9 / 13
孤児院
9
しおりを挟む
今日は久々に何も無い日だ。朝食を食べた後、ノエルと中庭でのんびりする。
「ノエル、もうその服着るのやめたら?ボロボロじゃん。」
「そうか?でも最近衣類の寄付がないからもう予備がないんだよな。そういうカインこそ、それ結構ボロいぞ。」
「やっぱり?はぁ、一度でいいから新品の服を着てみたいよ。」
「だよな。まぁ、自分で働いて買うしかないさ。」
いつも通りそんな何気無い会話をしていると、少し離れたところで小さい子が泣き出した。
「あー、今日くらいはのんびり過ごしたかったな。」
「仕方ないって。とりあえず見に行こう。」
すると孤児院の中でも小さな女の子が木の前で泣いていた。なんでも帽子が飛ばされて枝に引っかかってしまったらしい。
「結構高くに行ったな。」
「これは諦めたほうがいいかもね。」
「うわあああん」
僕達2人の言葉に女の子は余計に泣き始めた。
「寄付で帽子があったらお前にやるから、な?」
「ぐすっ、あれが良いの。あれはお家から持ってきたものだから…思い出があるの。」
ノエルが宥めようとするが、彼女はどうしても諦められないらしい。どうやら、彼女は最近孤児院へ連れてこられた子供で、あの帽子はその時身に付けていたもののようだ。
泣き止む気配のない女の子に僕達は顔を見合わせた。
「仕方ない。取りに行ってみるか。」
「危ないよ。」
「大丈夫、危なくなったら諦めるさ。」
「なら僕が…」
「いや、結構細い木だし、小柄な俺の方が安心だろ。」
そう言ってノエルが木を登り始める。全く"元の家族"とかの話に弱いんだから。僕はそう思いつつ下で女の子を抱えながらノエルを見守った。彼は運動神経が良いので大丈夫だとは思うが…
そうして、ノエルはみるみる高い場所へと登っていき、やっと帽子に手が届いた。
「よしっ、おーい!取れたぞ。帽子を落とすからキャッチしてくれ。」
「わかった。」
ノエルが帽子をそっと落とし、僕がそれを掴む。それを女の子に渡してやれば、その子は心底嬉しそうに「ありがとう!」とお礼を言った。
「ノエルも早く降りてきなよ。」
「ああ、今降り…」
彼がそう言いかけたところで、ポキッと枝が折れる音がした。
「うわっ!」
「ノエルっ!!!」
「きゃあっ!」
咄嗟に他の枝を掴もうとした彼だが、その手は空を掴んだ。支えを無くしたノエルが落ちてくる。その光景がやけにスローモーションに映った。
なんとかして彼を助けなければ。
地面に直撃したら死んでしまうかもしれない。でもあの高さから落ちてくる彼を支えることなどできるだろうか。
僕は頭をぐるぐると回転させながら、ノエルを下でキャッチしようと必死に手を伸ばす。
すると、自分の手からブワッと風が起こるのを感じた。同時にすぐそこまで落ちてきていたノエルが宙に浮く。
「な、なんだこれ?」
ぎゅっと目をつぶっていたノエルが恐る恐る目を開いて驚きの声を上げる。
僕自身も驚きながら、風に支えられるようにゆっくりと降りてきた彼を両手で受け取った。次第に腕に重みが加わり彼が腕の中にいるのだという実感が込み上げる。
「ノエル!良かった…」
そう言ってお姫様抱っこをするような体制でノエルを抱きしめた。
「わ、悪い。心配かけたな。それより今のは…」
「カインお兄ちゃん魔法使ったの?」
「分からないけど、今はそんなことどうだって良い!早く怪我がないか見てもらおう。」
僕はそう言ってノエルを抱えたまま走り出す。
「お、おいっ。お前が助けてくれたから怪我はしてないって!」
「落ちる時にどこかぶつけてるかもしれないだろ。良いからじっとしてろ。」
「いや、本当に大丈夫だから…降ろしてくれ。これ結構恥ずかしい…」
ノエルのことが心配でそんなことを考えていられなかった僕は、彼の言葉を無視してエルマー神官を探しに行った。
「おい、ノエルがお姫様抱っこされてるぞ!」
「本当だ、女みたい!」
「えー、私もカインにお姫様抱っこしてもらいたい。」
道中で他の子供達が僕達を見て揶揄う。その声にハッとして大人しくなったノエルを見下ろすと、彼は顔を真っ赤にして俯いていた。
いつもガキ大将っぽく振る舞っていた彼だ。こんな姿を見られるのは恥ずかしいのだろう。
今は緊急事態だというのに、その様子を可愛いと思ってしまう。
そうしてやっとのことでエルマー神官を見つけた僕は、ノエルが木から落ちたことを説明して怪我がないか見てもらった。
「ノエル、もうその服着るのやめたら?ボロボロじゃん。」
「そうか?でも最近衣類の寄付がないからもう予備がないんだよな。そういうカインこそ、それ結構ボロいぞ。」
「やっぱり?はぁ、一度でいいから新品の服を着てみたいよ。」
「だよな。まぁ、自分で働いて買うしかないさ。」
いつも通りそんな何気無い会話をしていると、少し離れたところで小さい子が泣き出した。
「あー、今日くらいはのんびり過ごしたかったな。」
「仕方ないって。とりあえず見に行こう。」
すると孤児院の中でも小さな女の子が木の前で泣いていた。なんでも帽子が飛ばされて枝に引っかかってしまったらしい。
「結構高くに行ったな。」
「これは諦めたほうがいいかもね。」
「うわあああん」
僕達2人の言葉に女の子は余計に泣き始めた。
「寄付で帽子があったらお前にやるから、な?」
「ぐすっ、あれが良いの。あれはお家から持ってきたものだから…思い出があるの。」
ノエルが宥めようとするが、彼女はどうしても諦められないらしい。どうやら、彼女は最近孤児院へ連れてこられた子供で、あの帽子はその時身に付けていたもののようだ。
泣き止む気配のない女の子に僕達は顔を見合わせた。
「仕方ない。取りに行ってみるか。」
「危ないよ。」
「大丈夫、危なくなったら諦めるさ。」
「なら僕が…」
「いや、結構細い木だし、小柄な俺の方が安心だろ。」
そう言ってノエルが木を登り始める。全く"元の家族"とかの話に弱いんだから。僕はそう思いつつ下で女の子を抱えながらノエルを見守った。彼は運動神経が良いので大丈夫だとは思うが…
そうして、ノエルはみるみる高い場所へと登っていき、やっと帽子に手が届いた。
「よしっ、おーい!取れたぞ。帽子を落とすからキャッチしてくれ。」
「わかった。」
ノエルが帽子をそっと落とし、僕がそれを掴む。それを女の子に渡してやれば、その子は心底嬉しそうに「ありがとう!」とお礼を言った。
「ノエルも早く降りてきなよ。」
「ああ、今降り…」
彼がそう言いかけたところで、ポキッと枝が折れる音がした。
「うわっ!」
「ノエルっ!!!」
「きゃあっ!」
咄嗟に他の枝を掴もうとした彼だが、その手は空を掴んだ。支えを無くしたノエルが落ちてくる。その光景がやけにスローモーションに映った。
なんとかして彼を助けなければ。
地面に直撃したら死んでしまうかもしれない。でもあの高さから落ちてくる彼を支えることなどできるだろうか。
僕は頭をぐるぐると回転させながら、ノエルを下でキャッチしようと必死に手を伸ばす。
すると、自分の手からブワッと風が起こるのを感じた。同時にすぐそこまで落ちてきていたノエルが宙に浮く。
「な、なんだこれ?」
ぎゅっと目をつぶっていたノエルが恐る恐る目を開いて驚きの声を上げる。
僕自身も驚きながら、風に支えられるようにゆっくりと降りてきた彼を両手で受け取った。次第に腕に重みが加わり彼が腕の中にいるのだという実感が込み上げる。
「ノエル!良かった…」
そう言ってお姫様抱っこをするような体制でノエルを抱きしめた。
「わ、悪い。心配かけたな。それより今のは…」
「カインお兄ちゃん魔法使ったの?」
「分からないけど、今はそんなことどうだって良い!早く怪我がないか見てもらおう。」
僕はそう言ってノエルを抱えたまま走り出す。
「お、おいっ。お前が助けてくれたから怪我はしてないって!」
「落ちる時にどこかぶつけてるかもしれないだろ。良いからじっとしてろ。」
「いや、本当に大丈夫だから…降ろしてくれ。これ結構恥ずかしい…」
ノエルのことが心配でそんなことを考えていられなかった僕は、彼の言葉を無視してエルマー神官を探しに行った。
「おい、ノエルがお姫様抱っこされてるぞ!」
「本当だ、女みたい!」
「えー、私もカインにお姫様抱っこしてもらいたい。」
道中で他の子供達が僕達を見て揶揄う。その声にハッとして大人しくなったノエルを見下ろすと、彼は顔を真っ赤にして俯いていた。
いつもガキ大将っぽく振る舞っていた彼だ。こんな姿を見られるのは恥ずかしいのだろう。
今は緊急事態だというのに、その様子を可愛いと思ってしまう。
そうしてやっとのことでエルマー神官を見つけた僕は、ノエルが木から落ちたことを説明して怪我がないか見てもらった。
1
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる