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巻き戻し
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私は呆然としてウェスの亡骸の横で座っていた。
ここに来て初めて、ウェスの時間を戻すべきか迷っている。
私の寿命に関わらず、禁忌魔法を使えるのはこれが最後だろう。
だが、使ったとしてどうなるというのだろう。
私の体はもうボロボロで、今回だってウェスに面倒を見てもらっていたというのに…
だが、それでも…
やはりウェス無しで生きていくのは耐えられない。
チャンスがあるなら何度だってウェスを蘇らせたい。
そして、私は最後に残った力で魔法を使った。
殆どの力を失った私は、まるで雛に孵る前の卵を温めるようにウェスを抱いて眠った。
力を失う前に、彼が生活していけるようある程度のものは揃えた。それに、4度目のウェスが残してくれた財産もいくらか残っている。
そうして、重たい体を引きずりながら私は再びウェスとの生活を始めた。
起きていられる時間は短かったが、それでもウェスは私によく懐いてくれる。彼の幼い姿を見るのも今世が最後だと思うと、全ての様子をこの目に焼き付けようと思った。
「ディーはどこか具合が悪いの?」
喋れるようになったウェスは心配そうにそう尋ねた。
「いや、もう私は歳なんだ。寿命が近いんだよ」
そう答えながら、ベッドをよじ登ってきたウェスを抱き寄せる。
「全然老けて見えないのに?」
「魔族に見た目は関係ないからな」
「じゃあ…寿命がきたらディーは死んじゃうの?」
すると私の腕の中でウェスは泣きそうな顔をした。
「ああ…でもお前を置いていったりはしないから安心しなさい」
「本当に?俺を1人にしない?」
「ああ、絶対にしない。約束だ」
そう言ってやるとウェスは嬉しそうに笑って顔を押し付けてきた。
こうなることがわかっていて時間を戻したのは他でもない自分だ。だから、私がウェスを1人残して死ぬなど許されない。
意地でもウェスの寿命まで生きて、そして…今度こそ共に逝くつもりだ。
そうして歳月が流れ、ウェスが成長すると4度目と同じように彼は働きに出た。
また恋人関係になりたいと思った私は、今度は自分から告白をした。前回は彼に先を越されてしまったからな…
「お、俺なんかでよければっ…!」
告白されて慌てふためくウェスは前回とはまた違って初心な様子がとても可愛らしかった。
「それはこちらのセリフだ。こんな体ですまないが…私はお前のことをずっと愛していた」
そして私たちは晴れて恋人同士となった。
生活は4度目以上に苦しかったが、それでも2人でいれば幸せだった。
本当はもっとウェスを甘やかして楽をさせてやりたかったが…もう私の体は限界で、1日に数時間起きているのがやっとだった。
我ながらそんな状態の自分をよく恋人にしてくれたものだと思う。
「ディーはどうしたらよくなるんだ?」
ある日倒れた私を看病しながらウェスが言った。
彼の顔は青ざめていてひどく憔悴している。
「心配をかけたな…もう大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないだろ!体だってどんどん痩せて…何か方法はないの?必要なものがあったら言ってよ…」
泣きそうな声で縋るウェスにまたしても1度目の彼を思い出す。こんな思いをさせるために時間を戻したわけではないのに…
そんな後悔と申し訳なさが胸を締めつける。
「方法はない。お前には苦労をかけるが、これで良いんだ。私はもう直ぐ寿命だから…」
「そんなの嫌だ…もっと生きてよ」
私が何度ウェスに対して思ったかしれないセリフを彼が口にする。
「どうして笑ってるの?」
「ああ、すまない。ウェスにそんなことを言われる日が来るとは思わなくてな…」
「なんでだよ、ずっとそう言ってるじゃないか」
「ああ、たしかに今回はそうだったか…」
そう言って今までの5回の生を思い出す。
「なあ、ウェス。聞いてくれるか?愚かな男の昔話なのだが…」
これが最後のチャンスだ。そう思った私はおもむろに話を切り出した。
「昔、魔王がある悪魔を拾って自分の子のように育てたんだ。その魔王はその子のことを大変可愛がった」
彼の5回の人生をまるで御伽噺のように語り出した私を、ウェスは不思議そうな顔で見つめてくる。
「だが、それをよく思わなかった魔族達に悪魔が害されるようになったのだ。そして、魔王は彼を守ろうとして…選択を誤った」
私は声が震えるのを誤魔化すように呼吸を置いた。
ウェスは私が落ち着くのを待ちながら、真剣に耳を傾けてくれる。
「…その結果、その悪魔を失意のまま死なせてしまったんだ。そして、それをひどく後悔した魔王は、禁忌魔法でその子の時間を戻した…」
そして、4度目の人生まで話したところでウェスの様子を伺う。彼は、何が言いたげな顔で私をじっと見つめていた。
「この話の悪魔は幸せだったと思うか?それと…魔王のことをどう思う?」
正直聞くのは怖い。でもこれが最後なのだ。
ウェスの想いを知ることができる最後の…
彼は1度目のウェスじゃない。だからあの時のあの子の苦しみはわからない。それでも本人の口から気持ちを聞きたかった。
「うーん…確かに、1度目の子は可哀想だな。魔王様も愚かなことをしたと思う」
「………」
「でも…魔王様が禁忌を冒してまで時間を戻してくれて…その記憶はなかったとしても、その子は嬉しかったんじゃないかな」
「ウェス…」
彼の言葉に涙が込み上げる。
それなら、ウェスは…この5回の人生を幸せだったと言えるのだろうか。
「なんでディーが泣いてるんだよ。御伽話なんだろう?」
「ああ…そうだったな」
笑いながら涙を拭いてくれるウェスに、違うのだと、これは私とお前の物語なのだと言おうとして…やはりやめた。
「ほら、今日は動きすぎだよ。もう休んだ方がいい」
「ああ、そうだな…そうさせてもらおう」
私がこんな状態になっているのは、ウェスの時間を戻したからだと彼が知ってしまったら…
自惚れなどではなく、きっとウェスは怒り、悲しむだろう。
私は優しいウェスの心をこれ以上乱すようなことはしたくなかった。
そうして、私はほんの少しだけ心が軽くなったのを感じながら眠りについた。
ここに来て初めて、ウェスの時間を戻すべきか迷っている。
私の寿命に関わらず、禁忌魔法を使えるのはこれが最後だろう。
だが、使ったとしてどうなるというのだろう。
私の体はもうボロボロで、今回だってウェスに面倒を見てもらっていたというのに…
だが、それでも…
やはりウェス無しで生きていくのは耐えられない。
チャンスがあるなら何度だってウェスを蘇らせたい。
そして、私は最後に残った力で魔法を使った。
殆どの力を失った私は、まるで雛に孵る前の卵を温めるようにウェスを抱いて眠った。
力を失う前に、彼が生活していけるようある程度のものは揃えた。それに、4度目のウェスが残してくれた財産もいくらか残っている。
そうして、重たい体を引きずりながら私は再びウェスとの生活を始めた。
起きていられる時間は短かったが、それでもウェスは私によく懐いてくれる。彼の幼い姿を見るのも今世が最後だと思うと、全ての様子をこの目に焼き付けようと思った。
「ディーはどこか具合が悪いの?」
喋れるようになったウェスは心配そうにそう尋ねた。
「いや、もう私は歳なんだ。寿命が近いんだよ」
そう答えながら、ベッドをよじ登ってきたウェスを抱き寄せる。
「全然老けて見えないのに?」
「魔族に見た目は関係ないからな」
「じゃあ…寿命がきたらディーは死んじゃうの?」
すると私の腕の中でウェスは泣きそうな顔をした。
「ああ…でもお前を置いていったりはしないから安心しなさい」
「本当に?俺を1人にしない?」
「ああ、絶対にしない。約束だ」
そう言ってやるとウェスは嬉しそうに笑って顔を押し付けてきた。
こうなることがわかっていて時間を戻したのは他でもない自分だ。だから、私がウェスを1人残して死ぬなど許されない。
意地でもウェスの寿命まで生きて、そして…今度こそ共に逝くつもりだ。
そうして歳月が流れ、ウェスが成長すると4度目と同じように彼は働きに出た。
また恋人関係になりたいと思った私は、今度は自分から告白をした。前回は彼に先を越されてしまったからな…
「お、俺なんかでよければっ…!」
告白されて慌てふためくウェスは前回とはまた違って初心な様子がとても可愛らしかった。
「それはこちらのセリフだ。こんな体ですまないが…私はお前のことをずっと愛していた」
そして私たちは晴れて恋人同士となった。
生活は4度目以上に苦しかったが、それでも2人でいれば幸せだった。
本当はもっとウェスを甘やかして楽をさせてやりたかったが…もう私の体は限界で、1日に数時間起きているのがやっとだった。
我ながらそんな状態の自分をよく恋人にしてくれたものだと思う。
「ディーはどうしたらよくなるんだ?」
ある日倒れた私を看病しながらウェスが言った。
彼の顔は青ざめていてひどく憔悴している。
「心配をかけたな…もう大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないだろ!体だってどんどん痩せて…何か方法はないの?必要なものがあったら言ってよ…」
泣きそうな声で縋るウェスにまたしても1度目の彼を思い出す。こんな思いをさせるために時間を戻したわけではないのに…
そんな後悔と申し訳なさが胸を締めつける。
「方法はない。お前には苦労をかけるが、これで良いんだ。私はもう直ぐ寿命だから…」
「そんなの嫌だ…もっと生きてよ」
私が何度ウェスに対して思ったかしれないセリフを彼が口にする。
「どうして笑ってるの?」
「ああ、すまない。ウェスにそんなことを言われる日が来るとは思わなくてな…」
「なんでだよ、ずっとそう言ってるじゃないか」
「ああ、たしかに今回はそうだったか…」
そう言って今までの5回の生を思い出す。
「なあ、ウェス。聞いてくれるか?愚かな男の昔話なのだが…」
これが最後のチャンスだ。そう思った私はおもむろに話を切り出した。
「昔、魔王がある悪魔を拾って自分の子のように育てたんだ。その魔王はその子のことを大変可愛がった」
彼の5回の人生をまるで御伽噺のように語り出した私を、ウェスは不思議そうな顔で見つめてくる。
「だが、それをよく思わなかった魔族達に悪魔が害されるようになったのだ。そして、魔王は彼を守ろうとして…選択を誤った」
私は声が震えるのを誤魔化すように呼吸を置いた。
ウェスは私が落ち着くのを待ちながら、真剣に耳を傾けてくれる。
「…その結果、その悪魔を失意のまま死なせてしまったんだ。そして、それをひどく後悔した魔王は、禁忌魔法でその子の時間を戻した…」
そして、4度目の人生まで話したところでウェスの様子を伺う。彼は、何が言いたげな顔で私をじっと見つめていた。
「この話の悪魔は幸せだったと思うか?それと…魔王のことをどう思う?」
正直聞くのは怖い。でもこれが最後なのだ。
ウェスの想いを知ることができる最後の…
彼は1度目のウェスじゃない。だからあの時のあの子の苦しみはわからない。それでも本人の口から気持ちを聞きたかった。
「うーん…確かに、1度目の子は可哀想だな。魔王様も愚かなことをしたと思う」
「………」
「でも…魔王様が禁忌を冒してまで時間を戻してくれて…その記憶はなかったとしても、その子は嬉しかったんじゃないかな」
「ウェス…」
彼の言葉に涙が込み上げる。
それなら、ウェスは…この5回の人生を幸せだったと言えるのだろうか。
「なんでディーが泣いてるんだよ。御伽話なんだろう?」
「ああ…そうだったな」
笑いながら涙を拭いてくれるウェスに、違うのだと、これは私とお前の物語なのだと言おうとして…やはりやめた。
「ほら、今日は動きすぎだよ。もう休んだ方がいい」
「ああ、そうだな…そうさせてもらおう」
私がこんな状態になっているのは、ウェスの時間を戻したからだと彼が知ってしまったら…
自惚れなどではなく、きっとウェスは怒り、悲しむだろう。
私は優しいウェスの心をこれ以上乱すようなことはしたくなかった。
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