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本編
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帰ってきたザックは何とも表現しづらい顔をしていた。諦めたような、それでいて晴れやかなような・・・
「ザック、その、どうだった?王城での話は・・・」
「テイトは心配しないでください。他の者との婚約を勧められましたが断ってきました。」
「断った・・・?王家相手にそんなことをして大丈夫だったのか?」
「ええ、問題ありません。それに、私は誰が相手だろうと絶対にテイトを手放したりしないので、そのつもりでいてください。」
「なっ、何言って・・・」
ザックのことを心配しての言葉だったのに、突然告白され動揺してしまう。思わず顔が熱くなるのを感じていると、ザックが幸せそうな顔で俺を抱きとめ額にキスを落として来る。
「もう少し待っていてください。私が必ずテイトを幸せにしますから。」
「そ、そんなの・・・」
きっと問題は解決しなかったのだろう。ザックの言葉に、彼が1人で何かしようとしていることがわかる。
「ザックっ!」
「はい?」
ここ最近は守られてばかりだが、俺だってザックを守りたい。
ザックと出会ったばかりの頃を思い出す。あの時は自分がザックを守らなければと思っていたのに、気づけばザックに一方的に守られることを当たり前のように受け入れていた。
「俺だってお前に幸せになってほしい。だから何でも1人でやろうとするな。俺にもできることがあったら言ってほしい。それに、もし・・・もし俺がいることが負担になるのなら、俺は・・・」
そこまで言って先を続けることができなかった。それは言葉に詰まったのではなく、ザックに口を塞がれたからだ。突然のキスに驚いて目を白黒させる。
頭を抑えられて動けない状態で、長く長くキスをする。少し酸欠になってきて苦しいのに、同時に気持ちいいと感じている自分がいて混乱する。
「あっ・・・」
やっと離れた唇に小さく声を漏らす。少しトロンとした意識でザックを見上げれば「かわいい・・・」なんてつぶやいたザックに再び額にキスをされる。
「ザック、何して・・・」
「テイト。私の幸せはテイトとずっと一緒にいることです。あなたが何かやりたいと言ってくれることはとても嬉しいのですが、私としてはずっと隣にいてくれればそれで満足です。」
ザックは自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろうか。まるで愛おしくてたまらないとでもいう表情に、恥ずかしくてザックの顔を直視できない。
頬をすりすりと触って来るザックの手の温もりを感じながら、俺はなんとか言葉を絞り出した。
「うっ、わ、わかった。俺はザックの側にいるよ。でも、何かあったら必ず言うんだぞ?」
「はい、わかりました。」
そう言って笑ったザックは幸せそうで安心した。
そんな穏やかな内情とは反対に、社交界では俺とザックの婚約が認められなかったことが話題になった。
リリアンナ王女が婚約者候補の筆頭だが、その話を受け入れなかったというザックに、我が家にもチャンスがあるかもと考えた貴族達が自分の娘や息子をザックに売り込みはじめた。
また俺には2通の手紙が届いた。1つはカインからで、「いつでも戻っておいで」と書かれている。そしてもう1つはホイットリー侯爵からで、「やはり私と婚約をしないか」というものだった。
・・・その手紙はザックによってビリビリに破かれたが。
「あの男、一体何を考えているんだ!」
「ホイットリー侯爵ってもう30代だよな?」
「ええ、確か37だったかと・・・19歳も年上のくせにテイトにアプローチしてくるなんて・・・」
聞けば侯爵には正妻がいて既に子供も3人いるらしい。その子供が俺と似たような年齢だというのだから少し複雑だ。
正妻の女性は大人しい人のようで、家格も下だったことから侯爵に従順らしい。仲が良い、とは違う侯爵家に歪なものを感じる。
「テイト、侯爵に会っても無視するんですよ?絶対に話に応じちゃダメですからね。」
「無視って・・・さすがに侯爵相手にそれは無理だけど、俺だってあの人の妾になるのはやだよ。」
ザックはそれを聞いてホッとしたように俺の髪に触れた。
「なるべく急いで準備しますから、こんな状況で申し訳ないですが、少しだけ待っていてください。」
「準備・・・?一体何をする気なんだ?」
「まだ細かいことは何も決まっていませんが、海外に移住しませんか?あ、このことはまだ誰にも秘密ですよ?」
「海外に・・・?それは俺のせいで・・・」
「テイト。」
俺を読んだザックに両手で顔を包まれる。必然的にザックと見つめ合う形になった俺はザックに真っ直ぐ見つめられていた。
「テイトのためであっても、テイトのせせいではありません。そこは覚えておいてください。それにこれは何より自分のためです。」
「いいですね?」と有無を言わせない雰囲気で言ったザックに「わ、わかったよ。」となんとか言葉を返す。
そうすれば、ザックは「分かればよろしい。」と言って俺の頬を撫でた。なんだか子供のように扱われていることといい、真っ直ぐすぎる愛情を向けられていることといい、気恥ずかしくてザックの顔が直視できない。
「俺も・・・海外に行くなら準備する。」
顔を背けてそう言ったので、その時ザックが幸せを噛み締めているような表情をしていることには気づかなかった。
「ザック、その、どうだった?王城での話は・・・」
「テイトは心配しないでください。他の者との婚約を勧められましたが断ってきました。」
「断った・・・?王家相手にそんなことをして大丈夫だったのか?」
「ええ、問題ありません。それに、私は誰が相手だろうと絶対にテイトを手放したりしないので、そのつもりでいてください。」
「なっ、何言って・・・」
ザックのことを心配しての言葉だったのに、突然告白され動揺してしまう。思わず顔が熱くなるのを感じていると、ザックが幸せそうな顔で俺を抱きとめ額にキスを落として来る。
「もう少し待っていてください。私が必ずテイトを幸せにしますから。」
「そ、そんなの・・・」
きっと問題は解決しなかったのだろう。ザックの言葉に、彼が1人で何かしようとしていることがわかる。
「ザックっ!」
「はい?」
ここ最近は守られてばかりだが、俺だってザックを守りたい。
ザックと出会ったばかりの頃を思い出す。あの時は自分がザックを守らなければと思っていたのに、気づけばザックに一方的に守られることを当たり前のように受け入れていた。
「俺だってお前に幸せになってほしい。だから何でも1人でやろうとするな。俺にもできることがあったら言ってほしい。それに、もし・・・もし俺がいることが負担になるのなら、俺は・・・」
そこまで言って先を続けることができなかった。それは言葉に詰まったのではなく、ザックに口を塞がれたからだ。突然のキスに驚いて目を白黒させる。
頭を抑えられて動けない状態で、長く長くキスをする。少し酸欠になってきて苦しいのに、同時に気持ちいいと感じている自分がいて混乱する。
「あっ・・・」
やっと離れた唇に小さく声を漏らす。少しトロンとした意識でザックを見上げれば「かわいい・・・」なんてつぶやいたザックに再び額にキスをされる。
「ザック、何して・・・」
「テイト。私の幸せはテイトとずっと一緒にいることです。あなたが何かやりたいと言ってくれることはとても嬉しいのですが、私としてはずっと隣にいてくれればそれで満足です。」
ザックは自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろうか。まるで愛おしくてたまらないとでもいう表情に、恥ずかしくてザックの顔を直視できない。
頬をすりすりと触って来るザックの手の温もりを感じながら、俺はなんとか言葉を絞り出した。
「うっ、わ、わかった。俺はザックの側にいるよ。でも、何かあったら必ず言うんだぞ?」
「はい、わかりました。」
そう言って笑ったザックは幸せそうで安心した。
そんな穏やかな内情とは反対に、社交界では俺とザックの婚約が認められなかったことが話題になった。
リリアンナ王女が婚約者候補の筆頭だが、その話を受け入れなかったというザックに、我が家にもチャンスがあるかもと考えた貴族達が自分の娘や息子をザックに売り込みはじめた。
また俺には2通の手紙が届いた。1つはカインからで、「いつでも戻っておいで」と書かれている。そしてもう1つはホイットリー侯爵からで、「やはり私と婚約をしないか」というものだった。
・・・その手紙はザックによってビリビリに破かれたが。
「あの男、一体何を考えているんだ!」
「ホイットリー侯爵ってもう30代だよな?」
「ええ、確か37だったかと・・・19歳も年上のくせにテイトにアプローチしてくるなんて・・・」
聞けば侯爵には正妻がいて既に子供も3人いるらしい。その子供が俺と似たような年齢だというのだから少し複雑だ。
正妻の女性は大人しい人のようで、家格も下だったことから侯爵に従順らしい。仲が良い、とは違う侯爵家に歪なものを感じる。
「テイト、侯爵に会っても無視するんですよ?絶対に話に応じちゃダメですからね。」
「無視って・・・さすがに侯爵相手にそれは無理だけど、俺だってあの人の妾になるのはやだよ。」
ザックはそれを聞いてホッとしたように俺の髪に触れた。
「なるべく急いで準備しますから、こんな状況で申し訳ないですが、少しだけ待っていてください。」
「準備・・・?一体何をする気なんだ?」
「まだ細かいことは何も決まっていませんが、海外に移住しませんか?あ、このことはまだ誰にも秘密ですよ?」
「海外に・・・?それは俺のせいで・・・」
「テイト。」
俺を読んだザックに両手で顔を包まれる。必然的にザックと見つめ合う形になった俺はザックに真っ直ぐ見つめられていた。
「テイトのためであっても、テイトのせせいではありません。そこは覚えておいてください。それにこれは何より自分のためです。」
「いいですね?」と有無を言わせない雰囲気で言ったザックに「わ、わかったよ。」となんとか言葉を返す。
そうすれば、ザックは「分かればよろしい。」と言って俺の頬を撫でた。なんだか子供のように扱われていることといい、真っ直ぐすぎる愛情を向けられていることといい、気恥ずかしくてザックの顔が直視できない。
「俺も・・・海外に行くなら準備する。」
顔を背けてそう言ったので、その時ザックが幸せを噛み締めているような表情をしていることには気づかなかった。
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