20 / 101
本編
20
しおりを挟む
それから数日、また教会へ行く日がやってきた。
カインはザックについて周りを探ってくれたらしいが、そんな名前の少年を知っている人間はいなかった。公にされていない存在かもしれないので仕方ないと言えば仕方ないか・・・
そう思って俺は俺にできる範囲であの子を支えようと決意した。
・・・それはさて置き、今日はカインがあの服を着てくれと言って聞かなくて、渋々リボンだらけの服に袖を通している。どうせローブで隠れるというのになぜこんな服を・・・とむくれつつも断り続けるのも面倒になってされるがままになっている。
首の後ろや手首など至るところにリボンがあって非常に邪魔だ。
「はい!完成!」
「そ、ありがとな。」
そう言ってさっさとローブをかぶった俺に今度はテイトがむくれる。
「教会に着くギリギリまでそのままでいてよ。」
「嫌だ。」
尚も言い募るカインを無視して俺は馬車へと乗り込む。中では両親が既に待っていた。
「あー・・・テイト。最近はどうだ?何か困ってることはないか?」
馬車が動き出すと、突然声をかけたお父様に驚きで目を見開いた。カインと呼び間違えたのか?そう思ってお父様を見ればしっかり俺のことを見ている。自分に話しかけられているのだと理解するのに数秒かかってしまった。
「俺、ですか?・・・ええ、特に困っていることはありませんが・・・」
「そうか、それならいい・・・」
「?」
珍しいこともあるものだ。そう思っていると、お母様とカインが苦笑しているようだった。気にしないと決めたものの、自分だけ事情を知らないようで少し寂しくなる。
微妙な空気が流れるまま教会に到着し、俺はいつも通り家族と別れて中庭へ向かった。
中庭には既にザックが来ていた。あの子の家族は来るのが早いようだ。
「よお、2週間ぶりだな。」
そう声をかければザックかパァッと顔を綻ばせた。だが心なしか顔色が悪い。
「お兄さん!」
そう言って立ち上がろうとしたザックがふらつく。
「おい!大丈夫か?」
「ご、ごめんなさ・・・大丈夫・・・」
「また何かやられたのか?どこを怪我してる?」
「足を・・・」
ザックの足を見れば目立たない膝裏に鞭で打たれたような傷があった。俺はその仕打ちに顔を顰めながら、魔法で傷口を綺麗にした。
包帯もハンカチも持っていないが今日はちょうど良いものがある。俺は右腕についている不要なリボンを解いた。
ザックを座らせ、俺は左手と口を使って膝裏にリボンを巻きつけてやる。
「とりあえずはこれでいい。もし治療してくれそうな奴がいたら見せるんだぞ。」
「うん、ありがとう!」
そう言ったザックはなぜか顔を赤らめている。
「よし、じゃあ今日も何か食べに行くか?」
いつもの提案をすると、ザックは珍しいことに首を横に振った。
「ううん、今日はお兄さんとおしゃべりしたい。」
「俺と・・・?もしかして金がないことを気にしてんのか?」
「ち、違うよ!食べるより、お兄さんと話がしたいの。」
「そうか・・・?まあ別にいいけど。」
腹は空いてないのだろうか。相変わらず痩せ細ってるザックを見ればそんなに満足に食べているようには見えないが。
「よかった!じゃあ質問!お兄さんは貴族なんですか?」
それでも元気に訪ねてくるザックを見れば、まあ大丈夫なのだろうと思えた。
「一応貴族の家の生まれだよ。そうは見えないだろうけどな。」
「なんでローブを被ってるんですか?」
「うーん・・・俺の姿は皆に忌避されるからな。」
「そんな・・・僕は絶対にそんな風に思いません!」
「はは、どうだかな。」
「本当ですよ!」
そうむくれたザックの頭を撫でる。実際にこの腕を見せたらどんな反応をするかはわからないが、そう言ってくれることは純粋に嬉しかった。
「じゃあ俺からも質問だ。ザックの好きな食べ物は?」
「この間一緒に食べたパン!」
「他には?」
「うーん、いつもはカビだパンとかあまりもののスープしか食べてないから、よく分からない・・・」
「そうか・・・」
その答えに胸が締め付けられた。やっぱり次は何か他のものを食べさせてやろう。できればもっと美味しくて栄養のあるものを・・・そう思っていると再びザックが口を開いた。
「じゃあまた僕からね。お兄さんの好きなタイプは?」
その質問に何も飲んで無いのに思わず咽せてしまう。
「ゴホッゴホッ、なんでそんな事を聞く?」
「ただ、気になって・・・」
少し照れ臭そうにするザックに、もしかして好きな人でもできたのだろうかと考える。俺の意見など参考にならないだろうが、この子が誰かを好きになる余裕が生まれたことにホッとする。
「好きなタイプか・・・俺は考えたこともないな。そもそも恋愛には縁がないだろうし・・・参考にならなくて悪かったな。」
「あっ、ごめんなさい・・・。その、容姿のせいで・・・?」
「ああ。・・・まあ、性格も良くないけどさ。」
「そんなことないです!」
なぜか勢いよくザックに否定される。そして、ザックは一瞬俯いたかと思ったら、次の瞬間ガバッと俺に抱きついてきた。
「ザック!?」
「少しだけ、こうさせてください。」
「あ、ああ。いいけど・・・」
俺は戸惑いながらも、何か悲しませてしまっただろうかと思って、ザックの背中をさすり続けた。そうしているうちにスヤスヤとした寝息が聞こえてきた。
「ザック・・・?」
俺は小声でザックに呼びかけるが返事はない。・・・時間になるまで寝かせておいてやるか。
そう思って俺はギリギリまでザックをそのままにした。
起こした後ザックは「もっと早く起こしてくれたらよかったのに」とむくれていたが「寝たお前が悪い」とデコピンで跳ね除けた。
加減したつもりなのだが、顔を赤くして額を抑えているザックを心配して覗き込めば、「ま、また再来週を楽しみにしてます!」と走り去ってしまった。
カインはザックについて周りを探ってくれたらしいが、そんな名前の少年を知っている人間はいなかった。公にされていない存在かもしれないので仕方ないと言えば仕方ないか・・・
そう思って俺は俺にできる範囲であの子を支えようと決意した。
・・・それはさて置き、今日はカインがあの服を着てくれと言って聞かなくて、渋々リボンだらけの服に袖を通している。どうせローブで隠れるというのになぜこんな服を・・・とむくれつつも断り続けるのも面倒になってされるがままになっている。
首の後ろや手首など至るところにリボンがあって非常に邪魔だ。
「はい!完成!」
「そ、ありがとな。」
そう言ってさっさとローブをかぶった俺に今度はテイトがむくれる。
「教会に着くギリギリまでそのままでいてよ。」
「嫌だ。」
尚も言い募るカインを無視して俺は馬車へと乗り込む。中では両親が既に待っていた。
「あー・・・テイト。最近はどうだ?何か困ってることはないか?」
馬車が動き出すと、突然声をかけたお父様に驚きで目を見開いた。カインと呼び間違えたのか?そう思ってお父様を見ればしっかり俺のことを見ている。自分に話しかけられているのだと理解するのに数秒かかってしまった。
「俺、ですか?・・・ええ、特に困っていることはありませんが・・・」
「そうか、それならいい・・・」
「?」
珍しいこともあるものだ。そう思っていると、お母様とカインが苦笑しているようだった。気にしないと決めたものの、自分だけ事情を知らないようで少し寂しくなる。
微妙な空気が流れるまま教会に到着し、俺はいつも通り家族と別れて中庭へ向かった。
中庭には既にザックが来ていた。あの子の家族は来るのが早いようだ。
「よお、2週間ぶりだな。」
そう声をかければザックかパァッと顔を綻ばせた。だが心なしか顔色が悪い。
「お兄さん!」
そう言って立ち上がろうとしたザックがふらつく。
「おい!大丈夫か?」
「ご、ごめんなさ・・・大丈夫・・・」
「また何かやられたのか?どこを怪我してる?」
「足を・・・」
ザックの足を見れば目立たない膝裏に鞭で打たれたような傷があった。俺はその仕打ちに顔を顰めながら、魔法で傷口を綺麗にした。
包帯もハンカチも持っていないが今日はちょうど良いものがある。俺は右腕についている不要なリボンを解いた。
ザックを座らせ、俺は左手と口を使って膝裏にリボンを巻きつけてやる。
「とりあえずはこれでいい。もし治療してくれそうな奴がいたら見せるんだぞ。」
「うん、ありがとう!」
そう言ったザックはなぜか顔を赤らめている。
「よし、じゃあ今日も何か食べに行くか?」
いつもの提案をすると、ザックは珍しいことに首を横に振った。
「ううん、今日はお兄さんとおしゃべりしたい。」
「俺と・・・?もしかして金がないことを気にしてんのか?」
「ち、違うよ!食べるより、お兄さんと話がしたいの。」
「そうか・・・?まあ別にいいけど。」
腹は空いてないのだろうか。相変わらず痩せ細ってるザックを見ればそんなに満足に食べているようには見えないが。
「よかった!じゃあ質問!お兄さんは貴族なんですか?」
それでも元気に訪ねてくるザックを見れば、まあ大丈夫なのだろうと思えた。
「一応貴族の家の生まれだよ。そうは見えないだろうけどな。」
「なんでローブを被ってるんですか?」
「うーん・・・俺の姿は皆に忌避されるからな。」
「そんな・・・僕は絶対にそんな風に思いません!」
「はは、どうだかな。」
「本当ですよ!」
そうむくれたザックの頭を撫でる。実際にこの腕を見せたらどんな反応をするかはわからないが、そう言ってくれることは純粋に嬉しかった。
「じゃあ俺からも質問だ。ザックの好きな食べ物は?」
「この間一緒に食べたパン!」
「他には?」
「うーん、いつもはカビだパンとかあまりもののスープしか食べてないから、よく分からない・・・」
「そうか・・・」
その答えに胸が締め付けられた。やっぱり次は何か他のものを食べさせてやろう。できればもっと美味しくて栄養のあるものを・・・そう思っていると再びザックが口を開いた。
「じゃあまた僕からね。お兄さんの好きなタイプは?」
その質問に何も飲んで無いのに思わず咽せてしまう。
「ゴホッゴホッ、なんでそんな事を聞く?」
「ただ、気になって・・・」
少し照れ臭そうにするザックに、もしかして好きな人でもできたのだろうかと考える。俺の意見など参考にならないだろうが、この子が誰かを好きになる余裕が生まれたことにホッとする。
「好きなタイプか・・・俺は考えたこともないな。そもそも恋愛には縁がないだろうし・・・参考にならなくて悪かったな。」
「あっ、ごめんなさい・・・。その、容姿のせいで・・・?」
「ああ。・・・まあ、性格も良くないけどさ。」
「そんなことないです!」
なぜか勢いよくザックに否定される。そして、ザックは一瞬俯いたかと思ったら、次の瞬間ガバッと俺に抱きついてきた。
「ザック!?」
「少しだけ、こうさせてください。」
「あ、ああ。いいけど・・・」
俺は戸惑いながらも、何か悲しませてしまっただろうかと思って、ザックの背中をさすり続けた。そうしているうちにスヤスヤとした寝息が聞こえてきた。
「ザック・・・?」
俺は小声でザックに呼びかけるが返事はない。・・・時間になるまで寝かせておいてやるか。
そう思って俺はギリギリまでザックをそのままにした。
起こした後ザックは「もっと早く起こしてくれたらよかったのに」とむくれていたが「寝たお前が悪い」とデコピンで跳ね除けた。
加減したつもりなのだが、顔を赤くして額を抑えているザックを心配して覗き込めば、「ま、また再来週を楽しみにしてます!」と走り去ってしまった。
125
お気に入りに追加
3,225
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の君と…
R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。
ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。
順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…!
ハッピーエンド保証
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。
蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。
見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。
暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!?
山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕!
18禁要素がある話は※で表します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる