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本編

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そうして公爵邸に戻った俺たちは、最大の問題を乗り切った気でいた。

ところが翌日、王家から俺たちの婚約を解消するよう書かれた手紙が届いた。

内容を要約すれば、公爵ともあろうという人間が俺のような者と婚約するなど、国の権威に関わるとのことだった。まあ国教で障害者を悪としているのだからそう考えてもおかしくはない。

当然ザックはその手紙を握り締めて憤った。それに俺自身も・・・以前は結婚することの方が無理だと思っていたのに、今では婚約を解消しろと言われて胸を痛めている自分がいる。

「ザック・・・やっぱり俺は・・・」
「テイト、何も言わないでください。王城へ行って抗議してきます。」

ザックはそう言って足早に公爵邸を出ていった。


ーーー
(ザックサイド)


私は早馬で面会希望を出し、そのすぐ後を追いかけるように王城へ向かった。多少無礼だろうが気にしてはいられない。

(最近ではやっとテイトも私との結婚を前向きに捉え始めてくれていたのに・・・)

よりによって王家に否定されるとは。先程テイトが口にしかけたセリフが気にかかる。きっと王命なら仕方ないと身を引いてしまう気だったのではないだろうか。

もともと自分に自信のない彼だ。私の重荷になると思ったらさっさと去っていってしまうかもしれない。それがとても怖かった。

(テイトが望んでいるわけでもないのに、絶対に手放してなどやるものか。)


私はそう思って王城へと急いだ。

王城へと到着すると、面会希望は受け入れられた。少し待たされたが、案内された私は国王と王太子と相対している。

「急なことで驚いたが、こちらからの手紙の件だろう?」
「はい、テイト・アーデンとの婚約を取り消せとのことですが、それは受け入れられないとお話ししに参りました。」
「はぁ、全く受け入れられないと申しているのはこちらだと言うのに・・・」
「なぜあの男との婚約をそんなに望んでいるのだ?何も利などないだろう。」

国王と王太子は訳がわからないという顔でそう言って来る。分からないなら放っておいてくれればいいものを。そう思わずにはいられない。

彼らが言うには、この国の公爵ともあろう人間が障害のある者と結婚するなど、国教であるルナリス教を軽視していると見られかねないとのことだった。

(そんな理由で・・・)

妾としてなら公式の場に出てこないので問題ないのだが、と言う彼らに怒りが込み上げる。

「そこでだ。アーデン伯爵子息は妾とし、我が第二王女であるリリアンナと婚約をしないか?」
「・・・は?」

思わずそんな声が漏れた。テイトのことをどんな風に扱っても良いものとして話を進める2人に嫌悪感が募る。
それにリリアンナ王女といえばまだ11歳だろう。5歳差なのでそこまで問題にはならないとは言え、やはりまだ子供のような王女との婚約を私に勧めて来る理由がわからない。

「いえ。王女様はまだ幼いですし、年齢の近い子息から選ばれた方がよろしいかと。それに仮に妾の話を受けるとしても私はテイト以外を愛するつもりはございませんし、正妻となられた方は不幸になるでしょう。」

あくまで王族の意向を拒否するのではなく、もしもの場合として話をする。本当は、正妻を別に迎えなければならないくらいなら国を出てもいいかと考えているところだが。

「公爵も頑固だな・・・」

ため息混じりにそう言った国王にこちらがため息をつきたいくらいだと内心憤る。

「そもそもなぜ今頃私に婚約の話を?私は幼い頃から王城に顔を出していましたが、こんな話を持ちかけられたのは初めてです。」
「それは・・・」

王家は私のことを小さい頃から知っていた。前公爵は私に跡を継がせる気だったので一応公の場にも私を連れていっていたからだ。だが、私の痩せ細った体やお継母様とお義兄様の態度を見れば、私が虐げられているのは明らかだった。 

王家側は私が跡を継ぐかどうかに確信が持てず、特段関わりを持っては来なかった。つまり、王家にとっては私でもお義兄様でもどちらでもよかったということになる。結果的に公爵位を継いだ者と何らかの縁を繋ごうと考えていたのだろう。

王太子とは似たような年齢のためその頃から面識があったが、彼はむしろお義兄様と仲が良かった人間だ。今更友人のように接せられても対応に困る。

「とにかく、王女様との婚約のお話はお断りします。」
「ま、まあ待て。もう一度よく考えてくれ。」 「そうだぞ、ヘンダーソン公爵。それに一度リリアンナに会えば公爵も・・・」
「リリアンナ王女がどうというお話ではないのです。」

王女とはほぼ会ったことがないので好きも嫌いもない。だがこの国の貴族として国王の許可がないと正式に結婚できないこともわかっている。本来貴族とは家のつながりのため政略結婚をするということも。

「公爵が王女との婚約を受け入れられないことはわかった。だがこちらもアーデン伯爵子息との婚約は認められない。・・・はぁ、カイン・アーデン伯爵子息となら良かったのだがな。」
「公爵はもともとカインと婚約をしていたではないか。なぜ彼に変えたのだ?」
「そのお話は昨日も申し上げたはずです。カインとの婚約が間違いで、もともと私が探していたのはテイトだったのです。」
「双子なのだからそう変わらないだろう。わざわざ婚約を破棄してまで乗り換えるとは・・・」

その一言にカチンと来る。

「双子なら同じとおっしゃるのであればカインと婚約しようがテイトと婚約しようが違いはありませんよね?カインならよくてテイトではいけないというのは筋が通っていないかと。」

その言葉に王太子はぐっと苦い顔をした。

「もう良い。この話は保留だ。」
「しかし・・・」
「だが公爵よ、私たちはアーデン伯爵子息を正妻として迎えることは許可できない。その上でリリアンナか他の者を正妻に迎えるよう検討しなさい。」
「・・・貴方達の意向はわかりました。私も考えたいと思います。」

この国の爵位を捨てて海外へ移住することを。そこまでは口に出さなかったが。

そうして私は疲れた気持ちで王城を去った。

この国での思い出などテイトと出会ったことくらいだ。だからテイトさえ手に入るのならこの国にこだわる必要はない。
この際、ルナリス教の宗教圏を抜けて障害者差別のない国に行こう。そうすればテイトも暮らしやすいはずだ。

だが、行った先でテイトに苦労をかけないよう、ある程度は地盤を整えなくては。また穏便に国を出るために後継者なども見繕っておく必要がある。

私はこの国にさっさと見切りをつけてテイトとの将来について考え始めた。
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