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本編
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しばらくされるがままになっていたザックだが、ハッと何かを思い出したように顔を上げた。ザックが背を曲げていたので辛うじて頭を撫でることができていた俺は、届かなくなった手を元の場所に戻した。
「あっ・・・」
俺の手を視線で追ったザックが残念そうな声をあげる。
「コホン。言い忘れていましたが、明日カインとこのことを話すことになっているんです。」
「このこと?」
「カインが嘘をついた理由、それから彼との婚約破棄とテイトとの婚約についてです。」
「なっ、それはちょっと急すぎないか?それにカインが嘘をついたのは俺が対外的には存在しないことになってるからだし・・・・・・俺が言えたことじゃないけどあんまりカインを責めないでやってくれ。」
「・・・分かりました、そう責めたりはしません。まあカインが嘘をついた理由は他にもありそうですが・・・」
「他の理由?」
「いえ、なんでもありません。」
「そうか?それより婚約破棄だよ、この間婚約発表したばかりなのに急すぎるんじゃないか?」
「そうですが、長引かせても良いことはありませんし。」
「まあ確かにそうだけど・・・でも、もしかしたらお前も、半年後には俺なんかよりカインの方がいいって思うようになるかも・・・」
「テイト。」
ザックは俺の顔を両手で包み込んだ。顔を近づけてきたザックに、動かすこともできずに至近距離で見つめ返す形になる。
「な、何だよ。」
「テイトがまだ私のことを信じきれないのは分かります。でも、いくらテイト本人でも、そんな風に私の大好きな人を貶す言葉は許せません。」
「・・・そんなこと言ったって、本当のことだろ。俺は所詮カインの下位互換どころか欠陥品だ。だから、カインより俺が良いなんて言うやつはいない。」
「ここにいます。」
「・・・お前、馬鹿だな。」
「なんとでも言ってください。」
「はあ、分かったよ。俺が悪かった。」
そう言えばザックは満足したように手を離した。
その時に「まずはテイトに愛される価値があるってことを分からせないと・・・」とかなんとかぶつくさ言っていたが、聞き返しても答えてくれなかった。
「そういうわけですから、明日は私と一緒にアーデン家に行きましょう?」
「えっ、俺もか?」
「俺もって、当事者でしょう。」
「そうだけど・・・」
そんな気の重い話し合いに行かなければならないのか。しかも婚約者のすげ替えなんて家族に会うのも気まずすぎる。
「行きたくない・・・」
「あまりテイトが嫌がることはしたくないのですが、これ以上拗れると厄介ですから。明日だけはお願いします。」
「はぁ・・・わかったよ。」
「よかった。それじゃあ一度別れるのもなんですし、よかったら私の家に来ませんか?」
「は?公爵邸に?行かない行かない。」
勢いよく首を振った俺に、カインはシュンとした仔犬のような顔を向けてくる。
「でも、まだたくさん話したいこともありますし。それに放っておいたらちゃんと来てくれるが不安で・・・」
「お前も俺のこと信用してないじゃないか。」
「じゃあ絶対に来てくれますか?」
「まあ行くよ・・・・・・多分。」
「やっぱり一緒に連れて帰ります。」
そう言ってザックは俺を抱え上げた。
「うわっ!ちょっと待って、わかった。絶対に行くから!」
「もう遅いです。」
ザックはそのまま部屋を出て騒然とする住人たちには目もくれず屋敷の外へと向かった。
「あっ・・・」
俺の手を視線で追ったザックが残念そうな声をあげる。
「コホン。言い忘れていましたが、明日カインとこのことを話すことになっているんです。」
「このこと?」
「カインが嘘をついた理由、それから彼との婚約破棄とテイトとの婚約についてです。」
「なっ、それはちょっと急すぎないか?それにカインが嘘をついたのは俺が対外的には存在しないことになってるからだし・・・・・・俺が言えたことじゃないけどあんまりカインを責めないでやってくれ。」
「・・・分かりました、そう責めたりはしません。まあカインが嘘をついた理由は他にもありそうですが・・・」
「他の理由?」
「いえ、なんでもありません。」
「そうか?それより婚約破棄だよ、この間婚約発表したばかりなのに急すぎるんじゃないか?」
「そうですが、長引かせても良いことはありませんし。」
「まあ確かにそうだけど・・・でも、もしかしたらお前も、半年後には俺なんかよりカインの方がいいって思うようになるかも・・・」
「テイト。」
ザックは俺の顔を両手で包み込んだ。顔を近づけてきたザックに、動かすこともできずに至近距離で見つめ返す形になる。
「な、何だよ。」
「テイトがまだ私のことを信じきれないのは分かります。でも、いくらテイト本人でも、そんな風に私の大好きな人を貶す言葉は許せません。」
「・・・そんなこと言ったって、本当のことだろ。俺は所詮カインの下位互換どころか欠陥品だ。だから、カインより俺が良いなんて言うやつはいない。」
「ここにいます。」
「・・・お前、馬鹿だな。」
「なんとでも言ってください。」
「はあ、分かったよ。俺が悪かった。」
そう言えばザックは満足したように手を離した。
その時に「まずはテイトに愛される価値があるってことを分からせないと・・・」とかなんとかぶつくさ言っていたが、聞き返しても答えてくれなかった。
「そういうわけですから、明日は私と一緒にアーデン家に行きましょう?」
「えっ、俺もか?」
「俺もって、当事者でしょう。」
「そうだけど・・・」
そんな気の重い話し合いに行かなければならないのか。しかも婚約者のすげ替えなんて家族に会うのも気まずすぎる。
「行きたくない・・・」
「あまりテイトが嫌がることはしたくないのですが、これ以上拗れると厄介ですから。明日だけはお願いします。」
「はぁ・・・わかったよ。」
「よかった。それじゃあ一度別れるのもなんですし、よかったら私の家に来ませんか?」
「は?公爵邸に?行かない行かない。」
勢いよく首を振った俺に、カインはシュンとした仔犬のような顔を向けてくる。
「でも、まだたくさん話したいこともありますし。それに放っておいたらちゃんと来てくれるが不安で・・・」
「お前も俺のこと信用してないじゃないか。」
「じゃあ絶対に来てくれますか?」
「まあ行くよ・・・・・・多分。」
「やっぱり一緒に連れて帰ります。」
そう言ってザックは俺を抱え上げた。
「うわっ!ちょっと待って、わかった。絶対に行くから!」
「もう遅いです。」
ザックはそのまま部屋を出て騒然とする住人たちには目もくれず屋敷の外へと向かった。
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