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孤児院
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「ほら、これで良いよ。」
エルマー神官は治療魔法でノエルの傷を治してくれた。幸い、かすり傷程度しかなかったようだ。
彼のことは嫌いだが、神官になるだけあって魔法の腕はなかなかのものだった。
「ありがとうございますエルマー神官。」
「どういたしまして。全く、慌てて駆け込んできた時は何事かと思ったよ。よく木から落ちてこの程度で済んだね。」
「カインが俺を抱きとめてくれたので…」
そう言ってノエルは僕をチラッと見る。あの時のことを言っても良いものか悩んでいるのだろう。僕はそっと首を横に振って答える。
「へえ、それならカインも一応見ておこうか。下で抱き止めるなんて、腕が折れてもおかしくないからね。」
「ぜひそうしてやってください。」
ノエルの勧めもあり僕も怪我ないかチェックを受けた。まあ当然ないのだが。
そして、2人とも確認が終わったので僕達は救護室を後にした。
「もう、本当に冷や冷やさせるんだから。」
「悪い悪い。でも、カインのおかげで助かったよ。」
「二度とあんな危ないことするなよ。」
来た道を戻る道中、僕はノエルに説教をする。お人好しなところは大好きだが、彼が誰かのために傷つくなど耐えられない。
だというのにノエルは「悪かったって。」と頭をかきながら軽い返事をする。本当に分かっているのだろうか。同じ状況になったらまた同じことを繰り返しそうな彼にため息をつく。
「なあ、それより本当に言わなくて良かったのか?さっきのあれって魔法だろ?」
「さあ、あの時は必死だったからわからない。」
「もし魔法だったら、お前すごいじゃん!貴族にだってなれるかもしれないぞ。」
興奮気味に話すノエルに微妙な表情を返す。
「貴族になんてなりたくないし。」
「そうか?俺は憧れるけどな。まあ、お前が嫌なら言わずにおくよ。」
そう言ったノエルに、こういうさっぱりしたところも好きなんだよなあとしみじみ思う。だが、結果として彼のこの気遣いは無駄に終わった。
「あのね、凄いんだよ!カインが手から風を出して落ちてくるノエルを浮かせたの!」
食堂では子供達が集まっていて、そこで先ほど帽子を取ってあげた女の子が皆にあの出来事を話してしまっていた。
「口止めが間に合わなかったな。」
ノエルはそう笑ながら肩を落とす。
「全く、誰のせいでこんなことになったのかも忘れて…子供は呑気だな。」
僕は苦々しい気持ちで彼女を見た。子供達に話してしまえば、もう秘密にさせることはできないだろう。
エルマー神官の耳には入れたくなかったのだが…
「それでさっきノエルがお姫様抱っこされてたのか!」
「俺も見た!ノエル、女の子みたいに抱えられてたな。」
「カインは王子様みたいだったよ。」
「うん、カインが王子様でノエルがお姫様だね。」
先程の僕達を見ていた子供達がからかってくる。ノエルの王子様と言われて僕は満更でもないのだが、ノエルは違うようだ。
「誰がお姫様だ!さっきのは不可抗力だろ…」
尻すぼみになりながらノエルが否定の声を上げる。
さっきはあまり堪能している余裕がなかったが、腕の中で顔を真っ赤にして俯いている彼は本当に可愛かった。
あの瞬間を記録に残せないのが残念でならない。
「おやおや、随分賑やかですね。」
するとエルマー神官がいつも通り遅れてやってきた。
「あっ!神官、あのねカインが凄いんだよ!手から風を出してノエルを助けたの。」
「手から風?」
「うん、木から落ちたノエルを浮かせたの。」
「…ノエル、カイン。そんな話は聞いていませんが?」
女の子の言葉に僕達が魔法のことを黙っていたことがバレてしまう。
「それは…自分でもあれがなんなのかわからなかったので。」
「ふむ…それでは、一度検査してみたほうが良さそうですね。」
エルマー神官は顔に手を当てて何やら考え込み出した。
「…もし魔法を使えるならいっそ貴族の家に売ることも…」
ぶつくさと呟いている彼に嫌な予感が込み上げる。
「検査とはなんですか?それを受けるとどうなるんです?」
「検査は水晶を使った魔力測定ですよ。まあ受けたらからといってどうなるわけではありません。魔法を使える適性があるか否かがわかるだけです。」
「そう…ですか。僕としては受けなくても良いのですが。」
「まあそう言わずに。せっかくなので全員に受けさせられるよう手配しましょう。」
エルマー神官はいかにも優しい笑みを浮かべてそう言った。皆は自分も魔法が使えるかもと浮き足立っているが、僕の気分は優れない。
「カイン。」
ふと横で心配そうな顔をしているノエルが僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「まあ、うん…」
「そんなに気負うなよ。魔法が使えるってなったら出世コースじゃないか。もし使えなくても今まで通りなわけだし。」
「そうだね…」
僕が何を不安に思っているかは分からないのだろうが、それでも元気づけようとしてくれるノエルにフッと笑みを返す。
魔法が使えようが使えまいが、僕はノエルから離れる気はない。それならそれで、魔法が使えた方が何かと便利かもしれない。
そう考えて僕は検査を受けることを承諾した。
エルマー神官は治療魔法でノエルの傷を治してくれた。幸い、かすり傷程度しかなかったようだ。
彼のことは嫌いだが、神官になるだけあって魔法の腕はなかなかのものだった。
「ありがとうございますエルマー神官。」
「どういたしまして。全く、慌てて駆け込んできた時は何事かと思ったよ。よく木から落ちてこの程度で済んだね。」
「カインが俺を抱きとめてくれたので…」
そう言ってノエルは僕をチラッと見る。あの時のことを言っても良いものか悩んでいるのだろう。僕はそっと首を横に振って答える。
「へえ、それならカインも一応見ておこうか。下で抱き止めるなんて、腕が折れてもおかしくないからね。」
「ぜひそうしてやってください。」
ノエルの勧めもあり僕も怪我ないかチェックを受けた。まあ当然ないのだが。
そして、2人とも確認が終わったので僕達は救護室を後にした。
「もう、本当に冷や冷やさせるんだから。」
「悪い悪い。でも、カインのおかげで助かったよ。」
「二度とあんな危ないことするなよ。」
来た道を戻る道中、僕はノエルに説教をする。お人好しなところは大好きだが、彼が誰かのために傷つくなど耐えられない。
だというのにノエルは「悪かったって。」と頭をかきながら軽い返事をする。本当に分かっているのだろうか。同じ状況になったらまた同じことを繰り返しそうな彼にため息をつく。
「なあ、それより本当に言わなくて良かったのか?さっきのあれって魔法だろ?」
「さあ、あの時は必死だったからわからない。」
「もし魔法だったら、お前すごいじゃん!貴族にだってなれるかもしれないぞ。」
興奮気味に話すノエルに微妙な表情を返す。
「貴族になんてなりたくないし。」
「そうか?俺は憧れるけどな。まあ、お前が嫌なら言わずにおくよ。」
そう言ったノエルに、こういうさっぱりしたところも好きなんだよなあとしみじみ思う。だが、結果として彼のこの気遣いは無駄に終わった。
「あのね、凄いんだよ!カインが手から風を出して落ちてくるノエルを浮かせたの!」
食堂では子供達が集まっていて、そこで先ほど帽子を取ってあげた女の子が皆にあの出来事を話してしまっていた。
「口止めが間に合わなかったな。」
ノエルはそう笑ながら肩を落とす。
「全く、誰のせいでこんなことになったのかも忘れて…子供は呑気だな。」
僕は苦々しい気持ちで彼女を見た。子供達に話してしまえば、もう秘密にさせることはできないだろう。
エルマー神官の耳には入れたくなかったのだが…
「それでさっきノエルがお姫様抱っこされてたのか!」
「俺も見た!ノエル、女の子みたいに抱えられてたな。」
「カインは王子様みたいだったよ。」
「うん、カインが王子様でノエルがお姫様だね。」
先程の僕達を見ていた子供達がからかってくる。ノエルの王子様と言われて僕は満更でもないのだが、ノエルは違うようだ。
「誰がお姫様だ!さっきのは不可抗力だろ…」
尻すぼみになりながらノエルが否定の声を上げる。
さっきはあまり堪能している余裕がなかったが、腕の中で顔を真っ赤にして俯いている彼は本当に可愛かった。
あの瞬間を記録に残せないのが残念でならない。
「おやおや、随分賑やかですね。」
するとエルマー神官がいつも通り遅れてやってきた。
「あっ!神官、あのねカインが凄いんだよ!手から風を出してノエルを助けたの。」
「手から風?」
「うん、木から落ちたノエルを浮かせたの。」
「…ノエル、カイン。そんな話は聞いていませんが?」
女の子の言葉に僕達が魔法のことを黙っていたことがバレてしまう。
「それは…自分でもあれがなんなのかわからなかったので。」
「ふむ…それでは、一度検査してみたほうが良さそうですね。」
エルマー神官は顔に手を当てて何やら考え込み出した。
「…もし魔法を使えるならいっそ貴族の家に売ることも…」
ぶつくさと呟いている彼に嫌な予感が込み上げる。
「検査とはなんですか?それを受けるとどうなるんです?」
「検査は水晶を使った魔力測定ですよ。まあ受けたらからといってどうなるわけではありません。魔法を使える適性があるか否かがわかるだけです。」
「そう…ですか。僕としては受けなくても良いのですが。」
「まあそう言わずに。せっかくなので全員に受けさせられるよう手配しましょう。」
エルマー神官はいかにも優しい笑みを浮かべてそう言った。皆は自分も魔法が使えるかもと浮き足立っているが、僕の気分は優れない。
「カイン。」
ふと横で心配そうな顔をしているノエルが僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「まあ、うん…」
「そんなに気負うなよ。魔法が使えるってなったら出世コースじゃないか。もし使えなくても今まで通りなわけだし。」
「そうだね…」
僕が何を不安に思っているかは分からないのだろうが、それでも元気づけようとしてくれるノエルにフッと笑みを返す。
魔法が使えようが使えまいが、僕はノエルから離れる気はない。それならそれで、魔法が使えた方が何かと便利かもしれない。
そう考えて僕は検査を受けることを承諾した。
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