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本編
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ザックと別れた後、俺は辻馬車を拾って久々に伯爵家向かった。今一人で帰ればどうしたのだと問い詰められるだろうことは容易に想像できるので本当は帰りたくなどないのだが・・・
でも貴族社会のことで相談する相手はカインくらいしかいない。それにスラムの屋敷は先日訪ねたばかりでさっそく逃げ戻る様なことはできなかった。
そして馬車の中で先程王女への印象を尋ねた時のザックの言葉を思い出す。
(可愛らしくて愛嬌のある王女、か・・・)
そのどちらも自分には無いものだ。その上身分もしっかりしていて教養もあり、貴族たちからの評価も高い。
自分は全てに及ばない。
そう思うと自然と自嘲するような笑みが浮かんだ。一時でも自分がザックと結ばれることが現実になると考えていたことが馬鹿馬鹿しい。
最近はあまりに大切にされていたので忘れかけていた。先程の貴族たちの態度こそが、俺に対する普通の反応なのだ。
ザックは優しい。優しすぎる。幼い頃に受けたちょっとした優しさをずっと恩に感じて、俺を幸せにしようと奮闘してくれているのだ。
でも、それがここまで大変だとは思っていなかったに違いない。きっと一度言い出した手前、"やっぱり無かったことに"なんて出来なくて頑張り続けてくれているのだろう。
もしかしたは本当は、俺のことを幸せにするなどと言ったことを後悔しているかもしれない。
1人になると、どんどん悪い方へと考えてしまう。きっとそんな事はないと心では叫んでいるが、俺はなんの見返りも求めない無償の愛なんてものが存在する事を信じられずにいた。
ふと窓の外を見て頬杖をつけば、手が濡れた。気づかないうちに泣いていたらしい。
(・・・よかった、ザックの前じゃなくて・・・)
ザックの前で泣こうものならそれこそあいつを俺に縛り付けてしまうところだった。そうでなくてもこんな弱っている姿は見せたくない。
できる事なら、ザックの中ではずっと頼れるお兄さんでいたかった。
俺は涙を拭って馬車を降りた。
屋敷に戻ると、使用人たちがまるで幽霊でも見るような顔をしたが、何も言われることはなかった。俺は、これ幸いとばかりに自室へと向かう。
今は何も考えたくない。そう思ってベッドへ倒れ込むと、狩猟大会での気疲れもあってかあっという間に眠りに落ちた。
「テイト?」
頭上で自分を呼ぶ声がする。まだ寝ていたいのに、その声の主が許してくれそうにない。そして揺さぶられながらゆっくりと瞼を持ち上げると、目の前にカインが立っていた。
「カイン、おかえり。」
「ただいま・・・ってそうじゃなくて、どうしてテイトがここにいるの?公爵の家にいるはずじゃあ・・・」
「あー・・・少し考えたいことがあって、帰ってきた。」
「考えたいこと?」
そう言ってカインは俺の横に腰を下ろす。まだ狩猟服のままなので、宴会から帰ってきたばかりなのだろう。
「ザックとの関係のことでちょっとな・・・帰ってきたら迷惑だったか?」
「そんなことないよ!前に手紙でも書いたでしょう?いつでも戻ってきて良いって。」
「ああ、ありがとうな。」
「それより・・・テイト、泣いてたの?」
「っ!いや、泣いてなんかない。」
「本当に?」
そう言って俺の顔を覗き込んだカインに、誤魔化されてはくれないかとため息を吐く。
「少し・・・嫌なことがあっただけだ。」
「誰かに嫌なことでも言われた?全く、公爵もあんな大口叩いてたくせに守ってくれないなんて・・・」
「いや、ザックは守ってくれたよ・・・俺が勝手に傷ついてるだけなんだ。」
ザックが悪者になりそうな雰囲気に慌てて否定する。そうすればカインは納得していなさそうではあるがそれ以上悪く言うことはなかった。そして俺を自分の胸に抱きしめる。
「テイトはさ、貴族社会に馴染むのが辛かったらずっとここにいたっていいんだからね?もう良くない評判だって家の存続に関わるほどじゃなくなったし、僕が爵位を継いだらずっと面倒を見れるよ。」
「いや、そこまでしてくれなくても・・・でも、ありがとうな。」
この家にずっと残ろうとは考えていない。残れば今度はカインに自分という重荷を背負わせてしまう。
思えばカインのことはずっと適当にあしらってきたのに、いつも一方的に支えられてきた。ここ数年はやっと良い関係になれたが、それでもカインに頼り切るわけにはいかない。
「ごめん、少し落ち着いた。その、いつも俺ばっかり頼って悪いな。」
「ふふ、僕はテイトに頼られるの嬉しいよ?兄弟なんだからいつでも頼ってよ。」
「ん、ありがとう。」
「それで、どうするか心は決まった?」
カインは俺を抱きしめたままそう聞いてくる。
「いや、それはまだ・・・あのさ、やっぱりザックにとって俺って重荷だったのかな?」
意を決してカインには意見を求めれば、カインは驚いた様に目を見開いた。
「公爵は、そんなこと全く思ってないと思うけど・・・」
「でも王女との婚約の話だって出てるし、俺との婚約は王家に認められないし・・・」
そう言うとカインは呆れた様にため息をついた。
「はぁ、正直公爵を庇う様なことはしたくないんだけど、彼はそんなこと気にならないくらいテイトのことが大好きだと思うよ。ちょっと怖いくらい。」
「そう、かな・・・」
「そうだよ。でもテイトをこんなに泣かせるなんて許せないし、もっと焦らしてやろうよ。」
「な、泣いてないって!」
泣いてない、よな?俺は慌てて自分の目元を擦った。少し涙が滲んでいたが、泣いてはいない。
その様子を見て笑ったカインに腹が立って腕から抜け出した。
「真剣な話をしてるのに、揶揄うなよ。」
「ごめんごめん。腕の中でしおらしくしてるテイトが珍しくて、つい。」
笑い続けるカインにそっぽを向けば、「ごめんって」と言いながら俺の目元を拭ってくる。
「まあでも、良い機会だから少し家でゆっくりするといいよ。」
「・・・ああ。」
まだイラついてはいるが、カインの言葉に甘える事にした。もう少し、これからのことを考える時間が欲しい。
「じゃあ今日は泣き疲れただろうしもう休もう?」
「そんなに泣いてない。」
「やっぱ泣いてたんじゃん。」
「・・・・・・」
再び睨むも笑い続けているカインに「ほら寝よ?」と布団をかけられて俺は渋々眠りについた。
でも貴族社会のことで相談する相手はカインくらいしかいない。それにスラムの屋敷は先日訪ねたばかりでさっそく逃げ戻る様なことはできなかった。
そして馬車の中で先程王女への印象を尋ねた時のザックの言葉を思い出す。
(可愛らしくて愛嬌のある王女、か・・・)
そのどちらも自分には無いものだ。その上身分もしっかりしていて教養もあり、貴族たちからの評価も高い。
自分は全てに及ばない。
そう思うと自然と自嘲するような笑みが浮かんだ。一時でも自分がザックと結ばれることが現実になると考えていたことが馬鹿馬鹿しい。
最近はあまりに大切にされていたので忘れかけていた。先程の貴族たちの態度こそが、俺に対する普通の反応なのだ。
ザックは優しい。優しすぎる。幼い頃に受けたちょっとした優しさをずっと恩に感じて、俺を幸せにしようと奮闘してくれているのだ。
でも、それがここまで大変だとは思っていなかったに違いない。きっと一度言い出した手前、"やっぱり無かったことに"なんて出来なくて頑張り続けてくれているのだろう。
もしかしたは本当は、俺のことを幸せにするなどと言ったことを後悔しているかもしれない。
1人になると、どんどん悪い方へと考えてしまう。きっとそんな事はないと心では叫んでいるが、俺はなんの見返りも求めない無償の愛なんてものが存在する事を信じられずにいた。
ふと窓の外を見て頬杖をつけば、手が濡れた。気づかないうちに泣いていたらしい。
(・・・よかった、ザックの前じゃなくて・・・)
ザックの前で泣こうものならそれこそあいつを俺に縛り付けてしまうところだった。そうでなくてもこんな弱っている姿は見せたくない。
できる事なら、ザックの中ではずっと頼れるお兄さんでいたかった。
俺は涙を拭って馬車を降りた。
屋敷に戻ると、使用人たちがまるで幽霊でも見るような顔をしたが、何も言われることはなかった。俺は、これ幸いとばかりに自室へと向かう。
今は何も考えたくない。そう思ってベッドへ倒れ込むと、狩猟大会での気疲れもあってかあっという間に眠りに落ちた。
「テイト?」
頭上で自分を呼ぶ声がする。まだ寝ていたいのに、その声の主が許してくれそうにない。そして揺さぶられながらゆっくりと瞼を持ち上げると、目の前にカインが立っていた。
「カイン、おかえり。」
「ただいま・・・ってそうじゃなくて、どうしてテイトがここにいるの?公爵の家にいるはずじゃあ・・・」
「あー・・・少し考えたいことがあって、帰ってきた。」
「考えたいこと?」
そう言ってカインは俺の横に腰を下ろす。まだ狩猟服のままなので、宴会から帰ってきたばかりなのだろう。
「ザックとの関係のことでちょっとな・・・帰ってきたら迷惑だったか?」
「そんなことないよ!前に手紙でも書いたでしょう?いつでも戻ってきて良いって。」
「ああ、ありがとうな。」
「それより・・・テイト、泣いてたの?」
「っ!いや、泣いてなんかない。」
「本当に?」
そう言って俺の顔を覗き込んだカインに、誤魔化されてはくれないかとため息を吐く。
「少し・・・嫌なことがあっただけだ。」
「誰かに嫌なことでも言われた?全く、公爵もあんな大口叩いてたくせに守ってくれないなんて・・・」
「いや、ザックは守ってくれたよ・・・俺が勝手に傷ついてるだけなんだ。」
ザックが悪者になりそうな雰囲気に慌てて否定する。そうすればカインは納得していなさそうではあるがそれ以上悪く言うことはなかった。そして俺を自分の胸に抱きしめる。
「テイトはさ、貴族社会に馴染むのが辛かったらずっとここにいたっていいんだからね?もう良くない評判だって家の存続に関わるほどじゃなくなったし、僕が爵位を継いだらずっと面倒を見れるよ。」
「いや、そこまでしてくれなくても・・・でも、ありがとうな。」
この家にずっと残ろうとは考えていない。残れば今度はカインに自分という重荷を背負わせてしまう。
思えばカインのことはずっと適当にあしらってきたのに、いつも一方的に支えられてきた。ここ数年はやっと良い関係になれたが、それでもカインに頼り切るわけにはいかない。
「ごめん、少し落ち着いた。その、いつも俺ばっかり頼って悪いな。」
「ふふ、僕はテイトに頼られるの嬉しいよ?兄弟なんだからいつでも頼ってよ。」
「ん、ありがとう。」
「それで、どうするか心は決まった?」
カインは俺を抱きしめたままそう聞いてくる。
「いや、それはまだ・・・あのさ、やっぱりザックにとって俺って重荷だったのかな?」
意を決してカインには意見を求めれば、カインは驚いた様に目を見開いた。
「公爵は、そんなこと全く思ってないと思うけど・・・」
「でも王女との婚約の話だって出てるし、俺との婚約は王家に認められないし・・・」
そう言うとカインは呆れた様にため息をついた。
「はぁ、正直公爵を庇う様なことはしたくないんだけど、彼はそんなこと気にならないくらいテイトのことが大好きだと思うよ。ちょっと怖いくらい。」
「そう、かな・・・」
「そうだよ。でもテイトをこんなに泣かせるなんて許せないし、もっと焦らしてやろうよ。」
「な、泣いてないって!」
泣いてない、よな?俺は慌てて自分の目元を擦った。少し涙が滲んでいたが、泣いてはいない。
その様子を見て笑ったカインに腹が立って腕から抜け出した。
「真剣な話をしてるのに、揶揄うなよ。」
「ごめんごめん。腕の中でしおらしくしてるテイトが珍しくて、つい。」
笑い続けるカインにそっぽを向けば、「ごめんって」と言いながら俺の目元を拭ってくる。
「まあでも、良い機会だから少し家でゆっくりするといいよ。」
「・・・ああ。」
まだイラついてはいるが、カインの言葉に甘える事にした。もう少し、これからのことを考える時間が欲しい。
「じゃあ今日は泣き疲れただろうしもう休もう?」
「そんなに泣いてない。」
「やっぱ泣いてたんじゃん。」
「・・・・・・」
再び睨むも笑い続けているカインに「ほら寝よ?」と布団をかけられて俺は渋々眠りについた。
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