26 / 28
巻き戻し
16
しおりを挟む
私は呆然としてウェスの亡骸の横で座っていた。
ここに来て初めて、ウェスの時間を戻すべきか迷っている。
私の寿命に関わらず、禁忌魔法を使えるのはこれが最後だろう。
だが、使ったとしてどうなるというのだろう。
私の体はもうボロボロで、今回だってウェスに面倒を見てもらっていたというのに…
だが、それでも…
やはりウェス無しで生きていくのは耐えられない。
チャンスがあるなら何度だってウェスを蘇らせたい。
そして、私は最後に残った力で魔法を使った。
殆どの力を失った私は、まるで雛に孵る前の卵を温めるようにウェスを抱いて眠った。
力を失う前に、彼が生活していけるようある程度のものは揃えた。それに、4度目のウェスが残してくれた財産もいくらか残っている。
そうして、重たい体を引きずりながら私は再びウェスとの生活を始めた。
起きていられる時間は短かったが、それでもウェスは私によく懐いてくれる。彼の幼い姿を見るのも今世が最後だと思うと、全ての様子をこの目に焼き付けようと思った。
「ディーはどこか具合が悪いの?」
喋れるようになったウェスは心配そうにそう尋ねた。
「いや、もう私は歳なんだ。寿命が近いんだよ」
そう答えながら、ベッドをよじ登ってきたウェスを抱き寄せる。
「全然老けて見えないのに?」
「魔族に見た目は関係ないからな」
「じゃあ…寿命がきたらディーは死んじゃうの?」
すると私の腕の中でウェスは泣きそうな顔をした。
「ああ…でもお前を置いていったりはしないから安心しなさい」
「本当に?俺を1人にしない?」
「ああ、絶対にしない。約束だ」
そう言ってやるとウェスは嬉しそうに笑って顔を押し付けてきた。
こうなることがわかっていて時間を戻したのは他でもない自分だ。だから、私がウェスを1人残して死ぬなど許されない。
意地でもウェスの寿命まで生きて、そして…今度こそ共に逝くつもりだ。
そうして歳月が流れ、ウェスが成長すると4度目と同じように彼は働きに出た。
また恋人関係になりたいと思った私は、今度は自分から告白をした。前回は彼に先を越されてしまったからな…
「お、俺なんかでよければっ…!」
告白されて慌てふためくウェスは前回とはまた違って初心な様子がとても可愛らしかった。
「それはこちらのセリフだ。こんな体ですまないが…私はお前のことをずっと愛していた」
そして私たちは晴れて恋人同士となった。
生活は4度目以上に苦しかったが、それでも2人でいれば幸せだった。
本当はもっとウェスを甘やかして楽をさせてやりたかったが…もう私の体は限界で、1日に数時間起きているのがやっとだった。
我ながらそんな状態の自分をよく恋人にしてくれたものだと思う。
「ディーはどうしたらよくなるんだ?」
ある日倒れた私を看病しながらウェスが言った。
彼の顔は青ざめていてひどく憔悴している。
「心配をかけたな…もう大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないだろ!体だってどんどん痩せて…何か方法はないの?必要なものがあったら言ってよ…」
泣きそうな声で縋るウェスにまたしても1度目の彼を思い出す。こんな思いをさせるために時間を戻したわけではないのに…
そんな後悔と申し訳なさが胸を締めつける。
「方法はない。お前には苦労をかけるが、これで良いんだ。私はもう直ぐ寿命だから…」
「そんなの嫌だ…もっと生きてよ」
私が何度ウェスに対して思ったかしれないセリフを彼が口にする。
「どうして笑ってるの?」
「ああ、すまない。ウェスにそんなことを言われる日が来るとは思わなくてな…」
「なんでだよ、ずっとそう言ってるじゃないか」
「ああ、たしかに今回はそうだったか…」
そう言って今までの5回の生を思い出す。
「なあ、ウェス。聞いてくれるか?愚かな男の昔話なのだが…」
これが最後のチャンスだ。そう思った私はおもむろに話を切り出した。
「昔、魔王がある悪魔を拾って自分の子のように育てたんだ。その魔王はその子のことを大変可愛がった」
彼の5回の人生をまるで御伽噺のように語り出した私を、ウェスは不思議そうな顔で見つめてくる。
「だが、それをよく思わなかった魔族達に悪魔が害されるようになったのだ。そして、魔王は彼を守ろうとして…選択を誤った」
私は声が震えるのを誤魔化すように呼吸を置いた。
ウェスは私が落ち着くのを待ちながら、真剣に耳を傾けてくれる。
「…その結果、その悪魔を失意のまま死なせてしまったんだ。そして、それをひどく後悔した魔王は、禁忌魔法でその子の時間を戻した…」
そして、4度目の人生まで話したところでウェスの様子を伺う。彼は、何が言いたげな顔で私をじっと見つめていた。
「この話の悪魔は幸せだったと思うか?それと…魔王のことをどう思う?」
正直聞くのは怖い。でもこれが最後なのだ。
ウェスの想いを知ることができる最後の…
彼は1度目のウェスじゃない。だからあの時のあの子の苦しみはわからない。それでも本人の口から気持ちを聞きたかった。
「うーん…確かに、1度目の子は可哀想だな。魔王様も愚かなことをしたと思う」
「………」
「でも…魔王様が禁忌を冒してまで時間を戻してくれて…その記憶はなかったとしても、その子は嬉しかったんじゃないかな」
「ウェス…」
彼の言葉に涙が込み上げる。
それなら、ウェスは…この5回の人生を幸せだったと言えるのだろうか。
「なんでディーが泣いてるんだよ。御伽話なんだろう?」
「ああ…そうだったな」
笑いながら涙を拭いてくれるウェスに、違うのだと、これは私とお前の物語なのだと言おうとして…やはりやめた。
「ほら、今日は動きすぎだよ。もう休んだ方がいい」
「ああ、そうだな…そうさせてもらおう」
私がこんな状態になっているのは、ウェスの時間を戻したからだと彼が知ってしまったら…
自惚れなどではなく、きっとウェスは怒り、悲しむだろう。
私は優しいウェスの心をこれ以上乱すようなことはしたくなかった。
そうして、私はほんの少しだけ心が軽くなったのを感じながら眠りについた。
ここに来て初めて、ウェスの時間を戻すべきか迷っている。
私の寿命に関わらず、禁忌魔法を使えるのはこれが最後だろう。
だが、使ったとしてどうなるというのだろう。
私の体はもうボロボロで、今回だってウェスに面倒を見てもらっていたというのに…
だが、それでも…
やはりウェス無しで生きていくのは耐えられない。
チャンスがあるなら何度だってウェスを蘇らせたい。
そして、私は最後に残った力で魔法を使った。
殆どの力を失った私は、まるで雛に孵る前の卵を温めるようにウェスを抱いて眠った。
力を失う前に、彼が生活していけるようある程度のものは揃えた。それに、4度目のウェスが残してくれた財産もいくらか残っている。
そうして、重たい体を引きずりながら私は再びウェスとの生活を始めた。
起きていられる時間は短かったが、それでもウェスは私によく懐いてくれる。彼の幼い姿を見るのも今世が最後だと思うと、全ての様子をこの目に焼き付けようと思った。
「ディーはどこか具合が悪いの?」
喋れるようになったウェスは心配そうにそう尋ねた。
「いや、もう私は歳なんだ。寿命が近いんだよ」
そう答えながら、ベッドをよじ登ってきたウェスを抱き寄せる。
「全然老けて見えないのに?」
「魔族に見た目は関係ないからな」
「じゃあ…寿命がきたらディーは死んじゃうの?」
すると私の腕の中でウェスは泣きそうな顔をした。
「ああ…でもお前を置いていったりはしないから安心しなさい」
「本当に?俺を1人にしない?」
「ああ、絶対にしない。約束だ」
そう言ってやるとウェスは嬉しそうに笑って顔を押し付けてきた。
こうなることがわかっていて時間を戻したのは他でもない自分だ。だから、私がウェスを1人残して死ぬなど許されない。
意地でもウェスの寿命まで生きて、そして…今度こそ共に逝くつもりだ。
そうして歳月が流れ、ウェスが成長すると4度目と同じように彼は働きに出た。
また恋人関係になりたいと思った私は、今度は自分から告白をした。前回は彼に先を越されてしまったからな…
「お、俺なんかでよければっ…!」
告白されて慌てふためくウェスは前回とはまた違って初心な様子がとても可愛らしかった。
「それはこちらのセリフだ。こんな体ですまないが…私はお前のことをずっと愛していた」
そして私たちは晴れて恋人同士となった。
生活は4度目以上に苦しかったが、それでも2人でいれば幸せだった。
本当はもっとウェスを甘やかして楽をさせてやりたかったが…もう私の体は限界で、1日に数時間起きているのがやっとだった。
我ながらそんな状態の自分をよく恋人にしてくれたものだと思う。
「ディーはどうしたらよくなるんだ?」
ある日倒れた私を看病しながらウェスが言った。
彼の顔は青ざめていてひどく憔悴している。
「心配をかけたな…もう大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないだろ!体だってどんどん痩せて…何か方法はないの?必要なものがあったら言ってよ…」
泣きそうな声で縋るウェスにまたしても1度目の彼を思い出す。こんな思いをさせるために時間を戻したわけではないのに…
そんな後悔と申し訳なさが胸を締めつける。
「方法はない。お前には苦労をかけるが、これで良いんだ。私はもう直ぐ寿命だから…」
「そんなの嫌だ…もっと生きてよ」
私が何度ウェスに対して思ったかしれないセリフを彼が口にする。
「どうして笑ってるの?」
「ああ、すまない。ウェスにそんなことを言われる日が来るとは思わなくてな…」
「なんでだよ、ずっとそう言ってるじゃないか」
「ああ、たしかに今回はそうだったか…」
そう言って今までの5回の生を思い出す。
「なあ、ウェス。聞いてくれるか?愚かな男の昔話なのだが…」
これが最後のチャンスだ。そう思った私はおもむろに話を切り出した。
「昔、魔王がある悪魔を拾って自分の子のように育てたんだ。その魔王はその子のことを大変可愛がった」
彼の5回の人生をまるで御伽噺のように語り出した私を、ウェスは不思議そうな顔で見つめてくる。
「だが、それをよく思わなかった魔族達に悪魔が害されるようになったのだ。そして、魔王は彼を守ろうとして…選択を誤った」
私は声が震えるのを誤魔化すように呼吸を置いた。
ウェスは私が落ち着くのを待ちながら、真剣に耳を傾けてくれる。
「…その結果、その悪魔を失意のまま死なせてしまったんだ。そして、それをひどく後悔した魔王は、禁忌魔法でその子の時間を戻した…」
そして、4度目の人生まで話したところでウェスの様子を伺う。彼は、何が言いたげな顔で私をじっと見つめていた。
「この話の悪魔は幸せだったと思うか?それと…魔王のことをどう思う?」
正直聞くのは怖い。でもこれが最後なのだ。
ウェスの想いを知ることができる最後の…
彼は1度目のウェスじゃない。だからあの時のあの子の苦しみはわからない。それでも本人の口から気持ちを聞きたかった。
「うーん…確かに、1度目の子は可哀想だな。魔王様も愚かなことをしたと思う」
「………」
「でも…魔王様が禁忌を冒してまで時間を戻してくれて…その記憶はなかったとしても、その子は嬉しかったんじゃないかな」
「ウェス…」
彼の言葉に涙が込み上げる。
それなら、ウェスは…この5回の人生を幸せだったと言えるのだろうか。
「なんでディーが泣いてるんだよ。御伽話なんだろう?」
「ああ…そうだったな」
笑いながら涙を拭いてくれるウェスに、違うのだと、これは私とお前の物語なのだと言おうとして…やはりやめた。
「ほら、今日は動きすぎだよ。もう休んだ方がいい」
「ああ、そうだな…そうさせてもらおう」
私がこんな状態になっているのは、ウェスの時間を戻したからだと彼が知ってしまったら…
自惚れなどではなく、きっとウェスは怒り、悲しむだろう。
私は優しいウェスの心をこれ以上乱すようなことはしたくなかった。
そうして、私はほんの少しだけ心が軽くなったのを感じながら眠りについた。
89
お気に入りに追加
1,300
あなたにおすすめの小説

【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。

王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる