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本編
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そしていよいよ狩猟大会の日がやってきた。
俺はこの日のためにザックに渡すハンカチに刺繍を施していた。テーマは公爵家の象徴である赤い目の鷲だ。それなりのものをプレゼントしなければと思ってこれを選んだが、少し難しすぎてあまり良い出来にはならなかった。
だけど作り直す時間もなかったので仕方なくこれを渡すことにする。
(ザック、こんなので喜んでくれるかな・・・)
いや、本当はザックなら必ず喜んでくれると分かっている。それでも、自信のないものを渡すのには勇気が必要だった。
ザックは肩慣らしも踏まえて先に会場へ向かったので俺はカインと共に後からやってきている。
「どう?ハンカチはできた?」
「ああ、一応は・・・」
そう言ってそっと刺繍したハンカチを見せる。
「ふ、ふふっ・・・かわいい刺繍だね。」
笑いを噛み殺したような声を漏らすカインにしかめ面で返す。
「笑うなら笑えよ。」
「ごめんごめん。でも一生懸命縫ったんだなっていうのは伝わるよ。」
「はぁ、やっぱり下手くそか・・・」
「いいじゃない。彼ならテイトからのプレゼントならゴミでも喜ぶさ。」
「ゴミって・・・」
「あ、このハンカチがゴミって訳じゃないよ?ちょっと歪なところも愛嬌があっていいじゃない。」
カインからのフォローが虚しい。出来が良くないのは分かっていたが笑われるほどとは・・・ザックには一人でいるときにコソッと渡そう。
そう思っていたのだが・・・
今大人気の公爵が一人になるタイミングなど当然なかった。そんなわけで、俺は大勢に囲まれているザックを木陰から見つめることしかできずにいる。
(どうしたもんかな・・・)
このハンカチは相手の無事を祈っての物なので、本来は狩猟が始まる前に渡すべき物だ。だが途切れそうにもない人混みに、あの中に入ってこの出来の悪いハンカチを渡すのは躊躇われた。
「ねえ、そこで何してんの?」
「っ!レイ?」
そこには少し表情が暗いレイが立っていた。そしてレイは俺が覗いていた先を見て鼻で笑った。
「まだ公爵に付き纏っているわけ?」
「付き纏ってるって・・・別に俺は・・・」
「ふーん、こんなものまで作っちゃってさ。」
「あっ!」
手に持ってたハンカチを取り上げられる。それをふぁさっと広げたレイが笑い出した。
「ぷっ、何これ?ブッサイクな鳥。」
「うるさいな、返せよ。」
俺は取り返そうと手を伸ばすがヒョイっとかわされる。
「こんなの渡されたら公爵が迷惑する。」
そして、レイはそのハンカチを地面に落とし踏みつけた。
「おっと、ごめん。手が滑って落としちゃった。」
「あ・・・・・・」
踏まれたハンカチを慌てて拾って土を払う。でも当然綺麗にはならない。泥だらけのハンカチを手に気分が沈む。
今日に間に合わせようと片手で必死に縫ったのに、結局渡せないものになってしまった。
「なんでこんな事・・・」
「ふん、自分だけ幸せになろうなんて根性が気に食わないからさ。」
「自分だけ幸せに?」
「カインからは婚約者を奪って、僕からはカインを奪ったじゃないか。」
「別に俺は奪ってなんか・・・」
そんなことを話していると、隣で歓声が上がった。俺もレイも何事かとそちらを見ると、リリアンナ王女がザックの元へやってきていた。先程までは我こそはとザックに自分やその娘を売り込んでいた貴族たちも、王族の登場に道を空けている。
そしてリリアンナ王女が何やらザックに差し出した。恐らくハンカチだろう。周りの貴族たちがほめそやす。
「まあ、なんて繊細な刺繍なのかしら。」
「王女様と公爵様が並ぶと絵になりますね。」
「ええ、とってもお似合いだわ。」
その言葉のどれもが肯定的だった。自分がザックの隣に並んだ時とは違って。
王女から差し出されたハンカチを恭しく受けとろうとするザックに、俺は気付けば目を逸らしていた。
(これ以上見ていたくない。)
何だかそう思ってその場を離れようとした。だが突然レイに腕を掴まれて、それは叶わなかった。
「ほら、見てみなよ。公爵に王女がハンカチを渡してる。」
「そうだな・・・」
「今渡さないとチャンスはないよ?」
「は?」
お前がぐちゃぐちゃにしたくせに何を言ってるんだと言おうとしたら、レイは勢いよく俺の腕を掴んで人混みへと入っていく。
「公爵様!」
「え、ちょっと待てっ・・・」
制止も虚しく急に引っ張られて体制を崩した俺は、倒れ込むようにザックを囲う貴族たちの中央へと放り出された。
俺はこの日のためにザックに渡すハンカチに刺繍を施していた。テーマは公爵家の象徴である赤い目の鷲だ。それなりのものをプレゼントしなければと思ってこれを選んだが、少し難しすぎてあまり良い出来にはならなかった。
だけど作り直す時間もなかったので仕方なくこれを渡すことにする。
(ザック、こんなので喜んでくれるかな・・・)
いや、本当はザックなら必ず喜んでくれると分かっている。それでも、自信のないものを渡すのには勇気が必要だった。
ザックは肩慣らしも踏まえて先に会場へ向かったので俺はカインと共に後からやってきている。
「どう?ハンカチはできた?」
「ああ、一応は・・・」
そう言ってそっと刺繍したハンカチを見せる。
「ふ、ふふっ・・・かわいい刺繍だね。」
笑いを噛み殺したような声を漏らすカインにしかめ面で返す。
「笑うなら笑えよ。」
「ごめんごめん。でも一生懸命縫ったんだなっていうのは伝わるよ。」
「はぁ、やっぱり下手くそか・・・」
「いいじゃない。彼ならテイトからのプレゼントならゴミでも喜ぶさ。」
「ゴミって・・・」
「あ、このハンカチがゴミって訳じゃないよ?ちょっと歪なところも愛嬌があっていいじゃない。」
カインからのフォローが虚しい。出来が良くないのは分かっていたが笑われるほどとは・・・ザックには一人でいるときにコソッと渡そう。
そう思っていたのだが・・・
今大人気の公爵が一人になるタイミングなど当然なかった。そんなわけで、俺は大勢に囲まれているザックを木陰から見つめることしかできずにいる。
(どうしたもんかな・・・)
このハンカチは相手の無事を祈っての物なので、本来は狩猟が始まる前に渡すべき物だ。だが途切れそうにもない人混みに、あの中に入ってこの出来の悪いハンカチを渡すのは躊躇われた。
「ねえ、そこで何してんの?」
「っ!レイ?」
そこには少し表情が暗いレイが立っていた。そしてレイは俺が覗いていた先を見て鼻で笑った。
「まだ公爵に付き纏っているわけ?」
「付き纏ってるって・・・別に俺は・・・」
「ふーん、こんなものまで作っちゃってさ。」
「あっ!」
手に持ってたハンカチを取り上げられる。それをふぁさっと広げたレイが笑い出した。
「ぷっ、何これ?ブッサイクな鳥。」
「うるさいな、返せよ。」
俺は取り返そうと手を伸ばすがヒョイっとかわされる。
「こんなの渡されたら公爵が迷惑する。」
そして、レイはそのハンカチを地面に落とし踏みつけた。
「おっと、ごめん。手が滑って落としちゃった。」
「あ・・・・・・」
踏まれたハンカチを慌てて拾って土を払う。でも当然綺麗にはならない。泥だらけのハンカチを手に気分が沈む。
今日に間に合わせようと片手で必死に縫ったのに、結局渡せないものになってしまった。
「なんでこんな事・・・」
「ふん、自分だけ幸せになろうなんて根性が気に食わないからさ。」
「自分だけ幸せに?」
「カインからは婚約者を奪って、僕からはカインを奪ったじゃないか。」
「別に俺は奪ってなんか・・・」
そんなことを話していると、隣で歓声が上がった。俺もレイも何事かとそちらを見ると、リリアンナ王女がザックの元へやってきていた。先程までは我こそはとザックに自分やその娘を売り込んでいた貴族たちも、王族の登場に道を空けている。
そしてリリアンナ王女が何やらザックに差し出した。恐らくハンカチだろう。周りの貴族たちがほめそやす。
「まあ、なんて繊細な刺繍なのかしら。」
「王女様と公爵様が並ぶと絵になりますね。」
「ええ、とってもお似合いだわ。」
その言葉のどれもが肯定的だった。自分がザックの隣に並んだ時とは違って。
王女から差し出されたハンカチを恭しく受けとろうとするザックに、俺は気付けば目を逸らしていた。
(これ以上見ていたくない。)
何だかそう思ってその場を離れようとした。だが突然レイに腕を掴まれて、それは叶わなかった。
「ほら、見てみなよ。公爵に王女がハンカチを渡してる。」
「そうだな・・・」
「今渡さないとチャンスはないよ?」
「は?」
お前がぐちゃぐちゃにしたくせに何を言ってるんだと言おうとしたら、レイは勢いよく俺の腕を掴んで人混みへと入っていく。
「公爵様!」
「え、ちょっと待てっ・・・」
制止も虚しく急に引っ張られて体制を崩した俺は、倒れ込むようにザックを囲う貴族たちの中央へと放り出された。
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