へ案内することにした。彼の妹でも確実に利用できる店だ。
「ここです。俺も服はここで買っています」
「へえ、なかなか洒落ているじゃないか。なんだかテイトのイメージに合っているな」
「それは…ありがとうございます」
この時ばかりはザックが店を改装してくれたことに感謝した。流石に以前の様相じゃ他国の貴族にお薦めなどできなかっただろう。
「いらっしゃい。ああ、テイトさんか」
「久しぶりだな」
パーティーの服を仕立ててもらった後めっきり顔を出していなかったが、店主が以前と変わらず出迎えてくれたことにホッとする。
「おや、そちらは?」
「ああ、今我が家に来ている客人なんだ」
「ヘンリー・ブレアムだ。少し見て回らせてもらうぞ」
「これはこれはどうも。ええ、ぜひゆっくり見ていってください」
店主は朗らかにそう言って俺たちを店の中へと通してくれた。
「へえ、なかなかセンスがいいな。ここがこの国で1番の仕立て屋なのか?」
「いえ、一番人気はマダムローリーの仕立て屋かと」
「なんだ、一番ではないのか。ならそちらも見てみたい。案内してくれるか?」
「ええ、構いませんが…」
ヘンリーのの妹はおそらくここ以外で服を仕立てることはできないだろう。そのことをどう伝えるべきか迷ったがつい承諾してしまった。
まあ、ヘンリーを案内すること自体は問題ない。そう思い直してのちほど事情を説明することにした。
ヘンリーはせっかく来たのでと妹への土産を数着見繕うことにしたらしい。彼が服を選んでいる間、俺は店主に話しかけた。
「その後、変わりはなかったか…?」
パーティーでは悪い意味で注目を集めてしまった。この店の名を出すことはなかったが、俺がここで仕立てたとバレたら風評被害を被るかもしれない。
「それが少しあったんですよ」
心配して尋ねればやはり何かあったらしい。俺は申し訳なくなって頭を下げた。
「それは済まないことをした。この店の名前は出していないんだが、調べた奴がいたみたいだ。もし補償が必要なら…」
「えっ!?ちょっと待ってください。謝られるようなことは何もありませんよ!」
慌てた様子の店主に俺は首を傾げながら顔を上げる。
「でも、何かトラブルがあったんだろう?」
「トラブルではありません。少数の貴族の方からあなたの服を仕立てたのはこの店かと問い合わせがあったのです」
「問い合わせ…?」
「ええ、その方達は他の仕立て屋にも問い合わせていたようでして、そうですと答えたら似た服を作って欲しいと頼まれました」
その言葉が信じられず唖然とした。
「俺が着ていた服に似た服を…?」
「ええ、皆さん色々言い訳は口にしていましたけど。テイトさんを見て少なからず良いと思ったから問い合わせてきたのでしょう。あなたが着ていたから評判が落ちるなんてことはありませんよ」
俺が問いかけてきた訳に気づいた店主がそんなことを言う。
「信じられない…」
少なくともパーティー会場では悪口こそ言われても褒められることなどなかったのに。
「そいつらはなんて?」
「ええっと…踊ってる時にケープの部分がヒラヒラして美しく見えたとか、公爵がデザインしたなら流行ると思って、とか」
「はあ、なるほど」
ザックがデザインしたから、というのは納得の理由だ。まだ信じられない気持ちが大きいが、何はともあれ店主に迷惑をかけていないのなら良かった。
「まあ、被害が出てないならよかったよ。引き続き何かあったら相談してくれ」
ちょうど服を選び終わったらしいヘンリーがやってきたきたので、そこで話を切り上げる。彼が購入した服は一度アーデン家へ送ってもらうことにした。
そして、俺たちは店主に見送られながら店を後にした。
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