ゴーストハウス

ゆう

文字の大きさ
上 下
1 / 12
幽霊屋敷

1

しおりを挟む

「シャロン、荷運びを手伝ってちょうだい!もう使用人はいないんだから、全部自分たちでやらなきゃいけないのよ。」

私はその声に答える様にお母様の方を振り返った。

「ええ、わかってるわ。」

その背後には古びた幽霊屋敷ゴーストハウスが聳え立つ。

今日からここが私の家だ。 

父が事業に失敗して全財産を失った我が家は、それでも貴族としての体面を捨てきれずに、広さだけはしっかりとあるこの家にタダ同然で引っ越してきた。

誰も近づかない様な寂れた場所にあるこの屋敷は、その建物自体もひどく寂れて今にも崩れそうな様相だ。

なぜここがゴーストハウスと呼ばれているのはわからないけれど、その重たい雰囲気はまるでこれからの私たちの未来を表しているようで自然と気分が落ち込んでくる。


「はぁ、こんな不気味な家に住まないといけないなんて・・・」

家が没落してから急激にやつれたお母様は、かつてのおっとりした貴族令嬢らしい雰囲気を失い、常にピリピリとした雰囲気を纏う様になった。

「今日はとりあえず荷物を中に運んで、配置や整理は徐々にやっていこう。」

お父様の言葉に私とお母様は頷いた。正直長い間馬車に揺られてくたくただ。

好きな部屋を選んで良いという父の言葉に従って、荷運びを終えた私は屋敷の中を探索して一番ましな部屋に腰を下ろした。



「はあ・・・」

「この部屋を選ぶなんて、お目が高いな。」

「誰!?」

やっと一息つけると思ったら見知らぬ男性の声に驚いて立ち上がる。すると、いつの間にか目の前に執事服を纏った青年が立っていた。

金色の瞳に長い銀髪を後ろでまとめたその人はなかなかの美青年だ。

(でもこの家は私たちが底値で買い取ったのだから人は住んでいないはずなのに・・・)

「あなたは誰?この家、使用人付きなの?」

「そんな訳ないだろ。僕はこの家の使用人だ。」

青年はなぜか疲れた様子で肩を落とす。使用人らしい見た目とは裏腹に無礼な態度が私のささくれた心を刺激した。


(貧乏令嬢だからって馬鹿にしてるのかしら?これからはこんな態度の人間ばかりになるんでしょうね・・・)

「そう、それでその元使用人がなぜこの家に居るのかしら?」

私は壁を作るように冷たく言い放った。

「良い質問だね。なぜかってこの家に住んでるからさ。」

「ここは私たちが購入したはずよ。」

「ああ、正直こんな曰く付きの家に引っ越してくる奴らがいるなんて考えてもみなかったよ。」

「っ、仕方ないじゃない・・・私だって来たくて来たわけではないわ。」

その青年にバカにされた気がして、唇を噛んでそう答えた。その様子に青年はため息をついて背を向ける。

「何か事情はあるみたいだけど、早くここから出ていってくれ。でないと後悔することになる。」


それはどういう意味なのかしら、そう尋ねようとして顔を上げれば青年は消えていた。


「出ていけるわけないじゃない・・・もう引っ越すお金なんてないもの・・・」

私は陰鬱な気持ちになって、あの青年が言った言葉をぐるぐると考えながらベッドに潜り込んだ。


(そもそもこの家に住んでいるってどう言うことなの?)

とても気になるのにあまりの疲労感に考えがまとまらない。

(起きたらお父様とお母様に相談しよう。)

そう考えて瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未明の駅

ゆずさくら
ホラー
Webサイトに記事をアップしている俺は、趣味の小説ばかり書いて仕事が進んでいなかった。サイト主催者から炊きつけられ、ネットで見つけたネタを記事する為、夜中の地下鉄の取材を始めるのだが、そこで思わぬトラブルが発生して、地下の闇を彷徨うことになってしまう。俺は闇の中、先に見えてきた謎のホームへと向かうのだが……

扉の向こうは黒い影

小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。 夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。

もしもし、あのね。

ナカハラ
ホラー
「もしもし、あのね。」 舌足らずな言葉で一生懸命話をしてくるのは、名前も知らない女の子。 一方的に掛かってきた電話の向こうで語られる内容は、本当かどうかも分からない話だ。 それでも不思議と、電話を切ることが出来ない。 本当は着信なんて拒否してしまいたい。 しかし、何故か、この電話を切ってはいけない……と…… ただ、そんな気がするだけだ。

郷土伝承伝奇会

阿沙🌷
ホラー
ある男は語る――自分が幼いころに体験したことを。

鬼手紙一現代編一

ぶるまど
ホラー
《当たり前の日常》は一つの手紙を受け取ったことから崩壊した あらすじ 五十嵐 秋人はどこにでもいる高校1年生の少年だ。 幼馴染みの双葉 いのりに告白するため、屋上へと呼び出した。しかし、そこでとある事件が起き、二人は離れ離れになってしまった。 それから一年…高校二年生になった秋人は赤い手紙を受け取ったことにより…日常の崩壊が、始まったのである。 *** 20180427一完結。 次回【鬼手紙一過去編一】へと続きます。 ***

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

処理中です...