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本編

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そうこうしているうちに今度はカインとの授業の日になった。

「こんなことなら最初から一緒に授業を受ければよかったね。」
「そうだな・・・まあ昔はそんなこと考えられなかったけど。」
「それもそっか。」

久々に二人きりで話すカインとの授業は、和やかな空気で始まった。公の場に出ていかなければならないとなると双子のカインに教わるのが悔しいだなどとは言っていられない。俺はこれまでにないほど真剣にカインから教わる知識を吸収した。

そうしてなんとか及第点をもらえた頃、ザックがおもむろに切り出した。

「そろそろパーティー用の服を用意しないといけませんね。」

そういえばそんな用意も必要なのだった。普段パーティーに参加したことがないので何をどう準備すればいいのか全くわからない。

「それでは、テイトの服は私にプレゼントさせて下さい。」
「いや・・・そこまでして貰わなくても・・・」
「テイト。婚約者に服を贈るのは普通のことだよ。むしろ、贈らなかったら不仲だと思われる。」
「そうなのか?じゃあお願いしようかな・・・」

服を贈ると言い出したザックに遠慮すればカインに嗜められた。

(そういうものなのか・・・)

俺は初めてのことばかりで混乱しつつも、それならばとザックに甘えることにした。

「それで、どこで仕立てるかは決まっているんですか?」

カインの質問にザックは胸を張って笑った。

「ええ、店は決まってます。というより、もともとあの店しかなかったですが・・・」

そうして俺はザックに連れ出された。あの店とはジョニーの仕立て屋だろうが、ザックは「きっと驚きますよ。」なんて言いながら楽しそうに馬車に乗り込んだ。

一体あの店の何にそんな楽しみにする要素があるのかと不思議に思い馬車に揺られていると、店に近づいてきた。その変化は、遠目にも分かるほどだった。

かつての寂れた雰囲気は消え失せ、街1番の仕立て屋にも負けないお洒落な店構えになっている。黒を基調にした内装に、ところどころ青の装飾があしらわれた店内は、貴族を迎えても恥ずかしくないほどだった。

「これは・・・」
「ふふ、驚いてくれましたか?」
「ザックがやったのか?」
「私は少し出資しただけです。」

ここまで変えるとなればでは足りなかっただろう。そんなことを考えながらザックにエスコートされ馬車を降りた俺は、恐る恐る店内に足を踏み入れた。

まさか店長までリニューアルしていないだろうな。そう思って店内を見回せば、中央のカウンターに見慣れた顔が見えてホッとする。

「久しぶりですね。」
「ああ、久しぶり。それにしても、少し見ない間に随分雰囲気が変わったな。これ、店長の趣味なのか?」

あんなに寂れた雰囲気でもよしとしていた彼にしては随分煌びやかになったものだ。そう思って店長に尋ねれば彼はザックをチラッと見て、「ええ、まあ概ねは私のセンスでやらせて貰いました・・・色以外は・・・」とボソボソと答えた。

「テイトの服を買うところですから。これくらいの格式は備えてもらわないと。」 

そう言って満足げに笑ったザックが俺を抱き寄せる。店主が「お熱いですね」なんて温かい目でみてくるので俺は恥ずかしくなってザックを引き剥がした。

「それで、今日はどんな服を御所望ですか?」
「ああ・・・テイトのパーティー用の服を仕立てに・・・ついでにお揃いで私のも作ってくれ。」

ザックが名残惜しそうに宙に手を残したまま返事をする。

「パーティー?テイトさんが?」
「まあ、色々あってな・・・」
「そうですか・・・わかりました。それで、デザインはどんなのにしましょう?」

怪訝そうな顔をした店主だが、歯切れ悪く答えた俺に詳しくは聞いてこなかった。わざわざ事情を説明せずに済んだことにホッとする。

「そうですね。やはりテイトの良さを引き立てるために落ち着いた色味が良いです。黒をベースにしつつ金と青をアクセントに・・・」

店主の質問にズイっと出てきたザックに概ねは任せることにした。そもそも買うのもザックなのだし。
そして俺はザックの横で二人の話を聞きながら店内を見回した。

かつての雰囲気も自分の性に合っている気がして落ち着いたものだが、今のこれも悪くない。ザックが俺のことを考えてやってくれたことだからだろうか。

そんなことを考えていると服のデザインが決まったらしい。最後に採寸を済ませて終わりとのことだ。

「かなりの自信作です。きっと良いものが出来上がりますよ。」
「ええ、公爵様はとてもセンスがいい。きっと皆さんから注目される服になります。」
「・・・・・・・・・」

意気揚々とした2人に思わず微妙な笑みで応える。

(俺が何を着たって貶されるに決まってる・・・)

その事実が目に見えているだけに、ここまで張り切ってくれた2人に申し訳ない気持ちになる。2人は俺がここで服を仕立てたと周りに知られた時、バカにされないようここまで店を整えてくれたのだろう。

そんな心遣いが胸に刺さる。ここまでしてくれたのに俺のせいで服も店も貶されたら・・・
そう思うと、また気持ちが暗くなった。

ザックは勝手に落ち込んだ俺を心配そうに覗き込む。

「テイト?大丈夫ですか?」
「ん?ああ、悪い。服、ありがとうな。すごく楽しみだよ。」

そう笑った俺をザックは納得行かなそうに見つめた。

「何か気に入らない部分がありますか?今ならまだ直せますよ?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「それじゃあ・・・?」

ザックは誤魔化されてはくれないらしい。俺はじっと見つめてくるザックから目を逸らして正直に吐いた。

「・・・2人には悪いけど、どんなにいい服だって俺が着たらきっと貶される。だから悪いなと思ってさ・・・」
「そんなこと・・・」
「あるよ。きっと行けば分かる。」

そう言って肩をすくめたら、ザックは辛そうな顔をして俺を抱きしめた。

「私はテイトに似合う服を仕立てたかっただけです。テイトが気にいってくれさえすれば周りに何と言われても気にしません。」
「ザック・・・・・・そうか、ありがとう。俺はザックがそんな風に思って考えてくれた服だってだけですごく嬉しいよ。」

そう言って少したじたじになりつつもザックを抱きしめ返す。
こんな風に思ってもらえるなら俺も周りからの評価なんて気にするのはやめよう。最初からザックが服をプレゼントしてくれるということだけを純粋に喜べばよかった。

「あー私ももともと評判なんてないような店ですし、気にしないでください。」

店主にもそう言われて、俺は気持ちが楽になって店を後にした。少し泣きそうだったのは秘密だ。
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