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本編

47(ザックサイド)

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それから1週間、テイトは少しずつ私に心を許してくれるようになった。このままいけば半年を待たずにテイトと正式に婚約できるかもしれない。
そう考えるとつい顔がにやけてしまう。だがそれを我慢することなどできないほどの幸せを感じていた。

最近では私が強請れば額や頬にだがキスもしてくれるし、一緒にも眠ってくれる。直前まで恥ずかしがっているのに、抱きしめると腕の中で安心したように眠るテイトは庇護欲をそそった。

・・・そんな風に惚気ていた私はすっかりスコット伯爵令息に言われた言葉を忘れていた。いや、正確にはそこまで重く捉えていなかったのだ。


「公爵様!大変です!」

焦りの滲んだ執事が私の部屋へとやってきた。

「どうした。」
「これを見てください。」

執事が持っていたのは今日の朝刊だ。それを受け取って一面に目を落とす。

『女神から見放された伯爵家?腕のない双子の弟の存在が明らかに』

新聞のタイトルに書かれている文字を見て目を疑った。

「・・・・・・・・・これは。」
「アーデン家のことのようです。」

するとまた慌ただしい足音が聞こえてきた。

「公爵様、アーデン家から使いの者が来ております。」
「通してくれ。」

そうしてやってきた使いは、アーデン家からの急ぎの面会要請を伝えに来た者だった。

「本日の午後にでも可能だ。公爵家へ来てもらう方がいいだろう。お待ちしていると伝えてくれ。」

そう伝えると使いは帰っていった。

「さて、どうしたものか・・・」

正直なところ、もともとテイトを婚約者として発表する気だった私には大した衝撃はない。でもアーデン家にとっては大打撃だろうし、それはつまり少なからずテイトにとっても衝撃があると言うことだ。

孤児のような身なりをしていた頃の私にさえ正体を隠す徹底ぶりだったのだ。きっとこれを見せれば大きなショックを受けるだろう。

だが午後にでもアーデン伯爵たちがやってくればもう隠し通すこともできない。私はテイトの部屋へと向かった。


「ザック?どうしたんだ。」

ノックをして部屋へと入れば、書類に向かっていたテイトが振り返る。

「テイト、また書類仕事をやってくれていたんですか?そんなに頑張りすぎなくても良いんですよ。」
「いや、俺にもできることがあると嬉しくて。好きでやってることだから気にするな。」
「そうですか・・・」

あまりに書類仕事を頑張るテイトに、ここに来た本題より先にそんな声をかけてしまった。
最初はテイトに仕事をやらせるなんて、と思っていたが、初めて簡単な頼み事をした時の彼の喜びようを見て考えを改めた。

この国では障害者は何もできない落伍者のように扱われがちだ。恐らくはそれを気に病んで誰かの役に立ちたいと考えているようだったテイトに仕事を頼めば、最初こそ初めてのことで戸惑っていたが今では健常者に遜色ない、あるいは上回るほどの仕事をこなすようになった。

テイトに仕事を頼んだ時に、初めて健常者のように働けると目を輝かせて仕事に取り掛かった彼の顔が忘れられない。
そんな生き生きとし始めたテイトに、今から話さなければならないことを考えると、あまりの気の重さに持っている新聞を握りしめた。

「テイト、話があります。」
「どうしたんだ?改まって。」

そうして私はテイトに新聞を渡した。

「こ、これ・・・」
「はい、アーデン家のことのようです。テイトの存在がバレてしまったみたいですね。」
「アーデン家からは!?何か連絡が?」
「ええ、今日の午後に面会予定です。」
「そうか・・・なんで、今になって・・・」
 
テイトは新聞を握ったまま力なく俯いた。
まだ確信はないが、この間のセリフといい、このネタを提供したのはスコット伯爵子息ではないだろうか。だとしたら、この事態を引き起こした原因は私にもある。

「テイト、すいません。」
「なんでザックが謝るんだよ。」
「もしかしたら、私が阻止できたことかもしれないのです。こうなる兆候はありましたので・・・」
「・・・そうか。それでもザックのせいじゃない。むしろアーデン家の問題に巻き込んで悪かったな。」
「これはテイトのせいでもありません!それに私は、アーデン家がどうなろうとテイトのことを愛し続けます。」

そう言えばテイトは「ありがとうな」と力なく笑った。その笑顔からは諦めにも似た雰囲気が感じられて胸が締め付けられる。きっと伯爵家から放逐されることを覚悟しているのだろう。

「まずは伯爵たちと話さないとだな。」

テイトは父親のことを伯爵と呼んで肩をすくめた。正直伯爵家のことなどどうでもいいが、あくまで伯爵家はテイトの実家だ。多少歪でも家族の愛はあったようだし、もし今回のことで家族の縁を切られることになったら多少なりともテイトは傷つくのだろう。

私は、生まれてからずっと不遇に苦しんで来たこの愛する人を守らなければと決意した。
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