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本編
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「改めて、これからしばらくよろしく頼む。」
部屋に着くなりヘンリーに話しかけられる。
「こちらこそ。あまり人をもてなした経験がなく至らないところも多いと思いますが…」
「良い。それと私のことはヘンリーと呼んでくれ。」
「はぁ、では私のこともテイトとお呼びください。」
俺の言葉に満足気に笑った彼は勧められるまでもなくソファに腰掛けた。
「君は生まれつき右腕ないのだとやつに聞いている。」
「ええ、この通りです。」
そう言って俺は空洞の右腕を見せる。やつとは恐らくザックのことだろう。
ヘンリーは俺の腕に興味があるようだが、外国の人間だからか、そこに侮蔑的な気持ちはなさそうだ。
たしか彼の国はルナリス教の宗教圏ではなかったはずなので、そのためだろうか。
「ふむ…そうか。この国でその体では大変だっただろう?」
「ええ、それはまぁ」
この体のせいで傷ついたことなどつい最近のことだけでも思い返せば数え切れない。ふとその記憶が蘇り、俺は目を閉じて肯定した。
「私の急な訪問に驚かれていると思う。だから、最初に目的を伝えておこうと思ってな。」
真剣な顔でそう言ったヘンリーに、彼はあくまで真摯な態度でさ自分に向き合おうとしているのだとわかる。
「実は、私には妹がいるのだが、昨年病で失明してしまってな。」
「それは…お気の毒に。」
「ああいや、そのことは本人も受け入れて目の見えない生活にも慣れてきたところだ。だが…」
そこで彼は不安気に言葉を切った。
「私の妹はこの国の者と婚約をしていてな…だがこの国の国教では障害者は悪とされているだろう?少し心配になってな。」
「…正直に申し上げても?」
俺は伝えるべきか迷って彼に尋ねる。酷なことだがその婚約はお勧めできない。
「ああ。言ってくれ。」
「その婚約は取りやめた方がよろしいかと。たとえ相手の方が妹さんを大事にしてくれたとしても、世間や社交界からは厳しい目で見られます。なので、辛い思いをされるかと」
目が見えなくなったからという理由で婚約を取り消すことができるのかは分からい。だが妹の今後が心配でわざわざここまで調査しに来るような彼だ。事実を濁すべきではないだろう。
そう考え正直に伝えたところで恐る恐るヘンリーを見る。
「そう、か…やはり止めさせるべきか…」
彼は考え込むようにそう呟いた。
「正直に話してくれて感謝する。その言葉も含め、この滞在期間で判断させてもらうことにするよ。」
「ああ、それで俺に案内役を…」
もし妹がそのまま結婚した時、彼女がこの国でどのように扱われるかを俺を通して知りたいということか。
それなら彼が俺に案内役を頼んだのも納得だ。
「君で検証するようで悪いな。だがアイザックから話を聞いていて君ならばと思ったんだ。」
「いえ、そういうことでしたら問題ありません。むしろ俺が案内役を務めることで嫌な思いをさせてしまうのではと不安に思っておりましたので」
いくらかホッとした気持ちでそう伝えると、ヘンリーは複雑そうな顔をした。
「テイト、そなたは今までどれほど…いや、何でもない。」
彼は途中まで何かを言いかけ、思い直したように口をつぐんだ。そして神妙な空気を変えるに再び口を開いた。
「それにしてもあいつの想い人が君だとはな。聞いていた印象と違うではないか。」
「聞いていた印象、とは?」
「愛情深くてワイルドなお兄さん、と聞いていた。だから、てっきりもっと不法者のようなガサツででかい男だと思っていたぞ。」
そう言ってヘンリーはくつくつと笑った。
「ザックのやつそんなことを…」
あいつは小さい頃俺をそんな風に思っていたのか。
自分でもしっくりこない評価に気恥ずかしさが勝る。
「ああ、蓋を開けてみれば、吹けば飛ぶような華奢な青年、しかも"深窓の"という枕詞が似合うようなやつじゃないか。」
「いや、それも違うかと思いますが」
ヘンリーはヘンリーでそんな印象を持っているという。流石にそんな儚い見た目はしてないだろう。
「ははっ、確かに深窓は言い過ぎか。少しスレてそうだしな。」
「余計なお世話です。」
付け加えられた彼の言葉にムッとして言い返す。実体に近づいた評価だが人に言われると腹が立つものだ。
そうして俺はいくらかヘンリーと打ち解け、簡単に屋敷の中だけ案内を済ませた後、早めに休ませることにした。
部屋に着くなりヘンリーに話しかけられる。
「こちらこそ。あまり人をもてなした経験がなく至らないところも多いと思いますが…」
「良い。それと私のことはヘンリーと呼んでくれ。」
「はぁ、では私のこともテイトとお呼びください。」
俺の言葉に満足気に笑った彼は勧められるまでもなくソファに腰掛けた。
「君は生まれつき右腕ないのだとやつに聞いている。」
「ええ、この通りです。」
そう言って俺は空洞の右腕を見せる。やつとは恐らくザックのことだろう。
ヘンリーは俺の腕に興味があるようだが、外国の人間だからか、そこに侮蔑的な気持ちはなさそうだ。
たしか彼の国はルナリス教の宗教圏ではなかったはずなので、そのためだろうか。
「ふむ…そうか。この国でその体では大変だっただろう?」
「ええ、それはまぁ」
この体のせいで傷ついたことなどつい最近のことだけでも思い返せば数え切れない。ふとその記憶が蘇り、俺は目を閉じて肯定した。
「私の急な訪問に驚かれていると思う。だから、最初に目的を伝えておこうと思ってな。」
真剣な顔でそう言ったヘンリーに、彼はあくまで真摯な態度でさ自分に向き合おうとしているのだとわかる。
「実は、私には妹がいるのだが、昨年病で失明してしまってな。」
「それは…お気の毒に。」
「ああいや、そのことは本人も受け入れて目の見えない生活にも慣れてきたところだ。だが…」
そこで彼は不安気に言葉を切った。
「私の妹はこの国の者と婚約をしていてな…だがこの国の国教では障害者は悪とされているだろう?少し心配になってな。」
「…正直に申し上げても?」
俺は伝えるべきか迷って彼に尋ねる。酷なことだがその婚約はお勧めできない。
「ああ。言ってくれ。」
「その婚約は取りやめた方がよろしいかと。たとえ相手の方が妹さんを大事にしてくれたとしても、世間や社交界からは厳しい目で見られます。なので、辛い思いをされるかと」
目が見えなくなったからという理由で婚約を取り消すことができるのかは分からい。だが妹の今後が心配でわざわざここまで調査しに来るような彼だ。事実を濁すべきではないだろう。
そう考え正直に伝えたところで恐る恐るヘンリーを見る。
「そう、か…やはり止めさせるべきか…」
彼は考え込むようにそう呟いた。
「正直に話してくれて感謝する。その言葉も含め、この滞在期間で判断させてもらうことにするよ。」
「ああ、それで俺に案内役を…」
もし妹がそのまま結婚した時、彼女がこの国でどのように扱われるかを俺を通して知りたいということか。
それなら彼が俺に案内役を頼んだのも納得だ。
「君で検証するようで悪いな。だがアイザックから話を聞いていて君ならばと思ったんだ。」
「いえ、そういうことでしたら問題ありません。むしろ俺が案内役を務めることで嫌な思いをさせてしまうのではと不安に思っておりましたので」
いくらかホッとした気持ちでそう伝えると、ヘンリーは複雑そうな顔をした。
「テイト、そなたは今までどれほど…いや、何でもない。」
彼は途中まで何かを言いかけ、思い直したように口をつぐんだ。そして神妙な空気を変えるに再び口を開いた。
「それにしてもあいつの想い人が君だとはな。聞いていた印象と違うではないか。」
「聞いていた印象、とは?」
「愛情深くてワイルドなお兄さん、と聞いていた。だから、てっきりもっと不法者のようなガサツででかい男だと思っていたぞ。」
そう言ってヘンリーはくつくつと笑った。
「ザックのやつそんなことを…」
あいつは小さい頃俺をそんな風に思っていたのか。
自分でもしっくりこない評価に気恥ずかしさが勝る。
「ああ、蓋を開けてみれば、吹けば飛ぶような華奢な青年、しかも"深窓の"という枕詞が似合うようなやつじゃないか。」
「いや、それも違うかと思いますが」
ヘンリーはヘンリーでそんな印象を持っているという。流石にそんな儚い見た目はしてないだろう。
「ははっ、確かに深窓は言い過ぎか。少しスレてそうだしな。」
「余計なお世話です。」
付け加えられた彼の言葉にムッとして言い返す。実体に近づいた評価だが人に言われると腹が立つものだ。
そうして俺はいくらかヘンリーと打ち解け、簡単に屋敷の中だけ案内を済ませた後、早めに休ませることにした。
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