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孤児院
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そして食事の挨拶をして食べようとしたところ、急に扉が開いて神官服の男性が入っていた。
「遅くなってごめん!もう準備は終わっちゃったんだね。」
「「エルマー神官!」」
申し訳なさそうに入ってきたのはエルマー神官だ。彼は子供たちに迎えられながら席に着いた。
「お疲れ様です。これエルマー神官の分。」
「ああ、ありがとう。今日は豪勢じゃないか。」
「俺とカインで狩りに行ったんですよ。なかなかの成果でしょう?」
ノエルが彼に食事を渡しながら誇らしげに話す。
その様子がつまらなかったので、僕は先に食事を頬張った。
僕はエルマー神官が好きではない。
彼はこの孤児院を貴族から任されて運営している神官で、一見優しいので子供たちには好かれている。だが、実のところかなり放任していて、孤児達の面倒はほとんど年長者が見ている有様だ。
本当なら食事の用意だって大人が手伝うべきなのに、彼はいつも完成した頃に現れる。それに今日は僕たちが狩りをしてきたらから豪勢だが、普段はスープ一杯を飲む程度の質素なものだ。
それなりに寄付は集まっているようだし、エルマー神官自体は小綺麗にして身につけているものも一級品だと言うのに…
そんなわけで僕は彼が嫌いなのだが、この孤児院の子供たちにとって彼は親だ。親を嫌いになる子供はそうおらず、ノエルもその中の1人だった。
「ああ、すごいじゃないか!ノエルは狩りが上手なんだね。」
「ま、まあ。俺に狙われて逃げられる獲物なんていないですよ!」
そう胸を張って答えた彼に苦笑をこぼす。ノエルは動物を殺すことにへっぴり腰で、これらを狩ったのはほとんど僕だというのに。
だがエルマー神官に褒められて嬉しそうにしているノエルを見れば水を差す気にはなれなかった。
「よくやったねノエル。えらいえらい。」
「へへ…」
会話を続けていた神官がノエルの頭を撫でる。僕はその手を払い退けてやりたい衝動をグッと堪えた。
「ねえカイン、もっと食べたい。」
すると早くも食べ終わったらしい女の子が僕に話しかけてきた。
「自分の分は食べたんだろう?もうおかわりはないから、今日はそれで終わりだよ。」
「そんな~!もっと食べたい食べたい!」
そして駄々をこねたその子は泣き出してしまった。
「まったく煩いなチビは。ほら、もう一口だけやるからこれで我慢しろ。」
泣いた子供の対応を面倒に思ってため息をついた僕だが、それを横で見ていたノエルが自分の皿から一口程度の肉を一切れ分けてやる。
「ありがとう!」
「えーアンナだけずるい。俺も!」
「僕も!」
だが、今度は他の子供たちまで羨ましがってノエルに群がってしまった。
「仕方ねぇな、やるよ。平等に分けるんだぞ。」
ノエルは自分の皿を全て子供たちに差し出した。彼だってほとんど食べていないというのに。
「でも、ノエルは食べなくて大丈夫なの…?」
流石に悪いと思ったのか、子供たちの1人がそう尋ねる。
「大丈夫だよ。実は狩りに行った時に木の実をつまみ食いしたからな。」
「なーんだ。」
「ずるーい!」
「馬鹿言え、狩りに出たやつの特権だ。」
「じゃあ貰うね!」
そうして結局彼の食事は子供たちに渡った。狩りの途中でつまみ食いなどしていないというのに…
「ノエル、一緒に食べよう。」
「え?それはお前の分だろ。俺は大丈夫だって。」
彼の優しい嘘を皆の前で暴く気はない。
だが、ノエルが食事を抜くのは不安だ。ただでさえ子供たちを優先して日々少ない食事で賄っている彼はやせ細っていた。
本来の体格は良いので、肉付きのなさのせいで余計にガリガリに見える。だからたまには身になるものをと思って狩りに誘ったというのに。
「いいから。ノエルに倒れられたりしたら困る。」
「だから大丈夫だって…でもまあ、そんなに言うなら…」
僕が強く勧めれば、喉を鳴らした彼はあっさり陥落した。やっぱりお腹が空いていたんじゃないか。
そしておずおずと僕の皿に手を伸ばした彼と一緒に食事をした。
この孤児院を出たら、たくさん稼いでいつか彼に腹一杯食事をさせてやりたい。そんなことを考えながら幸せそうに肉を頬張る彼を眺めた。
「遅くなってごめん!もう準備は終わっちゃったんだね。」
「「エルマー神官!」」
申し訳なさそうに入ってきたのはエルマー神官だ。彼は子供たちに迎えられながら席に着いた。
「お疲れ様です。これエルマー神官の分。」
「ああ、ありがとう。今日は豪勢じゃないか。」
「俺とカインで狩りに行ったんですよ。なかなかの成果でしょう?」
ノエルが彼に食事を渡しながら誇らしげに話す。
その様子がつまらなかったので、僕は先に食事を頬張った。
僕はエルマー神官が好きではない。
彼はこの孤児院を貴族から任されて運営している神官で、一見優しいので子供たちには好かれている。だが、実のところかなり放任していて、孤児達の面倒はほとんど年長者が見ている有様だ。
本当なら食事の用意だって大人が手伝うべきなのに、彼はいつも完成した頃に現れる。それに今日は僕たちが狩りをしてきたらから豪勢だが、普段はスープ一杯を飲む程度の質素なものだ。
それなりに寄付は集まっているようだし、エルマー神官自体は小綺麗にして身につけているものも一級品だと言うのに…
そんなわけで僕は彼が嫌いなのだが、この孤児院の子供たちにとって彼は親だ。親を嫌いになる子供はそうおらず、ノエルもその中の1人だった。
「ああ、すごいじゃないか!ノエルは狩りが上手なんだね。」
「ま、まあ。俺に狙われて逃げられる獲物なんていないですよ!」
そう胸を張って答えた彼に苦笑をこぼす。ノエルは動物を殺すことにへっぴり腰で、これらを狩ったのはほとんど僕だというのに。
だがエルマー神官に褒められて嬉しそうにしているノエルを見れば水を差す気にはなれなかった。
「よくやったねノエル。えらいえらい。」
「へへ…」
会話を続けていた神官がノエルの頭を撫でる。僕はその手を払い退けてやりたい衝動をグッと堪えた。
「ねえカイン、もっと食べたい。」
すると早くも食べ終わったらしい女の子が僕に話しかけてきた。
「自分の分は食べたんだろう?もうおかわりはないから、今日はそれで終わりだよ。」
「そんな~!もっと食べたい食べたい!」
そして駄々をこねたその子は泣き出してしまった。
「まったく煩いなチビは。ほら、もう一口だけやるからこれで我慢しろ。」
泣いた子供の対応を面倒に思ってため息をついた僕だが、それを横で見ていたノエルが自分の皿から一口程度の肉を一切れ分けてやる。
「ありがとう!」
「えーアンナだけずるい。俺も!」
「僕も!」
だが、今度は他の子供たちまで羨ましがってノエルに群がってしまった。
「仕方ねぇな、やるよ。平等に分けるんだぞ。」
ノエルは自分の皿を全て子供たちに差し出した。彼だってほとんど食べていないというのに。
「でも、ノエルは食べなくて大丈夫なの…?」
流石に悪いと思ったのか、子供たちの1人がそう尋ねる。
「大丈夫だよ。実は狩りに行った時に木の実をつまみ食いしたからな。」
「なーんだ。」
「ずるーい!」
「馬鹿言え、狩りに出たやつの特権だ。」
「じゃあ貰うね!」
そうして結局彼の食事は子供たちに渡った。狩りの途中でつまみ食いなどしていないというのに…
「ノエル、一緒に食べよう。」
「え?それはお前の分だろ。俺は大丈夫だって。」
彼の優しい嘘を皆の前で暴く気はない。
だが、ノエルが食事を抜くのは不安だ。ただでさえ子供たちを優先して日々少ない食事で賄っている彼はやせ細っていた。
本来の体格は良いので、肉付きのなさのせいで余計にガリガリに見える。だからたまには身になるものをと思って狩りに誘ったというのに。
「いいから。ノエルに倒れられたりしたら困る。」
「だから大丈夫だって…でもまあ、そんなに言うなら…」
僕が強く勧めれば、喉を鳴らした彼はあっさり陥落した。やっぱりお腹が空いていたんじゃないか。
そしておずおずと僕の皿に手を伸ばした彼と一緒に食事をした。
この孤児院を出たら、たくさん稼いでいつか彼に腹一杯食事をさせてやりたい。そんなことを考えながら幸せそうに肉を頬張る彼を眺めた。
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