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本編
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その翌週からザックが教会に現れなくなった。
一度目は、家族の都合か何かで来ることができなかったのだろうかと思いそのまま帰った。だが、次の週もその次の週もザックは現れない。
不安に思った俺は、2階からも参列者にザックがいないか探したが、それらしい人物は見当たらない。
家で何かあったのだろうか。今までザックが受けていた扱いを思い出すと、嫌な予感が込み上げる。
(頼むから、無事でいてくれ・・・)
こんなことなら強引にでも家名を聞いておくんだった。そんな後悔をしても今更遅いが、そう思わずにはいられない。
俺は少しでもザックの手がかりを掴もうと、カインに貴族たちの間で何か噂になっていることなどがないか聞いたり、日曜に教会にやってくる貴族を把握しようと門のところで見張ったりと色々試みた。だがどれも成果はいまいちで、ザックの足取りは掴めない。
いや、正確には1人。気になる人物がいた。
それは、ヘンダーソン公爵だ。
ザックと同じ金髪に赤い瞳で、とにかく容姿が似ている。だが、まさかザックが公爵家の息子だなんてことがあり得るのだろうか。
ヘンダーソン公爵といえば、確か俺たちと同じ歳の息子がいたはずだ。その息子と継母に虐められていたのだろうか。
俺はカインにヘンダーソン公爵の息子について聞いてみた。あわよくばカインにその息子からザックのことを探って貰おうと思ったのだが、そいつはすこぶる高慢で評判の悪いやつらしい。
「アカデミーで見かけたけど、とにかく態度が悪いんだ。下級貴族や平民を見下して、しょっちゅう言いがかりをつけているよ。正直、関わり合いにはなりたくないな・・・」
「そうか・・・」
同い年のそいつから情報を得るのが無理なら、いくらカインでも公爵家を探ることは難しいだろう。俺は高い壁にぶち当たって頭を抱えた。
それでも諦めがつかず、俺は自身でザックの手がかりを掴むためヘンダーソン公爵家の周りを探った。
(もしかしたら、今この瞬間にも助けを求めてるかもしれない・・・)
そう考えると、居ても立っても居られなかった。
だが探す先が的外れなのか、ヘンダーソン公爵家が上手く隠しているのか、一向に手がかりを見つけることはできない。
そうして焦り始めていたある日、公爵家の使用人と接触することに成功した俺は、思わぬ噂を聞いた。その使用人は、直接目で見たわけではないそうだが、屋敷で1人召使いが死んだらしい。何でも毒が原因だったそうだ。
その召使いがザックのことなのか、誰に毒を盛られたのかはわからない。だから全く関係のない人の話かもしれない。
・・・そう思いつつも、それはきっとザックの事だと考えてしまう。タイミングも良すぎるし、何より家族から疎まれていたあの子だ。
(なんて事だ・・・・・・)
俺はショックのあまり、家に着くなりへたり込んでしまった。
「テイト!?どうしたの?」
俺に気づいたカインが心配して駆け寄ってくる。
茫然としながら力が入らないと伝えれば、肩を貸して部屋へと連れて行ってくれた。
その後、俺は3日間ひたすらベッドで眠り続けた。カインだけでなく、お父様とお母様も心配して俺の様子を見にきたらしいが、まるで意識がなかった俺は気づかなかった。
そうして4日後の朝、日曜で教会に行けば、今日こそはザックが来ているのではないかとつい探してしまう。
「もう、居るわけないか・・・」
俺は自嘲するようにそう呟いて、ザックがよく座っていた木陰にドカッと腰を下ろした。
もういい加減諦めなければならないだろう。
ザックがいない毎日は、まるで世界から色が失せたような寒々しさだった。自分がこれほどまでにザックに救われていたなんて。
(それなのに、俺はザックを救うことができなかった・・・)
ついザックの最後を想像してしまい、胸が締め付けられる。ザックは誰かに看取ってもらえただろうか。俺のことをほんの少しでも思い出してくれただろうか。
そんなことばかり考えるようになった。
そして自責の念に駆られていた俺は、毎日悪夢を見るようになった。
「テイト・・・テイト起きて・・・!大丈夫?またうなされてたけど・・・」
カインは悪夢を見て苦しんでいる俺を毎回起こしてくれる。でもそれはカインの眠りも妨げていて、次第にカインの調子も崩れていった。
「ごめん。俺、前の部屋に戻る。」
カインは問題ないと言ってくれたが、流石にこれ以上迷惑はかけられない。そう思った俺は自分からカインと距離をとった。
そして繰り返す悪夢で不眠になり、食事も喉を通らなくなった俺は、まるで記憶を取り戻す前の俺に戻ってしまったようだった。
次第に塞ぎ込んでいく俺を心配したカインが部屋訪ねてくれるが、気分が落ち込んでいた俺は放っておいてくれとカインに八つ当たりしてしまう。
ザックの誕生日が過ぎた頃には、俺はアーデン家の欠陥品と呼ばれてやさぐれていた頃に逆戻りしてしまっていた。
(このままじゃダメだ・・・)
そう頭では分かっているのに行動が伴わない。
きっとこの優しい環境にいたら、周りに甘えたままダメになってしまう。どうにか無理矢理にでも立ち直らなくては・・・
そう思った俺は、スラムの家に生活基盤を移す事にした。立ち直りと自立を目標に・・・
最近では俺が拒絶するためカインも使用人たちも俺の部屋は足を運ぶことは少なくなっていた。
(週の半分くらいなら、いなくなってもバレないだろ。)
そうして、俺はほんの僅かな荷物を持って家を出た。
一度目は、家族の都合か何かで来ることができなかったのだろうかと思いそのまま帰った。だが、次の週もその次の週もザックは現れない。
不安に思った俺は、2階からも参列者にザックがいないか探したが、それらしい人物は見当たらない。
家で何かあったのだろうか。今までザックが受けていた扱いを思い出すと、嫌な予感が込み上げる。
(頼むから、無事でいてくれ・・・)
こんなことなら強引にでも家名を聞いておくんだった。そんな後悔をしても今更遅いが、そう思わずにはいられない。
俺は少しでもザックの手がかりを掴もうと、カインに貴族たちの間で何か噂になっていることなどがないか聞いたり、日曜に教会にやってくる貴族を把握しようと門のところで見張ったりと色々試みた。だがどれも成果はいまいちで、ザックの足取りは掴めない。
いや、正確には1人。気になる人物がいた。
それは、ヘンダーソン公爵だ。
ザックと同じ金髪に赤い瞳で、とにかく容姿が似ている。だが、まさかザックが公爵家の息子だなんてことがあり得るのだろうか。
ヘンダーソン公爵といえば、確か俺たちと同じ歳の息子がいたはずだ。その息子と継母に虐められていたのだろうか。
俺はカインにヘンダーソン公爵の息子について聞いてみた。あわよくばカインにその息子からザックのことを探って貰おうと思ったのだが、そいつはすこぶる高慢で評判の悪いやつらしい。
「アカデミーで見かけたけど、とにかく態度が悪いんだ。下級貴族や平民を見下して、しょっちゅう言いがかりをつけているよ。正直、関わり合いにはなりたくないな・・・」
「そうか・・・」
同い年のそいつから情報を得るのが無理なら、いくらカインでも公爵家を探ることは難しいだろう。俺は高い壁にぶち当たって頭を抱えた。
それでも諦めがつかず、俺は自身でザックの手がかりを掴むためヘンダーソン公爵家の周りを探った。
(もしかしたら、今この瞬間にも助けを求めてるかもしれない・・・)
そう考えると、居ても立っても居られなかった。
だが探す先が的外れなのか、ヘンダーソン公爵家が上手く隠しているのか、一向に手がかりを見つけることはできない。
そうして焦り始めていたある日、公爵家の使用人と接触することに成功した俺は、思わぬ噂を聞いた。その使用人は、直接目で見たわけではないそうだが、屋敷で1人召使いが死んだらしい。何でも毒が原因だったそうだ。
その召使いがザックのことなのか、誰に毒を盛られたのかはわからない。だから全く関係のない人の話かもしれない。
・・・そう思いつつも、それはきっとザックの事だと考えてしまう。タイミングも良すぎるし、何より家族から疎まれていたあの子だ。
(なんて事だ・・・・・・)
俺はショックのあまり、家に着くなりへたり込んでしまった。
「テイト!?どうしたの?」
俺に気づいたカインが心配して駆け寄ってくる。
茫然としながら力が入らないと伝えれば、肩を貸して部屋へと連れて行ってくれた。
その後、俺は3日間ひたすらベッドで眠り続けた。カインだけでなく、お父様とお母様も心配して俺の様子を見にきたらしいが、まるで意識がなかった俺は気づかなかった。
そうして4日後の朝、日曜で教会に行けば、今日こそはザックが来ているのではないかとつい探してしまう。
「もう、居るわけないか・・・」
俺は自嘲するようにそう呟いて、ザックがよく座っていた木陰にドカッと腰を下ろした。
もういい加減諦めなければならないだろう。
ザックがいない毎日は、まるで世界から色が失せたような寒々しさだった。自分がこれほどまでにザックに救われていたなんて。
(それなのに、俺はザックを救うことができなかった・・・)
ついザックの最後を想像してしまい、胸が締め付けられる。ザックは誰かに看取ってもらえただろうか。俺のことをほんの少しでも思い出してくれただろうか。
そんなことばかり考えるようになった。
そして自責の念に駆られていた俺は、毎日悪夢を見るようになった。
「テイト・・・テイト起きて・・・!大丈夫?またうなされてたけど・・・」
カインは悪夢を見て苦しんでいる俺を毎回起こしてくれる。でもそれはカインの眠りも妨げていて、次第にカインの調子も崩れていった。
「ごめん。俺、前の部屋に戻る。」
カインは問題ないと言ってくれたが、流石にこれ以上迷惑はかけられない。そう思った俺は自分からカインと距離をとった。
そして繰り返す悪夢で不眠になり、食事も喉を通らなくなった俺は、まるで記憶を取り戻す前の俺に戻ってしまったようだった。
次第に塞ぎ込んでいく俺を心配したカインが部屋訪ねてくれるが、気分が落ち込んでいた俺は放っておいてくれとカインに八つ当たりしてしまう。
ザックの誕生日が過ぎた頃には、俺はアーデン家の欠陥品と呼ばれてやさぐれていた頃に逆戻りしてしまっていた。
(このままじゃダメだ・・・)
そう頭では分かっているのに行動が伴わない。
きっとこの優しい環境にいたら、周りに甘えたままダメになってしまう。どうにか無理矢理にでも立ち直らなくては・・・
そう思った俺は、スラムの家に生活基盤を移す事にした。立ち直りと自立を目標に・・・
最近では俺が拒絶するためカインも使用人たちも俺の部屋は足を運ぶことは少なくなっていた。
(週の半分くらいなら、いなくなってもバレないだろ。)
そうして、俺はほんの僅かな荷物を持って家を出た。
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