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本編
64(ザックサイド)
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大物を仕留めた後、そろそろ帰るかと拠点になっているテントを目指す。結局開始前にテイトと話すことは叶わず、遠目で見学席にいることを確認したのみだった。
先程のことが気になるので早く戻りたかったが、以前大口を叩いた手前、小さな獲物だけでは戻ることができず、やっと満足のいく成果を挙げて会場へと戻った。
「テイト、お待たせしました。」
「あ・・・おかえりザック。」
テイトは何か思い詰めたような顔をしていて、私が声をかけるまで私が戻ってきた事に気づかなかった。そんな顔色の悪いテイトを心配しつつ、元気付けようと軽口を叩く。
「見てください、熊を狩ったんです。言ったでしょう?私の狩りの腕はなかなかだって。」
「ああ、そうだったな・・・。」
いつもなら似たような軽口が返ってくるのに、今日は心ここに在らずといった返事しか返ってこなかった。
「テイト?顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
「っ、ああ。大丈夫。少し・・・疲れただけだから。」
そう言って彼は弱々しく笑った。その笑顔が胸をざわめかせる。
「そうですね、私も疲れましたしもう帰りましょう。」
「いや、この後宴会があるんだろう?ザックはまだ居た方が・・・」
「ですが、テイトを1人で返すわけには・・・」
「俺なら大丈夫。それと、今日は一旦アーデン家の方に帰るよ。少し考えたいことがあるから。」
「考えたいこと?」
テイトの言葉を聞き返した私に彼は曖昧に笑った。ずっと公爵邸の居心地がいいと喜んでくれていたのに、急に伯爵邸に帰ると言い出すなんて・・・
正直何故なのか聞き出したかったがここは他の目もある。テイトが言いづらいことなら無理に問い詰めるべきではないだろう。
そう思って口をつぐんだ。
「わかり、ました。では迎えをよこします。いつがいいですか?」
「いや、問題が解決したらこちらから手紙を出すなりするよ。だから少し待っていてほしい。」
「そうですか・・・」
何だか距離を感じるテイトの言葉にシュンとしているとテイトが「ごめんな。」と困ったように笑って手を伸ばした。が、その手は私に触れる前に躊躇うように降ろされた。
「それじゃあ・・・」
そう言って背を向けたテイトだが、再び振り返って真剣な顔で質問をしてきた。
「その・・・王女殿下はどんな方だった?」
「えっ?ああ、とても可愛らしい方でしたよ。愛嬌もあって。」
まだ子供なので、他の貴族たちとは違い無邪気な気持ちで自分に接してきていた。なので年相応に可愛らしいと思ったままの感想を口にしたのだが・・・
「そっか・・・それなら良かった。」
テイトは眉尻を下げて寂しそうに笑ったかと思うと、再びくるっと背を向けた。顔が見えないので彼がどんな表情をしているのかわからない。
そして彼は先を急ぐかのように、「それじゃ、またな。」と言ってそそくさと会場を去ってしまった。
残された私はなかば放心してテイトの背中を見送った。
テイトの態度がおかしい。せっかく縮んだ距離がまた戻ってしまったかのようだ。いや、それどころか前より広がっているかもしれない。
私は焦りを覚えたが、彼の言う通り少しでも宴会には顔を出した方がいい。それに急いで帰ったところでテイトは伯爵邸だ。
(なんで私はテイトの言葉を了承してしまったんだ。)
先程のやりとりを思い出す。迎えの拒否にテイトからの連絡を待つよう言われた言葉は、改めて考えれば自分への拒絶のようだった。少し強引にでも一緒に公爵邸へ帰るよう説得すればよかった。
私は不安な気持ちを押し殺して、文字通り宴会に顔だけ出して帰路を急いだ。テイトと話し合わなければならないと、頭の中で警報が鳴っていた。
帰ったらすぐに伯爵家宛てに面会の手紙を書こう。
いつもはテイトと軽口を叩きながらの道のりも、1人で帰るとなるとひどく長く感じた。
こんな一時でさえ離れるのがつらいのに、彼と一緒になれないとなったら生きていくことなどできないのではないかと思う。
だと言うのに、あの最後に見たテイトの笑顔ときたら・・・まるで何かを諦めたような表情が脳裏にこびりつく。
私は不確かな焦りに駆り立てられるように馬車を急がせた。
先程のことが気になるので早く戻りたかったが、以前大口を叩いた手前、小さな獲物だけでは戻ることができず、やっと満足のいく成果を挙げて会場へと戻った。
「テイト、お待たせしました。」
「あ・・・おかえりザック。」
テイトは何か思い詰めたような顔をしていて、私が声をかけるまで私が戻ってきた事に気づかなかった。そんな顔色の悪いテイトを心配しつつ、元気付けようと軽口を叩く。
「見てください、熊を狩ったんです。言ったでしょう?私の狩りの腕はなかなかだって。」
「ああ、そうだったな・・・。」
いつもなら似たような軽口が返ってくるのに、今日は心ここに在らずといった返事しか返ってこなかった。
「テイト?顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
「っ、ああ。大丈夫。少し・・・疲れただけだから。」
そう言って彼は弱々しく笑った。その笑顔が胸をざわめかせる。
「そうですね、私も疲れましたしもう帰りましょう。」
「いや、この後宴会があるんだろう?ザックはまだ居た方が・・・」
「ですが、テイトを1人で返すわけには・・・」
「俺なら大丈夫。それと、今日は一旦アーデン家の方に帰るよ。少し考えたいことがあるから。」
「考えたいこと?」
テイトの言葉を聞き返した私に彼は曖昧に笑った。ずっと公爵邸の居心地がいいと喜んでくれていたのに、急に伯爵邸に帰ると言い出すなんて・・・
正直何故なのか聞き出したかったがここは他の目もある。テイトが言いづらいことなら無理に問い詰めるべきではないだろう。
そう思って口をつぐんだ。
「わかり、ました。では迎えをよこします。いつがいいですか?」
「いや、問題が解決したらこちらから手紙を出すなりするよ。だから少し待っていてほしい。」
「そうですか・・・」
何だか距離を感じるテイトの言葉にシュンとしているとテイトが「ごめんな。」と困ったように笑って手を伸ばした。が、その手は私に触れる前に躊躇うように降ろされた。
「それじゃあ・・・」
そう言って背を向けたテイトだが、再び振り返って真剣な顔で質問をしてきた。
「その・・・王女殿下はどんな方だった?」
「えっ?ああ、とても可愛らしい方でしたよ。愛嬌もあって。」
まだ子供なので、他の貴族たちとは違い無邪気な気持ちで自分に接してきていた。なので年相応に可愛らしいと思ったままの感想を口にしたのだが・・・
「そっか・・・それなら良かった。」
テイトは眉尻を下げて寂しそうに笑ったかと思うと、再びくるっと背を向けた。顔が見えないので彼がどんな表情をしているのかわからない。
そして彼は先を急ぐかのように、「それじゃ、またな。」と言ってそそくさと会場を去ってしまった。
残された私はなかば放心してテイトの背中を見送った。
テイトの態度がおかしい。せっかく縮んだ距離がまた戻ってしまったかのようだ。いや、それどころか前より広がっているかもしれない。
私は焦りを覚えたが、彼の言う通り少しでも宴会には顔を出した方がいい。それに急いで帰ったところでテイトは伯爵邸だ。
(なんで私はテイトの言葉を了承してしまったんだ。)
先程のやりとりを思い出す。迎えの拒否にテイトからの連絡を待つよう言われた言葉は、改めて考えれば自分への拒絶のようだった。少し強引にでも一緒に公爵邸へ帰るよう説得すればよかった。
私は不安な気持ちを押し殺して、文字通り宴会に顔だけ出して帰路を急いだ。テイトと話し合わなければならないと、頭の中で警報が鳴っていた。
帰ったらすぐに伯爵家宛てに面会の手紙を書こう。
いつもはテイトと軽口を叩きながらの道のりも、1人で帰るとなるとひどく長く感じた。
こんな一時でさえ離れるのがつらいのに、彼と一緒になれないとなったら生きていくことなどできないのではないかと思う。
だと言うのに、あの最後に見たテイトの笑顔ときたら・・・まるで何かを諦めたような表情が脳裏にこびりつく。
私は不確かな焦りに駆り立てられるように馬車を急がせた。
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