【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される

ゆう

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本編

31(ザックサイド)

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は3年間の留学を経てやっとかつての家へと戻ってきた。海外での生活は充実したもので、私は1日でも早く爵位を継ぐために精力的に勉学に励んだ。

その甲斐あって優秀な成績を納めた私は、帰国の準備をする傍ら、様々な根回しを進めた。まずお父様の協力のもと、お継母様の邪魔が入る前にさっさと爵位を継承し、3人を遠方へと追い出した。

お義兄様はあちこちで問題を起こしていて、それを金と権力で握りつぶしていたらしい。家に戻る前にその証拠の数々を掴んだ私は、それを材料にお継母様とお義兄様を脅し、家から追い出すことに成功したのだ。

それから、アーデン家へ婚約を申し込む旨の手紙を送った。昔、お兄さんから貰ったタイに刺繍してあった家紋がアーデン伯爵家のものだと知ったからだ。

本当はお兄さんの正体を突き止めてから直接申し込みたかったのだが、アーデン家に関する情報を集めてみても、該当する年齢の者は一人息子のカイン・アーデンだけだった。

彼がなのだろうか。

私はお兄さんに再会できるかもしれないという喜びに浮かれながら、向こうからセッティングされた顔合わせのお茶会へとやってきた。


「お初にお目にかかります、ヘンダーソン公爵。私はカイン•アーデンと申します。この度は我が家にお越しいただきありがとうございます。」

私は名乗りを上げたカイン・アーデンをまじまじと見つめた。黒髪に水色の瞳の青年は、とても清楚で美しかった。
その姿は、いつもローブからチラリと見えていた髪や顔のパーツ、それらから連想される姿にピッタリと当てはまっている。

「・・・こちらこそ、招待いただき感謝します。アイザック・ヘンダーソンです。どうぞお見知り置きを。」


(やっぱり、カインがだろうか・・・?)

でも、それにしては引っかかる点がある。

一つは彼が「お初にお目にかかります」と挨拶したことだ。いくら3年ぶりとはいえ、お兄さんは僕の容姿を知っている。何か事情があるのなら別だが、全く気づかないというのはおかしい。

それに彼は見たところ非の打ち所がない容姿をしている。これなら、常にローブを被る必要などなかったはずだ。可能性があるとすれば、昔は病のせいで醜かったが、今は治ったというケースだが・・・

それにしては彼からは、卑屈さや自信のなさと言った感情を感じない。

さらに付け加えれば、お兄さんはだった。彼は見る限り右利きのようだし、やはり別人だろうか。

「ところでアーデン家の御子息はカイン殿お一人ですか?」

「ええ、僕1人です。」

私の質問に彼は不自然な様子もなく笑顔で答えた。だが、私の瞳はカインから嘘臭さを感じ取っていた。

「そうですか・・・」

だがこれ以上問い詰めても関係が悪化するだけだろう。私はもうしばらく様子を見ることにした。

「それより、なぜ我が家に婚約の申し出を?」

「そのことについては驚かせて申し訳ないです。実はこれの持ち主に求婚したかったのです。」 

私はお兄さんに貰ったタイを見せて彼の反応を見る。

「これは・・・」 

「アーデン家の家紋、ですよね。」

「・・・ええ、そうです。」

タイをまじまじと見た彼は、やはり何か思い当たることがあるようだ。

「これの持ち主を教えていただけませんか?」

「・・・・・・持ち主は僕ですよ。」

「そうですか・・・なら私とあなたは面識があるはずですが・・・」

以前のお兄さんとはあまりに違うその態度に、私は彼が嘘をついているのではとつい棘を滲ませて言葉を返してしまった。

「ええ。あなたザックでしょう?初めは気づきませんでした。大きくなりましたね。」

「あなたが、私にこれをくれた人だと?」

「そうです。」

彼にと言われて戸惑ってしまう。容姿こそお兄さんのイメージと一致するが、雰囲気がまるで違う。それなのに僕のことを知っている。一体どういうことだろうか。

「では、私と会っていた場所を覚えていますか?」

「ええ、教会です。」 

「では、どんな話をしたかは?」

「・・・すいませんがもう3年も前のことですから・・・」

「そうですか・・・」

教会のことまで知っているとは・・・何か隠し事がるような雰囲気は感じるが、もしかして本当に彼がお兄さんなのだろうか。確かに3年も経っているから、お兄さんが変わっていたり、僕のことを忘れている可能性も考えていた。

「もし過去のことで僕に婚約を申し込まれたなら申し訳ない。僕はあまり記憶になくて・・・取り下げて頂いても構いませんよ。」

「そうですね・・・私のことを覚えていないと言うなら仕方ありません。よろしければ、まずは友人としてお互いを知っていきませんか?婚約の話はまたその後に・・・」

「ええ、それで構いませんよ。」

まだ確証が持てなかった私は、彼と友人としてまた会う約束を取り付けた。

そして、今日お兄さんと再会できるかもしれないと楽しみにしていた私は、複雑な気持ちで公爵家へと戻った。


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