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本編
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翌朝。
熱はすっかり下がったみたいだ。俺は汗をかいた服を脱いで魔法で体を綺麗にする。
使用人を呼べば風呂にも入れるのだが、彼らも俺を煙たがっているので気軽に頼むことはできなかった。以前頼んだ時は冷水を入れられていて、気づかずに入って凍えたっけ。
その代わり生活魔法が使えるので大変助かっている。
カインほど才能はないとはいえ俺もアーデン家の息子だ。簡単な魔法は問題なく使える。
キッチンに行ってパンを拝借した俺は、その足で執事長オズワルドの元へと向かう。
「オズワルド、少し話があるんだけど。」
「・・・おや、テイト坊ちゃん。どうされましたか?」
オズワルドは仕事の手を止めずに返事をする。まあ態度もしては良くないがちゃんと対応してくれるだけマシだ。
「俺に割り当てられる予算、自分で管理したいんだけど。」
「お、俺・・・?またそれは・・・」
(あっ、やば。今まで"僕"って言ってたんだった。)
まあでもいいか。俺はレイ以外で他の貴族と関わることもないのだし、礼儀がなってなくても気にする人間はそういない。
少し驚いたように書類から顔を上げたオズワルドに畳みかける。
「いちいち購入する度にオズワルドに頼むのは手間し、オズワルドの方も大変でしょ?」
「ふむ、わかりました。ですが、一応この事は旦那様と奥様に報告させていただきます。」
「ああ、構わない。ありがとう。」
そう言って俺はオズワルドから銀のカードを受け取った。
これにも魔法が使われていて、表示されている額まではこれで支払いや引き出しができる。まあ、この世界のクレジットカードのような物だ。
あっさりとお金を手に入れることができたことにホッとして部屋へと戻る。改めてカードを見れば、そこに表示されている額はなかなかのものだった。
(意外だな・・・俺にもこんなに予算が振られていたのか・・・)
少し驚きながらカードを手の中で回す。これなら別荘だって購入できそうだ。今まで色々我慢していたのが馬鹿らしい。
俺はさっそく使ってみようと、シンプルな服を着てこっそり家を抜け出した。もともと大して認識されていないので外に出るのは簡単だ。
右手がないことが気づかれにくいよう長いローブを羽織って街へと向かう。
賑わいだいした通りには屋台が立ち並んでいた。その香りに誘われてから腹がグーっと鳴る。
(よし、まずはここで使うか。)
俺は一つの屋台で立ち止まり、串焼きを購入した。
「うまっ」
久々にパンとスープ以外のものを口にした気がする。
お金を手に入れたから今後は毎日だって好きなものを食べられる。そう考えると気分があがった。まあ"片手で食べられるもの"という制約はあるが。
そんなことを考えながらふらふら歩いていると、街の外れまでやってきたらしい。
雰囲気が暗くなり、かなり寂れているそこは、人々も貧しそうだった。
(ここから先はスラム街か・・・)
俺はほんの少しという気持ちでスラム街に足を踏み入れた。そこには浮浪者のような人が大勢いて、多くは家がないのか道端に座り込んでいた。
ふと、ある一角に目が止まる。
そこにいた人々は障害のある人たちだった。
「っ!」
俺は息が止まる思いがした。
スラムにいる他の人たちより一層見窄らしい集団が彼らだった。まるで同じ境遇の者同士で身を寄せ合って互いを守っているような様子に、心が締め付けられる。
きっと自分も貴族の生まれでなければああなっていたに違いない。
こんな扱いでも俺は恵まれている。彼らに何かしてあげられることはないだろうか。
そう思ってカードに表示されている額を見た。
(このお金があれば・・・)
俺は踵を返して街の中へ戻った。
熱はすっかり下がったみたいだ。俺は汗をかいた服を脱いで魔法で体を綺麗にする。
使用人を呼べば風呂にも入れるのだが、彼らも俺を煙たがっているので気軽に頼むことはできなかった。以前頼んだ時は冷水を入れられていて、気づかずに入って凍えたっけ。
その代わり生活魔法が使えるので大変助かっている。
カインほど才能はないとはいえ俺もアーデン家の息子だ。簡単な魔法は問題なく使える。
キッチンに行ってパンを拝借した俺は、その足で執事長オズワルドの元へと向かう。
「オズワルド、少し話があるんだけど。」
「・・・おや、テイト坊ちゃん。どうされましたか?」
オズワルドは仕事の手を止めずに返事をする。まあ態度もしては良くないがちゃんと対応してくれるだけマシだ。
「俺に割り当てられる予算、自分で管理したいんだけど。」
「お、俺・・・?またそれは・・・」
(あっ、やば。今まで"僕"って言ってたんだった。)
まあでもいいか。俺はレイ以外で他の貴族と関わることもないのだし、礼儀がなってなくても気にする人間はそういない。
少し驚いたように書類から顔を上げたオズワルドに畳みかける。
「いちいち購入する度にオズワルドに頼むのは手間し、オズワルドの方も大変でしょ?」
「ふむ、わかりました。ですが、一応この事は旦那様と奥様に報告させていただきます。」
「ああ、構わない。ありがとう。」
そう言って俺はオズワルドから銀のカードを受け取った。
これにも魔法が使われていて、表示されている額まではこれで支払いや引き出しができる。まあ、この世界のクレジットカードのような物だ。
あっさりとお金を手に入れることができたことにホッとして部屋へと戻る。改めてカードを見れば、そこに表示されている額はなかなかのものだった。
(意外だな・・・俺にもこんなに予算が振られていたのか・・・)
少し驚きながらカードを手の中で回す。これなら別荘だって購入できそうだ。今まで色々我慢していたのが馬鹿らしい。
俺はさっそく使ってみようと、シンプルな服を着てこっそり家を抜け出した。もともと大して認識されていないので外に出るのは簡単だ。
右手がないことが気づかれにくいよう長いローブを羽織って街へと向かう。
賑わいだいした通りには屋台が立ち並んでいた。その香りに誘われてから腹がグーっと鳴る。
(よし、まずはここで使うか。)
俺は一つの屋台で立ち止まり、串焼きを購入した。
「うまっ」
久々にパンとスープ以外のものを口にした気がする。
お金を手に入れたから今後は毎日だって好きなものを食べられる。そう考えると気分があがった。まあ"片手で食べられるもの"という制約はあるが。
そんなことを考えながらふらふら歩いていると、街の外れまでやってきたらしい。
雰囲気が暗くなり、かなり寂れているそこは、人々も貧しそうだった。
(ここから先はスラム街か・・・)
俺はほんの少しという気持ちでスラム街に足を踏み入れた。そこには浮浪者のような人が大勢いて、多くは家がないのか道端に座り込んでいた。
ふと、ある一角に目が止まる。
そこにいた人々は障害のある人たちだった。
「っ!」
俺は息が止まる思いがした。
スラムにいる他の人たちより一層見窄らしい集団が彼らだった。まるで同じ境遇の者同士で身を寄せ合って互いを守っているような様子に、心が締め付けられる。
きっと自分も貴族の生まれでなければああなっていたに違いない。
こんな扱いでも俺は恵まれている。彼らに何かしてあげられることはないだろうか。
そう思ってカードに表示されている額を見た。
(このお金があれば・・・)
俺は踵を返して街の中へ戻った。
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