【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される

ゆう

文字の大きさ
上 下
65 / 101
本編

65

しおりを挟む
ザックと別れた後、俺は辻馬車を拾って久々に伯爵家向かった。今一人で帰ればどうしたのだと問い詰められるだろうことは容易に想像できるので本当は帰りたくなどないのだが・・・ 

でも貴族社会のことで相談する相手はカインくらいしかいない。それにスラムの屋敷は先日訪ねたばかりでさっそく逃げ戻る様なことはできなかった。

そして馬車の中で先程王女への印象を尋ねた時のザックの言葉を思い出す。

(可愛らしくて愛嬌のある王女、か・・・)

そのどちらも自分には無いものだ。その上身分もしっかりしていて教養もあり、貴族たちからの評価も高い。

自分は全てに及ばない。

そう思うと自然と自嘲するような笑みが浮かんだ。一時でも自分がザックと結ばれることが現実になると考えていたことが馬鹿馬鹿しい。
最近はあまりに大切にされていたので忘れかけていた。先程の貴族たちの態度こそが、俺に対する普通の反応なのだ。

ザックは優しい。優しすぎる。幼い頃に受けたちょっとした優しさをずっと恩に感じて、俺を幸せにしようと奮闘してくれているのだ。 

でも、それがここまで大変だとは思っていなかったに違いない。きっと一度言い出した手前、"やっぱり無かったことに"なんて出来なくて頑張り続けてくれているのだろう。
もしかしたは本当は、俺のことを幸せにするなどと言ったことを後悔しているかもしれない。

1人になると、どんどん悪い方へと考えてしまう。きっとそんな事はないと心では叫んでいるが、俺はなんの見返りも求めない無償の愛なんてものが存在する事を信じられずにいた。

ふと窓の外を見て頬杖をつけば、手が濡れた。気づかないうちに泣いていたらしい。

(・・・よかった、ザックの前じゃなくて・・・)

ザックの前で泣こうものならそれこそあいつを俺に縛り付けてしまうところだった。そうでなくてもこんな弱っている姿は見せたくない。
できる事なら、ザックの中ではずっと頼れるお兄さんでいたかった。

俺は涙を拭って馬車を降りた。

屋敷に戻ると、使用人たちがまるで幽霊でも見るような顔をしたが、何も言われることはなかった。俺は、これ幸いとばかりに自室へと向かう。

今は何も考えたくない。そう思ってベッドへ倒れ込むと、狩猟大会での気疲れもあってかあっという間に眠りに落ちた。


「テイト?」

頭上で自分を呼ぶ声がする。まだ寝ていたいのに、その声の主が許してくれそうにない。そして揺さぶられながらゆっくりと瞼を持ち上げると、目の前にカインが立っていた。

「カイン、おかえり。」
「ただいま・・・ってそうじゃなくて、どうしてテイトがここにいるの?公爵の家にいるはずじゃあ・・・」
「あー・・・少し考えたいことがあって、帰ってきた。」
「考えたいこと?」

そう言ってカインは俺の横に腰を下ろす。まだ狩猟服のままなので、宴会から帰ってきたばかりなのだろう。

「ザックとの関係のことでちょっとな・・・帰ってきたら迷惑だったか?」
「そんなことないよ!前に手紙でも書いたでしょう?いつでも戻ってきて良いって。」
「ああ、ありがとうな。」
「それより・・・テイト、泣いてたの?」
「っ!いや、泣いてなんかない。」
「本当に?」

そう言って俺の顔を覗き込んだカインに、誤魔化されてはくれないかとため息を吐く。

「少し・・・嫌なことがあっただけだ。」
「誰かに嫌なことでも言われた?全く、公爵もあんな大口叩いてたくせに守ってくれないなんて・・・」
「いや、ザックは守ってくれたよ・・・俺が勝手に傷ついてるだけなんだ。」

ザックが悪者になりそうな雰囲気に慌てて否定する。そうすればカインは納得していなさそうではあるがそれ以上悪く言うことはなかった。そして俺を自分の胸に抱きしめる。

「テイトはさ、貴族社会に馴染むのが辛かったらずっとここにいたっていいんだからね?もう良くない評判だって家の存続に関わるほどじゃなくなったし、僕が爵位を継いだらずっと面倒を見れるよ。」
「いや、そこまでしてくれなくても・・・でも、ありがとうな。」

この家にずっと残ろうとは考えていない。残れば今度はカインに自分という重荷を背負わせてしまう。

思えばカインのことはずっと適当にあしらってきたのに、いつも一方的に支えられてきた。ここ数年はやっと良い関係になれたが、それでもカインに頼り切るわけにはいかない。

「ごめん、少し落ち着いた。その、いつも俺ばっかり頼って悪いな。」
「ふふ、僕はテイトに頼られるの嬉しいよ?兄弟なんだからいつでも頼ってよ。」
「ん、ありがとう。」
「それで、どうするか心は決まった?」

カインは俺を抱きしめたままそう聞いてくる。

「いや、それはまだ・・・あのさ、やっぱりザックにとって俺って重荷だったのかな?」

意を決してカインには意見を求めれば、カインは驚いた様に目を見開いた。

「公爵は、そんなこと全く思ってないと思うけど・・・」
「でも王女との婚約の話だって出てるし、俺との婚約は王家に認められないし・・・」

そう言うとカインは呆れた様にため息をついた。

「はぁ、正直公爵を庇う様なことはしたくないんだけど、彼はそんなこと気にならないくらいテイトのことが大好きだと思うよ。ちょっと怖いくらい。」
「そう、かな・・・」
「そうだよ。でもテイトをこんなに泣かせるなんて許せないし、もっと焦らしてやろうよ。」
「な、泣いてないって!」

泣いてない、よな?俺は慌てて自分の目元を擦った。少し涙が滲んでいたが、泣いてはいない。

その様子を見て笑ったカインに腹が立って腕から抜け出した。

「真剣な話をしてるのに、揶揄うなよ。」
「ごめんごめん。腕の中でしおらしくしてるテイトが珍しくて、つい。」

笑い続けるカインにそっぽを向けば、「ごめんって」と言いながら俺の目元を拭ってくる。

「まあでも、良い機会だから少し家でゆっくりするといいよ。」
「・・・ああ。」

まだイラついてはいるが、カインの言葉に甘える事にした。もう少し、これからのことを考える時間が欲しい。

「じゃあ今日は泣き疲れただろうしもう休もう?」
「そんなに泣いてない。」
「やっぱ泣いてたんじゃん。」
「・・・・・・」

再び睨むも笑い続けているカインに「ほら寝よ?」と布団をかけられて俺は渋々眠りについた。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...