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本編
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そうして一度伯爵家へ戻った俺たちだが、新聞に公表するとなればそれなりに身なりをたとえた方がいい。
そういうわけで俺は数年ぶりとも言えるほど久々に使用人にもみくちゃにされていた。
使用人たちは少し嫌そうな顔をしつつもお父様の命令とあっては丁寧に仕事をするしかないようで、風呂で隅々まで洗われている。
もともと清潔にしていたので風呂から上がっても大差はないが、やはり湯船に浸かるというのは気持ちが良かった。・・・慌ただしく使用人に揉まれていなければよりそう思えたのだが。
そして次は服選びだ。
「あら?テイトはこれだけしか服を持っていなかったかしら?」
母が首を傾げながら俺のクローゼットを見やる。少しスラムの屋敷に持っていってしまったのでギクッとしたが、もともと服は多くはない。
「奥様、テイト様は人前に出る機会がございませんでしたし、服も仕立てていなかったのでしょう。」
「そう、だったかしら・・・それなら仕方ないわね。カインの服を借りましょう。」
そうしてカインの部屋から何着から運び込まれ、着せ替え人形のように試着することになった。同じ顔のはずなのにカインの服はどうもしっくりこない。かろうじてカインにしては珍しい黒の服を見つけて、俺はそれを着ることにした。
「カインの服でもこんな・・・」
少しダボつくその服を見てお母様は口を押さえた。何やら勝手に罪悪感を抱かれたようなのだが、俺にとってはどうでもいい。
気遣わしげに俺を振り返るお母様を他所に、とりあえず服が決まったことにホッとして他の面々の準備が終わるのを待った。
そして、全員の準備が終わった。
流石に外にいる野次馬全員の前に出ていくことはためらわれた俺たちは、例の記事が掲載された新聞の記者だけを呼び込むことにした。
そして現在、驚いた顔をした記者と相対し、客間で取材を受けている。
「ではあの内容は本当だったと?」
「君は確信がないままあの記事を書いたのか?」
「いえ、それは・・・」
「まあ今となってはもういい。見ての通り、本当だからな。」
そう言ってお父様は視線だけをこちらへと向ける。一人だけ中へと通された記者は顔色が悪く、貴族相手に楯突いたので罰されるのではと不安に思うほどの常識はあるようだ。
「では今になって公表した理由は?」
「隠し通せるものではないと思ったからだ。それにこの子もれっきとしたこの家の子で、喜ばしい報告もある。」
「喜ばしい報告?」
そして家族と目を合わせたお父様は、息を吸い込んで皆で決めた内容を口にした。
「テイトはヘンダーソン公爵の婚約者となる。」
「!?それはどういうことですか?確かカイン様が婚約者だと・・・」
「実は、もともと婚約者にと望まれていたのはテイトなのだ。だがテイトは世間に公表していなかったためカインとの婚約として発表してしまった。」
「なる・・・ほど・・・?」
状況を飲み込めていないらしい記者はそれでもメモを進めた。
「それで、公爵様はなぜテイト様をお望みになったのですか?」
「それは・・・まあ幼い時に知り合って好意を抱いて下さったようだ。」
「ふむ・・・公爵様は昔からテイト様のことをご存知だったと?」
「ああ、テイトのことは知っていた。我が家の息子とは知らなかったようだが。」
「半ば信じられないお話ですが、それは公爵様の方にも確認を取った方が良さそうですね。出来るかはわかりませんが・・・」
「ふん、まあ確認せずともいずれ分かることだがな。」
そうして記者は、「貴重な話をありがとうございました。」と言って早足で帰っていった。
翌日、さっそくこのことが記事にされた。
結局あの記者はザックには確認を取らなかったらしい。その代わりにザックのことは推論を呼びつつも好意的な印象となるよう書かれていた。
ーーーアーデン家の障害のある弟と公爵様が婚約するらしい。以前は長男との婚約と公表されていたが、もともと公爵様は弟との婚約を希望されていたのだとアーデン伯爵は言う。
だが、実際のところはわからない。評判の落ちる婚約者の長男を可哀想に思った公爵様が、伯爵家の地位を向上させるためにこのような決断をした可能もーーー
記事にはそんな風に書かれていた。公爵であるザックの期限を損ねないよう美化したつもりかもしれないが、それが返ってザックを怒らせたことを記者は知らない。
蓋を開けば俺が悪者になっていたが、それで済むならそれに越したことはない。俺は憤るザックを宥めて、再び公爵邸で世話になることになった。
そういうわけで俺は数年ぶりとも言えるほど久々に使用人にもみくちゃにされていた。
使用人たちは少し嫌そうな顔をしつつもお父様の命令とあっては丁寧に仕事をするしかないようで、風呂で隅々まで洗われている。
もともと清潔にしていたので風呂から上がっても大差はないが、やはり湯船に浸かるというのは気持ちが良かった。・・・慌ただしく使用人に揉まれていなければよりそう思えたのだが。
そして次は服選びだ。
「あら?テイトはこれだけしか服を持っていなかったかしら?」
母が首を傾げながら俺のクローゼットを見やる。少しスラムの屋敷に持っていってしまったのでギクッとしたが、もともと服は多くはない。
「奥様、テイト様は人前に出る機会がございませんでしたし、服も仕立てていなかったのでしょう。」
「そう、だったかしら・・・それなら仕方ないわね。カインの服を借りましょう。」
そうしてカインの部屋から何着から運び込まれ、着せ替え人形のように試着することになった。同じ顔のはずなのにカインの服はどうもしっくりこない。かろうじてカインにしては珍しい黒の服を見つけて、俺はそれを着ることにした。
「カインの服でもこんな・・・」
少しダボつくその服を見てお母様は口を押さえた。何やら勝手に罪悪感を抱かれたようなのだが、俺にとってはどうでもいい。
気遣わしげに俺を振り返るお母様を他所に、とりあえず服が決まったことにホッとして他の面々の準備が終わるのを待った。
そして、全員の準備が終わった。
流石に外にいる野次馬全員の前に出ていくことはためらわれた俺たちは、例の記事が掲載された新聞の記者だけを呼び込むことにした。
そして現在、驚いた顔をした記者と相対し、客間で取材を受けている。
「ではあの内容は本当だったと?」
「君は確信がないままあの記事を書いたのか?」
「いえ、それは・・・」
「まあ今となってはもういい。見ての通り、本当だからな。」
そう言ってお父様は視線だけをこちらへと向ける。一人だけ中へと通された記者は顔色が悪く、貴族相手に楯突いたので罰されるのではと不安に思うほどの常識はあるようだ。
「では今になって公表した理由は?」
「隠し通せるものではないと思ったからだ。それにこの子もれっきとしたこの家の子で、喜ばしい報告もある。」
「喜ばしい報告?」
そして家族と目を合わせたお父様は、息を吸い込んで皆で決めた内容を口にした。
「テイトはヘンダーソン公爵の婚約者となる。」
「!?それはどういうことですか?確かカイン様が婚約者だと・・・」
「実は、もともと婚約者にと望まれていたのはテイトなのだ。だがテイトは世間に公表していなかったためカインとの婚約として発表してしまった。」
「なる・・・ほど・・・?」
状況を飲み込めていないらしい記者はそれでもメモを進めた。
「それで、公爵様はなぜテイト様をお望みになったのですか?」
「それは・・・まあ幼い時に知り合って好意を抱いて下さったようだ。」
「ふむ・・・公爵様は昔からテイト様のことをご存知だったと?」
「ああ、テイトのことは知っていた。我が家の息子とは知らなかったようだが。」
「半ば信じられないお話ですが、それは公爵様の方にも確認を取った方が良さそうですね。出来るかはわかりませんが・・・」
「ふん、まあ確認せずともいずれ分かることだがな。」
そうして記者は、「貴重な話をありがとうございました。」と言って早足で帰っていった。
翌日、さっそくこのことが記事にされた。
結局あの記者はザックには確認を取らなかったらしい。その代わりにザックのことは推論を呼びつつも好意的な印象となるよう書かれていた。
ーーーアーデン家の障害のある弟と公爵様が婚約するらしい。以前は長男との婚約と公表されていたが、もともと公爵様は弟との婚約を希望されていたのだとアーデン伯爵は言う。
だが、実際のところはわからない。評判の落ちる婚約者の長男を可哀想に思った公爵様が、伯爵家の地位を向上させるためにこのような決断をした可能もーーー
記事にはそんな風に書かれていた。公爵であるザックの期限を損ねないよう美化したつもりかもしれないが、それが返ってザックを怒らせたことを記者は知らない。
蓋を開けば俺が悪者になっていたが、それで済むならそれに越したことはない。俺は憤るザックを宥めて、再び公爵邸で世話になることになった。
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