17 / 28
ディニス編
7
しおりを挟む
だが、傷だらけで帰ってきたウェスを見て、その考えが甘かったことを知る。
ーー
彼が勇者達に戦いを挑みに行ったその日、他の魔族達は会議室に集まってその結果を待っていた。
そこに突如、レヴォンと血まみれのウェスが現れたのだ。
レヴォンはウェスをボロ雑巾のように床に投げ出した。すると、すぐにその床に血溜まりが広がる。
私はその様子に絶句した。
ウェスの体はボロボロで何より目立つのが顔を切り裂いた傷だった。あまりにも痛ましいその様子に、すぐにでも駆け寄りたい衝動に駆られる。実際、他の魔族たちがいなければそうしていただろう。
そして何故こんなになるまで放っておいたのだとレヴォンを睨みつける。
「少なくとも、私は任務を果たしましたよ」
私の視線を受け流し、彼は意味ありげにそう言った。
すると、床から小さな呻き声が上がる。
そちらに目を向けると、瀕死にも見えるウェスがよろよろと上体を起こしたところだった。
頼むからもうじっとしていてほしい。
私はそう願いながらその光景から目を背けるように目を閉じた。
「やはり荷が重かったようですね」
「まあ、顔に傷なんて…さらに醜くなって、見るに耐えませんわ」
ウェスに視線を移した魔族達が次々に口を開く。
戦ったのがお前達でもこうなっていただろうに、自分より弱い者に行かせた挙句嘲笑うとは…
だが、誰より不甲斐ないのはウェス1人守れない自分自身だ。
「それでレヴォン様。彼は何か成果を上げましたか?」
魔族の1人の質問に、私は恐れていた選択をせざる得なくなった。
「いや、ウェスでは誰も倒せなかった」
私を静かに見つめながらレヴォンはそう言った。
そして周りが笑いに包まれる中、私は…ウェスをそばに置き続けることを諦めた。
「はぁ、ウェス。お前には伯爵位は重すぎた。爵位は剥奪する」
なるべく冷たく聞こえるように、これで皆の関心がウェスから無くなるようにそう言った。
本当は分かっていた。ここにウェスの居場所はない。最初から市井へ降してやればこんな大怪我をすることもなかったのだ。
それを、ウェスを手元に置いておきたいと言う私の我儘で傷つけてしまった。
「ま、待ってください!もう一度チャンスを…」
「くどいぞ。お前には無理だと言っている」
「そんな…せめて…あと一度だけでもっ…!」
レヴォンの制止を聞かず私に取り縋ろうとするウェスに胸が苦しくなる。
「おい!ディニス様のお召し物が汚れるだろ!これだから知能も低い低級悪魔は…」
そう言って魔族がウェスを蹴り飛ばした。私はそれ以上彼が危害を加えられないよう慌てて制止する。
「で、ディニス様…」
傷が広がったウェスの羽を見て早く彼を下がらせなければと焦りが生じる。
そして私は…
「その醜い顔を私に晒すな。さっさと下がれ」
最後の希望とばかりに私を見上げたウェスにもあまりに酷い台詞を口にした。ここまで言わなければウェスが諦めないと思ったからだ。
いい子だからどうか分かってほしい。爵位などに拘らなくていいから、早く傷の手当てに行ってほしい。
そう願いながらウェスを見つめる。
「あ…申し訳、ございません…」
するとウェスは何を思ったのか羽で顔を隠すように覆った。
(あ…私が醜いと言ったからか…)
その答えに辿り着き胸が痛んだ。
ウェスを醜いと思ったことなど一度もない。どんなに他の魔族が嫌悪していようとも、私に似せようと成長した人型の部分も元の悪魔の部分も全てが愛おしく見えた。
彼自身も自分の容姿を気にしていたはずだ。それにもかかわらず私自身が傷つけてしまった。
私は自分の不器用さに呆れ、思わずため息をついた。
「ウェスを下がらせろ」
そして一刻も早くこの場を下がらせるため、魔族達に命じて彼を連れ出させた。
ーー
彼が勇者達に戦いを挑みに行ったその日、他の魔族達は会議室に集まってその結果を待っていた。
そこに突如、レヴォンと血まみれのウェスが現れたのだ。
レヴォンはウェスをボロ雑巾のように床に投げ出した。すると、すぐにその床に血溜まりが広がる。
私はその様子に絶句した。
ウェスの体はボロボロで何より目立つのが顔を切り裂いた傷だった。あまりにも痛ましいその様子に、すぐにでも駆け寄りたい衝動に駆られる。実際、他の魔族たちがいなければそうしていただろう。
そして何故こんなになるまで放っておいたのだとレヴォンを睨みつける。
「少なくとも、私は任務を果たしましたよ」
私の視線を受け流し、彼は意味ありげにそう言った。
すると、床から小さな呻き声が上がる。
そちらに目を向けると、瀕死にも見えるウェスがよろよろと上体を起こしたところだった。
頼むからもうじっとしていてほしい。
私はそう願いながらその光景から目を背けるように目を閉じた。
「やはり荷が重かったようですね」
「まあ、顔に傷なんて…さらに醜くなって、見るに耐えませんわ」
ウェスに視線を移した魔族達が次々に口を開く。
戦ったのがお前達でもこうなっていただろうに、自分より弱い者に行かせた挙句嘲笑うとは…
だが、誰より不甲斐ないのはウェス1人守れない自分自身だ。
「それでレヴォン様。彼は何か成果を上げましたか?」
魔族の1人の質問に、私は恐れていた選択をせざる得なくなった。
「いや、ウェスでは誰も倒せなかった」
私を静かに見つめながらレヴォンはそう言った。
そして周りが笑いに包まれる中、私は…ウェスをそばに置き続けることを諦めた。
「はぁ、ウェス。お前には伯爵位は重すぎた。爵位は剥奪する」
なるべく冷たく聞こえるように、これで皆の関心がウェスから無くなるようにそう言った。
本当は分かっていた。ここにウェスの居場所はない。最初から市井へ降してやればこんな大怪我をすることもなかったのだ。
それを、ウェスを手元に置いておきたいと言う私の我儘で傷つけてしまった。
「ま、待ってください!もう一度チャンスを…」
「くどいぞ。お前には無理だと言っている」
「そんな…せめて…あと一度だけでもっ…!」
レヴォンの制止を聞かず私に取り縋ろうとするウェスに胸が苦しくなる。
「おい!ディニス様のお召し物が汚れるだろ!これだから知能も低い低級悪魔は…」
そう言って魔族がウェスを蹴り飛ばした。私はそれ以上彼が危害を加えられないよう慌てて制止する。
「で、ディニス様…」
傷が広がったウェスの羽を見て早く彼を下がらせなければと焦りが生じる。
そして私は…
「その醜い顔を私に晒すな。さっさと下がれ」
最後の希望とばかりに私を見上げたウェスにもあまりに酷い台詞を口にした。ここまで言わなければウェスが諦めないと思ったからだ。
いい子だからどうか分かってほしい。爵位などに拘らなくていいから、早く傷の手当てに行ってほしい。
そう願いながらウェスを見つめる。
「あ…申し訳、ございません…」
するとウェスは何を思ったのか羽で顔を隠すように覆った。
(あ…私が醜いと言ったからか…)
その答えに辿り着き胸が痛んだ。
ウェスを醜いと思ったことなど一度もない。どんなに他の魔族が嫌悪していようとも、私に似せようと成長した人型の部分も元の悪魔の部分も全てが愛おしく見えた。
彼自身も自分の容姿を気にしていたはずだ。それにもかかわらず私自身が傷つけてしまった。
私は自分の不器用さに呆れ、思わずため息をついた。
「ウェスを下がらせろ」
そして一刻も早くこの場を下がらせるため、魔族達に命じて彼を連れ出させた。
10
お気に入りに追加
1,285
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
彼はオレを推しているらしい
まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。
どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...?
きっかけは突然の雨。
ほのぼのした世界観が書きたくて。
4話で完結です(執筆済み)
需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*)
もし良ければコメントお待ちしております。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる