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本編
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そして午後、俺は緊張しながら両親とカインを迎えた。3人とも顔色が悪い。どうやら伯爵家の方では、記事の真偽を確かめようと記者やら他の貴族の密偵やらが張り付いているらしい。
「ようこそアーデン伯爵、まずはくつろいでください。」
「・・・ああ、お気遣い感謝します。」
そうして客間に通された3人は紅茶を手に一息つく。流石に公爵家まで押しかけるような人間はおらず、やっと落ち着けたらしい。
「ありがとうございます、公爵様。だいぶ落ち着きました。」
「それは良かった。」
「それで、さっそくでなんですが、本題に入らせていただきたい。」
そう言ってお父様は姿勢を正した。
「もうご存知かと思いますが、どこからかテイトのことを公表されてしまいました。この子のことを知っているのは本当に家族ぐるみで親しい者たちだけだったというのに・・・」
「それは・・・心中お察しします。」
「・・・ありがとう。だが今はそれよりもこれからどうするかを話し合わさせていただきたい。」
「もちろんです。」
そうして始まった話し合いはひどく空気の重いものだった。そんな中で、仕方がないとばかりに最初に口を開いたのはお父様だった。
「・・・もう誤魔化せる段階は過ぎてしまいました。こうなった以上、私たちはテイトを対外的にも廃嫡したものとして公表し、教会にでも預けることにしようと考えています。」
お父様は問題を抱え続けるよりは公表してでも切り離した方が良いという考えらしい。もともと継承権などなかったので廃嫡されることにさした問題はない。
むしろ昔は中途半端な扱いをするくらいなら孤児院にでも出してくれればいいのにと思っていたくらいだ。
だから・・・俺はその決断に対して何とも思っていない。思ってなどいないのに、お父様とお母様が憔悴したような申し訳ないような顔をこちらに向けてくると、何だか泣き出したい気分になる。
関わりの薄かった両親でも一応は自分の家族なのだと思い知らされたような気持ちになって、今更知りたくなどなかったと目を逸らした。
「それで、そうなった時に婚約をどうするかなのですが・・・」
俺が顔を背けたのを見て、両親は肩をすくめてザックに視線を移した。
「私としてはテイトを婚約者にしたいという思いは変わりません。あなたたちがテイトを家から出すというのなら私はテイトを正式に婚約者として発表したいと思います。」
「でも、それだと公爵様が・・・」
「私は気にしませんし、もしこの国での生活が難しくなるようならテイトと共に海外にでも移住しますよ。」
その言葉にカインが顔を上げた。
「海外?それは思い切りすぎなのでは・・・」
「もちろん。いざとなったら、ですよ。すぐに移住を決断するつもりはありません。テイトだってこの国の友人と離れ離れになってしまいますし。」
「そう、ですよね・・・でも、海外か・・・」
カインは思い悩むようにザックの言葉を反芻した。
「それより、テイトと婚約を公表するということはカインとの婚約を破棄するということですよね。」
「そうなりますね。」
ザックの合意にお父様とお母様が顔を見合わせた。
「それは・・・」
「カインにとっては大打撃だな・・・周りに何と言われるか。」
確かに、俺を廃嫡した挙句カインは婚約破棄、その上公爵の新たな婚約者が俺となったら、アーデン家は完全に落ち目だと思われるだろう。
「あなた、どうしましょう?このままだと・・・」
そう言ったお母様にお父様が考え込む。家を守るために俺を廃嫡したい、でもカインの婚約破棄は避けたい。そんな葛藤が見えるようだった。
「ねぇ、お父様、テイトを廃嫡するのは考え直しませんか?」
カインの言葉にお父様の眉間の皺が深まる。
「しかし、それだと・・・」
「その上でテイトと公爵の婚約を発表するんです。そうすれば、1番ダメージが少ないのでは?」
「たしかに、一理あるが・・・」
そう言って3人はザックと俺を見た。
「私はそれでも構いません。結果的にテイトと婚約できるわけですし。」
「俺は、どちらでも・・・」
カイン個人としてはダメージを受けるだろうが、俺という存在により受ける伯爵家のダメージは公爵との婚約で少し和らぐだろう。
逆に俺としてはどちらにしても大した影響はない。まあ、廃嫡された上に半年後にザックに捨てられたら伯爵家には戻れないというだけだ。
「それなら、その案で行くか・・・公爵様もそれでよろしいですかな?」
「ええ、構いません。こう言ってはなんですが、願ったり叶ったりです。」
「わかりました。それではその案でいきましょう。」
その言葉を受けて1番ホッとしているのはカインのように見えた。不思議に思ってカインを見ていると花が咲いたように微笑み返された。
そうして俺たちは、いつ俺の存在を公表するか、さらにはカインとザックの婚約破棄、俺とザックの婚約についての発表をどうするかの話し合いに移行した。
結果、俺たちも相手に合わせて新聞に情報を売ることにした。下手にパーティーなどで公表するより手っ取り早いし、直接的に悪意ある反応を受けずに済む。
そうして、俺を含めた4人は一度アーデン家に戻ることになった。その情報を公表するには、俺自身がいた方が明確に事情が伝わるだろうと考えてのことだった。
ザックは心配してくれたが、俺は今までと何も変わらないから大丈夫だと言って3人について家へと帰った。
「ようこそアーデン伯爵、まずはくつろいでください。」
「・・・ああ、お気遣い感謝します。」
そうして客間に通された3人は紅茶を手に一息つく。流石に公爵家まで押しかけるような人間はおらず、やっと落ち着けたらしい。
「ありがとうございます、公爵様。だいぶ落ち着きました。」
「それは良かった。」
「それで、さっそくでなんですが、本題に入らせていただきたい。」
そう言ってお父様は姿勢を正した。
「もうご存知かと思いますが、どこからかテイトのことを公表されてしまいました。この子のことを知っているのは本当に家族ぐるみで親しい者たちだけだったというのに・・・」
「それは・・・心中お察しします。」
「・・・ありがとう。だが今はそれよりもこれからどうするかを話し合わさせていただきたい。」
「もちろんです。」
そうして始まった話し合いはひどく空気の重いものだった。そんな中で、仕方がないとばかりに最初に口を開いたのはお父様だった。
「・・・もう誤魔化せる段階は過ぎてしまいました。こうなった以上、私たちはテイトを対外的にも廃嫡したものとして公表し、教会にでも預けることにしようと考えています。」
お父様は問題を抱え続けるよりは公表してでも切り離した方が良いという考えらしい。もともと継承権などなかったので廃嫡されることにさした問題はない。
むしろ昔は中途半端な扱いをするくらいなら孤児院にでも出してくれればいいのにと思っていたくらいだ。
だから・・・俺はその決断に対して何とも思っていない。思ってなどいないのに、お父様とお母様が憔悴したような申し訳ないような顔をこちらに向けてくると、何だか泣き出したい気分になる。
関わりの薄かった両親でも一応は自分の家族なのだと思い知らされたような気持ちになって、今更知りたくなどなかったと目を逸らした。
「それで、そうなった時に婚約をどうするかなのですが・・・」
俺が顔を背けたのを見て、両親は肩をすくめてザックに視線を移した。
「私としてはテイトを婚約者にしたいという思いは変わりません。あなたたちがテイトを家から出すというのなら私はテイトを正式に婚約者として発表したいと思います。」
「でも、それだと公爵様が・・・」
「私は気にしませんし、もしこの国での生活が難しくなるようならテイトと共に海外にでも移住しますよ。」
その言葉にカインが顔を上げた。
「海外?それは思い切りすぎなのでは・・・」
「もちろん。いざとなったら、ですよ。すぐに移住を決断するつもりはありません。テイトだってこの国の友人と離れ離れになってしまいますし。」
「そう、ですよね・・・でも、海外か・・・」
カインは思い悩むようにザックの言葉を反芻した。
「それより、テイトと婚約を公表するということはカインとの婚約を破棄するということですよね。」
「そうなりますね。」
ザックの合意にお父様とお母様が顔を見合わせた。
「それは・・・」
「カインにとっては大打撃だな・・・周りに何と言われるか。」
確かに、俺を廃嫡した挙句カインは婚約破棄、その上公爵の新たな婚約者が俺となったら、アーデン家は完全に落ち目だと思われるだろう。
「あなた、どうしましょう?このままだと・・・」
そう言ったお母様にお父様が考え込む。家を守るために俺を廃嫡したい、でもカインの婚約破棄は避けたい。そんな葛藤が見えるようだった。
「ねぇ、お父様、テイトを廃嫡するのは考え直しませんか?」
カインの言葉にお父様の眉間の皺が深まる。
「しかし、それだと・・・」
「その上でテイトと公爵の婚約を発表するんです。そうすれば、1番ダメージが少ないのでは?」
「たしかに、一理あるが・・・」
そう言って3人はザックと俺を見た。
「私はそれでも構いません。結果的にテイトと婚約できるわけですし。」
「俺は、どちらでも・・・」
カイン個人としてはダメージを受けるだろうが、俺という存在により受ける伯爵家のダメージは公爵との婚約で少し和らぐだろう。
逆に俺としてはどちらにしても大した影響はない。まあ、廃嫡された上に半年後にザックに捨てられたら伯爵家には戻れないというだけだ。
「それなら、その案で行くか・・・公爵様もそれでよろしいですかな?」
「ええ、構いません。こう言ってはなんですが、願ったり叶ったりです。」
「わかりました。それではその案でいきましょう。」
その言葉を受けて1番ホッとしているのはカインのように見えた。不思議に思ってカインを見ていると花が咲いたように微笑み返された。
そうして俺たちは、いつ俺の存在を公表するか、さらにはカインとザックの婚約破棄、俺とザックの婚約についての発表をどうするかの話し合いに移行した。
結果、俺たちも相手に合わせて新聞に情報を売ることにした。下手にパーティーなどで公表するより手っ取り早いし、直接的に悪意ある反応を受けずに済む。
そうして、俺を含めた4人は一度アーデン家に戻ることになった。その情報を公表するには、俺自身がいた方が明確に事情が伝わるだろうと考えてのことだった。
ザックは心配してくれたが、俺は今までと何も変わらないから大丈夫だと言って3人について家へと帰った。
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