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巻き戻し
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ウェスの元へ訪ねようとしていた前日、勇者が倒されたという報告が入った。
しかも倒した人物はソロンだという。
私は驚きながらも目下の悩みが取り除かれたことを純粋に喜んだ。そして戻った彼に話を聞くため会議室へと向かった。
まさか、あんな事になっているとは知りもせずに…
ーーー
ソロンの罪が暴かれた後。
「ウェス…私の愛おしい子」
私は掻き集めた灰を宝物のようにそっと台座に載せた。
ソロンのことは決して許さない。だが、先にやることがある。
「どうするつもりです?ウェスはどうやら禁忌魔法に手を出していますよ。復活は望めないかと」
レヴォンが私の行動を不審がるが、そんなことは気にしない。
「復活は無理でも、時間を戻すことはできる」
私はそう答えて、かつてはウェスだったものに禁忌魔法を唱えた…
「ウェス。もうお前を1人にはしないからな」
私は自分の手の平にちょこんと乗っている黒い塊に声をかける。
禁忌魔法を使って死んだウェスはもう二度と生まれ変わらない。だから私は彼の時間を戻す事にした。
まだ口も聞けなかった頃に戻ったウェスに、過去の記憶はない。経験したことも全てなかったことになっているのだ。
私との思い出も消えたと思うと悲しくもあるが、きっと辛いことの方が多かった彼の人生だ。辛い記憶が無くなったのなら、それで良かったのだと思う。
今度は幸せばかりを詰め込んだような人生を、そう願ってそっとキスをした。
…それからというもの、私は自分の時まで戻ったような気持ちでウェスに接した。
「ディニスさま?」
以前のようにたどたどしくも喋れるようになった彼に愛おしさが増す。
「どうした、ウェス?」
「お城の人たちが、俺は英雄だっていうんです。俺は何もしてないのに…」
魔族たちには、ウェスが勇者を倒した英雄であると周知している。そのお陰で、もう彼を害そうとする者はいなかった。それどころか、新しく城にやってきた魔族からは英雄視すらされている。
「それはお前が受けるべき当然の賛辞だ。今となってら分からないだろうが…ウェスは確かに讃えられるだけのことをしたんだ。だから素直に受け取っておきなさい」
私が曖昧に答えるとウェスは「そうなのですか?」と首を傾げた。
「ああ、それよりほら。お前の好きな人間のお菓子だ。偶然手に入ったから一緒に食べよう」
「はいっ!」
そして穏やかな時間を過ごす。最初からこうしていれば良かったのだ。1度目の頃から間違わずにこうしていれば…
目の前で笑っている幼いウェスが、最後に泣きながら死んでいった彼と重なった。目の前にいる彼は確かにウェスだが、1度目の彼とは違う。
あのウェスは2度と戻らない。
彼を苦しみの中で死なせてしまった後悔がずっと胸を締め付ける。だからこそ今回のウェスはこれでもかというほど甘やかした。
他者からの悪意など届かないように。
彼が傷ついて泣くことが無いように。
私の愛を疑うことがないように。
私はウェスを自分の部屋でほとんどの時間を過ごさせ、関わるのの好意的な魔族だけに限らせた。
「そう言えばディニス様にはもう1人側近がいたと聞きました。レヴォン様はよく見かけますが、その方はどちらにいるのですか?」
ある日、ウェスに投げられた疑問に顔が強張る。
「それを、誰から聞いた?」
「えっ、その…誰かが話しているのを聞いて…ごめんなさい」
自分でも驚くほど冷ややかな声が出た。その様子にウェスが萎縮してしまった。
「いや、お前を怒ったわけでは無い。怖がらせて悪かった」
「いえ…」
「その側近はもういない。罪を犯してここを去ったのだ。だから、ウェスは気にするな」
「そう、ですか…」
ウェスは本当に私が怒っていないかを確かめるように顔を覗き込む。その仕草が愛らしくてフッと笑って彼の頭を撫でた。
本当はソロンはまだこの城にいる。だが、ウェスには会わせるつもりも知らせるつもりもない。
ウェスを死に追いやったあいつを簡単に殺すはずがなかった。
あの日から彼は、手足を捥がれ火にくべられ、死んだ方がマシだと思えるほどの拷問を受け続けている。夜には治療をしてまた朝から同じことを繰り返すのだ。
今ではすっかり気が触れて、殺してくれとしか言わなくなったが、私はその魂が焼き切れるまでこれを続けるつもりだ。
だから、今後ウェスがソロンと会うことは2度と無い。
彼の状況を説明してウェスが心を痛めるなどあってはならないし、それを説明するということは私の愚かな過ちについても話さなければならないということだ。
私はウェスに余計な心配をさせないためと言いながら、自分がウェスに失望されたく無いばかりにソロンや過去の出来事について箝口令を敷いたのだった。
しかも倒した人物はソロンだという。
私は驚きながらも目下の悩みが取り除かれたことを純粋に喜んだ。そして戻った彼に話を聞くため会議室へと向かった。
まさか、あんな事になっているとは知りもせずに…
ーーー
ソロンの罪が暴かれた後。
「ウェス…私の愛おしい子」
私は掻き集めた灰を宝物のようにそっと台座に載せた。
ソロンのことは決して許さない。だが、先にやることがある。
「どうするつもりです?ウェスはどうやら禁忌魔法に手を出していますよ。復活は望めないかと」
レヴォンが私の行動を不審がるが、そんなことは気にしない。
「復活は無理でも、時間を戻すことはできる」
私はそう答えて、かつてはウェスだったものに禁忌魔法を唱えた…
「ウェス。もうお前を1人にはしないからな」
私は自分の手の平にちょこんと乗っている黒い塊に声をかける。
禁忌魔法を使って死んだウェスはもう二度と生まれ変わらない。だから私は彼の時間を戻す事にした。
まだ口も聞けなかった頃に戻ったウェスに、過去の記憶はない。経験したことも全てなかったことになっているのだ。
私との思い出も消えたと思うと悲しくもあるが、きっと辛いことの方が多かった彼の人生だ。辛い記憶が無くなったのなら、それで良かったのだと思う。
今度は幸せばかりを詰め込んだような人生を、そう願ってそっとキスをした。
…それからというもの、私は自分の時まで戻ったような気持ちでウェスに接した。
「ディニスさま?」
以前のようにたどたどしくも喋れるようになった彼に愛おしさが増す。
「どうした、ウェス?」
「お城の人たちが、俺は英雄だっていうんです。俺は何もしてないのに…」
魔族たちには、ウェスが勇者を倒した英雄であると周知している。そのお陰で、もう彼を害そうとする者はいなかった。それどころか、新しく城にやってきた魔族からは英雄視すらされている。
「それはお前が受けるべき当然の賛辞だ。今となってら分からないだろうが…ウェスは確かに讃えられるだけのことをしたんだ。だから素直に受け取っておきなさい」
私が曖昧に答えるとウェスは「そうなのですか?」と首を傾げた。
「ああ、それよりほら。お前の好きな人間のお菓子だ。偶然手に入ったから一緒に食べよう」
「はいっ!」
そして穏やかな時間を過ごす。最初からこうしていれば良かったのだ。1度目の頃から間違わずにこうしていれば…
目の前で笑っている幼いウェスが、最後に泣きながら死んでいった彼と重なった。目の前にいる彼は確かにウェスだが、1度目の彼とは違う。
あのウェスは2度と戻らない。
彼を苦しみの中で死なせてしまった後悔がずっと胸を締め付ける。だからこそ今回のウェスはこれでもかというほど甘やかした。
他者からの悪意など届かないように。
彼が傷ついて泣くことが無いように。
私の愛を疑うことがないように。
私はウェスを自分の部屋でほとんどの時間を過ごさせ、関わるのの好意的な魔族だけに限らせた。
「そう言えばディニス様にはもう1人側近がいたと聞きました。レヴォン様はよく見かけますが、その方はどちらにいるのですか?」
ある日、ウェスに投げられた疑問に顔が強張る。
「それを、誰から聞いた?」
「えっ、その…誰かが話しているのを聞いて…ごめんなさい」
自分でも驚くほど冷ややかな声が出た。その様子にウェスが萎縮してしまった。
「いや、お前を怒ったわけでは無い。怖がらせて悪かった」
「いえ…」
「その側近はもういない。罪を犯してここを去ったのだ。だから、ウェスは気にするな」
「そう、ですか…」
ウェスは本当に私が怒っていないかを確かめるように顔を覗き込む。その仕草が愛らしくてフッと笑って彼の頭を撫でた。
本当はソロンはまだこの城にいる。だが、ウェスには会わせるつもりも知らせるつもりもない。
ウェスを死に追いやったあいつを簡単に殺すはずがなかった。
あの日から彼は、手足を捥がれ火にくべられ、死んだ方がマシだと思えるほどの拷問を受け続けている。夜には治療をしてまた朝から同じことを繰り返すのだ。
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だから、今後ウェスがソロンと会うことは2度と無い。
彼の状況を説明してウェスが心を痛めるなどあってはならないし、それを説明するということは私の愚かな過ちについても話さなければならないということだ。
私はウェスに余計な心配をさせないためと言いながら、自分がウェスに失望されたく無いばかりにソロンや過去の出来事について箝口令を敷いたのだった。
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