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幽霊屋敷
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しおりを挟む「シャロン、荷運びを手伝ってちょうだい!もう使用人はいないんだから、全部自分たちでやらなきゃいけないのよ。」
私はその声に答える様にお母様の方を振り返った。
「ええ、わかってるわ。」
その背後には古びた幽霊屋敷が聳え立つ。
今日からここが私の家だ。
父が事業に失敗して全財産を失った我が家は、それでも貴族としての体面を捨てきれずに、広さだけはしっかりとあるこの家にタダ同然で引っ越してきた。
誰も近づかない様な寂れた場所にあるこの屋敷は、その建物自体もひどく寂れて今にも崩れそうな様相だ。
なぜここがゴーストハウスと呼ばれているのはわからないけれど、その重たい雰囲気はまるでこれからの私たちの未来を表しているようで自然と気分が落ち込んでくる。
「はぁ、こんな不気味な家に住まないといけないなんて・・・」
家が没落してから急激にやつれたお母様は、かつてのおっとりした貴族令嬢らしい雰囲気を失い、常にピリピリとした雰囲気を纏う様になった。
「今日はとりあえず荷物を中に運んで、配置や整理は徐々にやっていこう。」
お父様の言葉に私とお母様は頷いた。正直長い間馬車に揺られてくたくただ。
好きな部屋を選んで良いという父の言葉に従って、荷運びを終えた私は屋敷の中を探索して一番ましな部屋に腰を下ろした。
「はあ・・・」
「この部屋を選ぶなんて、お目が高いな。」
「誰!?」
やっと一息つけると思ったら見知らぬ男性の声に驚いて立ち上がる。すると、いつの間にか目の前に執事服を纏った青年が立っていた。
金色の瞳に長い銀髪を後ろでまとめたその人はなかなかの美青年だ。
(でもこの家は私たちが底値で買い取ったのだから人は住んでいないはずなのに・・・)
「あなたは誰?この家、使用人付きなの?」
「そんな訳ないだろ。僕はこの家の元使用人だ。」
青年はなぜか疲れた様子で肩を落とす。使用人らしい見た目とは裏腹に無礼な態度が私のささくれた心を刺激した。
(貧乏令嬢だからって馬鹿にしてるのかしら?これからはこんな態度の人間ばかりになるんでしょうね・・・)
「そう、それでその元使用人がなぜこの家に居るのかしら?」
私は壁を作るように冷たく言い放った。
「良い質問だね。なぜかってこの家に住んでるからさ。」
「ここは私たちが購入したはずよ。」
「ああ、正直こんな曰く付きの家に引っ越してくる奴らがいるなんて考えてもみなかったよ。」
「っ、仕方ないじゃない・・・私だって来たくて来たわけではないわ。」
その青年にバカにされた気がして、唇を噛んでそう答えた。その様子に青年はため息をついて背を向ける。
「何か事情はあるみたいだけど、早くここから出ていってくれ。でないと後悔することになる。」
それはどういう意味なのかしら、そう尋ねようとして顔を上げれば青年は消えていた。
「出ていけるわけないじゃない・・・もう引っ越すお金なんてないもの・・・」
私は陰鬱な気持ちになって、あの青年が言った言葉をぐるぐると考えながらベッドに潜り込んだ。
(そもそもこの家に住んでいるってどう言うことなの?)
とても気になるのにあまりの疲労感に考えがまとまらない。
(起きたらお父様とお母様に相談しよう。)
そう考えて瞼を閉じた。
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