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本編

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そして俺は先ほどより緊張して会場の隅へと戻った。カインを探すとは言ったものの広い会場でカインを探しながらウロウロする勇気が出なかった。

そして壁の花を決め込んでいると、周りにザックがいないことを確認した貴族連中が絡んできた。

「初めまして、アーデン伯爵子息ですね?」
「ええ、テイト・アーデンと申します。」

内心話しかけられたことにドギマギしつつ、出来うるかぎり優雅に応じる。

「私はウィルソン伯爵家のジャックです。お見知り置きを。」
「ええ、よろしく・・・」

青年のうちの1人が名乗りを上げる。一見すると丁寧なのだが、その中に嫌な空気を感じた。

「テイト殿はカイン殿にそっくりですね。」
「双子ですから。」
「ふむ、カイン殿は大変優秀ですがテイト殿はいかがですか?」
「私は貴族として教育を受け始めたのは最近のことですから、カインの足元にも及びません。」
「そうですか・・・」

すると複数いた青年たちはお互いに顔を見渡し、少し嫌な笑顔で笑った。

「よろしければ私と一曲踊っていただけませんか?」
「いえ、申し訳ありませんが私はダンスが苦手ですので・・・」
「私がしっかりエスコートしますから。」 
「・・・すいませんが気分が優れないので・・・」 

どうにか逃げようとあれこれ理由をつけて断ったが、立ち去ろうとすると他の青年たちに周りを囲まれる。

「まあ、そう言わずに。」

そう言った青年は無理矢理俺の左手を取って中央へと引っ張る。

「ちょっと、離してください!」
「一曲だけですから。」

強引にダンスホールへ連れてこられた俺は、どうにか腕を振り払おうと体を捩った。だが青年に「これ以上騒いで恥を晒すような真似は控えたらどうです?」と言われてぐっと文句の言葉を飲み込んだ。

もう既にかなり注目を集めてしまっている。ここでさらに踊りたくないと騒げば大事になってしまいそうだ。

「・・・一曲だけですよ。」

俺は渋々そう言って相手の背に左手を回す。

「ええ、十分です。」

ニヤッと笑った青年は俺の右袖を掴んで思いっきり引っ張った。

「っ・・・」

右袖を引っ張られすぎて服がよれる。優雅さのかけらもないエスコートに、俺を晒し者にするためにダンスに誘ったのだと理解した。

(一曲だけだ・・・一曲終わったらさっさと逃げよう)

俺は自分にそう言い聞かせてなんとかダンスに臨んだ。

曲が始まると同時にザックに習ったステップを踏む。
相手がザックのような気遣いを見せないので非常に踊りにくいが、なんとかついていくことはできている。そのことに胸を撫で下ろしていると、相手の子息は驚いた表情で俺を見た。

ここまで踊れるとも思っていなかったらしい。そのことを内心鼻で笑ってやる。
だがそれだけでは終わらなかった。

相手の子息は右袖を強く引っ張り、少しバランスを崩した俺の足を引っ掛けた。

「あっ!」

声をあげた時には遅く、よろけた俺は受け身も取れずに盛大に転んでしまった。

「おや、大丈夫ですか?」

笑いを隠しもしない令息をキッと睨みつける。

「ほら、早く立ち上がらないと邪魔になってしまいます。」

そう言われ差し伸べられた手を嫌々掴み返す。ダンスホールの周りにも転んだ俺に嘲笑めいた笑みを浮かべている奴らが大勢いる。

俺は唇を噛んで再びダンスを再開した。この曲さえ終われば解放される。どうせ俺の評判など最初から地に落ちているのだからいくら失態を犯したところで気にする必要はない。そう自分に言い聞かせて。

その後も令息は足を引っ掛けようとしてきたが同じ手になど引っかかってやるものか。そう思ってなんとか避けているうちにダンスは終わった。正直ダンスを踊った気はしないが。

互いに礼をして離れる。相手の令息はやり足りなかったのか不満げな表情だが知ったことではない。

俺はよれた服を簡単に直してまた壁際に戻ろうとした。だがダンスで注目を集めすぎたらしい。先程の令息の仲間たちや面白がった貴族たちが群がってきた。

「ぜひ私ともダンスを・・・」
「いえ、今ので足を捻ってしまいましたので。」
「少しあちらでお話しませんか?」
「婚約者を待っておりますので。」

どいつもこいつも好意的に近づいてきているのではないとわかる。そんな中、さらに1人の人物が近づいてきた。その男を見て周りの貴族たちが道を開ける。どうやら高位貴族らしい。

「初めまして、アーデン伯爵子息。私はダグラス・ホイットリー。侯爵です。」
「初めまして、テイト・アーデンです。」

なるほど、ひとまわり・・・いやふたまわりくらい年上に見えるその人は侯爵らしい。俺の周りに群がっていた品のない連中はせいぜい伯爵以下だ。なので皆侯爵を見て道を開けたのだろう。

「ふむ、本当に顔だけ見ればカイン殿と瓜二つですな。」
「・・・ええ、双子ですから。」

今日だけで何度も言われたセリフにこれまた同じセリフで返す。

「なるほど、はいい。」
「?」
「ところで婚約者殿はどちらかな?」
「ヘンダーソン公爵でしたら殿下と歓談中です。」
「おや、婚約者を放っておくなんて、君は大切にされていないのかね?」

その言葉に周りがクスクスと笑う。俺が1人になればこうして絡まれるのが分かり切っていたのにザックは守ってくれないのか、とでも言いたいんだろう。

「私は1人でも大丈夫ですし、殿下の誘いとあっては公爵も断ることはできません。」
「そうか?大丈夫そうには見えなかったが。それにしても戻りが遅いのではないかな?」
「・・・問題ありません。きっと話に花が咲いているのでしょう。」

侯爵はグレーの瞳を細めて俺を見た。

「カイン殿とは随分性格が異なるのだな。」
「ええ、そうですね。」

少しぶっきらぼうすぎただろうか。もう返すのも面倒になった俺は話が続かないよう適当に相槌を打った。

「ふふ、悪くない。公爵に婚約破棄されたら私が貰い受けてやろう。」
「っ、何を仰って・・・」
「おや、その予定ではないのか?公爵はカイン殿と元々恋仲だっただろう。君に関する騒動が収まればまた婚約し直すのでは?」
「・・・そんなことは。」

絶対にない、とは言い切れなかった。カインとは恋仲などではないが、半年という考える期間を設けたのは他でもない俺自身だ。婚約破棄にならない保証などどこにもない。

「そうか、まあいい。婚約破棄とならずとも公爵に愛想をつかせたら私のところに来るといい。私ならにもたくさん愛情を注いでやれる。」
「お言葉ですが・・・っ!」

俺は含みのある言い方をした侯爵の腕をそっと払い、たとえ婚約破棄されようとも貴方の婚約者にはならないと言おうとした。

だがそのセリフは後ろから肩を抱いた人物に遮られた。

「テイト、お待たせしました。」
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