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本編
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今日は、カインと約束した通り、服を新調しに来ている。
馬車の中、ローブを目深に被った俺をカインが悲しそうに見つめる。
「そんなの無くても出歩けたら良いのに・・・」
「・・・仕方ないだろ。」
少なくとも同じ国教を掲げるこの周辺諸国では無理な話だ。そう言って肩を竦めれば、カインは寂しそうに空洞になっている俺の右袖を掴む。
「今日は絶対にテイトにぴったりの服を見繕うからね。」
「はいはい。」
決意を固めるように言ったカインに適当に相槌を打つ。
そうしてやってきたのは街で1番の仕立て屋だ。
今日カインは金髪のウィッグを被っている。一応、アーデン家の双子だと悟られないようにだ。俺が変装をすると言ったのだが、「テイトの服を見繕うのにテイトが変装してたらぴったりの服が作れないじゃないか。」と却下された。
そんなわけで店の中に入ったのだが・・・
「この子に服を2、3着見繕って欲しいんだ。」
カインが俺を押しながら店員に話しかける。すると店員はカインの顔を見て少し顔を赤らめた。
(やっぱり他人から見ても格好いいんだな。)
カインは金髪も似合っていてどこぞの王子様みたいだ。同じ顔をしているはずの俺はこんな態度を向けられたことなどないのにと、ほんの少し嫉妬してしまう。
「かしこまりました。では、採寸しますのでローブをこちらに。」
「あ・・・」
ローブを預かると言われて思わず体が強張る。以前態度が豹変した店員を思い出して不安に思った俺は、昔の癖でついカインの服の裾を掴んでしまった。
「テイト?大丈夫だよ。僕もいるから。」
カインは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに俺の手を両手で包み込む。
「ほら、ローブを貸して。」
俺はカインに言われるがままローブを脱いだ。
「それではさっそく採寸を・・・」
メジャーを持った店員が俺の右腕を見て固まる。
「あ、あの。申し訳ございませんが、やはり当店では仕立てができません。」
「えっ、どうして?」
カインが怪訝そうな顔をして店員を見る。
「その、障害のある方の服は仕立てていないんです。うちの服を着て出歩かれると、店の評判にが関わりますので・・・」
「そんな理由で客を選ぶなんて・・・それにこの子はほとんど外を出歩かないから問題ない。」
「いえ、ですが・・・」
「この子が着るだけで評判が落ちるって言いたいの?」
「・・・カイン、いいから出よう。」
俺はカインが憤り出しそうな雰囲気を感じて小声で静止する。そもそも服などどこで仕立たって良いのだ。
俺は納得のいかない表情のままのカインを引っ張って店を後にした。
「テイト、ごめん。嫌な思いをさせて・・・」
「いい。あれが普通の反応だろ。」
「テイト・・・」
家の一件でだいぶ理解した。障害者は金を持っていても大抵は迷惑がられるのだ。
「カイン、やっぱり帰るか?それともお前の服を・・・」
きっと俺の服を仕立ててくれるという店を探すのは大変だろう。そう思っての提案だったが、カインからは却下された。
「今日は絶対にテイトの服を見繕うまで帰らないよ。」
なぜそんなに意地になっているのか分からないが、俺はカインに言われるがまま次の店へと向かった。
そして馬車が次の店へと到着した。俺はショーウィンドウを見て、今度こそと息巻いて店に入ろうとするカインの腕を掴んで止める。
「テイト?どうしたの?」
「これ。」
指さした先には注意書きが書かれていた。その中の一文に"障害者お断り"の文字が。
「・・・・・・・・・次の店に行こうか。」
カインはガッカリしたような声音でそう言ったかと思うと、俺の手を引いて馬車へと戻った。
それからさらに2、3軒回ったが、どこも似たようなものだった。疲れ切った様子のカインに思わず声をかける。
「カイン、もう帰ろう。」
「嫌だ。もう少しだけ付き合って。きっと良い店を見つけるから。」
「付き合うも何も・・・」
むしろ俺が付き合わせているみたいでなんだか申し訳ない気持ちになるのだ。
「じゃあ、次で最後にしよう。」
「うん・・・わかった。」
俺の提案にカインも頷いた。これで結果がどうあれ次で終わりだ。
最後の店は、最初の店と比べれば随分と寂れていた。服の種類も少なくて、少し流行遅れな気がする。
「テイト、やっぱりもう一件だけ・・・」
「だめだ。ここで無理ならもう終わりでいい。」
「くっ」
何をそんなにダメージを受けているのか。俺たちはその寂れた店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃーい」
気の抜けた男の声で出迎えられる。こいつが店主だろうか。
「この子の服を見繕って欲しい。」
そう言ってカインが守るように俺の肩を抱く。
「んーはいはい。それにしても良いとこのお坊ちゃんみたいなのに、こんな店でいいんですかい?」
「他の店からは却下されたんだ。俺はこんなだからな。」
そう言ってローブを脱げば、店主は「あーなるほど」と納得した。
「それで、ここでは仕立ててくれるの?」
「ええ。金さえ払ってくれるなら別に構いませんよ。うちには落ちるような評判もないし。」
「よかった!それじゃあ2、3着頼む。」
カインはそう言って店主の前にお金を置いた。
「こ、こんなに・・・?」
「テイトの服なんだから、これくらい当然だ。でもとびきりいいのにしてよ。店に飾ってあるのは少し古臭いから。」
「古臭い・・・わ、わかりました。」
そうして生き生きし出したカインは店主とどんな服を作るか相談し始めた。俺はその間置いてある服を物色していた。どれもいい品ではないがとにかく安い。
(この店覚えておこう。)
この安さなら万が一家を出ていくことになった時も重宝しそうだ。そう思って店に書かれている看板を見ると『ジョニーの仕立て屋』と書かれていた。店主の名前だろうか。
そうこうしているうちにカインたちは話を終えたらしい。
「服のデザインは決まったから、あとは採寸だよ。」
「じゃあ失礼しますね。」
そう言った主人は特に嫌な顔をするでも無く俺の服のサイズを測っていく。
「その、あんたは嫌じゃないのか?障害者の服を作ることが・・・」
「私はね、南の方の国の出身なんですよ。そこでは障害者差別なんてなかったので、この国に来て驚きましたね。」
「南の国・・・」
「ええ、アレクサンドリアって国です。平和なところですよ。あなたみたいな人にとっても。」
「そうか・・・」
そういえば海外に行くという発想はあんまりなかったな。この宗教圏を抜け出しても生活していける自信がなかったし。
(少し、検討してみてもいいかもしれない・・・)
そう思って採寸が終わった俺はローブを着直す。カインが袖を通すのを手伝ってくれようとするが、ローブくらいなら自分で着られると突っぱねた。
「1週間後には完成しますから。住所を教えてもらえれば届けますが・・・」
「いや、自分たちで取りに来るからいい。今日は助かった。」
「わかりました、それじゃお待ちしておりますよ。」
そうして俺たちは店主に別れを告げて店を後にした。
馬車の中、ローブを目深に被った俺をカインが悲しそうに見つめる。
「そんなの無くても出歩けたら良いのに・・・」
「・・・仕方ないだろ。」
少なくとも同じ国教を掲げるこの周辺諸国では無理な話だ。そう言って肩を竦めれば、カインは寂しそうに空洞になっている俺の右袖を掴む。
「今日は絶対にテイトにぴったりの服を見繕うからね。」
「はいはい。」
決意を固めるように言ったカインに適当に相槌を打つ。
そうしてやってきたのは街で1番の仕立て屋だ。
今日カインは金髪のウィッグを被っている。一応、アーデン家の双子だと悟られないようにだ。俺が変装をすると言ったのだが、「テイトの服を見繕うのにテイトが変装してたらぴったりの服が作れないじゃないか。」と却下された。
そんなわけで店の中に入ったのだが・・・
「この子に服を2、3着見繕って欲しいんだ。」
カインが俺を押しながら店員に話しかける。すると店員はカインの顔を見て少し顔を赤らめた。
(やっぱり他人から見ても格好いいんだな。)
カインは金髪も似合っていてどこぞの王子様みたいだ。同じ顔をしているはずの俺はこんな態度を向けられたことなどないのにと、ほんの少し嫉妬してしまう。
「かしこまりました。では、採寸しますのでローブをこちらに。」
「あ・・・」
ローブを預かると言われて思わず体が強張る。以前態度が豹変した店員を思い出して不安に思った俺は、昔の癖でついカインの服の裾を掴んでしまった。
「テイト?大丈夫だよ。僕もいるから。」
カインは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに俺の手を両手で包み込む。
「ほら、ローブを貸して。」
俺はカインに言われるがままローブを脱いだ。
「それではさっそく採寸を・・・」
メジャーを持った店員が俺の右腕を見て固まる。
「あ、あの。申し訳ございませんが、やはり当店では仕立てができません。」
「えっ、どうして?」
カインが怪訝そうな顔をして店員を見る。
「その、障害のある方の服は仕立てていないんです。うちの服を着て出歩かれると、店の評判にが関わりますので・・・」
「そんな理由で客を選ぶなんて・・・それにこの子はほとんど外を出歩かないから問題ない。」
「いえ、ですが・・・」
「この子が着るだけで評判が落ちるって言いたいの?」
「・・・カイン、いいから出よう。」
俺はカインが憤り出しそうな雰囲気を感じて小声で静止する。そもそも服などどこで仕立たって良いのだ。
俺は納得のいかない表情のままのカインを引っ張って店を後にした。
「テイト、ごめん。嫌な思いをさせて・・・」
「いい。あれが普通の反応だろ。」
「テイト・・・」
家の一件でだいぶ理解した。障害者は金を持っていても大抵は迷惑がられるのだ。
「カイン、やっぱり帰るか?それともお前の服を・・・」
きっと俺の服を仕立ててくれるという店を探すのは大変だろう。そう思っての提案だったが、カインからは却下された。
「今日は絶対にテイトの服を見繕うまで帰らないよ。」
なぜそんなに意地になっているのか分からないが、俺はカインに言われるがまま次の店へと向かった。
そして馬車が次の店へと到着した。俺はショーウィンドウを見て、今度こそと息巻いて店に入ろうとするカインの腕を掴んで止める。
「テイト?どうしたの?」
「これ。」
指さした先には注意書きが書かれていた。その中の一文に"障害者お断り"の文字が。
「・・・・・・・・・次の店に行こうか。」
カインはガッカリしたような声音でそう言ったかと思うと、俺の手を引いて馬車へと戻った。
それからさらに2、3軒回ったが、どこも似たようなものだった。疲れ切った様子のカインに思わず声をかける。
「カイン、もう帰ろう。」
「嫌だ。もう少しだけ付き合って。きっと良い店を見つけるから。」
「付き合うも何も・・・」
むしろ俺が付き合わせているみたいでなんだか申し訳ない気持ちになるのだ。
「じゃあ、次で最後にしよう。」
「うん・・・わかった。」
俺の提案にカインも頷いた。これで結果がどうあれ次で終わりだ。
最後の店は、最初の店と比べれば随分と寂れていた。服の種類も少なくて、少し流行遅れな気がする。
「テイト、やっぱりもう一件だけ・・・」
「だめだ。ここで無理ならもう終わりでいい。」
「くっ」
何をそんなにダメージを受けているのか。俺たちはその寂れた店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃーい」
気の抜けた男の声で出迎えられる。こいつが店主だろうか。
「この子の服を見繕って欲しい。」
そう言ってカインが守るように俺の肩を抱く。
「んーはいはい。それにしても良いとこのお坊ちゃんみたいなのに、こんな店でいいんですかい?」
「他の店からは却下されたんだ。俺はこんなだからな。」
そう言ってローブを脱げば、店主は「あーなるほど」と納得した。
「それで、ここでは仕立ててくれるの?」
「ええ。金さえ払ってくれるなら別に構いませんよ。うちには落ちるような評判もないし。」
「よかった!それじゃあ2、3着頼む。」
カインはそう言って店主の前にお金を置いた。
「こ、こんなに・・・?」
「テイトの服なんだから、これくらい当然だ。でもとびきりいいのにしてよ。店に飾ってあるのは少し古臭いから。」
「古臭い・・・わ、わかりました。」
そうして生き生きし出したカインは店主とどんな服を作るか相談し始めた。俺はその間置いてある服を物色していた。どれもいい品ではないがとにかく安い。
(この店覚えておこう。)
この安さなら万が一家を出ていくことになった時も重宝しそうだ。そう思って店に書かれている看板を見ると『ジョニーの仕立て屋』と書かれていた。店主の名前だろうか。
そうこうしているうちにカインたちは話を終えたらしい。
「服のデザインは決まったから、あとは採寸だよ。」
「じゃあ失礼しますね。」
そう言った主人は特に嫌な顔をするでも無く俺の服のサイズを測っていく。
「その、あんたは嫌じゃないのか?障害者の服を作ることが・・・」
「私はね、南の方の国の出身なんですよ。そこでは障害者差別なんてなかったので、この国に来て驚きましたね。」
「南の国・・・」
「ええ、アレクサンドリアって国です。平和なところですよ。あなたみたいな人にとっても。」
「そうか・・・」
そういえば海外に行くという発想はあんまりなかったな。この宗教圏を抜け出しても生活していける自信がなかったし。
(少し、検討してみてもいいかもしれない・・・)
そう思って採寸が終わった俺はローブを着直す。カインが袖を通すのを手伝ってくれようとするが、ローブくらいなら自分で着られると突っぱねた。
「1週間後には完成しますから。住所を教えてもらえれば届けますが・・・」
「いや、自分たちで取りに来るからいい。今日は助かった。」
「わかりました、それじゃお待ちしておりますよ。」
そうして俺たちは店主に別れを告げて店を後にした。
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