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本編
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それからというもの、俺は家の進捗を見に行ったり、本で海外での暮らしについて調べたり、カインからチェスや外で起きている出来事などを教えてもらいながら過ごした。
そしてザックとも何度も会った。
あの日、食事をご馳走しなかった俺はザックのことが心配になって、翌週も一人で教会へ行ったのだ。この日は行くと言っていない週だから、いつもの中庭にはいないかと思ったが、予想に反してザックはそこにいた。
つまらなそうに地面をいじっているザックにそっと近づいて声を掛ける。
「何してるんだ?」
「わあっ!」
予想以上に驚いてくれたザックに思わず笑みが漏れる。
「お兄さん、どうして!?」
「ザックのことが心配でさ、ほらサンドイッチ。」
「あ、ありがとう。」
来る途中で買ってきたサンドイッチを手渡せば、ザックはおずおずと言った感じで受け取った。
「僕に会うためだけに来てくれたの?」
「そうだけど?教会に用なんかないからな。」
「えへへ。」
そう返事をすればザックは嬉しそうに顔を綻ばせた。こんなに喜んでくれるなら、カインを撒いてまでここに来た甲斐がある。
「これからは毎週来るよ。」
「本当!?」
「ああ、どうせ俺は何もしてないし。お前と話すの、楽しいしな。」
そう言って頭を撫でてやる。俯いたザックが顔を真っ赤にしていることには気づかなかった。
そして、その日はサンドイッチを食べながら前回のようなたわいもない質問をして別れた。
それから数ヶ月、俺とザックは毎週会って会話を楽しんだ。
程度の差はあれ、似た扱いを受けてきた者同士、またお互いの素性を知らない者同士の会話はひどく楽しかった。
ザックは度々いつになれば俺の名前を教えてくれるのかと聞いてきたが、「お前も今は名乗れないんだろ?ならお互い様だ。」とはぐらかし続けてきた。
自立したら教えるなんて言ってしまったが、そんな日が来るのかと不安になる。結局、あの家がどんなに居心地が悪かったとしても、家の力を全く頼らずに生きていくのは相当難しいことに感じていた。
(いっそ名前だけなら教えてしまっても・・・)
そんな風にも思ったが、それで家の立場が悪くなれば俺の生活基盤も崩れてしまう。
ザックのことは信頼しているが、まだこの子は子供だ。うっかり外に話が漏れてしまう不安が拭い切れなかった俺は、名乗ってしまいたくなる気持ちを必死に抑えた。
それから、スラムに建てた家の方は着実に完成に近づいている。もう一角は建設が終わったので、以前知り合ったルイスたち一部の人間のみそこに住まわした。
まだ屋根があるだけの部屋と簡素なブランケットしかない部屋だが、彼らにはものすごく感謝された。
「こんな暮らし、久々だよ。ありがとうな。」
「この程度でそんな喜ばれると申し訳なくなるよ・・・何かあったら言ってくれ。できる限りはするから。」
「お前もあんまりいい立場じゃないんだろ?あんまり無理はするなよ。」
ルイスにそんな気遣いの言葉をもらってジーンと胸が熱くなる。彼らの方がよほど余裕のない暮らしをしているはずなのに、どうして他人を気遣えるのだろう。
(やっぱり、障害者が罪人扱いなんて間違ってる・・・)
そう思って、少し涙ぐみながら彼を見た。
「ああ、ありがとう。大丈夫、俺はそんな無理するような人間じゃないからな。」
そう言えば、ルイスも笑って頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。いつもザックを撫でているが、自分がそうされるのは久々だ。
なんだか暖かい気持ちになる。
また、工事が完了した一角に小さな中庭があるので、そこに種を蒔いて家庭菜園を作ることにした。
これが少しでも彼らの足しになれば良いのだが・・・
そして俺自身もこの家に少しだけ荷物を移動させた。と言っても数着の服くらいだが。
突然実家を追い出されても問題ないように、いつでもこの家で暮らせるように。
最近ではだいぶ家での居心地が良くなったので、追い出される心配はそう無くなったのかもしれない。でも、いつかカインが結婚すれば嫁があの屋敷に住むわけで、そうなった時俺の存在を隠すのは大変だろう。
やはり、外に逃げ場所があった方が安心する。
そう思って、着々と俺の居場所を築いていった。
そしてザックとも何度も会った。
あの日、食事をご馳走しなかった俺はザックのことが心配になって、翌週も一人で教会へ行ったのだ。この日は行くと言っていない週だから、いつもの中庭にはいないかと思ったが、予想に反してザックはそこにいた。
つまらなそうに地面をいじっているザックにそっと近づいて声を掛ける。
「何してるんだ?」
「わあっ!」
予想以上に驚いてくれたザックに思わず笑みが漏れる。
「お兄さん、どうして!?」
「ザックのことが心配でさ、ほらサンドイッチ。」
「あ、ありがとう。」
来る途中で買ってきたサンドイッチを手渡せば、ザックはおずおずと言った感じで受け取った。
「僕に会うためだけに来てくれたの?」
「そうだけど?教会に用なんかないからな。」
「えへへ。」
そう返事をすればザックは嬉しそうに顔を綻ばせた。こんなに喜んでくれるなら、カインを撒いてまでここに来た甲斐がある。
「これからは毎週来るよ。」
「本当!?」
「ああ、どうせ俺は何もしてないし。お前と話すの、楽しいしな。」
そう言って頭を撫でてやる。俯いたザックが顔を真っ赤にしていることには気づかなかった。
そして、その日はサンドイッチを食べながら前回のようなたわいもない質問をして別れた。
それから数ヶ月、俺とザックは毎週会って会話を楽しんだ。
程度の差はあれ、似た扱いを受けてきた者同士、またお互いの素性を知らない者同士の会話はひどく楽しかった。
ザックは度々いつになれば俺の名前を教えてくれるのかと聞いてきたが、「お前も今は名乗れないんだろ?ならお互い様だ。」とはぐらかし続けてきた。
自立したら教えるなんて言ってしまったが、そんな日が来るのかと不安になる。結局、あの家がどんなに居心地が悪かったとしても、家の力を全く頼らずに生きていくのは相当難しいことに感じていた。
(いっそ名前だけなら教えてしまっても・・・)
そんな風にも思ったが、それで家の立場が悪くなれば俺の生活基盤も崩れてしまう。
ザックのことは信頼しているが、まだこの子は子供だ。うっかり外に話が漏れてしまう不安が拭い切れなかった俺は、名乗ってしまいたくなる気持ちを必死に抑えた。
それから、スラムに建てた家の方は着実に完成に近づいている。もう一角は建設が終わったので、以前知り合ったルイスたち一部の人間のみそこに住まわした。
まだ屋根があるだけの部屋と簡素なブランケットしかない部屋だが、彼らにはものすごく感謝された。
「こんな暮らし、久々だよ。ありがとうな。」
「この程度でそんな喜ばれると申し訳なくなるよ・・・何かあったら言ってくれ。できる限りはするから。」
「お前もあんまりいい立場じゃないんだろ?あんまり無理はするなよ。」
ルイスにそんな気遣いの言葉をもらってジーンと胸が熱くなる。彼らの方がよほど余裕のない暮らしをしているはずなのに、どうして他人を気遣えるのだろう。
(やっぱり、障害者が罪人扱いなんて間違ってる・・・)
そう思って、少し涙ぐみながら彼を見た。
「ああ、ありがとう。大丈夫、俺はそんな無理するような人間じゃないからな。」
そう言えば、ルイスも笑って頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。いつもザックを撫でているが、自分がそうされるのは久々だ。
なんだか暖かい気持ちになる。
また、工事が完了した一角に小さな中庭があるので、そこに種を蒔いて家庭菜園を作ることにした。
これが少しでも彼らの足しになれば良いのだが・・・
そして俺自身もこの家に少しだけ荷物を移動させた。と言っても数着の服くらいだが。
突然実家を追い出されても問題ないように、いつでもこの家で暮らせるように。
最近ではだいぶ家での居心地が良くなったので、追い出される心配はそう無くなったのかもしれない。でも、いつかカインが結婚すれば嫁があの屋敷に住むわけで、そうなった時俺の存在を隠すのは大変だろう。
やはり、外に逃げ場所があった方が安心する。
そう思って、着々と俺の居場所を築いていった。
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